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【エンジニア向け】「特許」ってどうとるの?

2022/09/19に公開約6,400字

はじめに

セージです。現在は特許事務所で弁理士をしています。
本稿は、特許を取得しようと思っているエンジニアに向けたものです。特許とはどういうものか、特許を取得するための流れはどんなものか、ご説明していきます。

  • 上司から特許を取れと言われたけど、何をどうすればいいの?
  • 特許事務所から特許を取りたい内容の説明資料を作れと言われたけど、何を書けばいいの?
  • 特許を取得するための時間・お金ってどれくらいかかるの?

そんなお悩みをお持ちの方は、是非ご覧になってください。

想定する読者


以下のような人を想定しています

  • 普段はコードを書いてるけど、会社の業務の一環で特許出願をする必要があるエンジニア
  • 特許をたくさん取れ!と上司から言われたけどあまり特許に馴染みがない管理職
  • 知財部(または知財担当者)が社内にないけど特許を取得したい方

※社内に知財部がある場合は、この記事に書いてあることではなく、知財部の言うとおりにしましょう!社内手続きは当然社内事情が絡んでいる場合が多く、知財部の方はそれに精通しているはずです。社内に特許関係で頼れる人なんかいないという人だけ本稿を読んでください。

この記事でわかること

  • 社内で発明が完成してから特許権を取得するまでの流れ
  • 特許出願全体でかかるお金
  • 何を企業側でおこなって、何を事務所がやってくれるのか

前提知識

特許権とは?

特許権とは、「出願時点において新規発明独占的に実施することができる権利」のことです。

  • 発明とは、アイデアのことです。
  • 新規とは、発明がだれかに知られていないということです。
  • 独占的とは、特許権を持っている人だけが使ってよく、他人の使用を禁止することができるということです。

すなわち、特許権を取得することで、特定のアイデアについて自社が独占的に使うことできるようになり、会社の競争力が増します。また、仮に自社から積極的に他社の使用を禁止するとまではいわなくても、他社との交渉のカードの一種として用意しておくという使い方もあります。

なお、エンジニア業界はOSS文化が根付いており、特定の技術を独占的に使用しようとすることに対して忌避感がある方もいらっしゃるとは思いますが、業務は業務として割り切っていきましょう。

どんな発明が特許になるの?

基本的には、「新規性」と「進歩性」を有する発明が特許を受けることができます。


新規性とは、発明が新規なものであるということです。原則として、自社がすでに公開してしまった技術や、他社から盗んだ技術で特許を後出し的に取得しようとしても後述する特許庁の審査によって「これは新規じゃないから特許できないよ」と言われてしまいます。特許庁とは、知的財産権に関する行政を行うところです。


進歩性とは、既に知られている技術を組み合わせても簡単に作り出せるものではないということです。例えば、発明Aと、発明Aとは若干異なる発明A’があったとします。発明A'が、発明Aと、同分野でよく知られた発明Bとを組み合わせることによって簡単に作り出せるものである場合には、発明A'が新規なものであったとしても発明A'について特許を取得することはできません。例えば、強化学習を用いて異常を検知するシステムAが既に知られているとしたら、強化学習部分を単純に深層学習に置き換えただけのシステムA'は特許を取れない可能性があります。
※パラメータ設定や学習データに特徴がある場合には特許取得が狙える場合もあります。


なお、新規性と進歩性の判断基準時は特許出願時ですので、特許出願後であれば発明を公にしてしまっても問題ありません。逆に言えば、出願時までにプレスリリース等で発表してしまうとダメなので、特許を取得する可能性の発明については自社内で秘密にしておきましょう。

特許を取るまでの流れ

全体の流れ


よくあるのは、上図のような流れだと思います。以下では、それぞれの段階で留意するとよいポイントについて述べていきます。

社内打ち合わせ


社内で打ち合わせをします。社内打ち合わせとは、例えば、知財担当者と発明者(技術者・発明を作り出した人)との間で発明の要旨をまとめ、後の事務所打ち合わせの準備をすること等です。この時点で、事務所向けに発明の要旨をまとめた資料(発明提案書、発明説明書、発明開示書等ということが多いと思います)を作成しておいたほうがよいと思います。

