お気持ちで作るdcdcコンバーター
はじめに
メリークリスマス!
本稿は2023年学ロボアドベントカレンダー(https://adventar.org/calendars/8926)の23日目の記事となります(なお現在24日06時12分,遅延してますごめんなさい...)
ていうか全然書き終わる目処がつかず(現在25日11時57分,そろそろ研究室行かなきゃ...)クリスマス終わっちゃいかねないので書きかけだけど放出します(
メリークリスマス!(やけくそ)
近年の複雑化する学ロボの回路においては,当然のことながら複数の電圧を用途によって分けることが多くなされている.これは,特定の電圧にした方が扱いやすい(マイコンへの電源供給などを例に取ると,一つあたりの電源供給について高い電圧の方が低い電流ですむため,使用する導線直径を小さくでき,配線の取り回しが向上する)といった理由や,特定の機器やセンサーが特定の電圧を必要とするといった理由が存在する.
学ロボ回路で扱う電圧の変圧において,最も基本的な回路部品として三端子レギュレーターが存在する.三端子レギュレーターはパッケージ化されたdcdcコンバーター(ほとんどの場合シリーズレギュレータ)であり,扱いやすい一方で,供給できる電圧や電流には制限が存在する.
他方,任意の電源を構成したい場合はdcdcコンバーターを設計することになるが,この設計には多少の知識が必要である.
dcdcコンバーターに限らず,任意の回路コンポーネントきちんと設計する場合,当然電気回路の知識を動員し理論に基づいて設計していくが,NHK学生ロボコンの回路担当には専門的な電気回路の知識がないものも多く(筆者自身もそうです...)また回路だけをいじっていれば良いことはまれであり,ただでさえ忙しい学ロボ製作のなかで回路製作にかける時間は非常に限られている.
一方で,学ロボで必要とする回路はあくまで試合中に最低限欲しい動作が可能であれば済むものであり,本来ならば考慮すべき詳細な回路動作については無視することが多い,動けば良いのである,動けば.(動かないんだよなあ,これが)
本稿は前述の事情を持つ学ロボ回路担当者が,必要以上に考えることなく雑にdcdcコンバーターを作るという観点のもと,その助けとなる記事を目指している.
本稿では回路の詳細な動作や理論には基本的に立ち入らない(ていうか筆者自身そんな詳しくない)が,記載のミスやまちがいへの指摘はもちろん大歓迎である(ていうか教えてください...)
dcdcコンバーターの分類
dcdcコンバーターとはその名の通りあるdc電源を別のdc電源に変換する回路の総称である.
そのため,一概にdcdcコンバーターといっても複数の種類の物が存在する.
dcdcコンバーターはまずリニアレギュレータとスイッチングレギュレータの2種に大別できる.
リニアレギュレータの動作原理
リニアレギュレータは特に小電流の箇所や精度が必要な箇所で用いられるdcdcコンバーターである.
以下にリニアレギュレータの内部回路の簡易図を示す.
リニアレギュレータの内部回路
リニアレギュレータは,制御回路によりトランジスタQのコレッタ・エミッタ電圧を変化させることで,出力電圧を制御する.
ここで重要なのは,このときトランジスタQは線形に能動領域で動作することである.
そのため,出力に応じた電力損失が発生する.
また,基本的に入力電流と出力電流は等しい.(シャントレギュレータは別だが使うことないので無視)
リニアレギュレータのイメージとしては,入力電圧-出力電圧を熱損失として剥ぎ取っているイメージで良い.
リニアレギュレータの熱損失
効率が悪い一方で,トランジスタの能動領域を用いるため出力電圧は安定している.このため,精度が必要な箇所では重要となる.
スイッチングレギュレーターの動作原理
スイッチングレギュレータはリニアレギュレータとは違い,トランジスタをスイッチング動作させることで出力電圧の制御を行う.
以下に簡易な図を示す.
スイッチングレギュレータの内部回路
ここでトランジスタQはスイッチング動作,つまり高周波でオンとオフを繰り返す動作を行っている.
スイッチングレギュレーターの種類
以下現在工事中
スイッチングレギュレータはその動作順序や目的により,さらに複数の種別に分類できる.
バック(降圧)レギュレータ
ブースト(昇圧)レギュレータ
バックブースト(昇降圧)レギュレータ
同期型と非同期型コンバーター
以上では,ダイオードDを持いて制御回路Qがオフの時のスイッチングを行っていた.
しかしながら,ダイオードには順方向電圧による損失が存在し,これは一般にトランジスタのON抵抗などよりもはるかに大きい.
