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素人が独学で第2種電気工事士を取得する方法(2024年)

2024/08/25に公開

昨今はソフトウェア系のエンジニアであっても、IoTデバイスのプロトタイピングや「おうちハック」などを行っていると、壁面の中に手を出したくなる(=コンセントやスイッチをいじりたくなる)場面がある。

日本の法令上、これらの作業には電気工事士の資格が必要となる。本記事では、令和6年度上期試験を受験し、合格した筆者の経験を踏まえて、電気を専門としない職種の方が第2種電気工事士を取得するための勉強方法の一例を提示する[1]。筆者は独学の過程で、特に技能試験に関する細かい情報の取捨選択などで迷った点があるため、そういった点についても記している(ただし、本記事自体は教材ではなく、教材や勉強法などを紹介するものにすぎない)。

資格受験を決めたばかりの読者にとって、学習スタートの指針・参考となれば幸いである。

なお、本記事にアフィリエイトリンクは含まない。

本記事で想定する読者

本記事では以下のような読者を想定している。逆に言えば、実務として電気工事を行う読者は想定していない。

  • IoTデバイスの開発や家電の制御などに興味があり、DIYレベルの電気工事を自力で出来るようになりたい
  • 電気回路に関して学習した経験がない(文系学部出身でも可)

なお、筆者は電気工事については素人であるものの、Arduinoを用いたプロトタイピングや基板開発の経験があり、回路に関する知識がないわけではなかったが、電気工事士の資格取得に際しては大きなアドバンテージにならないと感じた(筆記の計算問題がわずかに有利になるくらいだろうか)。そのため、本記事では電気回路に関する知識が全くなくても差し支えないとしている。

余談だが、筆者は経済学系出身であり、学問として工学を学んだことはないので、いわゆる文系学部出身の方々も安心してほしい。

第2種電気工事士(電工二種)について

取り扱える範囲

第2種電気工事士を取得すれば、600V以下で受電している事業所・一般家庭における一般用電気工作物の電気工事に従事できる。自宅のコンセントやスイッチを増設・交換するなど、DIY目的のほとんどはこの範囲に含まれるため、ほぼ問題ない。

ただし、高圧で受電しているビルなどに関しては、たとえ100Vのコンセントであったとしても取り扱うことができないため、オフィスビルなどで資格を活用したいと考えている場合は注意してほしい(第2種電気工事士を取得後、認定電気工事従事者を取得することで作業可能になるケースもある)。

詳細については経済産業省の資料などを確認してほしい。

なお、第1種電気工事士は合格しても実務経験を積まないと免状を得られないため、DIY目的であれば第1種は事実上取得できない。そのため、第2種をゴールとして差し支えない。

申し込み

電気技術者試験センターのWebサイトからオンラインで申し込む。申し込み可能な時期は限られているため、日程を確認したら忘れないようにカレンダーなどに反映しておこう。

https://www.shiken.or.jp/

試験形式

学科技能の2段階である。もちろん、筆記に合格しないと実技に進めない。

学科試験(筆記試験)は1問2点で50問出題され、60点以上で合格となる。試験時間は120分あり、かなり余裕がある。合格ラインも余裕があり、仮に1分野落としても合格できる。なお、4択のマークシート方式 or CBTである。

筆記試験は従来のペーパーテストに加え、テストセンターにおけるCBT方式も選択できる。なお、2024年時点では、まずは全員従来の筆記試験として申し込んだ後、希望者のみCBT方式に変更するという形が取られている。この点に関しては申込時に電気技術者試験センターのWebサイトで確認してほしい。

技能試験(実技試験)では、事前に示された13問の「候補問題」からランダムで1問が出題され、支給された材料を用いて配線図通りの施工を行う。工具は受験者が自ら持ち込む。試験時間は40分しかなく、ややタイトである。こちらは減点方式であり、「欠陥」と呼ばれる条件に当てはまる不備が1つでもあると不合格になる。

