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自動サービス合成の成熟モデル

2024/12/12に公開

はじめに

この記事は ナレッジグラフ Advent Calendar 2024 の1日目の記事です。

セマンティックWebやメタデータ記述の技術は、現在のナレッジグラフの基盤となっています。こうした技術の発展を踏まえ、最新のLLMがもたらす可能性について考えてみます。

私の関心は、LLMが実世界における環境知識をどう取り込み、ユーザに対して適切な情報やサービスの提供できるかにあります。昨今のICTの進化により、IoTやサイバーフィジカルシステムと呼ばれる世界では、実世界に設置されたセンサーや機器に対してAPIサービスを介して情報を取得したり、制御を行うことが可能になりました。LLMがこのAPIへのアクセスを理解できれば、環境知能(Ambient Intelligence)を身につけることになります。

近年の生成AI、特にLLM(Large Language Model)の進化は目覚ましく、単純なソフトウェアやスクリプトであれば、生成されたコードをそのまま利用して問題なく動作させられるケースも増えています。ここでは、LLMがAPIとどのように連携し、実世界の環境知能を高めていけるかについて考えてみます。

LLMと環境知能

IoTやサイバーフィジカルシステムが普及する中、現実世界のセンサーやデバイスがAPIを介してデータを提供し、操作を可能にする時代が到来しています。このような環境下で、LLMがAPIを理解し、活用する能力を持てば、環境知能の新たな形が実現するでしょう。

たとえば、温湿度センサーやスマートロックなどの家庭用IoTデバイスを操作するアプリケーションが、自然言語でのやり取りのみでセットアップされるとしたら、ユーザの負担は劇的に軽減されます。このためには、LLMがAPIの仕様やドキュメントを読み取り、適切なリクエストの構築やレスポンスの解釈を行う必要があります。

LLMとサービス合成

過去、セマンティックWebやユビキタスコンピューティングの研究が盛んだった時期、APIサービスの発見や統合には膨大な手間がかかりました。XMLやWSDL、UDDIといった技術が使われましたが、メタデータの記述が複雑で、標準化の壁もありました。

これに対して、LLMは次のような形でサービス合成の課題を解決する可能性があります:

  • 不完全な記述の補完: APIドキュメントが曖昧でも、自然言語の記述を補足してロジックを生成
  • 動的なAPI発見: APIエンドポイントを推論し、必要なパラメータを自動設定
  • 統合フローの生成: データの流れやサービス呼び出しのロジックを自動的に構成

たとえば、スマートホームの管理アプリケーションを構築する際、開発者はAPIドキュメントを手作業で分析する必要がありました。しかし、LLMを利用すれば、APIの仕様を簡易的に提示するだけで、センサーからデータを取得し、デバイスを操作するための統合コードが自動生成される未来も夢ではありません。

自動サービス合成の成熟度モデル

2022年に発表された論文「A Challenge for the Next 50 Years of Automated Service Composition[1]」によると、自動サービス合成の成熟度は、自動運転の成熟度と同様の6段階モデル(Level 0~5)で定義されています:

  • Level 0: No Automation(手作業)
    完全に手作業でサービスを構成する段階。開発者が設計時にサービスを特定し、すべてのコードを手動で記述します。

  • Level 1: Composition Support(部分的なサポート)
    ミドルウェアがメッセージ交換を管理し、サービス呼び出しのスタブコードを生成します。ただし、主要なロジックやメッセージ内容は開発者が手動で記述する必要があります。

  • Level 2: Partial Automation(部分的な自動化)
    サービス発見と構成ロジックの作成が部分的に自動化されます。例外処理はシステム所有者が対応する必要があります。

  • Level 3: Conditional Automation(条件付き自動化)
    サービス発見や選択が完全に自動化され、構成はパターンに基づいて生成されます。ユーザは生成された構成を検証し、必要に応じて修正を行います。

  • Level 4: High Automation(高度な自動化)
    構成がほぼ完全に自動化されます。ユーザは要件を宣言的に表現し、システムがそれに基づいて動的にサービスを構成します。例外的なケースでのみユーザ介入が必要です。

  • Level 5: Full Automation(完全自動化)
    システムがユーザの目標を観察から学習し、サービス発見、選択、呼び出し、構成が完全に自動化されます。実行時の不確定要素や障害にも対応可能で、ユーザの手を煩わせません。

このモデルに照らし合わせると、現状のLLM技術は Level 3(Conditional Automation) に達しているのではないでしょうか。特定の条件下では、サービス発見や選択を自動化し、パターンベースで構成を生成することも可能と思います。

将来的には、LLMがリアルタイムで新たなAPI仕様を学習し、要件を基に動的な構成を完全自動化する Level 4~5 への移行が期待されます。このあたりは、AIエージェントの実用化が進みつつありますね。

脚注
  1. Aiello, M. (2022). A Challenge for the Next 50 Years of Automated Service Composition. In: Troya, J., Medjahed, B., Piattini, M., Yao, L., Fernández, P., Ruiz-Cortés, A. (eds) Service-Oriented Computing. ICSOC 2022. Lecture Notes in Computer Science, vol 13740. Springer, Cham. https://doi.org/10.1007/978-3-031-20984-0_45 ↩︎

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