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【開催レポート】web3とweb2は交わる - PitPa代表 石部 達也(電気通信大「ベンチャービジネス特論」-2024年1月24日実施

2024/02/14に公開

電気通信大学の大学院実践教育科目として開講されている「ベンチャービジネス特論」の2023年度後期授業において、株式会社PitPaの代表取締役 石部 達也(@isbtty7)がゲスト講師を務めさせていただきました。本レポートでは、その授業の内容を一部ダイジェスト版でお届けします。

電気通信大学 ベンチャービジネス特論について

ベンチャービジネス特論」は、電気通信大学の大学院生全学年を対象に、ベンチャービジネスを理解するための基礎を習得し、多様な経営実態を学ぶことをねらいとして開講されている授業です。

石部がゲスト講師を務めた回では、学生がビジネスに関する知識を習得できるだけでなく、大学生活で得た知見や経験を実社会でも役立てられるように、PitPaの創業から現在に至るまでの意思決定プロセスや課題への取り組み方、さらに私たちの強みである、新規事業の立ち上げにおける最先端テクノロジーの活用方法などにお話しさせていただきました。

株式会社PitPa 代表取締役 石部 達也

1991年生まれ。2014年に株式会社リクルートに入社し、SUUMOやAirペイ、ゼクシィ縁結びなどの開発に着手。2018年8月に株式会社PitPaを創業し、ポッドキャストの制作を通じて企業のメディア戦略支援を行う。そして現在は、ブロックチェーンやVerifiable Credentials等の技術を活用した「キャリア証明書」の発行による、キャリア形成支援事業「sakazuki(サカズキ)」の開発に注力している。

・株式会社PitPa コーポレートサイト:https://pitpa.jp/
・sakazuki公式サイト:https://sakazuki.xyz/
・石部のXアカウント:https://twitter.com/isbtty7

そもそも「web3」とは?その4つの特徴

ここ1、2年ほど、バズワードとして注目を集めた「web3」。改めて、web3とは何でしょうか。今回は、4つの特徴に焦点を当てて説明していきます。

1つ目の特徴は、「相互運用性」です。従来は、プラットフォーム側が個人のデータを所有・活用するという構造で、様々なサービスが展開されてきました。その一方で、web3の世界観では、個人がデータを所有し、プラットフォームはそのデータを参照するという関係性です。

例えば、学生が在学中にどの授業を受け、どのような成績を収めたのか、また、どのインターンシップに参加したのかといった情報をすべて学生個人が保有でき、就活プラットフォームに自らの意思で連携できる、といった形です。

2つ目は、「透明性」です。これは、オンチェーンのデータであれば誰でも閲覧できる特性のことです。この特性により、データの信頼性を担保できる一方で、個人のプライバシーが侵害される可能性もあります。よって、ブロックチェーン技術を活用する際は、どのデータをオンチェーンに書き込むかという点に留意する必要があります。

例えば、千葉工業大学にて令和4年度の卒業生を対象にNFT学位証明書を発行した際には、NFT画像には「千葉工業大学の卒業生であること」のみを記載し、学生の名前や学位・学科などの情報は、個人で公開/非公開の設定が可能なVC(Verifiable Credentials)を利用して発行することで、学生のプライバシーに配慮しました。

https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000037.000037448.html

3つ目は、「プログラム可能なスマートコントラクト」です。ブロックチェーン技術は、どの情報をインプットとして認識し、何をアウトプットとして出力するかを予めプログラムしておくことができ、タスクや手続きを自動化できる点がメリットとして挙げられます。これは、よく、自動販売機の構造に例えられ、100円を入れて任意のボタンを押すとドリンクが自動で出てくる流れに似ています。

また、スマートコントラクトは書き換えができないため、不正が発生しづらいという特徴もあります。そのため、たとえ怪しそうに見える海外サイトだとしても、スマートコントラクトが実装されていれば、ある程度信頼してサービスを利用できるんですね。よって、カジノやギャンブルなどにブロックチェーン技術が活用されているケースもあります。

最後は「DAO(分散型自律組織)」です。これは、任意のトークンを保有するユーザーが組織運営に参加することで、運営とユーザーが一緒になって、ある種自律分散的にビジネスを作ったり、経済圏を構築したりと、お金を動かせるような世界観を指します。

