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Gemini CLIリリース直後の評価まとめ

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ℹ️ 本記事はGemini CLIリリース直後(2025年6月末時点)の情報を元に執筆されています。今後のアップデート等により内容が変わる可能性があります。

序論:ターミナルから始まるAI開発の新たなパラダイム

2025年6月、Googleは開発者のワークフローに直接統合される新しいAIツール「Gemini CLI」をオープンソースとして発表しました。これは単なる対話型インターフェースではなく、ローカルファイルシステムの操作、コマンド実行、そしてGoogle検索によるリアルタイムな情報グラウンディング能力を備えた「AIエージェント」として設計されています。

本稿では、リリース直後に観測された国内外の技術コミュニティにおける評価や活用事例を基に、Gemini CLIのアーキテクチャ、競合ツールとの比較、そして現状におけるポテンシャルと課題を技術的観点から深掘りします。

Gemini CLIのアーキテクチャと主要機能

Gemini CLIの価値は、以下の4つの主要な特徴に集約されます。

1. 寛大な無料利用枠と戦略的背景

個人ユーザーはGoogleアカウント認証のみで、フラッグシップモデルである Gemini 2.5 Pro を、100万トークンという広大なコンテキストウィンドウと共に、1分あたり60リクエストという極めて寛大なレート制限下で利用できます。
これは、有料サブスクリプションが基本の競合(例:Claude Code)に対する強力なアドバンテージであり、開発者エコシステムにおけるシェア獲得を目指すGoogleの明確な戦略がうかがえます。まず無料で強力なツールを提供してデファクトスタンダードを確立し、周辺のクラウドサービス(Vertex AIなど)利用へ繋げる狙いがあると考えられます。

2. Google検索によるリアルタイム・グラウンディング

静的なデータセットで学習したLLMの知識は本質的に古くなります。Gemini CLIは、google_web_searchツールを標準で統合しており、プロンプトのコンテキストをリアルタイムの情報でグラウンディングできます。これにより、「最新のReactのバージョンにおける破壊的変更点」のような、鮮度が重要な問いに対しても正確な応答が可能となります。これは、検索能力が限定的とされる競合に対する明確な優位点です。

3. オープンソース(Apache 2.0)と拡張性

ソースコードがApache 2.0ライセンスで公開されていることは、透明性とコミュニティによる発展の可能性を担保します。開発者は自由にコードを監査・改変できるだけでなく、サードパーティツールとの連携も促進されます。将来的にはModel Context Protocol (MCP)のような標準規格を通じて、外部ツールとの連携がさらに容易になることが期待されます。

4. GEMINI.mdによる階層的コンテキスト管理

AIエージェントの振る舞いを制御する上で、コンテキストの管理は極めて重要です。Gemini CLIは、GEMINI.mdというMarkdownファイルを通じて、プロジェクトに対する永続的な指示を与えることができます。

このシステムの特筆すべき点は、階層的なコンテキストの読み込みに対応していることです。グローバル設定(~/.gemini/GEMINI.md)、プロジェクトルート、各サブディレクトリに配置されたGEMINI.mdがマージされるため、全体的なコーディング規約と、コンポーネント固有のルールを両立させるといった、きめ細やかな制御が可能になります。

## プロジェクト全体のルール (プロジェクトルート)
- 常にTypeScriptを使用する。any型は禁止。
- 状態管理はZustandを用いること。
- コミットメッセージはConventional Commits形式に従う。

## ./src/legacy/GEMINI.md (サブディレクトリのルール)
- このディレクトリ内のファイルはリファクタリング対象外。変更を加えないこと。

現状評価:ポテンシャルと技術的課題

ユーザーからのフィードバックは、その高いポテンシャルへの期待と、初期リリース特有の課題への指摘に二分されます。

Potentials (発揮されうる能力)

  • 大規模コードベースの理解とリファクタリング: 100万トークンのコンテキストウィンドウは、リポジトリ全体を読み込ませてのアーキテクチャ分析や、複雑なリファクタリングタスクにおいて強力な能力を発揮します。
  • ワークフローの自動化: パイプ (|) やシェルスクリプトとの親和性が高く、様々な定型作業を自動化できます。
# stagedされているコードの差分からコミットメッセージを生成
git diff --staged | gemini "Generate a concise commit message in Conventional Commits format."
  • BYO-API (Bring Your Own API) ワークフロー: 後述しますが、Geminiの強力なモデル(頭脳)を、より成熟した他のCLIツール(身体)と組み合わせることで、現状のツールの欠点を補うワークフローが確立されつつあります。

Pitfalls (現状の課題)

