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Pythonによる市町村・逆ジオコーディングの実装
コンセプト
カーリルの内部APIのリプレイスにともない、これまで外部のAPIに頼っていた逆ジオコーディングを独自で実装しました。事前調査ではgeoloniaが開発しているopen-reverse-geocoderがもっとも理想に近いものでしたが、今回はPythonで実装された既存のマイクロサービス内に組み込む必要があったため、独自に実装することにしました。
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"ゆるい"判定
(境界領域などでは候補となる複数の市町村を返す) - 経緯度から市町村を返すシンプルな逆ジオコーディング
- マイクロサービスに同梱しやすい軽量なデータと、高速な動作
データの事前処理
市町村の境界線を得るためのオープンデータとして、国土数値情報行政区域データを利用できます。このデータはGeoJSON形式で680MBと巨大なファイルです。これは海岸線の形状なども含む高精度なポリゴンデータとなっているためです。データを圧縮するためにシンプルな形状の判定用領域を事前に計算することにしました。
- GeoJSONを読み込む
from shapely.geometry import shape, mapping, MultiPoint, MultiPolygon, Polygon
from shapely.ops import unary_union
from shapely.strtree import STRtree
with open("N03-21_210101.geojson", 'rb') as f:
geojson = orjson.loads(f.read())
- ポリゴンを市町村単位に集約する。
あわせて、今後の処理で邪魔になる所属未定地を除外する。
aggregated = {}
for item in geojson['features']:
if item['properties']['N03_004'] == '所属未定地':
continue
city_id = item['properties']['N03_007']
if city_id not in city_index:
aggregated[city_id] = []
aggregated[city_id].append(item)
- 市町村ごとに海岸線や離島などはひとつの領域(凸包)にまとめます
for city_id in aggregated:
pp = []
for item in aggregated[city_id]:
p = shape(item['geometry'])
pp += list(p.exterior.coords)
convex_hull = MultiPoint(pp).convex_hull
この処理で以下のように、海岸線や離島などがひとつの領域に集約されて、GeoJSONのサイズは2.8MBにまで減少しました。ただし、重複領域(濃い部分)が広い範囲で発生していることがわかります。
- 海岸線向けのバッファと簡略化
逆に判定領域は海岸線のギリギリとなっており、誤差を吸収するためにもう少し広くとってもよさそうです。バッファした上でさらにデータを圧縮するため簡略化してみます。バッファを先に処理しているのは、簡略化によって位置が変動した場合でも、実際の領域を削る可能性を減らすためです。GeoJSONのサイズは800KBまで減少しました。ひとつ前のステップとの違いは以下(緑色の部分)のようになります。
convex_hull_with_buffer = convex_hull.buffer(0.01).simplify(0.01)
- 近隣市町村の領域を除外する
これまでに作成した領域は、隣接する市町村と広い領域で重複してしまっています。これを取り除くため、あらためて近隣市町村の領域を除外します。効率化のため事前に空間インデックスを構築していますが、こちらはソースコードを参照してください。
convex_hull_cleared = convex_hull_with_buffer
for area in r_index.query(convex_hull_with_buffer):
if tree_to_city[id(area)] != city_id:
if area.area < 0.0005:
continue
convex_hull_cleared = convex_hull_cleared - area.buffer(0.001)
この処理により以下のように適切な領域を得ることができます。しかしGeoJSONのサイズは321MBに戻りました。これは、市町村境界が簡略化前のデータに戻ったためです。
- 市町村境界線向けのバッファと簡略化
あらためて市町村境界向けのバッファと簡略化を実行します。この際のパラメータで重複領域の大きさを確定できます。少し境界線上をオーバーラップさせることで境界近くでは、両方の市町村を候補として挙げることができるようになります。
convex_hull_cleared = convex_hull_cleared.buffer(0.0028).simplify(0.002)
実際には断片化した領域の削除を行った上で、最終的なGeoJSONは4MBとなりました。
逆ジオコーディングの実装
laxrgeocode.py
from shapely.geometry import shape, Point
from shapely.strtree import STRtree
class LaxReverseGeocoder:
def __init__(self, geojson: dict):
"""
経緯度から市町村を返す「逆ジオコーディング」の実装
:param geojson: 空間インデックスするデータ
"""
self.tree_to_properties = {}
geoms = []
for item in geojson['features']:
p = shape(item['geometry'])
self.tree_to_properties[id(p)] = item['properties']
geoms.append(p)
self.r_tree = STRtree(geoms)
def search(self, lat: float, lon: float) -> list[dict]:
"""
経緯度から市町村を照会する
:param lat: 緯度
:param lon: 経度
:return: 市町村のリスト(GeoJSONのpropertiesのリスト)
"""
p = Point((lon, lat))
r = []
for item in self.r_tree.query(p):
if item.contains(p):
r.append(self.tree_to_properties[id(item)].copy())
return r
search.py
from laxrgeocode import LaxReverseGeocoder
import json
with open('laxrgeocode.json', 'rb') as f: # 事前処理したデータを読み込む
geojson = json.loads(f.read())
geocoder = LaxReverseGeocoder(geojson)
x = geocoder.search(35.47798, 139.71567)
print(x)
処理結果
[{'id': '14100', 'pref': '神奈川県', 'city': '横浜市'}, {'id': '14130', 'pref': '神奈川県', 'city': '川崎市'}]
このコードでは、クラス作成時に空間インデックスを作成します。MacMini(M1)では、インデックス生成に80ms、逆ジオコーディングは1ms以下で実行することができました。
参考プロジェクト
open-reverse-geocoder
ベクトルタイルによるクライアントサイドでの逆ジオコーディング実装
japan-topography
市区町村・選挙区 地形データ(簡略化・整理した国土数値情報)
Discussion