このような特性を持つweb3の技術を活用することで、これまでweb2といわれてきた世界観では実現し得なかったことが出来るようになり、昨今、新しいサービスやプロダクトが多く誕生しています。2022年前後には、NFTを活用したアートが大きく注目されました。

そうした中で、僕たちは「お金で買えないNFT」に注目しています。これはどういうことかというと、個人の努力した経験や学歴・職歴など、個人のアイデンティティに紐づく情報にブロックチェーン技術を掛け合わせることで、新たな価値を創造できるのではないかと考えているんですね。

例えば、就活中のガクチカとして、「アルバイト先の売上を120%成長させました」と学生個人が話したとしても、採用側の人事からすると信頼性が低いと思うんです。なぜなら、何をもって120%という数字が算出されているかもわからないし、その数字を達成するにあたって学生がどこまで入り込んで貢献したかもわからない。もしかしたら個人の成果ではなく、チーム全体の成果かもしれません。

学生の見極めにおいて上記のような課題があることを踏まえると、採用側の人事としては、大学やインターンシップ先企業などの育成機関や担当者から提供される、「この学生はここが強みだった」「この学生はこのような成果を上げた」といった情報の方が、学生個人が語る話よりも信頼性が高い。さらに、それがデータとして真正性が担保されていれば、より信頼性も増しますよね。

加えて、学生側としても、そのようなキャリアデータを就活プラットフォームなどに連携でき、うまく自己アピールができれば、魅力的なオファーをもらうことができるかもしれません。そこで今、僕たちが開発している「キャリア証明書」の発行システムsakazuki(サカズキ)は、育成機関と新卒採用企業との間で役割を果たし、学歴偏重主義から脱したエコシステムを構築したいという思いで、事業を開発しています。

千葉工業大学におけるweb3プロジェクトの事例

僕たちはこれまで、NFT学修歴・学位証明書の発行だけに留まらず、ブロックチェーン技術を活用した様々なプロジェクトを千葉工業大学と展開してきました。

例えば、2023年春学期には、web3人材輩出を目指す教育プログラムとして「web3概論」の授業を企画・開講しました。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000045.000037448.html

この授業では特定の条件を満たすと、「cJPY」という名のトークンがもらえる仕組みを導入しました。

トークンが付与される条件は以下の通りです。
・全15回の授業内で実施されるテストの正答数に応じてトークン(1問正解で200cJPY)を付与
・ボイスチャットイベントに3回以上参加した学生には、追加で2,000cJPYを付与
・ハッカソンに参加した学生には、さらにボーナスとして2,000cJPYを付与

cJPYはイーサリアムブロックチェーンのレイヤー2となるPolygonにて、千葉工業大学用に発行していて、授業に参加した人しかもらえない仕様になっています。これが例えば、換金性をもち、他の場所でも使えるようになると違法になってしまうので、トークンの設計時には利用可能な範囲を設定する必要があります。

さらに、オンラインチャットツールの「Discord」を活用して受講生用のコミュニティを形成し、「学び合い=ピア・ラーニング」の学習スタイルを模索しました。コミュニティには千葉工業大学の学部生、大学院生そして社会人が参加し、それぞれ開発チームを結成してプロジェクトのデプロイまで進めてもらいました。

そして、これらの仕組みを通じた学生の頑張りや貢献度を可視化するために、「Dune」と呼ばれるプラットフォームを活用して、各人のトークン保有量をランキング形式で公表しました。このデータはブロックチェーン上にあるので、大学だけでなく企業など一般の人でもデータを閲覧できます。


▼Duneによる分析ページはこちらからご覧ください
https://dune.com/geeknees/cit-web3?fbclid=IwAR38iW0-bTsg98Kb3eerJMFJ_kAjM0mj_yhJShs6FSyk7mjrsGk5Wnmlz78

このような仕組みを構築することで学生間で健全な競争が起き、授業に対するエンゲージメントも比較的高い形で終えられた感覚があります。実際に、授業終了時にアンケートを取ってみると、受講生のうち68%が「トークンはクラス内での知識習得に影響を与えた」と回答しています。