この損失は特にQがオフの時が長い場合(降圧レギュレータならば降圧比が高いとき)に特に顕著になる.
そのため,ダイオードDの代わりにトランジスタを用いることでスイッチングを行う,同期式レギュレータが近年主流になりつつある.
同期式と非同期式レギュレータ
これに対応し,ダイオードDを用いて整流を行うものは非同期式レギュレータと呼称される.
また,軽負荷時,インダクタの電流がゼロクロスするまで低下する場合,ダイオードは一方向にしか電流を流せないため,電流波形としてはゼロ区間を持った途切れ途切れの波形となる.
これは不連続モードと呼ばれ,スイッチ電流にリンギングが発生してノイズが乗ったり,また回路構成によっては誤作動の原因となることもある.
ダイオードによる順方向損失 | 連続と不連続モード |
---|---|
近年では容易に構成可能な同期型レギュレータICが主流になりつつあるが,非同期型の方が設計がやや容易ではあるというメリットも存在するため,コストや回路構成,効率や負荷などを総合的に判断する必要がある.
dcdcコンバーターの部品選定と回路設計
一般的にdcdcコンバーターを構成する場合,それがシリーズレギュレータであろうとスイッチングレギュレータであろうと,既存の電源ICを使用することになる.(無論,電源ICを使用せずにアンプやタイマなどの汎用部品のみで構成することも可能だが,それは趣味の領域だしそんなことする人はこんな素人による記事読まないので省く)(ていうか僕自身既存のIC使ってしか設計したことない)
まず設計において初めにしなければいけないことはデータシートを熟読することである.dcdcコンバーターには複数の動作原理があり,またその中でも高性能化のために複数の手段がとられている.そのため電源ICごとの差異が大きく,適切に設計するためにはデータシートを熟読することが望まれる.また多くの場合データシートなどにリファレンス回路や推奨アートワークが記載されており,参考になることが多い(たまにミスってたりするけど...).
そのため実際に回路設計するときはデータシートを参考にしてもらうのを前提に,回路設計における注意点などを紹介する.
3端子レギュレータを使用する場合
3端子レギュレータを使用する場合,回路設計はかなりシンプルになる.これは前述のように3端子レギュレーターはすでに必要なコンポーネントがパッケージ化されているからである.
以下に回路を例示する.
3端子レギュレーターの回路例
ここではAMS1117という3端子レギュレーターを使用している.これはシリーズレギュレータであるが,スイッチングレギュレータタイプの3端子レギュレーターでも同様の回路構成が考えられる.
ここで,C1の入力コンデンサ,C3の出力コンデンサについて注意が必要である.
これらは電圧の安定化などのために構成されているが,3端子レギュレーター(特にシリーズレギュレータ)によってはコンデンサのESR如何で異常発振を起こすことがある.
近年のものでは対策されている物がほとんどであるが,念のためデータシートを確認することを推奨する.
3端子レギュレータのデータシート例(ESRについての記載がある)
また,3端子レギュレーターに限らずdcdcコンバーター回路では出力電圧より入力電圧が一定以上高い必要がある.この電圧の差をドロップアウト電圧と呼ぶ.
最近の3端子レギュレーターはこのドロップアウト電圧が低く抑えられた,ロウドロップアウトのもの(これをLDOと呼ぶ)がほとんどである.
ドロップアウト電圧の確認も重要である.
データシート例(電流値によりドロップアウト電圧が変化しているのがわかる)
DCDCコンバーターICを使用する場合
スイッチングレギュレータを構成する場合,市販のdcdcコンバーターICを用いることになる.
DCDCコンバーターICはスイッチングレギュレータの制御を行うためのICであるが,制御回路の他にも複数の回路コンポーネントが含まれていることが多い.
まず,DCDCコンバーターICはどこまでが含まれているかによって,以下の3種類に分けられる.
- コントローラ: 純粋に制御回路のみが入ったもの
- スイッチ(モノリシックIC): 制御回路とスイッチが入ったもの
- モジュール: インダクタまでもが内包されているもの
このうち,モジュールは一般的なICではなく,回路の集合体のような形であることが多い.例えば(https://akizukidenshi.com/catalog/g/gM-06187/)など.
コントローラ->スイッチ->モジュールとなるにつれて,構成の自由度は下がる一方,設計のしやすさは上がっていく.特にモジュール形式の物の中には3端子レギュレータの形式になっているもの(https://akizukidenshi.com/catalog/g/gM-11188/) も存在する.