いずれも詳細は後述する。

勉強期間について

学科の合格率は約6割[2]、実技の合格率は約7割[3]と、合格率は高い試験である。しかし、きちんと合格すれば易しいという意味であって、全くの未経験者が一夜漬けで合格するのは無理なタイプの試験である。

参考までに、筆者はゴールデンウィークを活用して学科対策に40時間程度、終業後や週末などを用いて実技対策に約30時間程度を費やした。

ただし、勉強期間については人それぞれであるため、一概には言えない。Web上の体験記や解説などを見ても差が非常に大きく、あまりアテにしない方がよいだろう。

なるべく早めに開始して、自分がどのくらいのペースで進められそうかを判断した上で計画を立てるとよい。

筆記試験対策

書籍

筆者は以下の書籍を利用した。もちろん各年度で最新版が出ると思うので、受験する年度に合わせて新しいものを利用してもらいたい。

参考書: ぜんぶ絵で見て覚える第2種電気工事士 学科試験すい~っと合格(オーム社)
https://www.ohmsha.co.jp/book/9784910351100/

問題集: すい~っと合格赤のハンディ ぜんぶ解くべし!第2種電気工事士 学科過去問2024(オーム社)
https://www.ohmsha.co.jp/book/9784910351117/

まず、参考書を1周する形で知識を頭に入れていく。重要な部分が赤字で強調されているため、最初はそこだけ覚えていく形でよいと思う。どのように暗記するかは人によると思うので、自分にとって一番楽な形で行うとよい(ひたすら書く方がよい人もいれば、音読する方がよい人もいるだろう)。

この参考書には、後半に過去問集が付属している。参考書を1周した後は過去問に取り組み、苦手な部分を洗い出すとよい。また、参考書には重要事項をまとめた小冊子が付属しているので、空いた時間で読むのもよいだろう。

なお、参考書は本当にすべてを暗記で乗り切ろうとしている人をも想定しているようで、たとえば以下のようにオームの法則を式変形した結果をすべて暗記させるような書き方がなされている場面がある。

V=IR
I=\dfrac{V}{R}
R=\dfrac{V}{I}

もちろん、このようなケースでは V=IR だけ覚えればよいため、実際に暗記しないとならない量は教材で書かれているよりもわずかに減る。

参考書付属の過去問集まで解き終えたら、問題集(「すい~っと合格赤のハンディ」)に移る。こちらも全部解くのが理想だが、時間がなければ「繰り返し出る!必須問題!」と書かれているページのものだけでも十分であるように感じられた(それだけでも結構なボリュームがある)。

参考書には暗記事項をまとめた冊子が付属しており、スキマ時間にそれを読むとよいだろう。また、問題集アプリなどもいくつか存在しており、知識の確認用にそれらも有効である。

動画教材

基本的に学科対策は参考書だけで十分なため、動画講座を使う必要はあまりないと筆者は考えている。

ただし、参考書で解説が理解しづらい部分があれば、その単元だけ動画教材を補足として使うとよいと思う。

特に複線図に関しては以下のような動画を用いて学習するとよいと感じた。「電工試験の虎」と「ガミデンキちゃんねる」がわかりやすいので、ここではそれぞれのチャンネルの解説動画を紹介しておく(自分に合う方を選べば良いと思う)。

https://www.youtube.com/watch?v=23iyJk86CHk

https://www.youtube.com/watch?v=xAHLZKbc5HM

また、複線図に限らず、Δ結線や電力損失の計算など、パッと見て理解しづらい単元や問題に関してはYouTubeで解説動画を検索すると理解が深まることも多い。

技能試験対策

技能試験の形式

まずは技能試験の概要を把握しよう。

問題

技能試験には候補問題と呼ばれる、13問のパターンが存在する。当日はここに記載されているものから、いずれか1問が出題され、40分で完成させなければならない。それゆえ、試験対策のゴールは「13問の候補問題うち、どれが出ても制限時間内ミスなく完成させられるようになる」ということになる。

