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勤務場所と勤務時間に制限のあるソフトウェアエンジニアの生存戦略

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概要

この記事は、就労支援施設向けの講演内容をテキストにまとめたものです。地方在住で在宅勤務しかできず、眼精疲労で1日2時間程度しかディスプレイと向き合えない等の制限を抱えたソフトウェアエンジニアが、どのようにして現在の労働環境を手に入れたかについて記述します。

忙しい人用のスライドはこちらです。

自己紹介

  • 荻原 涼 (Ogihara Ryo)
  • 会社員 / 個人事業主
  • SIer -> 無職 -> SES -> フリーランス -> 自社サービス開発
  • 地方在住による勤務場所制限
  • 眼精疲労による労働時間制限
  • https://github.com/ogihara-ryo

制限のある労働条件

始めに、私が一般的な社会人と比べてどのような労働条件の制限があるか、そしてその制限によって起こる問題をどのようにして解決したか、あるいは無理矢理ポジティブに捉えることで事無きを得たかの概要について記述します。

高卒

少年時代、母子家庭で大学に行くお金も時間もなかったので近所の工業高校に通い、そのまま就職しました。

通常ルートでの選考には期待できない

私はいわゆる一般的な就職活動に経験がないのでイメージではありますが、恐らく志望企業に履歴書を送るような方法では恐らく書類選考で落とされてしまうのではないかと思っています。ただ、ソフトウェアエンジニアという職種の特性上、比較的リファラルで採用されやすいことや、学歴が低くても GitHub やその他アウトプットによって多少は印象を良くできるので、自身の市場価値を高めることを怠らなければ働き口は何とかなるのではないかと考えています。

大企業への就職も不可能

これも勝手なイメージではありますが、いわゆる大企業への就職も生涯望みが薄いのではないかと思っています。学歴以前に基本教養がないという自覚もありますし、いわゆるエリート集団の中で自分のパフォーマンスが発揮できたり、必要とされたり、というのは想像できません。大企業に対して多少の憧れはありますが、現状ベンチャー企業や個人事業で働くのは楽しいのでセーフだと思うことにしています。

ブラック時代のトラウマ

高校を卒業して新卒で入社した企業の労働環境は極めて劣悪なものでした。毎日深夜残業が当たり前で休日も少なく、同期は毎日2時間立たせて説教をするような上司にぶち当たりました。私は良い上司に恵まれたのでハラスメント的な被害を受けることはありませんでしたが、単純に労働量が膨大でした。車通勤なので終電の概念は存在せず、始業は8時だったため睡眠時間は1日に2,3時間取れれば良い方でした。また、残業手当や休日出勤手当てもありませんでした。

新卒でブラック企業に入り無事洗脳

初めて入社した企業で劣悪な労働環境で働いていた私は、全ての人類はハードワークをしなければ成長はできないし社会も回らないという思想に染まりきっていました。長時間労働しない奴は社会の敵だとまで思うようになっていました。洗脳が解けたきっかけは奇なるもので、ネットワークビジネスの勧誘に引っかかった時にマインド教育を受けたためでした。ネットワークビジネスは始めていないのですが、人生を捧げる覚悟もない1つの企業に自らの時間というリソースを無尽蔵に費やすことがいかに愚かであるか、将来を棒に振るリスクを秘めているか、といったことについて学んだことで自社の労働環境が一般的でないことに気付きます。ただ、ソフトウェアエンジニアとして成長のできない環境に5年もいたことで、いわゆる高卒の社会経験アドバンテージ等すら得ることができませんでした。ただ、それ以来は所属組織において長時間労働はせず、させず、チームが時間意識を持った働き方ができるようにマネジメントしています。

何時間も立たせて説教をするような他部署の上司

同期は1日に何時間も部署の全員から見える場所で立ったまま説教をされるような上司を引き当てました。当時の私は「やっぱり社会は厳しいな」と思ったものですが、後にそれは勘違いであることに気付きます。「社会の厳しさの9割は『社会は厳しくなくてはならない』と考えている人々の絶え間ない努力によって作られている」とはよく言ったもので、それが成長や生産性に繋がらないのであれば叱責に価値はないのだと考えるようになりました。この経験から、人を叱る時は建設的に、皆の前で相手の自尊心を損ねるような注意の仕方はしないように気を付けるようにしています。