  • パフォーマンスの遅延: 最も多く指摘される問題が応答速度です。「APIの応答に時間がかかりすぎる」という報告が多数あり、特に複雑なタスクにおいて顕著な遅延が発生するケースがあります。これはTPUリソースのコールドスタートや、ツール自体の最適化不足に起因する可能性があります。
  • エージェント能力の未熟さ: 自律的なタスク遂行能力において、競合のClaude Codeに軍配が上がるという評価が多いです。エラーからの自己回復能力や、複雑な手順を自律的に計画・実行する能力には改善の余地があると言えるでしょう。
  • エコシステムの複雑性: APIエンドポイント(AI Studio vs Vertex AI)や認証方法(個人アカウント vs Workspaceアカウント)の分かりにくさは、スムーズな導入を妨げる要因となっています。

実践的ワークフローと競合との差別化

「Bring Your Own API」という最適解

現状の評価を端的に表現するなら、「強力な頭脳(Gemini 2.5 Pro)に、未熟な身体(CLIツール)が搭載されている状態」と言えます。
この課題に対する最も効果的なユーザーの対応策が、「Bring Your Own API (BYO-API)」というアプローチです。これは、AiderやCursorといった、より成熟したエージェント機能やUIを持つフロントエンドツールを用い、バックエンドのLLMとしてGeminiのAPIキーを設定するというワークフローです。
この構成により、ユーザーはGeminiの強力なモデル性能、広大なコンテキストウィンドウ、そして低コストというメリットを享受しつつ、Gemini CLI自体のパフォーマンス問題や機能不足を回避できます。

競合「Claude Code」との比較

機能/特性 Gemini CLI Claude Code
エージェント性能 発展途上 より成熟し、信頼性が高い
モデル性能 Gemini 2.5 Pro (高品質) Claude 3.5 Sonnet (ツール利用に長ける)
コストモデル 寛大な無料枠 サブスクリプション必須
オープンソース Yes (Apache 2.0) No
独自機能 Google検索統合 サブエージェントワークフロー
Windows対応 ネイティブ WSLが必要

現状では、自律的なタスク実行能力ではClaude Codeが優位に立つ一方、Gemini CLIはコスト、オープン性、そしてGoogle検索という強力な武器で差別化を図っています。

まとめと将来展望

Gemini CLIは、その強力なモデルと野心的な無料戦略によって、開発者向けAIツール市場に大きなインパクトを与えました。しかし、ツール自体の完成度はまだ発展途上であり、パフォーマンスやエージェント能力には明確な課題が残ります。

現時点での最適解は、Aiderのようなサードパーティ製ツール経由でGeminiのAPIを利用する「BYO-API」アプローチかもしれません。しかし、オープンソースであることの強みを活かし、コミュニティからのフィードバックを取り入れてツールが急速に改善される可能性は十分にあります。

Googleが今後、指摘されているパフォーマンス問題やエージェント能力の課題を迅速に解決し、複雑なエコシステムを整理できるかどうかが、Gemini CLIが単なる「パワフルだが扱いにくいツール」で終わるか、それとも開発者のワークフローに不可欠な存在へと進化できるかの分水嶺となるでしょう。

参考資料

[1] ohigashi-tky. (2024). 「Gemini CLI が突然やってきたのでとりあえず簡単なアプリを作ってもらう」. Qiita. URL: https://qiita.com/ohigashi-tky/items/527ffe6158db175f8f0f
[2] mizchi. (2024). 「gemini-cli の google_web_search が最高」. Zenn. URL: https://zenn.dev/mizchi/articles/gemini-cli-for-google-search
[3] Hacker News community. (2024). "Google's Gemini CLI" [Online discussion]. Hacker News. URL: https://news.ycombinator.com/item?id=44376919
[4] Reddit community. (2024). "Gemini CLI: your open-source AI agent" [Online discussion]. Reddit (r/LocalLLaMA). URL: https://www.reddit.com/r/LocalLLaMA/comments/1lk63od/gemini_cli_your_opensource_ai_agent/
[5] Reddit community. (2024). "Gemini CLI is END GAME" [Online discussion]. Reddit (r/Bard). URL: https://www.reddit.com/r/Bard/comments/1lkb5u3/google_gemini_cli_is_end_game/
[6] Devclass. (2024). "Google positions itself for next decade of AI as Gemini CLI arrives with generous free tier". URL: https://devclass.com/2024/06/25/google-positions-itself-for-next-decade-of-ai-as-gemini-cli-arrives-with-generous-free-tier/
[7] Apidog. (2024). "Gemini CLI by Google: An Open-Source Alternative to Claude Code". Apidog Blog. URL: https://apidog.com/blog/gemini-cli-google-open-source-claude-code-alternative/
[8] GitHub Community. "Discussions and Gists related to Gemini CLI". GitHub. (Various user-contributed content).

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