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Simscapeによる熱回路シミュレーションの修行

2022/10/22に公開

Simscapeによる熱回路シミュレーションの修行成果をここにメモします。
誤りを見つけられた方はこっそり教えて頂けますとありがたいです。

題材1. 半導体パッケージの発熱

ROHMの資料に参考になりそうな熱回路があったので、これをそのままSimscapeでモデリングしました。
https://fscdn.rohm.com/jp/products/databook/applinote/discrete/sic/common/what_is_a_thermal_model_sic_an-j.pdf

モデル化の結果はこんな感じ

周囲温度Ta=25℃、ジャンクション温度Tj=100℃になったとして、ケース温度Tcの変化をシミュレーションします。
基本的に絶対温度で表現する感じだったので、定数K=273.15として、一度足してScopeの前でまた引いています(℃のほうがわかりやすかったので)

シミュレーション結果はこんな感じ

35秒ぐらいで温度がサチってて、125℃になっています。
ただ、実際はTj=Tcになることはまずない。空気中に放熱されるから。
熱伝達をモデル化する必要があります。

空気中への対流による熱伝達をモデル化

そのためにはICパッケージの表面積を見積もる必要がある(たぶん)
モデルのICを決めてなかったけど、冒頭のROHMの資料に出てきたSCT3040KRというSiC MOSFETにする。
https://www.rohm.co.jp/products/sic-power-devices/sic-mosfet/sct3040kr-product#productDetail
パッケージはTO-247-4Lというもの。
こちらに寸法情報あり。
https://toshiba.semicon-storage.com/jp/semiconductor/design-development/package/detail.TO-247-4L.html

表面積は15.94×20.95mm2としよう。

あとパラメータとして熱伝達係数が必要。
参考文献[1]にこんな表があったので、これで空気中平面への自然対流「6」を使うことにする。

先ほどのモデルの一部をサブシステムにまとめて、空気への対流熱伝達をモデル化。
一旦片面だけ放熱できるとしてシミュレーションする。

先ほど決めたパラメータを以下のように入力。

以下がシミュレーションの結果。

最高温度97℃ぐらいなので先ほどよりも下がった。

パッケージの両面が空気に接しているとして以下のようにモデル化すると、


81℃なので更に下がった。

次はヒートシンクをつけて伝導による熱伝達をモデル化してみる。

ヒートシンク接続時の伝導熱伝達をモデル化

TO-247-4Lパッケージにあったヒートシンクを適当に選定。これにする。
https://www.ohmite.com/assets/docs/sink_ex.pdf

色々文献を読むと、ヒートシンクはICに直接つけるんじゃなくて、間に放熱グリスを塗ってからつけるのが一般的なようです。空気のギャップがあると熱伝導が悪くなるからですね。
以下の記事とかが参考になりました。
https://ana-dig.com/heat-sink/
https://fscdn.rohm.com/jp/products/databook/applinote/discrete/common/example_heat_dissipation_design_to_pkg_materials_effect_an-j.pdf
二つ目のROHMの記事にあるこちらのグリスを使うと想定する。

あと実際はIC裏面の金属板が露出しているので、絶縁シートを挟んでヒートシンクをつける必要があったりするらしい。ヒートシンクが筐体の一部になっているケースとか。
今回は絶縁の必要性はないと仮定する。

TO-247-4Lの裏面金属露出部面積は13.3×16.55mm2とする。
放熱グリスの厚みは0.1mmとする。

比熱のデータがなかなか出てこない。とりあえず以下の表から、普通のアルミの比熱0.27[kJ/(kg・K)]を使うことにする。
https://www.allied-material.co.jp/dcms_media/other/t52nn.pdf

ここまでの仮定からヒートシンクをモデリングすると以下のようになる。

パラメータはそれぞれ以下のように入力



比熱が大きくなったぶん熱時定数が延びたので、シミュレーション時間も700秒に延ばした。

最高温度は43℃程度に落ち着いた。
計算が合っているかわからないが、合ってるならヒートシンクの効果はかなり高いということになる。

次にヒートシンクに風をあてて冷やしている状態を考えてみる(以下のようなイメージ)

https://heat-theater.com/archives/365
上のサイトによると、強制対流における平均熱伝達率は以下の式で簡易的に計算できるとのこと。

ここでVは風速[m/s]、Lは風を受ける長さ[m]
ヒートシンクの長辺方向の長さは38.1mm。そこに風速2[m/s]で風をあてるとして平均熱伝達率を計算すると、約28[W/m2・K]になる。
これを自然対流時の値6に代えて以下に代入する。

シミュレーションの結果は以下。最高温度は34℃程度となった。

まとめ

シミュレーションの結果をまとめる。

No 条件(Tj=100℃) 結果(TcMax)
1 ヒートシンクなし・自然対流 81℃
2 ヒートシンクあり・自然対流 43℃
3 ヒートシンクあり・強制対流(2m/s) 34℃

なんかそれっぽい結果になりましたが、正しいのかは不明です。
できれば実機で検証してみたいですね。

参考文献

[1] https://www.jstage.jst.go.jp/article/ieejjournal1994/117/10/117_10_703/_pdf
[2] https://jp.mathworks.com/help/simscape/thermal-models.html
[3] https://monoist.itmedia.co.jp/mn/articles/2203/22/news013.html
[4] https://www.kyb.co.jp/technical_report/data/no62j/01_glossary.pdf

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