ただし、候補問題には単線図と呼ばれる、器具間をどのように繋ぐかを指示したものだけが提示されており、「施工条件」と呼ばれる詳細な条件(どの器具を使って電線を繋ぐか等)が示されていない。そのため、この部分については同じく公表されている過去問を参考にすることになる。

幸いにも過去問から施工条件が大きく変化することはないため、基本的には過去問を参考に練習を進めていけばよい。ただし、施工条件が変わる可能性がゼロとは言えないため、実際の試験では念入りに問題文を確認する必要がある。

試験の流れ

会場には受験者自らが工具を持ち込む。工具についての詳細は後述するが、工具選定によって施工の難易度が変わる。

部材(電線やスイッチ、コンセントなど)は自分で用意する必要はなく、問題に応じたものが試験会場で箱に入った状態で支給される。試験開始前には、部材がきちんと揃っているかを自分で確認する必要がある。

試験開始後、問題の要件に合うようにミスなく施工を行う。施工した成果物は「作品」と呼ばれる。

試験時間が終了したら、作品を机に置き、指示に従って退場する。

採点基準・求められること

まず、時間内に完成させることが大前提となる。作品が未完成の場合、問答無用で不合格となる。制限時間がタイトなので、何度もやり直す時間はなく、実質的にほぼ一発で「正解」となる作品を完成させる必要がある。

次いで、「欠陥」と呼ばれる基準に該当する失敗が1つもないことも合格の基準となる。
実際の欠陥基準は多岐にわたるため、各種教材を参考にしてほしいが、一例として以下のようなものを紹介する。


欠陥の例(https://www.shiken.or.jp/candidate/pdf/point2024.pdf)

また、電線などの部材は追加で支給されない。そのため、切断する長さを間違えると場合によっては施工条件を満たせなくなる場合もありうる。

ミスがあると1発不合格というのは怖いところではあるが、きちんと対策していくことでミスをしにくくなるので、恐れずに対策を重ねていこう。

工具

筆記試験に合格した段階で、工具を取りそろえよう。この工具は練習のみだけでなく、試験本番でも使うものになる。なお、試験勉強を始める前は工具や施工手順の名前について何も分からなくてかまわない。この段階では「そういうものがあるんだ」と思っていただけると幸いである。

基本装備

ホーザン社の工具セットが受験者の間でデファクトスタンダードになっており、これを購入しておけば特に問題ない。

ホーザン(HOZAN) 電気工事士技能試験工具セット 基本工具一式+P-958VVFストリッパー+候補問題全13問の解説動画付ハンドブック DK-28(Amazon)

内容物は2024年時点で以下の通りとなっている。「第二種技能試験対策ハンドブック」が地味に便利なので、個別で買うよりこのセットをおすすめしたい。

  • プラスドライバー(+)No.2
  • マイナスドライバー(-)5.5
  • ペンチ(P-43-175)
  • ウォーターポンププライヤー
  • 圧着工具(P-738)
  • VVFストリッパー(P-958)
    • これが本当にすごい
  • 電工ナイフ(Z-680)
    • 正直危険なので、可能な限りこれの使用は避けたい(後述)
  • 布尺
  • 第二種技能試験対策ハンドブック
  • ツールポーチ

