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スクラムマスターが『これからのAI、正しい付き合い方と使い方』を読んで考えたこと

2025/04/06に公開

ChatGPT をはじめとした LLM の登場以降、AI の進化は私たちの働き方を急速に変えつつあります。特にソフトウェア開発の現場では、「AI に仕事を奪われるのでは?」「どう活用すれば生産性を上げられるのか?」といった期待と不安が入り混じった声が多く聞かれます。

私自身、開発者として AI をひたすら使っていく中で日々進化していく各社の言語モデルの性能や、その進化の速さに楽しみながらも不安と焦りを感じることもあります。

またスクラムマスターでもあるため、チームがいかに AI と付き合っていくか、この変化にどう適応し、AI を効果的に活用していくべきか、日々模索しています。

そんな中、『これからのAI、正しい付き合い方と使い方 「共同知能」と共生するためのヒント』という書籍に出会いました。

https://www.kadokawa.co.jp/product/322407001121/

この本は、AI に関する技術的な解説書ではなく、AI が社会や個人に与える影響を多角的に考察し、私たちが AI とどう向き合い、共生していくべきかの指針を示唆してくれます。

正直なところ、チームでの AI 活用方法の具体的な答えを求めて読み始めたわけではありません。しかし、読み進めるうちに、AI との付き合い方、特にエンジニアや開発チームが AI と健全な関係を築く上で非常に重要な視点を得られたと感じています。

本書は、AI と創造性、教育、考えうる未来のシナリオといった幅広いテーマを扱っています。それぞれのテーマは「人間と AI がいかに協働すべきか」という点で繋がっています。この記事では、特に私自身の経験やスクラムマスターとしての視点を交えながら、本書から得られた「AI との向き合い方」に関する気づきを残したいと思います。本書をまだ読んでいない方、読む時間がない方に、少しでもこれからの AI 時代を生き抜くためのヒントをお伝えできれば幸いです。

AI の「ループ」の内側に居続ける強い意志を持つ

本書全体で何度か言及されている重要なメッセージの一つが、「人間参加型(ヒューマン・イン・ザ・ループ)にする」 という原則です。AI が進化し、多くのタスクを自動化できるようになる中で、私たちは AI の意思決定プロセスに主体的に関与し続ける必要がある、と著者は説きます。

未来には、AI の意思決定の「ループ」の内側に留まるために、人間はより一層努力することが必要となるかもしれない。
AI が進化するに連れ、作業を完了するのに AI の効率性とスピードに頼り、すべてを AI に委ねたくなるだろう。

Cursor や Cline などを使用していて思い当たらないエンジニアはいないでしょう。私自身、過去のプロジェクトで納期に追われるあまり、AI が生成したコードを深く理解しないまま「とりあえず動くからOK」としてしまった経験があります。これはまさに、本書が警鐘を鳴らす「居眠り運転」の状態です。一時的なスピードと引き換えに、コードの品質や保守性への意識が薄れ、何より自分自身の学びの機会を失ったことでモチベーションの低下と"シンドさ"を感じることに繋がりました。

このような「AI への丸投げ」は、個人のスキル停滞だけでなく、チーム全体の思考停止にも繋がりかねません。スクラムマスターとしては、チームメンバーが AI の生成物を鵜呑みにせず、その妥当性を判断し、改善提案できるスキルとマインドセットを維持・向上させることが重要だと考えています。そのためには、AI の出力の背景にある原理を理解しようと努め、積極的に AI から学び、自身の専門性を磨き続ける意志が不可欠です。「ループの内側にいる」とは、単に AI を使うだけでなく、AI をコントロールし、共に成長していくという主体的な姿勢だと思っています。これは、AI に仕事を奪われないためという以上に、エンジニアとしての、そしてチームとしての価値を高め、仕事のやりがいを維持するために極めて重要だと感じました。

AI 時代の「知識獲得のパラドックス」を乗り越える

AI との付き合い方を考える上で、もう一つ非常に示唆に富むのが「AI 時代の知識獲得のパラドックス」という概念です。

AI が得意なのだから、人間がやる必要はなくなったと考えるかもしれない。大抵習得するのが面倒な基礎的なスキルは時代遅れになったように見える。そして、専門家になるための近道があるならば、実際に時代遅れになるだろう。しかし、専門性を獲得するためには、事実に根ざした基礎が必要となる。

「AI がやってくれるなら、人間は面倒な基礎学習から解放されるのでは?」一見するとそう思えます。しかし、現実は逆だと主張しています。AI の出力が本当に正しいのか、より良い代替案はないのかを判断し、AI を効果的に使いこなすためには、むしろ盤石な基礎知識がこれまで以上に求められるのです。コードの品質、保守性、セキュリティ、パフォーマンスといった、単純な「正解」では測れない価値を担保するには、今はまだ人間の力が必要で、そのために専門性を持つことが不可欠です。

