Windowsのコマンドラインを駆使してFlutterの開発環境を構築してみた
はじめに
Macで開発環境を構築する際にHomebrewなどのパッケージマネージャーを使って構築している記事をよく見かけます。パッケージマネージャーを使うことで、コマンドラインでパッケージの依存関係も解決してインストールできるため、開発環境構築の際に重宝されます。パッケージマネージャーを使うメリットに、コマンドのインストールと同時にパスも通してくれるためすぐにコマンドの実行ができること。コマンドのある場所をIDE(統合開発環境)などに教えてあげることですぐに開発に取りかかれるという点があります。
Windowsの場合はプログラミング言語やIDEもインストーラーを用いたインストールが多く、パスを通すために各自で直接システム環境変数を触るなどの作業が発生し少し手間になります。例えば、WindowsでJavaのソースをコンパイルをするために、JDKダウンロード → binディレクトリの場所(パス)をシステム環境変数に追加しパスを通す作業をした経験があるのではないでしょうか。
開発を始める前の環境構築で頻出するシステム環境変数、パス周りの概念がわからないと初学者にとって環境構築は少しハードルが高いように感じます。私がプログラミングを勉強し始めたとき、環境変数編集から管理者権限で間違えて他のシステム側の変数を削除してしまったためPCの起動ができなくなり、泣く泣くWindowsを再インストールしたことがあります。その経験から、Windows上でなるべくシステム環境変数を触らず、環境を汚すことなく手軽に開発環境を構築できればいいなと感じていました。そんなときに、Linuxのaptやyumといったパッケージマネージャーと出会い、その仕組みや手軽さに感動した記憶があります。
Windowsにおけるパッケージマネージャー
MacにはHomebrewという強力なパッケージマネージャーが存在しますが、Windowsにも10年ぐらい前からパッケージ管理の仕組みをもつソフトがいくつか存在し、今現在も開発が続けられています。そして現在、MicrosoftがWindows Package Manager Client として公式のパッケージマネージャーを開発しており。2021 年 4 月現在でプレビュー版として提供しております。パッケージマネージャーを使うことでCLI(コマンドプロンプトなど)からパッケージインストールや依存関係の管理ができるため、Windowsでも柔軟な環境構築ができるような日も近いのではと感じます。
今回は、Windowsのパッケージマネージャである、ScoopとWindows Package Manager Clientを使用してFlutterのアプリをビルド、実行できるところまでやってみます。
Flutter の公式のドキュメントでも紹介されていますが、Flutterを公式サイトからダウンロードして、ローカルに配置、システム環境変数にFlutterのパスを追加する方法が一般的だと思われます。ですが、今回はなるべく環境変数を触らずにコマンドでパッケージマネージャーを操作してFlutterのアプリの編集と実行できる環境を構築することを目標に環境構築をしました。
Flutterとは
Googleが開発しているUIツールキットになります。Dart言語で書かれており、単一のコードからモバイル・Web・デスクトップなどの環境を問わずに実行できるアプリを作成できる「クロスプラットフォーム開発」が特徴です。最近はモバイルアプリ開発を始める人がFlutterから学び始めている例を多く見るため、どんどん盛り上がってる印象を受けます。FlutterはSDKのインストールとプラグインのインストールを行うことでAndroidStudioやXcodeといったIDEを使用して開発することが出来ます。
インストール検証環境
OSにはWindows10を使用しています。
ツール | バージョン |
---|---|
Windows Package Manager | v0.2.10771 プレビュー |
Scoop | 3d67b7d3 |
Android Studio | 4.1.2.0 |
Flutter | 2.0.4 |
Windows Package Managerの準備
Windows Package Managerを使用してコマンドでAndroid Studioをインストールしていきます。
Windows Package Manager(winget-cli)はMicrosoft Storeからアプリインストーラーを更新することで使用できるようになります。
WindowsのスタートメニューからMicrosoft Storeを起動して「アプリ インストーラー」と検索するか、以下のリンクから飛べます。
インストールページが開かれます。
すでに更新されている場合はこのようになります
インストールが終わったらPowerShellを管理者権限で起動します。
ターミナルにwinget
と入力するとコマンドの使用例とヘルプが表示されます。wingetとはWindows Package Managerを操作するためのコマンドです。
> winget
Windows Package Manager v0.2.10771 プレビュー
Copyright (c) Microsoft Corporation. All rights reserved.
WinGet コマンド ライン ユーティリティを使用すると、コマンド ラインからアプリケーションやその他のパッケージをインストールできます。
etc ...
ここまで表示できたらWindows Package Managerのインストールが完了です。
最初に以下のコマンドでソースを最新に更新しておきます。
> winget source update
すべてのソースを更新しています...
ソースを更新しています: winget...
