書籍感想:達人に学ぶSQL徹底指南書
はじめに
SQL学習の定番書籍である『達人に学ぶSQL徹底指南書』を読了した感想をまとめます。
書籍リンク
本記事では、最初に本の概要を部ごとに紹介した後、1章のSQL手法で紹介されているCASE文とウィンドウ関数についてまとめています。
各部概要
第1部 魔法のSQL
本書前半では、SQLを単なるデータ抽出言語ではなく「強力な表現力を持つ道具」として活用するための具体的な技法が解説されています。CASE式による柔軟な条件分岐や、分析処理を支えるウィンドウ関数、自己結合や外部結合、EXISTS述語など実務で多用される機能について掘り下げられていました。また、NULLが生み出す三値論理の落とし穴、HAVING句や集合演算によるデータ集約、数列生成や行間比較といったテクニックの活用法も詳しく扱われています。さらにSQLを高速化するための観点や、読みやすく保守性の高いプログラミング作法にも触れ、現場で長く通用するSQL思考法を養える構成となっています。
第2部 リレーショナルデータベースの世界
後半では、SQLを支えるリレーショナルデータベース(RDB)の思想と背景が紹介されています。歴史的な発展過程を踏まえ、「関係モデル」の論理的基盤を解説し、物理的アドレスや順序といった実装要素についてまとめられています。
SQL手法の学び
CASE文
概要
SQLにおける条件分岐は、プログラミング言語のif
文に相当する機能を担います。これを実現するのがCASE式であり、行ごとに異なる条件に応じた値を返すことで、柔軟なデータ処理を可能にします。CASE式の基本構文は「CASE WHEN 条件 THEN 値 ELSE 値 END
」という形で、条件を順番に評価し、最初に成立したものを返します。これにより、SQLは単なる集計・抽出の道具にとどまらず、複雑なロジックを直接記述することができます。
用法
典型的な利用場面の一つが、既存のコード体系を新しい体系に変換して集計する処理です。例えば商品コードをカテゴリー別にまとめ直したり、郵便番号や部署コードを地域・組織単位に再分類したりするとき、CASE式を用いて値を再マッピングできます。これにより、物理的に新しいコード体系を持つ列を作成しなくても、SQLの段階で必要な形へ変換できます。
また、異なる条件の集計を1つのSQLで行う際にもCASE式は有効となります。通常であれば「売上が1万円以上の件数」「それ未満の件数」といった集計は複数回のSELECTと必要としますが、CASE式をCOUNTやSUMと組み合わせることで一度の集計で条件別の結果を算出できます。これは処理効率の改善とSQLの簡潔化につながります。
更新処理(UPDATE)における条件分岐でもCASE式は有用となります。複数の条件によって更新する値を分岐させることで、従来なら複数回のUPDATE文を発行していた処理を1回でまとめることができます。これによりトランザクションの効率が向上し、一貫性も保ちやすくなります。
まとめ
総じてCASE式は、単なる条件分岐を超えてSQLの表現力を大きく拡張する道具です。コード体系の変換、条件別集計、更新処理の効率化など、幅広い場面で役立ちます。プログラミング的発想をSQLの中で実現するための要となる機能であり、適切な使用によってSQLはより表現力豊かな言語となります。
ウィンドウ関数
ウィンドウ関数の使用目的
通常のSQLは「集合」を対象に処理を行うため、基本的には順序を意識しません。ところが、実装において、「前回の売上との差」「直前の行との比較」「順位付け」といった順序依存の処理が求められることが多くあります。
このときに役立つのが ウィンドウ関数 です。ウィンドウ関数を使えば、従来なら自己結合やサブクエリを駆使していた複雑な処理を、シンプルに記述できるようになります。
ウィンドウとは何か?
ウィンドウとは「ある行を基準に、その前後や同じグループに属する行を枠として切り出す」考え方です。
例えば「顧客ごとに購入履歴を日付順に並べ、累計金額を出す」といった処理を直感的に書くことができます。
SELECT
顧客ID,
日付,
金額,
SUM(金額) OVER (PARTITION BY 顧客ID ORDER BY 日付) AS 累計金額
FROM 売上;
このSQLは「顧客ごと」に「日付順」で並べた上で、各行に累計金額を付与します。
ウィンドウ関数の基本構文
ウィンドウ関数の基本形は以下のようになります。
関数() OVER (PARTITION BY 列 ORDER BY 列 フレーム句)
- 関数 … SUM, COUNT, AVG, RANK など
- PARTITION BY … グループ分け(例:顧客IDごと)
- ORDER BY … 並び替え基準(例:日付順)
- フレーム句 … 「どの範囲を対象とするか」を指定する
フレーム句の使用例
フレーム句を指定すると「自分の前後の行を一緒に使う」といった処理が可能になります。
例えば「株価の3日移動平均」を求める場合は次のように書けます。
SELECT
日付,
株価,
AVG(株価) OVER (
ORDER BY 日付
ROWS BETWEEN 2 PRECEDING AND CURRENT ROW
) AS 移動平均
FROM 株価履歴;
ここでは「当日+前2日」を対象として平均を計算しています。
代表的な関数の例
(1)順位付け
SELECT
部署,
氏名,
給与,
RANK() OVER (PARTITION BY 部署 ORDER BY 給与 DESC) AS 部署内順位
FROM 社員;
部署ごとに給与を降順に並べ、順位を付けることができます。
(2)前月比(LAG関数)
SELECT
店舗,
月,
売上,
売上 - LAG(売上, 1) OVER (PARTITION BY 店舗 ORDER BY 月) AS 前月差
FROM 月次売上;
LAG
は「ひとつ前の行の値」を参照するため、直前との比較を簡単に表現できます。
ウィンドウ関数の内部動作
ウィンドウ関数は以下の流れで処理されます。
- PARTITION BY でグループを分ける
- 各グループ内で ORDER BY に従い並べ替える
- フレーム句で対象範囲を決定する
- 指定した関数を各行に適用して結果を返す
この仕組みにより、集計結果と明細を同時に持つ柔軟な処理が可能になります。
まとめ
ウィンドウ関数は、SQLを「集合処理の言語」から「時系列処理や行間比較も自然に書ける分析言語」へと拡張します。これにより、累計、移動平均、順位付け、前月比といった処理をシンプルに記述できるようになります。
読後の感想
『達人に学ぶSQL徹底指南書』を通読して感じたのは、本書が単なるSQL構文の解説書にとどまらず、データベースとSQLという言語が本来持っている「思想」や「設計哲学」まで深く掘り下げている点です。CASE式やウィンドウ関数といった実務上よく用いる機能も、単なる使い方の紹介ではなく、「なぜその機能が必要なのか」「どのようにすれば集合指向の考え方に沿ったSQLを書けるのか」という視点で解説されており、非常に勉強になりました。
総じて本書は、SQLをより「深く」「広く」理解したいと考える人にとって、実務と理論の両面から学習できる一冊です。個別技法の習得にとどまらず、「なぜその書き方が妥当なのか」を認識できたことが、最大の収穫だと感じています。本記事で紹介したCASE式やウィンドウ関数は書籍の内容の一部で、その他にもNULL使用の注意点やHAVING関数の応用など幅広い項目を学ぶことができるため、気になった方はぜひ一度読んでみてください。
まとめ(業務に活かしたいポイント)
- CASE文の使用による条件分岐の効率化
- ウィンドウ関数による分析処理の実現
- 各機能の存在理由を意識した適切なSQL記述
Discussion