無職時代の虚無

マインド教育の弊害

前述した通り、ネットワークビジネスのマインド教育によって思想が変わって退職に踏み切れたわけですが、思想の変わり方は明後日の方向を向いていました。自己啓発にハマり、自己啓発系メディアを作って広告収入とアフィリエイト収入で不労所得生活を目指そうと1年間を棒に振ることになります。言うまでもなく失敗し、貯金を食い潰して経歴に1年の空白期間が生まれただけとなりました。

「この空白期間について説明してください」

前述の通り一般的な就職活動をしたことがないのですが、面接でこう聞かれるんだろうな、という勝手な想像はあります。まあ、これは「起業を目指して頑張ってました」と言えば聞こえが良いからセーフかな、と思っています。ただ、ブラック時代の5年と無職時代の1年でソフトウェアエンジニアとしての技術や経験をほとんど蓄積できなかったことは大きなコンプレックスとなりました。

地方在住

地方に一軒家を建てる

自分と妻の実家から離れたくない思い等から、地方にそのまま一軒家を建てました。家を建てたのは既に在宅の仕事を安定して請けられるようになってからのことですが「今後一生フルリモート以外の働き方はできない」という覚悟を決めてのことでした。勤務場所の制限についての詳細は後述します。

どうせ元々引きこもり

眼精疲労で明るい環境に長時間居られないので、どっちみち私にオフィスワークは不可能です。それ以前に引きこもるのが好きなタイプなので、仕事に関係なく外に出たくないという思いが強いです。ここは、開き直ってフルリモートエンジニアとしてブランディングすることにしました。フルリモートを望む人は多いので、フルリモートに関する経験やノウハウをブログ記事にしたりツイートしたりすると、そこそこ伸びました。ただ、現在は新型コロナウィルスの影響で良くも悪くもフルリモート採用企業は大幅に増加して、私の経験も特に物珍しくなくなったわけですが、フルリモート採用企業が増えるということは、私の働き口候補も増えるということなので不幸中の幸いではありました。

眼精疲労

1日2時間労働

社会人になって7年目ぐらいの頃から、3時間以上続けてディスプレイを直視し続けると目の奥に激痛が走り、吐き気が止まらなくなるようになりました。この症状は寝れば治りますし、電動アイマッサージャーや闇風呂等で労働時間を引き延ばすことはできますが、とても8時間労働は不可能です。そして、これは完全に個人の都合ですが、私はヘビーゲーマーなので、貴重な目の疲労ゲージを労働で消費している場合ではない、という思いがあります。こちらも開き直って労働時間の短いソフトウェアエンジニアとしてブランディングしてみると、ツイートやブログの記事もそこそこ伸びましたし、そういった生活を望んでいるソフトウェアエンジニアの方々から憧れを抱いて頂くことも増えました。一般的なソフトウェアエンジニアより少ない労働時間でどのように仕事をこなし、獲得するかについては後述します。

勤務場所の壁を破るまで

在宅勤務

IT企業がほとんど存在しないような場所でソフトウェアエンジニアをやろうと思うと在宅勤務以外に選択肢はありません。ただ、在宅勤務という縛りプレイは働き口の選択肢を大きく狭めるので能力が必要になります。「オフィスに来てもらえなくてもこの人に発注したい」と思われる必要があります。新型コロナウィルスの影響で、最近リモートワークを取り入れたようなリモートノウハウの少ない企業と仕事をする場合は、自分が率先してリモートチームで仕事が回る環境を作る必要もあります。また、基本的に在宅勤務は在宅勤務を可能とするためのマネジメント層やバックオフィスの人々の協力があってこそ可能な勤務体制なので、そういった人々へのリスペクトの姿勢を見せるような配慮があると続きやすいかもしれません。