事実上の基本装備

技能試験の本番では「市販品であること(自作や改造品ではない)」「電動工具ではない」という条件を満たせば、標準的な工具以外も持ち込むことができる。

そこで、工具セットに加えて以下のものを購入することを強くおすすめしたい。もちろん、手元にある道具が流用できる場合は追加で買う必要はない。

  • 合格マルチツール
    • 必須。これで扱いづらいウォーターポンププライヤーを代用できるほか、さまざまな用途で使用できる。ホーザンはこれを上記のセットに含めればよいのに……と思う。
  • 合格クリップ
    • 電気工事で使う電線は太く、結線時に手間取りやすい。これは不要という人も多いが、少なくとも不慣れなうちはあって損しないと思う。最初は買っておき、練習を進めるうちに不要だと思ったら使わないようにすれば良いのではないか。ちなみに、結束バンド(インシュロック)で代用する派もあるらしい。
    • 試験に持ち込むことも可能である。
  • マスキングテープ
    • 必須。布尺を机に固定する際に使用する。どのメーカーのものでも良い。
  • 3色ボールペン
    • 黒、赤、青の3色ボールペンがあると、複線図の書き分けに便利。別々でもOKだが、持ち変える手間が少ないと本番でわずかながら時間を短縮できる。
  • ニッパー
    • ペンチとは別。「ゴムブッシング」という部品に穴を開ける時に、ニッパーがあればナイフの使用を避けることができる。また、入り組んだ状態での電線の切断も容易になる。
  • グローブ(手袋)
    • 必須ではないが、鋭利な線や工具でケガすることがあるので、あった方がよい。
    • ただし、グローブを使うなら最初から使うこと。本番だけグローブを使うのは感覚が変わってしまうので望ましくない(筆者は最初から素手でスタートしたため、何度もケガしながら素手を貫いた。最初からグローブを使っておけばよかったと後悔している)。
  • 合格配線チェッカー
    • これは試験に持ち込めないものだが、練習時にきちんと結線できたかどうかの確認に使えるので、買っておいた方がよい。
  • 音の出ないストップウォッチ
    • 本番で使用できるほか、練習時に掛かった時間の計測に便利である。残り時間が明瞭になるため、時計を使うより便利である。ストップウォッチの大半は音が鳴るものなので、無音のものは案外選択肢が少なく、試験直前ではなく余裕を持って購入しておきたい。
  • 布製巻き尺
    • 布尺とは別。試験本番では支給された材料の長さを確認する必要があり、そのときにあると便利。1回使うのみであり、精度も必要ないので、百均のもので差し支えない。
  • 布(タオル、新品の雑巾)
    • 電線を伸ばす時に使う。綺麗なものであれば何でもよい。

なお、試験においてはカッターナイフは使用自粛が求められているため、練習でも使わない方がよいだろう。

便利グッズ

必須ではないが、電気工事士受験者の間で使われる便利グッズも紹介する。これらを使うべきかどうかは意見が分かれるところもあるため、個人の好みで選んでよい。

  • 「ガッチャン」
    • 現場でよく使われる、電線の被覆剥き作業を効率化するツール。その動作から「ガッチャン」と称される。前述したセットに含まれているP-958で行う作業を一部代替することができる。しかし、如何せん高価であるというデメリットに加え、道具の持ち替えの手間が発生するといった理由から、試験には不向きであるとの主張も見受けられる。
    • 筆者個人としては、これを使う方がP-958よりも失敗が少ないと感じた。また、持ち替えの手間が発生するのは事実だが、効率化もできるので時間的には±0であると感じている。時間的な損失ゼロで精度が向上するなら購入の価値はあると考えている。
    • 商品としては以下のようなものが該当する
  • 丸ケーブルストリッパー(マーベル ケーブルストリッパー MC-012
    • 電線は平らなもの(VVF)と、丸いもの(VVR)がある。VVFは標準的な工具で剥きやすいが、VVRは電工ナイフを使う必要がある。触ってみるとわかるが、電工ナイフは非常に危なっかしいのでなるべく使用を避けたい。
    • VVRが出る候補問題は2問ほどしかないので、予算に余裕がある場合のみでよいと思われる。
    • また、この道具を使わない裏技的なVVRの剥き方もあり、そちらで十分かもしれない(後述)。
  • 腰袋(例:デンサン 電工キャンバスハイポーチ ND-861
    • 追加で便利グッズを買うとホーザン工具セットのツールポーチには入りきらなくなる。加えて、試験会場の机は狭いため、工具の置き場に困ることもある。そこで、現場で使われる腰袋を技能試験用に勧める人も居る。
    • ただし、試験中は基本的に着座して作業することが求められる。それゆえ、筆者は使いづらそうと考えて買わなかったのだが、腰に付けるのではなくバケツのようにして机に置いたら便利だったかもとちょっと後悔している。
  • 合格のの字曲げツール
    • 試験ではほとんどの問題で電線を「のの字曲げ」する必要がある。ペンチなどで作業するのが基本なのだが、それを簡略化するツールである。ハック感があるものの、市販品かつ電動ではないことから試験にも持ち込み可能である。
    • 筆者も購入してみたものの、これを使わなくても問題なく作業できたため、試験には持ち込まなかった。最初から購入するのではなく、普通の手法で練習してものの字曲げに苦戦するような場合のみ購入すると良いのではないだろうか。
  • 丸ペンチ
    • 先端部が丸くなっているペンチ。電線を巻き付ける用途で使いやすく、のの字曲げ攻略ツールとして使われることもある。
    • 「合格のの字曲げツール」と同様、通常の方法によるのの字曲げに苦戦した段階で購入すれば十分だと思う。
  • 合格ゲージ
    • P-958の拡張アイテム。握ったままで寸法を計測するので時短に繋がるというもの。あると便利そうだが無くてもよい。価格が安いので試してみてもよいかもしれない。