トークンの流れを可視化したことで特に興味深かったのは、トークンの保有量をベースに成績をつける2日前に、学生間でトークンが移動する流れがあったんです。今回はウォレットアドレスと個人名を紐づけていたので、誰が誰にトークンを送ったのかも確認できたのですが、このような小さな不正もオンチェーンのデータを参照することでわかってしまう。この特性を踏まえると、政治資金などの不正利用も防ぐためにブロックチェーンを活用する、といったユースケースも考えられそうですよね。

また、授業の実施に留まらず、web3関連企業と一緒にインターンシッププログラムを構築し、授業の成績データを元に企業と希望者とのマッチングを行いました。実際に、一般社団法人コード・フォー・ジャパンに学生1名・社会人1名の計2名、そして、新規事業の開発を手がける株式会社セプテーニ・インキュベートに学生1名が採用されました。そして採用された学生2名とも、すでにweb3事業を展開する企業で内定を獲得しているとのことです。

web3における5つの課題と今後の展望

これまでweb3の技術を活用した取り組みをお伝えしてきましたが、やはり僕自身の体感としては、web3を社会実装にはもう少し時間がかかると思っています。その理由として、web3技術にはまだまだ課題が多くあると思っていて。今回は、5つの課題に焦点を当ててお伝えします。

まず、1つ目は「ウォレットに関する鶏卵問題」です。web3の世界では、ユーザーはウォレットに個人情報を紐づけていく形ですが、ウォレットの使いづらさや、web2のプロダクトでは未対応といった現状から、なかなかウォレットが普及しない点が課題として挙げられます。そこで、web2の企業がウォレットに対応していく姿勢が求められますし、そうした動きによってウォレットを普及させていく必要があると思っています。

2つ目は「eKYC(電子本人確認)」の問題です。web3は匿名性が魅力である一方で、本人確認をしたい場合は別の手段が必要です。例えば、OpenSea上を見るとウォレットアドレスしか記載されていないため、個人の身元がわからないですし、実在する人物なのかどうかさえ判断が難しいんですね。web3のアイデンティティを活用して仕事を受発注するという話もありますが、上場企業からすると、身元がわからない人への発注は難しいため、web3のアイデンティティを現実世界に繋げようと思うと、マイナンバーなど本人確認の技術を活用する必要があります。

3つ目は、「ボラリティ(価格変動)」の問題です。保有する暗号資産のボラリティが大きいと、最初は100万円の価値だったものが来年には200万円、あるいは10万円に変動するなどして、企業として資産を管理しづらいという問題があります。

4つ目は「プライバシー」の問題です。冒頭でもお伝えしたとおり、オンチェーンのデータは透明性が担保されているため、誰でもデータを閲覧できてしまいます。例えば、給与がオンチェーンで取引される場合、どの企業でどのくらいお金をもらっているのかなども第三者からわかってしまうんですね。よって、千葉工業大学でのプロジェクトも、基本は全員ニックネームで、トークンの保有数だけを情報として公開するようにするなどして、学生のプライバシーに配慮しました。

そして、最後の5つ目は「セキュリティ」です。web3のウォレットには様々な種類がありますが、MetaMaskなどのノンカストディアルウォレットは、個人で秘密鍵を管理しなければならないため、もし仮に秘密鍵を紛失してしまうと、資産を永久に引き出せなくなってしまうという課題があります。

以上、5つの問題がクリアにならないと、web3はなかなか普及していかないと考えています。

とはいえ、web3の要素がweb2に混ざりながら、何かしら形にはなっていくと思っていて。例えば、どこでも使える身分証明書の技術やゲームのコントラクト、DAO的なコミュニティなどはweb2に取り入れられていくと思っています。

その理由として、僕が学生でアプリ開発に夢中だった2010年代に振り返ると、その時の空気感と今のweb3の空気感が似ていると思っていて。当時、ゲームアプリの「フルーツニンジャ」や、加速度センサーを使った鳥のゲーム「Angry Birds」などが流行っていましたが、今のweb3も基本的にはエンタメ領域で盛り上がっていますよね。アプリの良さである通知機能やカメラ機能が、まずはゲーム領域で活用され、その後InstagramやLINEなど生活に馴染むサービスが展開されてきたという背景があると思います。