労働環境は与えられるものではなく自ら掴むもの

SES 企業勤め時代に自社の在宅勤務規定改正に向けて行動

どのようにして在宅勤務環境を手に入れるかは、その人の環境次第ですが、私が SES 企業勤め時代に初めて在宅勤務環境を手にできたのは、自ら自社の在宅勤務規定改正に向けて行動したためでした。社長に直接問い合わせたところ、元々リモートワークをもっと推進して外部にアピールしたい思いもあるとの話もあったので実現したことではありますが、就業規則の改定に向けて過半数の賛成を取るため、従業員代表者に掛け合ってアンケートを取ってもらい、会社に要望を提出してもらう等の行動を起こしたことで、私は在宅でリモートワークを始めることができました。この体験から、労働環境は与えられるものではなく能動的に手に入れるものであることを学びました。与えてくれる企業を探すよりも、自ら環境を変える方が安く済む事もあります。

説明することを怠らない

自社であっても個人事業であっても、「私は在宅でやります」という要望を通すためには、ちゃんと説明してわかってもらうことが重要になると思います。何故自分が在宅でないと仕事ができないか、在宅でどのようにしてコミュニケーションを取るか、在宅でどのようにして生産性を高めるか、在宅でどのようにしてセキュリティの課題をクリアするか等といったことを、しっかりと説明すれば意外と皆わかってくれることが多いです。

リモートワーカーにはリモートワーカーが集まる

在宅勤務できる会社なんてない

よく言われることですが、在宅勤務できる会社は意外とあります。リモートチームにはリモートワーカーが必要ですし、新型コロナウィルスの関係でリモートワークのノウハウも増えました。リモートワーカーの slack コミュニティ等もあります。リモートワーク採用企業の一覧リポジトリ もあります。リモートワーカーにはリモートワークの情報が集まりますし、リモートワーカーの仲間が増えていくので、いざ在宅勤務縛りを始めてみると案外様々な縁があることに気付きました。

勤務時間の壁を破るまで

フレックス・フルフレックス

会社員として、時間短縮勤務で収入を下げずに8時間未満の勤務を行うためにはフレックスやフルフレックスを採用している企業を探すことになると思います。

採用企業は確かに少ない

体感、リモートワーク採用企業に比べて、フレックス・フルフレックスの採用企業はかなり少ないように感じます。ただ、これも極めて主観的な話ですが、雰囲気で実質フレックスになっている企業は割とあります。求人の募集要項や契約上は8時間勤務となっているのですが、実際は朝は誰も slack でオンラインにならないし、早く仕事が終われば上がることが許されている会社は数多く見てきました。特にリモートチームに特に多い傾向だと思います。ただ、これは裁量労働が認められている職種云々の問題もあり、政治的にあれなのでオフレコということにしましょう。

強いチームに入れる人材を目指す

フレックスやフルフレックスを採用しても仕事が回っているチームは、優秀な人の集まりであることが多いです。コミュニケーションや技術力等が極端に不足していれば勤務時間を合わせて業務を行わなければ仕事が回らなくなる可能性が高いためです。責任感なんてフワッとしたものの話はしたくありませんが、要因として少なからず作用していると思います。フレックスやフルフレックスを目指すなら、そういったチームに入れるだけの人材になることが大切になると思います。結果、そういうチームで働くことでさらに成長に繋がることになります。

個人事業主

勤務時間からの解放

個人事業主であれば、勤務時間がある程度自由になります。ただし、契約の内容に寄りますし、能力が低ければ逆に8時間以上働く羽目になるかもしれません。契約と能力の話については後述します。

開業は意外と簡単

税制面のことに関しては詳しくないので「開業しちゃいなよ」等とは言うことができませんが、開業すること自体のハードルは意外と低いです。「個人事業主」とか「開業」とかいった言葉からは若干の堅苦しさを感じますが、私が個人事業を開業した時は freee の無料プランで開業届を画面に従って10分程度で作成し、印刷して税務署に行って提出して帰るだけの簡単な手続きでした。

時間売りをしない

稼働幅を設定しない

個人事業主として労働力を提供する契約を行う際、恐らく一般的なのは140〜180時間といった稼動幅を設定することです。しかし、可能であれば月に提供しなければならない労働時間を契約書に書かなくても良いような仕事や顧客を選ぶことを個人的にオススメします。ただし、それが許されるだけの能力や信頼関係が必要になります。