練習用部材

部材は2つの要素に分けられる。電線器具である。電線は文字通りで、器具はコンセントやスイッチ、配管、コネクタなどである。

基本的に電線は使い捨て器具は一部を除いて使い回し可能である。そのため、過去問を2周するのであれば器具1セットと電線2セットという買い方になる。

筆者は秋葉原に出向き、九州電気が販売している部材セットを購入した。
電線が非常に重いので、通販を使った方が楽かもしれない。

また、前述した工具メーカーのホーザンも部材セットを販売しているし、ほかにもオンラインで購入できるショップが数多く存在する。どれを購入しても大差はないので、価格や好みで選んで差し支えない。

使い回せない器具とは?

器具のうち、リングスリーブは使い回しができない。セットには十分な数が用意されているものの、練習で不足した場合はこれだけ買い足すとよいだろう。価格も安い。

また、ゴムブッシングは使い回せるものの、一度切り込みを入れると元に戻せないため、練習を繰り返す場合は追加で購入したい。

また、E19ねじなし電線管用のボックスコネクタも一度ねじ切ると元に戻せないので、こちらも追加で買っておきたい。

何回分買えばいいのか?

個人的には最低でも2回(2周分)は欲しいと感じた。普通の初学者にとって、1回目は工具や器具の使い方、各問題の施工手順を理解をするのが精一杯であり、本番を想定して時間内に結線するなど到底できないものである。そのため、本番前の練習として2回目が必要になる。

予算や時間に余裕があれば3回分買っておくと安心かもしれないが、ここは人によるだろう。とりあえず2回分買い、不安に感じたら買い足すくらいで良いのではないか。

電線を問題ごとに切るのが若干面倒

前述した通常の電線セットには、1回分の練習をこなせるだけの膨大な電線が入っている。しかし、実際の試験では問題ごとに所定の長さ(例えば2m)にカットされた状態で電線が提供される。そのため、練習前に問題に合わせてケーブルを自分でカットし、試験と同等の環境を用意する必要がある。また、不慣れなうちは誤った電線を用意してしまうこともある。

この作業を毎回実施するのは若干面倒なので、もし時間が限られている人は「切り分け電線セット」のようなものを購入するとよいだろう。

教材

テキスト中心で進める筆記試験とは逆に、技能試験では参考書は必要ないと筆者は考えている。
基本的に、YouTubeに公開されている動画講座を使うとよい。

筆者はホーザンの「電工試験の虎」が非常にまとまっていて便利だと感じ、メインの教材として使った。
また、「ガミデンキちゃんねる」も分かりやすいと感じたため、こちらも併せておすすめしておく。ただ、一点注意してほしいのは、結線作業にはいくつかの流派があるという点である。

「電工試験の虎」では、部品1個ごとに電線を切断し、両端を剥いてから器具に接続するという手法が取られている。「ガミデンキちゃんねる」では、長い電線から片方だけを剥いて器具に接続し、その後電線を切断するという手法が取られている。