もしかしたら読者の皆様の中には企業内に知財担当者もおらず、特に社内打ち合わせを要しない場合もあるかもしれませんので、括弧で囲っております。

事務所打ち合わせ


特許事務所と打ち合わせをします。企業側としては、ここが一番大変であり、重要な箇所だと思います。というのも、このステップ以降は事務所側が主導して進めてくれる部分が大きいからです。

事務所との打ち合わせでは、先行技術と、特許権を取得したいと思っている発明の要旨を説明します。社内打ち合わせの段階で作成していた発明の要旨をまとめた資料を事前にを送付しておくと当日がスムーズになります。

先行技術調査は、余裕があれば是非行っておくことをおすすめします。上で述べたように、特許権は先行技術に対して相対的に生じるものなので、事務所打ち合わせの段階で「これ新規性ないですね」となると大幅な手戻りが生じます。さらに、先行技術が明確でないとボンヤリした特許にならざるをえず、後々困る可能性があると思います。

このタイミングでは、多くの特許事務所では料金を請求しないと思います。後段の「特許出願」の料金に打ち合わせの料金が入ってくるイメージです。

また、はじめて依頼する特許事務所の場合は、このタイミングでこの先の料金やスケジュール感のすり合わせも併せて行っておいたほうがよいと思います。特許は出願から権利化までお金がかかるシーンが多く、途中で予算が足りなくなったとなるととても困ったことになります。

特許出願


事務所打ち合わせで説明いただいた発明をもとに、特許事務所の弁理士が特許出願書類を作成します。このあたりは弁理士がいい感じにやってくれるはずです。出願書類は、大体事務所打ち合わせから1月程度で完成する場合が多いと思います(事務所の繁忙度次第ではそれより長くかかることもあります)。

なお、出願時にかかる費用は事務所次第/出願書類の分量次第ですが、1件あたり20万円~50万円あたりがボリュームゾーンではないかと思います。この料金は大部分は代理人手数料(つまり、事務所の売上になるお金)です。

出願審査請求


特許出願をした後は、出願審査請求という手続きを特許庁に対して行う必要があります。出願審査請求とは、出願した後で改めて特許庁に対して権利化を望む意思を表明し、審査を開始することを請求する手続きです。出願審査請求は、出願から3年以内に行う必要があります。期間内に出願審査請求を行わなかった場合、出願は取り下げたものとみなされ、せっかく払った特許出願手数料がムダになってしまうので注意しましょう。
※一般的には事務所が出願審査請求の期限を管理し、期限が近くなったらリマインドしてくれます。

この手続きも事務所におまかせしてしまって大丈夫なのですが、出願審査請求にはだいたい10万円~30万円程度(これも出願書類の分量次第)かかるということだけご留意ください。この料金は、ほとんどが特許庁に手続きを行うための料金(つまり、事務所の売り上げではないお金)です。

なお、中小企業が出願人である場合等においては出願審査請求料の減免を受けられる場合もあります。詳しくは以下のリンクからご参照ください。
https://www.jpo.go.jp/system/process/tesuryo/genmen/genmensochi.html

拒絶理由通知


出願審査請求をしたあと、約10か月程度で(ほとんどの場合)拒絶理由通知というものが来ます。拒絶理由通知とは、特許庁が出願人に「あなたの発明はこういう観点で特許することがキビしそうなので、もうちょっと考えてみてね」ということを通知するものです。「拒絶」というワードは結構インパクトがありますが、ほとんどの出願に対して通知されるものなのでご安心ください。