時給換算の仕事は請けない

労働時間が少なくてもある程度高額で設定できるのであれば、時給換算の仕事を請ける方法もあります。時給換算の仕事は手軽に稼げて美味しいですが、生産性の向上が収入増加に繋がりにくいので私は基本的に請けないことにしています。いろんな組織で働いてきた中で、生産性向上のメリットが薄いと個人としてもチームとしても生産性が上がりにくいことを感じてきたためです。

パフォーマンスを上げる

ワガママを通すためには能力の証明が必要

「1日8時間働かない」という制限を設けても、「1日8時間働けます」という人との競争になることは避けられません。同じパフォーマンスなら安定して8時間デスクにいてくれる人の方が信頼できるのは仕方のないことです。それでも「1日8時間働けます」という人に勝つためには能力を証明することが大事になってくると思います。パフォーマンスを上げるために手取り早いのは、無駄の排除や自動化を徹底することだと思います。例えばコードレビュープロセスの無駄を排除することであったり、テストの自動化だったりですが、意外とできていない企業が多いのでそれだけでも最低限の優位性にはなると思います。特に私が生産性面でこだわったのはテストの自動化です。。私が SES 企業に勤めていた頃にお世話になったお客さんの元では、テストがなければそもそもコードレビューすら始まらないような環境だったのでテストは自動化することが当たり前でしたが、いざ沢山のチームで働いてみると、テストを自動化したり CI でコーディング規約の遵守チェックやテストを実行しているようなチームは案外少ないことが分かりました。実装コードを修正する度に、毎回ブラウザーをリロードして動作を確認しながら実装し、コードレビューでは末尾改行の有無やインデントのずれ等についての差し戻しを繰り返しているような開発チームが多い中、自分の優位性を保つにはこの辺りの自動化から進めるのが最適だと考えました。

また、8時間勤務であった頃は、最大限に生産性を上げて無駄なく仕事をしていたつもりでしたが、いざフリーランスになって8時間勤務の枷が外れてみると更に生産性が上がることが分かりました。普段の仕事が無意識に「どっちみち8時間は働かなければならない」という前提の働き方になっていたのです。単純な生産性の他、調べ物をしている時に脱線する時間や、Twitter や Slack を見ている時間も減りました。「早く仕事が終われば早く遊べる」という環境になって、初めて上がる生産性というものが個人差はあれど存在するのだと思っています。私は早く仕事を終わらせてゲームをすることをモチベーションに開発をしているので、いわゆるゲーム駆動開発が私にとって効果的な手法となりました。

また、能力があることは当然大事ですが、能力があることを周りに見せることが重要です。どれだけ能力があろうと、契約してみないとそれが分からないのであれば、そもそも契約段階まで進まないためです。そのため、GitHub やその他アウトプット等によって自らの能力をアピールできる場所や、面接等で説明できる用意をしておく必要があるかもしれません。

コミュニケーション時の気持ち良さが信頼を生む

これまで様々な組織で働いてきましたが、生産性の他に最も喜ばれていたのはコミュニケーションです。特にテキストコミュニケーションは「この人は話が早いな」と思われれば勝ちだと思います。日常の単純なコミュニケーションでもできることは沢山あります。例えば、何か質問をされて長文を返す必要があるなら先に結論だけ1レスを送ってから詳細を書き始めたり、相手から要望を伝えられたら自分の言葉で簡潔な文章にして提示したり等、相手にストレスを与えないことを優先してコミュニケーションを取るように意識するだけで、生産性以上に喜ばれることも多かったです。

まとめ

  • 労働条件は自分から能動的に手に入れられる
  • 希望の労働条件を通すために技術やコミュニケーション能力を高める
  • 労働条件の制限がブランディングになることもある
  • 労働条件の制限があるからこそパフォーマンスが上がることもある

以上が、地方在住で在宅勤務しかできず、眼精疲労で1日2時間程度しかディスプレイと向き合えない等の制限を抱えたソフトウェアエンジニアが、どのようにして現在の労働環境を手に入れたかについてのお話でした。恐らくですが、この記事を最後まで読んでくださった方の中には私と同じように労働条件の制限によって悩んでいる方が多いのではないかと思います。世の中のソフトウェアエンジニアには、何らかの理由があって東京に出られない人や、子育ての合間でしか働けない人等、労働条件の制限を抱えた方が沢山存在しています。少しでもそういった制限の中でも働きやすくなるような社会になることを祈っています。

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