AI が進化すればするほど、学習しなくても目に見えるアウトプットは増やせる一方で基礎学習の重要性は増していく。このパラドックスをチームとしてどう乗り越えるかは、今後の大きな課題です。AI ツールを導入して効率化を図りつつも、個人の学習やチームの勉強会などを通じて、メンバーが継続的に基礎を学び、専門性を深められる環境をどう作るか。本書はこの問いに対する解法を示すわけではありませんが、このパラドックスの存在を明確に言語化してくれます。

タスクの分類とAI とのギザギザな境界線を意識する

本書では「ギザギザな境界線」という言葉が出てきます。これは AI ができることと人ができる (すべき) ことの境界線がハッキリしていない様を表現した言葉です。

この境界線を意識していくことは、我々のタスクが今どこに分布されているかを理解することです。

AI との関係性を具体的に考えていく上で、本書で示しているタスクの分類をご紹介します。

  1. 私だけのタスク: 人間の創造性、共感、倫理的判断などが求められる、AI が(現状)代替できないタスク。
  2. 委任するタスク: AI に任せるが、最終的な判断やチェックは人間が行うタスク。
  3. 自動化されたタスク: AI に完全に任せられる、定型的で明確なルールに基づいたタスク。

重要なのは、これらの境界線は固定的なものではなく、AI の進化によって常に変化するということです。スクラムマスターとしては、チームのタスクが現在どの領域にあるのか、そして今後どこへ向かうのかに意識を向けつつチームでの認識をあわせる活動を通して、AI との役割分担を柔軟に見直していける状態に導くことが必要だと感じました。

この境界線の解像度を上げるためには私生活から仕事まであらゆる活動に AI の導入を検討して AI を使い倒すことが必要です。
本書では「常に AI を参加させる」という原則としてこのことが言われています。

まとめ

『これからのAI、正しい付き合い方と使い方』は、AI という強力なテクノロジーと私たちがどう向き合い、共に未来を築いていくべきかについて、多くの示唆を与えてくれる一冊でした。特に、「AI のループの内側に居続ける意志」「基礎学習の重要性」「タスク分類による境界線の意識」という3つのポイントは、今後のエンジニアとしてのキャリア、そしてスクラムマスターとしてチームを導く上で、常に心に留めておきたいと感じています。

本書は、AI の技術的な詳細や具体的な活用事例を求める人には向いていません。

しかし、もしあなたが、

  • AI の進化に漠然とした不安を感じている
  • チームや個人で AI を効果的かつ健全に活用する方法を模索している
  • 長期的な視点で AI との関係性を考えたいと思っている

のであれば、本書は非常に価値のある羅針盤となるはずです。技術的な流行り廃りに左右されない、AI との普遍的な付き合い方を考える上で、確かな土台を与えてくれます。

もちろん、本書を読むだけで AI を使いこなせるようになるわけではありません。最終的には、日々の業務や学習の中で AI を積極的に試し、失敗から学び、自分なりの、そしてチームなりの「正解」を見つけていくプロセスが不可欠です。しかし、本書を読むことでその試行錯誤の方向性を見定め、現在地を知り、より建設的に AI と向き合っていくための「地図」を手に入れることができるでしょう。ぜひ、手に取ってみてください。

おまけ

この文章は私の読書メモを元にして AI が生成した文章が多分に含まれています。
それをさらに AI にレビューしてもらい、最終的には自分で手直しをして文章を完成させました。

私はただのエンジニアでありスクラムマスターです。ライターではありません。文章を書くことに特別なこだわりもありません。
だからこそ、「居眠り運転」の誘惑がつきまといました。本書がなければこの誘惑には勝てなかったかもしれません。

もちろん、自分で考えて書くか AI を使って書くかはその人の目的次第です。
AI が全てを仕上げて、その内容のチェックも不要な場合もあるでしょう。
私の目的は、頭の整理と技術ドキュメント以外の文章を書いてみたい。そして AI をそこに参加させてみたいということでした。

実際使ってみて、AI からの様々な指摘を受けて執筆の過程で新たな気づきを多く得られました。
また、「AI の恩恵を一番受けるのは、能力が低い人」ということが本書で言われていますが、こと執筆に関しては全くの素人な私は最大限 AI の恩恵を受けることができたような気がします。

専門性を深めることも続けながら、今まで苦手としていたことやチャレンジしてこなかったことも挑戦してみたいという気持ちも湧いてきました。

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