つまり、ベースはweb2だとしても、web3のどの要素をweb2に落とし込むのかを考え、しっかりビジネスとして形作ることができれば、web3の領域は一気に伸びていくと考えていますね。

web2とweb3を掛け合わせたキャリア証明書発行サービス「sakazuki」

こうした背景を踏まえ、僕たちはweb3の思想を取り入れたプロダクト「sakazuki」を開発しています。これは、学生の学修歴やインターンシップ、学内プロジェクトなどの成果を、学生個人が管理できるデータとして証明書化するサービスです。

■実際のキャリア証明書はこちらからご覧いただけます:
https://vcs.sakazuki.xyz/career-credentials/clkkw38ub0001s601sqln1gl8

現時点では、千葉工業大学に加えて武蔵野大学さんやNPO法人ドットジェイピーさんなどと連携しながら、インターンシップの活動内容を証明書として学生に発行しています。ただし、証明書を発行するだけでは意味がないので、複数の就活プラットフォーム運営企業とも連携して、証明書を活用できる場を作っています。

sakazukiを開発した背景には、現行の学歴偏重主義の就活に対する課題感があって。色々な学生の話を聞いていると、部活や研究室、企業インターンシップでは素晴らしい成果を出しているのにも関わらず、自己PRに苦手意識を感じている学生さんも多く、結局は学歴でフィルターをかけられてしまう。さらに、毎年何百人・何千人と学生に対峙する人事からすれば、学生個々に向き合う時間的コストを考慮して、オファー時に同じようなメールを送ってしまうと思うんです。けれども、そのようなメールは学生の心に響かないと思っていて。

そこで、学生時代に何に取り組んできたのか、そして、第三者からみて何が評価されたのかなどを可視化できれば、それらの信頼性の高い情報をベースに人事はオファーを送ることができるようになります。

加えて、これらのデータは利活用でき、誰が何の授業を受講して、どの企業のインターンに参加し、その後どこに就職したのかの一連のキャリアパスを可視化すれば、そのデータを後輩が閲覧しキャリアに生かすこともできますし、大学や企業からするとブランディング向上や集客に繋げることもできます。

そして、sakazukiの「キャリア証明書」のweb3要素としては、以下2つが挙げられます。

一つ目は、「相互運用性」です。W3Cが定義しているグローバルスタンダードの「Verifiable Credentials(VC)」という技術を活用していて、これは、web上でいつでも・どこでもその証明書の真正性を検証できるという特性をもちます。身近な例で言うと、コロナワクチン証明書も同じ規格が使われています。

もう一つは「カストディアルウォレット」を利用している点です。ウォレットには様々な種類がありますが、カストディアルは秘密鍵を、資産を管理する第三者や企業である「カストディアン」に預けられるウォレットです。よって、個人で管理することがないため、鍵を紛失するリスクを減らせます。

sakazukiのキャリア証明書を発行している機関は、現状、大学や資格試験運営企業などがメインなため、発行元の秘密鍵が盗まれてしまうと、証明書を発行できなくなるだけでなく、過去に発行した証明書の価値も無くなってしまうことになります。そこで、セキュリティを重視してカストディアルウォレットを採用しているという背景です。

これまでのsakazukiの導入実績としては、先ほどご紹介したような育成機関に加えて、現在はデジタル庁の「令和4年度補正 Trusted Webの実現に向けたユースケース実証事業」にも参加しています。

https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000043.000037448.html

他にも、一般社団法人デジタルサロン協会にて、同協会の美容技術講習修了証やセミナー参加証をVCを活用して発行するといった取り組みも実施しています。(了)

https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000055.000037448.html

私たちと一緒に、就活の未来を変えませんか?

PitPaは、第三者証明の国際規格であるVerifiable Credentials(VC)を活用し、学修歴や学位、インターンシップ、ビジネスコンテスト等の実績データを「キャリア証明書」として学生に還元する、キャリア形成を支援するサービス「sakazuki」を展開しています。

VCをはじめとした、web3技術は人材業界において未だ活用が進んでいないため、事業の本質的な価値をパートナー企業に伝えながら、新たなビジネスモデルを検証・構築するBizDevメンバーを募集しています。まだ発表できていないプロジェクトもあるので、ぜひお気軽に代表の石部にご連絡いただけたら幸いです。

▼求人内容詳細
https://en-gage.net/pitpa_career/work_4193578/?via_recruit_page=1

▼石部のTwitterアカウントはこちらです。DMでお気軽にご連絡ください!
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