SHE の開発チームが生成AIエージェントをどう導入し、何が変わったか
はじめに
SHE 株式会社で Engineering Manager をしている錦織 ( id: wataori )です。私たち SHE 株式会社では、生成 AI エージェントの開発業務への活用を本格的に実施しました。導入開始から1ヶ月強が経過したので、これまでに行った取り組みの内容とその結果について紹介します。
AI エージェントの活用
SHE 株式会社ではこれまでも各職種のメンバーそれぞれが草の根的に生成 AI を活用し、業務の効率化が行われてきました。代表的なものは ChatGPT を活用した各種業務におけるたたき台作りや、データ分析の SQL を書いてもらうこと、ミーティングの文字起こしやサマリといったものが挙げられます。これら対話型のエージェントや各種ツールの導入などでもすでに一定の業務効率化は達成できていました。
私たちの組織は少人数でプロダクトを支えており、開発領域は多岐にわたります。こうした少人数のチームでは、1人あたりの生産性を大幅に高めていく必要があります。生成AIを単なる補助ではなく、「自律的なタスク実行エージェント」として位置付け、本格導入することで、10倍規模の非連続的な成果を目指しました。そこで EM である私が開発組織全体とその隣接する領域に対して、自律的にタスクを定義・完了させるエージェントを中心とした生成 AI の導入・活用支援を行うことにしました。
進め方を設計する
まずはどういう状態を目指すかを考えます。各メンバーそれぞれがプロダクト開発の業務に対して、まず AI を活用して対応にあたれるよう考え方を切り替えること、さらにそれらの作業を並行して稼働させるようになることで、これまでと段違いの開発パフォーマンスを得ることを目標としました。また、周辺職種のメンバーも、開発キャパシティを気にせずに課題解決や相談をできるようにしたいと考えました。そう考えたときにハードルとなりうるものはなにか整理します。
- これまでにやってきたソフトウェアエンジニアリングの手法を大きく抜本的に切り替える必要のあるシーンが出てくる
- 自分が大切に築き上げてきたエンジニアリングのスキル・キャリアやそれを活かす場としての仕事がなくなるのではないかという不安を持つことがある
- キャパシティを超えかねないタスクをこなしている忙しいチームがその中で業務フローを抜本的に切り替えることは難しい
- 個人レベルの草の根活動だけでは試験的な利用以上に踏み込むことは予算的に難しい場面がある
- 利用料金を各自が必要以上に気にしてしまうことがある
- AI を活用してみてうまくいかなかったとき、一時的に組織のスループットが下がると開発チーム以外にも迷惑がかかることが考えられる
- これまであった開発組織メンバーへの相談をベースとした業務コラボレーションフローを切り替える必要が出てくる
- 何をどうすれば AI が活用できていると言えるのかがよくわからない。ハンズオンでサポートしてもらえればありがたい。
これらを解決しながら物事を進めるにはどうするのがいいか考え、以下のように設計しました。
具体施策
- 個人レベルではできないような額の予算をある程度最初にとり、その範囲で一定の成果が報告できるようプロジェクトを設計する
- ある程度使いすぎることが起こることも許容し、そこから得られた知見を組織全体に前向きにフィードバックできるよう支援する
- 開発組織以外に対しても本格的な AI 活用に向けた取り組みを行っていることを示すことで、ある程度迷惑がかかる可能性のあることをあらかじめ周知しておく。また同時にプロダクト開発領域に他の職種からのコラボレーションがしやすくなるよう頭出しをしておく
- 週次で参加・入退室自由のミーティングを設定し、ナレッジシェアや懸念の共有などを促すことで主体的に参加している実感を持ってもらう
- 遠隔地から稼働しているメンバーもいるため、オンラインでハードル低く参加してもらう
- 各自が持ったアイデアを積極的に試してもらえるようサポートし、得られた知見を素早く共有できるような Slack チャンネルを開設する
- 各種ツールが使えるようアカウント開設・ API Key の発行招待を先に進めておく
- Gemini, Claude および Devin を使うこととした
- 定期的に参加自由のワークショップを開催し、 AI エージェントツールを触って動かしてみる会を設定する