なお、拒絶理由通知は1回の出願に対して何度も通知される場合があります。例えば、後段の「応答」で拒絶理由を解消しきれない場合や、応答によって新たな拒絶理由が生まれた場合には、再度拒絶理由通知が届きます。

※ほとんどの場合といったのは、拒絶理由が一切なかった場合には、直接特許査定(後述)がされるからです。ただし、拒絶理由が通知されることなく特許査定がされるようなケースは過剰に狭い権利しか狙えていない場合もあります。一般的には、拒絶理由通知を受けることを承知の上で若干広めの権利範囲を狙うつもりで出願し、応答(後述)によりそれを解消できるギリギリの範囲で最終的な権利化を狙うことが多いと思います。

応答


拒絶理由通知が届くと、一定期間内に応答をしなくてはなりません。応答の内容はいろいろですが、例えば審査官の認定の誤りを指摘したり、出願書類を修正(補正といいます)して拒絶理由となった原因を解消したりすることが多いと思います。

応答方針をどう決めるかは事務所次第なところが多いですが、どうしたらいいかわからなければ素直に事務所に「どうするのがいいでしょう」と伝えればいいと思います。事務所から応答方針についてのヒアリングがあり、その結果で事務所がいい感じに応答してくれるはずです。

このタイミングでも代理人手数料が5万円~15万円ほどかかります。応答内容が比較的簡潔なものである場合には安く済む場合もあるでしょうし、追加のヒアリングや文献調査が発生する場合には、料金がかさむことになると思います。

特許査定


応答をし、再度特許庁の審査官が審査をした結果、出願にかかる発明が特許すべきものと判断された場合、特許査定というものがされます。出願をした日から起算すると、大体2年~5年で特許査定がされることになるのではなかろうかと思います。期間に幅があるのは、出願審査請求をどのタイミングで行うか/審査にどれくらい時間がかかるか/拒絶理由通知が何回通知されるか等によって、特許庁に留まる期間が大きく異なってくるからです。

このタイミングでは事務所から成功報酬として10万円程度支払う必要がある場合もあります。このあたりについても、最初の事務所打ち合わせの段階ですり合わせしておいたほうがよいと思います。

なお、応答はしたものの、やはり特許できないと判断された場合には、拒絶査定というものがされます。拒絶査定がされると、原則として出願にかかる発明では特許権を取得できないことになってしまいます。例外的に、拒絶査定不服審判という、「審査官の認定がおかしいでしょ!」と特許庁の審判官という人たちに申し出ることができます。他にも、分割出願という制度で出願を途中からやり直したりということができるので、このあたりについても事務所と相談して方針を立てるのがよいと思います。

特許権の発生


特許査定が出たあとは、一定期間内に特許料の納付をすることで特許権を発生させることができます。納付に関する手続きは事務所がやってくれるので、おまかせしましょう。

登録に必要な特許料は、出願書類のボリューム次第ですが、2万~3万円程度の場合が多いかと思います(これも特許庁に支払うお金です)。この料金を支払うことで、権利発生から約3年間は特許権を維持することができます。それ以降は改めて特許料を納付する必要がありますのでご注意ください。

そして、特許権が発生してはじめて、特許出願にかかる発明を独占的に使用することができるようになります。長い道のりになるので、事務所は本当に信頼できるところを選ぶのがよいと思います。

まとめ

以上が、社内で発明が完成してから特許権を取得するまでの大まかな流れです。いろいろやることがあるように思いますが、基本的に企業側で一番大変なのは事務所打ち合わせだと思います。そこでうまく発明の要旨を伝えることができれば、あとは事務所主導でうまいこと進めてくれます(都度、出願人である皆様のご意向・ご指示を伺うタイミングはあります)。

また、特許出願は出願から権利化までで、1件あたり合計100万円程度はかかるものと思っておいたほうがよいように思います。基本的に1件のみの特許で自社の競争力が爆上がりするということはないので、コストと独占したいと思っている技術分野の広さを天秤にかけつつ、知財戦略を練っていく必要があると思います。

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