完了
Wingetコマンドでインストールできるパッケージ一覧を出力してみます。
> winget search
たくさんのアプリがずらっと表示されます。この一覧にあるアプリがインストール可能です。
この中からAndroid Studioを探してみます。search
に続けてアプリ名を入力します。
> winget search AndroidStudio
名前 ID バージョン
----------------------------------------------
Android Studio Google.AndroidStudio 4.1.2.0
Googleが提供する、Android Studioが見つかりました。それではインストールしていきます。
> winget install Google.AndroidStudio
見つかりました Android Studio [Google.AndroidStudio]
このアプリケーションは所有者からライセンス供与されます。
Microsoft はサードパーティのパッケージに対して責任を負わず、ライセンスも付与しません。
Downloading https://redirector.gvt1.com/edgedl/android/studio/install/4.1.2.0/android-studio-ide-201.7042882-windows.exe
██████████████████████████████ 896 MB / 896 MB
インストーラーハッシュが正常に検証されました
パッケージのインストールを開始しています...
インストールが完了しました
「インストールが完了しました」となればインストール成功です。うまくいかない場合は管理者権限にてコマンドを実行しているかを確認してください。
Windowsのスタートメニューを確認するとAndroid Studioがインストールているのが確認できます。
公式サイトからインストーラーをダウンロードしてローカルで実行、GUIをポチポチとすることなくAndroid Stuidoをインストールできました。インストールに時間もそれほどかからないです。
Flutterの導入
ここまでコマンドだけでAndroid Studioをインストールできました。続いてScoopというパッケージマネージャーを導入してFlutterと依存関係をまとめて導入します。
ScoopとはWindows向けのパッケージマネージャーの1つでパッケージ管理に管理者権限を使わないという特徴を持ちます。
Scoopはコマンドツール以外にもAndroid StudioやVSCodeようなGUIアプリケーションもインストールできます。しかし、Scoopを使用する場合、Windowsの想定するディレクトリ構成と異なるため不具合に繋がる可能性もあります。そのため私は現在GUIベースのアプリケーションをWindows Package Manager、CUIベースのツールをScoopと分けて管理しています。
【公式サイト】
【GitHub】
Scoopのインストール
インストールするために以下のスクリプトをPowerShellから実行します。
$ iwr -useb get.scoop.sh | iex
うまく実行できないときは以下のコマンドでユーザーポリシーを緩めることでインストールできます。
$ Set-ExecutionPolicy RemoteSigned -scope CurrentUser
Scoopコマンドが実行できることを確認できればインストールは完了です。
$ scoop
Usage: scoop <command> [<args>]
...
コマンドの使い方と使用可能なオプションが表示されます。
FlutterをScoopからインストール
Scoopコマンドが使えることを確認できたら、続けてFlutterを導入します。
Scoopには、Bucketという概念が存在し、Bucketを追加することでインストールできるアプリを増やすことができます。デフォルトではmain Bucket
しか追加されていません。
Flutter関連のツールはextras Bucketとjava Bucketに存在するため、予め追加しないとインストールできません。
以下のコマンドでFlutterのインストールに必要なBucketをまとめて追加出来ます。
> scoop bucket add java extras versions
Bucketの追加が完了したら続けてFlutterの開発に必要なものを導入していきます。
以下のコマンドを実行します。
> scoop install flutter
Flutterのインストールが始まります。インストール途中で以下が依存関係として順番にインストールされます。
- adb[64bit]
- android-sdk[64bit]
- adopt8-hotspot[64bit]
- flutter[64bit]
依存関係としてなにがインストールされるかはdepends
で都度確認できます。
> scoop depends flutter
adopt8-hotspot
android-sdk
adb
最後にAndroid SDKのライセンスが表示されるので、承諾していきます。
続けてインストールするSDKプラットフォームを選択します。デフォルトで一番最新のものが選択されます。こだわりがなければデフォルトで問題ありません。
Available platforms:
[1] platforms;android-7
[2] platforms;android-8
[3] platforms;android-9
[4] platforms;android-10
[5] platforms;android-11
[6] platforms;android-12
[7] platforms;android-13
[8] platforms;android-14
[9] platforms;android-15
[10] platforms;android-16
[11] platforms;android-17
[12] platforms;android-18
[13] platforms;android-19
[14] platforms;android-20
[15] platforms;android-21
[16] platforms;android-22
[17] platforms;android-23
[18] platforms;android-24
[19] platforms;android-25
[20] platforms;android-26
[21] platforms;android-27
[22] platforms;android-28
[23] platforms;android-29
[24] platforms;android-30
For a list of platforms and what they mean, see: https://developer.android.com/about/dashboards/
No platform detected. Please select a platform to install [Default: 24]:
再度ライセンスに承諾することでSDK Platformのインストールが行われます。
インストールが終了する際にflutter doctor
が走り、状態をチェックしてくれます。これでFlutterのインストールは完了です。
この時点でFlutterにパスが通っているため、Windowsの環境変数の編集からパスを通す必要はありません。便利ですね。
しかし、doctorコマンドを実行したときにAndroid toolchainでエラーがでますので、Android Studio側で修正していきます。
Android Studioの初期設定
最初に、WingetでインストールしたAndroid Studioを起動します。最初の設定でAndroid SDKが見つからないとエラーになります。
ここでAndroid SDKの場所を設定してあげます。
Scoopでインストールしたものは~\scoop\の中にすべてまとめられています。
Scoopでインストールしたアプリとライブラリの格納場所は以下のコマンドで調べることが出来ます。
# インストール先を絶対パスで取得
> scoop prefix android-sdk
C:\Users\user\scoop\apps\android-sdk\current
Android SDK Location:に上のコマンドで取得したSDKへのフルパスを指定し続行します。
パスを指定するとその他必要なコンポーネントのダウンロードが始まるので終わるまで待ちます。
Android Studioのメインメニューが表示されればセットアップは完了です。
SDKの場所のセットアップが終わった後に、PowerShellにてもう一度flutter doctor
を実行します。
> flutter doctor
Doctor summary (to see all details, run flutter doctor -v):
[!] Android toolchain - develop for Android devices (Android SDK version 30.0.3)
! Some Android licenses not accepted. To resolve this, run: flutter doctor --android-licenses
上から2番目のAndroid toolchainの内容が変わっています。追加でライセンスに承諾する必要があるため、以下のコマンドでライセンスに承諾します。
> flutter doctor --android-licenses
もう一度flutter doctor
を実行して• No issues found!
と出力されればFlutterの導入は完了です。
Flutter開発プラグインの導入
Flutterのプロジェクトを作成するためにプラグインが必要になるためインストールします。
Android Studioのメニュー画面から「Configure」→「Plugins」と進みます。
表示されるダイアログの中でタブを「Marketplace」に切り替えて「Flutter」と検索しインストールします。
これでFlutterの開発プラグインの導入は完了です。合わせて Dartのプラグインも必要になるのですが Flutterのプラグインをインストールするときに合わせてインストールされるので気にしなくて問題ありません。
Android Studioを再起動すると、「Create New Flutter Project」の項目が増えているので、ここから新規Flutterプロジェクトを作成できるようになります。うまく反映されない場合はプラグイン画面から「Dart」と「Flutter」プラグインがEnableになっていることを再度確認してください。
Create New Flutter Projectが追加された
画面の指示に従ってプロジェクト作成をしていくのですが、途中でFlutter SDKのパスを指定する箇所があります。
デフォルトでSDKへのパスが指定されていないので入力
インストールしたFlutter SDKのパスはAndroid SDKと同じように以下のコマンドで取得できます。
# インストール先を絶対パスで取得
> scoop prefix android-sdk
C:\Users\user\scoop\apps\flutter\current
Flutter SDK pathのところにC:\Users\ユーザー名\scoop\app\scoop\apps\flutter\currentを指定して続行します。
そのまま続行すると新規FlutterプロジェクトがAndroid Studio上で開かれます。
Flutterアプリを実行する
Android Studio上でプロジェクトが開かれるのを確認したら、実際に実行できるか試します。
上部のメニューからChrome(Dev)を選択してShift
+F10
で実行します。
Flutter Demo Home Page
自動的にChrome上でFlutterのデモアプリが起動しました。ホットリロードに対応しているためコードの変更がリアルタイムに反映されます。
AVDマネージャーからAndroid Emulatorを作成して実行してみます。
Pixel 4 API 30
エミュレーター上でもエラーなく実行でき、Chromeで実行したときと同じような結果が得られました。このようにFlutterは単一のコードでWeb・モバイルを問わずに実行できる点が特徴です。
以上で、ScoopからインストールしたFlutter、Windows Package ManagerでインストールしたAndroid Studioを組み合わせて開発環境を構築することが出来ました。
おわりに
今回、コマンドラインからパッケージ マネージャーを使ってAndroid StudioとFlutter 、各種SDKをインストールしてアプリをビルドするところまで行いました。Windows Package Managerはまだ現時点プレビュー版ですが、もうすぐ正式リリースされるみたいです。GUIを持つアプリケーションであっても、コマンドラインからいい感じにセットアップしてくれるのが便利だと感じました。また、Scoopも管理者権限をつかうことなく、アプリやコマンドをインストールできるので便利です。最終的にはWindows Package Managerにパッケージ管理を集約し、コマンド1つでWindowsの環境構築もできるようにしたいところです。
開発環境の際にHomebrewを使っているドキュメントが多く、Windowsで参考にするとつまづきがちでしたがパッケージマネージャーを使うことで詰まることなく爆速での環境構築ができて満足しています。
Windows10は今現在もPowerToys、Windows Terminalや、Windows Package Managerの登場により快適な環境ができてきているので今後さらに期待したいですね。
長くなりましたが、最後まで読んでいただきありがとうございました。
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