AI 活用推進強化月間の開始
まずは事前準備として、開発者にアンケートに回答してもらいました。各自の普段利用しているエディタ環境や、 AI 活用に対する懸念について自由に回答してもらい、施策に反映することとします。最終的にはプロジェクトを「AI活用推進強化お祭り月間」とし、活気づけるように工夫しました。この期間中は多少使いすぎるくらいがちょうどいいということを何度も言いながら、まずは活用して AI を活かした業務に慣れることを目指しました。
その後、 Cline を触ってみるワークショップを開催し、各自がすぐに使えるよう環境構築を支援しました。しばらくすると Claude Code が登場したため、こちらについてもワークショップを開催し同じように準備を支援しました。
私が日々の業務で情報収集したものをベースに、週次のミーティングでそれぞれのチームで行われている AI 活用の事例を報告しました。質疑応答などを通じてナレッジシェアを図ると同時に、次に開拓できそうな領域について継続的に議論をしました。
Slack チャンネルを活用し、新製品のニュースをお知らせしたり、 AI 製品の使用量についてのモニタリングを報告していきました。モニタリングについてはやはり根強くある「使いすぎてしまうのではないか」という不安に対して「毎日見てるからあんまり気にしないで使ってほしい」というメッセージにもなりました。また同時に利用状況に応じた予算配分についてもフレキシブルに対応できることとなりました。
私は EM という立場ですが、担当チームをアサインできない機能開発も行っていたため、AI エージェントを活用した実装の実験の場として使い積極的に取り組むことができました。
中間報告と後半期間の支援方針
3週間ほどが経過した段階で、ある程度私の支援がなくとも各チームで活用事例が自然にあがってくるようになりました。
- コードレビューに Devin, Claude Code を導入しレビュー品質を比較・向上させる事例
- 開発組織外からの開発チームへの依頼に対して、 Devin を用いて一次対応となる調査・実装の自動化が行われ、スケーラビリティが飛躍的に高まった事例
- 大きなユーザーストーリーを開発タスクに落とし込む作業を AI にやってもらうことでプロダクトマネジメント負荷を大幅に削減できた事例
- 開発タスクの見積もりについて、 AI を活用して一次見積もり・不明点の洗い出しを事前に行ってもらうことでスクラム開発におけるリファインメントにかかる時間を短縮できた事例
- 従来から進めてきていた Design System を活用し、さらにそこへ Figma MCP を接続することで、フロントエンド実装が5分に短縮できた事例
- 私が個人で進めた機能開発について、見積もりでは3週間だったものが AI に自律的に実装させることを中心としたことで1週間でリリースできた事例
これらを経て、とある git レポジトリにおけるマージコミットの数が取り組みの前( 2025-W18
以前)と比べて倍増しました。もちろんこれは AI 推進によるものだけが要因のすべてではありませんが、影響は間違いなく大きいと考えています。
こうしたときに、開発チームへの支援は一段落つけて良いと考えました。それよりも他のチームに向けて、プロダクト開発領域へのコラボレーションのハードルをより低くし会社組織全体のスループット向上を目指したいと考えました。現時点での課題を整理すると、次のようになりました。それぞれの対処と平行して、開発組織外への展開を進めることにしました。
Devin の限界費用が大きい
Devin は Claude より高く、 Claude は Gemini より高いです。 Devin は自前の開発環境を持っていることもあり、依頼をすれば勝手に動作確認までやってくれます。依頼者のローカル開発環境は必要ないため、手軽に依頼できるという強みがあります。そのため開発者が自分のローカル環境よりも Devin に開発タスクをたくさん依頼することで並列処理を行うようになってきている状況がありました。料金が高止まりしている中でさらに開発組織外からの利用に手を広げていくと、さすがに予算が足りませんでした。
