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Lean Coffeeを育てる:同じ手法を継続するからこそ見えたこと

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1. はじめに

この記事は、「 ふりかえりアドベントカレンダー2025 Advent Calendar 2025 」の4日目の記事です。

https://adventar.org/calendars/12183

私はアジャイルな開発手法の実践を通じて顧客の内製支援を行うグループに所属しており、1年ほどスクラムを採用したプロダクト開発の支援に開発者として携わっています。チームは今では10名を超える規模になりました。

今のチームではスクラムイベントのファシリテーションをサイコロで決めるようにしており、レトロスペクティブのファシリ担当者が自身の判断でどんなレトロスペクティブにするのかを設計しています。毎回違ったレトロスペクティブを楽しんでいますが、私が担当者になったときは毎回Lean Coffeeを選択しています。

この記事では、なぜ私がLean Coffeeを選んでいるのか、そして継続して同じ手法を使うからこその良さについてお話しします。

2. Lean Coffeeとは何か?

Lean Coffeeは、議題を事前に決めずに行うふりかえり手法です。参加者全員が話したいトピックを出し合い、投票によって順番を決め、一定時間ごとに「この議論を続けるか?」を合意しながら進めていきます。

https://speakerdeck.com/viva_tweet_x/retrospective-catalog-59bd3a29-314c-45dd-911b-f8e5f1308333?slide=73

形式はシンプルですが、特徴は「チーム全員で問いを生み出す」点にあります。誰かがあらかじめテーマを決めるのではなく、「今、私たちが本当に話したいこと」から対話が始まるのがLean Coffeeの魅力だと感じています。

3. Lean Coffeeの難しさ

レトロスペクティブに関して、スクラムガイドに以下のように記載されています。

スプリントレトロスペクティブの⽬的は、品質と効果を⾼める⽅法を計画することである。
スクラムチームは、個⼈、相互作⽤、プロセス、ツール、完成の定義に関して、今回のスプリントがどのように進んだかを検査する。多くの場合、検査する要素は作業領域によって異なる。スクラムチームを迷わせた仮説があれば特定し、その真因を探求する。スクラムチームは、スプリント中に何がうまくいったか、どのような問題が発⽣したか、そしてそれらの問題がどのように解決されたか(または解決されなかったか)について話し合う。
スクラムチームは、⾃分たちの効果を改善するために最も役⽴つ変更を特定する。最も影響の⼤きな改善は、できるだけ早く対処する。次のスプリントのスプリントバックログに追加することもできる。

https://scrumguides.org/docs/scrumguide/v2020/2020-Scrum-Guide-Japanese.pdf より

つまり、そのスプリントの中でスクラムチームを迷わせた仮説を特定し、自分たちの効果を改善するために最も役立つ変更を見つけることが求められています。

KPTのような手法では、KeepやProblemなどで出てきた数多くのアイデアからTryを決める構造になっており、チームの中での議論もさまざまなトピックに発散してしまいがちです。重要だと感じているトピックに絞って会話することが難しいとも感じていました。

だからこそ私はLean Coffeeを好んで採用していますが、実践する中で以下の難しさを感じていました。

  • 小さな違和感が後回しになる:議題を集中できる良さはあるものの、日々の小さな違和感や気づきはどうしても後回しになる。これ自体は問題ではないが、改善の機会を逃さないようにしたい気持ちもあった
  • 発散から収束への移行が難しい:もやっと感じていることを共有して終わってしまうことがあった。Lean Coffeeでは扱うトピックを選定するところまでを決めるため、その後の深掘りはファシリテーターの技量や慣れに左右されることが多い

この2つの難しさに対して、私は順番に工夫を重ねてきました。

4. ①日々の気づきを拾う仕組みづくり

まずは小さな改善に実際に取り組める状態にするため、日々の気づきを共有し、意見を出せるようにLean Coffeeの進め方を工夫しました。

具体的には、チームのスクラムマスターの方が紹介してくれた以下のふりかえりカンファレンス2025での発表資料を参考に、毎日YWTM(やったこと、わかったこと、次にやること、モヤっとすること)を出してみる形式に拡張しました。

https://speakerdeck.com/piyonakajima/lets-try-ywt

以下のように「Daily YWTM + Lean Coffee」という形式で運用しています。

もちろんこの手法を実践する前の時点から、timesや同期会議でちょっとしたことを共有・議論する文化があったからこそではありますが、日々お互いにどのようなことを意識して取り組んでいるのか、モヤっとしていることを共有できるようになりました。軽いものはその場でサッと解消して改善に繋げられるようになりました。

また、重いトピックに関しても、いきなりLean Coffeeの議題に上がる前に軽く意見交換を行い、ある程度の共通認識ができた上で会話できるようにもなりました。

5. ②問いの再設計への意識

Lean Coffeeで重いトピックを取り扱うときに、進め方の難しさを感じていました。トピックを紹介した人と一部のメンバーで会話が進んでしまったり、意見がなかなか噛み合わずに発散してしまってTryまで辿りつかないことがありました。

そんなときに同じグループに所属しているメンバーから紹介されたスクラムフェス仙台2025での発表資料が参考になりました。

https://speakerdeck.com/electricsatie/supurintoretorosupekuteibuhatimuguan-cha-nobao-ku-timunochong-tu-reberunihe-wasetaapurotijia-shuo

この発表では「チームの衝突レベル」という仮説が提唱されています。Core(ありたいチームの姿)、Why(なぜその問題が大切か)、What(チームでどの問題を解決するか)、How(問題に対する解決手段)という階層があり、どの衝突が起きているのかを特定し、1つ上の階層に立ち返ることで認識ずれを合わせやすくなるという話です。

重いトピックを扱うLean Coffeeでも、この衝突レベルを意識して問いかけ方を設計するようにしました。Lean Coffeeではトピック出しと投票によって、ある程度どの問題を解決すべきなのかの意見は出揃います。しかし、その問題に対してお互いの認識が合っているかを確認するために、段階的に問いを設計しています。

具体的には以下のような問いを順に投げかけます。

  • 現状把握の問い:「今回の問題について、各自がどう認識しているか?」
  • 振る舞いの問い:「その認識に至った背景や前提は何か?」
  • ありたい姿の問い:「この問題を超えて、チームとしてどうありたいか?」

このように問いを階層的に設計することで、表面的な問題解決ではなく、チームを迷わせた仮説の真因に迫れるようになりました。認識のずれが大きい場合は、別の場や時間を設けて議論できるようにもなりました。

この考え方を意識した進め方はまだ試行段階で、ファシリの都合上1回しか実践できていません。継続して試し、さらにブラッシュアップしていきたいと考えています。

6. まとめ

この記事では、どのようにLean Coffeeの進め方を自分なりにブラッシュアップしてきたのかを紹介しました。

ファシリの担当者になったメンバーの中で、私は継続してLean Coffeeを採用し続けています。同じ手法を繰り返しているからこそ、ふりかえりのふりかえりを行い、試行錯誤を通じて自身のふりかえりの考え方自体を改善できていると感じています。

皆さんも、同じ手法を「使い捨て」にせず「育てる」視点で試してみてはいかがでしょうか。

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