DCDCコンバーターの設計では欲しい要件を得るために適切な定数を選択する必要があるが,自力ですべてを計算するのは面倒で時間がかかる.そのため,各社が出している定数計算ツールや回路設計ツールを使用するのが良い.
特にTIのPower DesignerやADのLTPowerCADなどは欲しい要件を入力すればICも含めた回路全体の提案も行ってくれるため,非常に楽になる.是非活用したい.
TIのPower Designer(Webアプリ)
Analog DevicesのLTPowerCAD(こちらはデスクトップアプリ)
これらのツールも活用し回路が定まったら,PspiceやLTspiceなどで回路シュミレーションを行いたい.無論シュミレーションがうまく行ったからと言って実際もうまく行く保証はないが,シュミレーションでもうまく行かないのに実際ではうまく行くことはない.
Pspiceでの回路シュミレーションの例
以下現在工事中
出力電圧の設定
UVLO
アートワークデザイン
現在工事中
その他回路
ここでは,電源回路でよく使うことのあるお助け回路を紹介する.
電源供給選択回路
理想ダイオード+逆流防止回路
電源が他のソースから供給されていなちときは電源を供給するが,もうすでに入っているときは供給したくない時に使う回路.
要はラスパイの電源基板(USB経由で電源供給されてるときはなんもしない,電源供給されてないときは供給する)
電源供給選択回路,5V_DCDCから5Vに電源を供給する
詳細はこちらのリンク(https://qiita.com/nahitafu/items/74f5f3003dbeb1cfcfe3)が詳しい.
この回路はフットプリントがかなり小さくできるもの良い.
参考回路
いままで組んで見せれる回路のうち,dcdcコンバーターを使用したものをいくつかピックアップ.
動作の保証はもちろんできません,参考にする場合は自己責任で
電源フィルタ付きラスパイ電源供給&CANFD通信基板
電源フィルタ付きラスパイ電源供給&CANFD通信基板
raspi用のcanfdインターフェース基板with電源供給
マイコン側にはリポの電圧をそのまま横流しし,ラスパイ用にdcdcコンで5Vを作っている
マイコン側の基板は下の基板
モーター等との絶縁について,これまでは電源含めて絶縁していたところ,面倒なので電源部で一点グランド取る形に変更した
電源からノイズが波及することを恐れ,ノイズフィルタとやらをなんとなく使ってみたが効果は知らん
完全にノイズフィルタを一度使ってみたかったから使っただけ
stm32汎用基板
stm32g474汎用基板
stm32の汎用基板(自作nucleoみたいなもん).stm32g474を使用.
24Vラインから5Vと3V3電源を作っている,5Vは同期型降圧DCDCコンで,3V3はLDOを使用
CANFDトランシーバ付き(コントローラはマイコン内蔵)
コネクタはe-conを使用し,電源ラインとCANFDが載っている.
stm32のgシリーズ,使い勝手良くて良いよ!
旧ラスパイ基板
個人的に黒歴史側の基板なので載せたくなかった
旧ラスパイ基板
昇圧同期型DCDCコントローラを使用,コントローラ側のスイッチング素子(FET)は外付け(整流側は内蔵,D7は整流関係なく単に逆流防止用)
12Vにリポ電圧を昇圧してる.ラスパイ用の5Vはmurataのdcdcモジュールを使用.
アートワーク(と部品選定)が悪く,長時間稼働させるとアッツアッツになって電源遮断される欠陥品です...
あとがき
クリスマスソング,みなさん何が好きですか?
僕はダントツで「われらはきたりぬ」が好きです!(布教)
(https://www.youtube.com/watch?v=ETHfnqaulCw)僕が好きなのはもっと重い感じでテンポも遅いバージョンやけど...
他にも「ああベツレヘムよ」とかもいいね!
(https://www.youtube.com/watch?v=zotQHTLnI-M)
とにかく,クリスマスは主のご生誕をお祝いする日なんで,そこんとこよろしく!(決してクリぼっちのひがみなどではない)
参考文献
dcdcコンバータの基礎から応用まで(https://www.amazon.co.jp/DC-DCコンバータの基礎から応用まで-平地-克也/dp/4886863116)
(https://jp.sharp/products/device/technology/electronics/ChopperReg/index.html)
(https://www.nisshinbo-microdevices.co.jp/ja/products/ldo-linear-regulator/spec/?product=njm2845)
(https://techweb.rohm.co.jp/product/power-ic/dcdc/)
(https://www.rohm.co.jp/electronics-basics/dc-dc-converters)
(https://analogista.jp/category/swregulator/)
(https://club-z.zuken.co.jp/category/tech-column)
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