そこで、 AI エージェントツールの強みと弱みをまとめて整理し、開発者は自分のローカル環境で Cline, RooCode, Claude Code 等のエージェントを動かすことを推奨しました。開発者がローカル環境をもっていないリポジトリへの作業依頼や、終業間際・移動間際の利用については引き続き推奨しつつも、利用シーンを明確に打ち出すことでクレジットの消費を抑え、そのぶんをより広範な職種からの利用へ振り向けられるようにしました。
Devin の使いこなし方に差がでてきている
Devin は ACU という単位でクレジットを消費します。 1ACU = 2 USD と計算できます。うまく Devin を使えた場合は 0.5 ACU 程度でやりたいことを実装できている一方で、試行錯誤が続き 10 ACU 以上嵩んでしまう場合もありました。そこで、うまくいった例・うまくいかなかった例をあげて依頼のやりかたのレベルを底上げしようとナレッジシェアしました。
また、 Knowledge の整備や Devin 上で開発環境を作れていないリポジトリの環境構築を行い、効率的に Devin がタスクを処理できるよう整備しました。
ローカル環境で並行作業がやりにくい・コンフリクトしてしまう
2つ以上の AI エージェントを用いて同時に作業をしたとき、ローカル環境のファイルが簡単に競合してしまいます。これについては Anthropic の提唱している git worktree という、ローカル開発で複数ブランチを安全に並行作業するための仕組みを用いた解決策を整備しました。
git worktree を使うと git 管理下のファイルをディレクトリとして分けることができます。当然ながら gitignore されているファイル・ディレクトリはコピーされないため、これらをまとめてコピーできるようワンライナーを整備しました。
Pull Request の数が増えてレビューが停滞する
AI を用いてコードが量産されるようになり、人間によるレビューがボトルネックとなりました。 Claude Code によるレビューは実施されているものの、 仕様では Pull Request の Approve まではしてくれません。
Devin を開発者が多用することになった背景にもこれが絡んでいます。 Devin が PR を作成してくれれば、依頼者がチェックしてすぐにマージできます。ローカルで AI にコードを書かせて commit, PR open は依頼者がやった場合、自分で Approve はできないため誰か他の開発者による Approve を待たなければなりません。
これについては、 AI の場合は commit, PR open に GitHub App を使うようにすることで対処することとしました。ただ現在整備が追いついておらず、レビュー負荷は引き続き課題です。
開発組織外への展開
一部 Devin を用いて開発チームへの依頼に対して自動化がすでに初期段階より始まっていました。これをさらに拡張するような形で、 Devin を利用した支援を考えました。
- データ分析依頼を Devin が請けることでデータアナリストの業務負荷を軽減すると同時に、施策の振り返りや状況把握を素早くできるようにする
- 実装が圧倒的に早く終わるようになった事例をもとに、 Design System の整備をさらに加速させるようデザインチームとの連携をさらに強化する
- 施策検証の初期段階で Devin を活用して壁打ちを行い、プロダクト開発の視点を施策考案に無理なく素早く取り入れる
これらはまだ6月末時点では途上です。今後報告していければと考えています。
最後に
AI エージェントは SHE 株式会社のプロダクト開発現場を一変させました。少人数でより質の高い仕事がこなせるようになり、これまで手が回らなかった技術的負債の返済も高速で進み出しています。今後もより組織全体へこの流れを浸透させていくことで、より質の高い顧客サービスを展開しビジネスを加速させていければと考えています。
AI により業務効率は飛躍的に高まってきていますが、それはそれとしてこれらを操る人員は不足しています。採用を強化しております。興味のあるかたは以下リンクをご覧いただければ幸いです。 AI の話・カジュアル面談も HR または http://twitter.com/cotton_ori までお気軽にどうぞ。

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