いずれも、それぞれの講師の方々が経験を踏まえて編み出した手法であるため、どちらの手法を使っても問題なく合格できると思う。しかしながら、どちらの手法使うのは混乱してしまうのでおすすめできない。途中で「こっちが良いかも……」「あっちのやり方はマズいのかな」と思ってコロコロ切り替えるのではなく、最後までどちらかのスタイルを貫いた方が習熟しやすいのではないかと感じた。

とはいえ、メインで観る教材以外にもいろいろな動画を見ることで、ちょっとしたエッセンスを得ることはできると思う。様々な教材を無料で観ることができる環境を活用して、あまり惑わされないようにしつつ、色々なものを取り入れて自分のやり方を身につけていこう。

学習の進め方

まず、過去問を印刷しておこう。候補問題ごとにホチキスで留めておくとよい。続いて、電線を切り出し、各問題ごとに必要な器具をそろえる。

準備が完了したら、前述した動画教材を用いて、まず1周目は時間を気にせず進める。動画も適宜一時停止しながらで問題ない。初回であれば、1時間以上掛かることすらあると思うが、この時点では問題ない。

繰り返していくうちに作業が効率化されていき、そのうち40分を切るようになると思う。もし、特定の作業(たとえばランプレセプタクルの結線)に時間を要するなら、余った電線を用いてその単位作業だけを繰り返し行おう。

すべての候補問題を1周し終えたら、2周目は本番を想定した練習となる。作業開始前に一通り動画を見て流れを復習した上で、自力で何も見ずに作業を行う。

試験本番までに2周目が完了するように進めていくとよい。

学習を進める上で気になる細かい点

ここからは、実際に学習を進めていく上で気になるような細かい点をまとめていく。試験勉強を開始する前はピンとこない点が多いと思うため、本記事をブックマークした上で必要な時に参照してもらえると幸いである。

学科試験対策

学科はCBTとペーパーテスト、どちらを選ぶべきなのか?

以下のような差がある。

  • 試験日: CBTの方が実施タイミングが早いため、学習期間が短くなってしまう。ペーパーテストはCBTに比べ、2週間ほど余裕がある。
  • 試験会場や日時の選択肢: もちろんCBTの方が豊富である。また、CBTは空きがあれば3日前まで変更も可能である。
  • 問題用紙への書き込み: CBTはメモ用紙が渡されるのみで、問題用紙に書き込むことはできない。また、会場で貸与される黒のボールペン以外を使用することはできない。
  • 問題用紙の持ち帰り: ペーパーテストでは持ち帰れるが、CBTは画面表示のため持ち帰ることができない。
  • 拡大表示: CBTでは、図や写真を拡大表示できる。
  • 合否判定: 正式な合否判定は出ないものの、CBTは終了直後に正答数が表示されるため、実質的に合否がすぐ分かる。

一長一短あり、迷うところではあるが、筆者個人としてはCBT方式を推したい。
理由は以下の通りである。

  • 試験日: ペーパーテストよりも勉強期間が短くなってしまうのはディスアドバンテージではあるが、その分実技対策の時間が取りやすいと考えることもできる。
  • 試験会場や日時の選択肢: 一般的にソフトウェアエンジニアは朝に弱いため(?)、午後以降に開始される試験が選択できるのは大きなアドバンテージである。
  • 問題用紙への書き込み: 書き込まないと解けないような問題は存在しない。メモ用紙に図を転記しても時間には十分な余裕がある。
  • 問題用紙の持ち帰り: 当日の筆記の問題を持ち帰って復習する必要は殆どないと思われる。実技の勉強に役立つわけではない。
  • 合否判定: 合否が早く判明した方が実技に向けた対策を開始しやすい。

なお、CBTの体験版は以下のページで用意されている。本番とは若干異なる部分はあるが、この操作感を試してから決めてもよいだろう。

https://www.shiken.or.jp/cbt/e02_point.html

複線図は捨ててもよいのか?

多くの事項が暗記で済む中、きちんとした理解を求められるものが複線図である。学科試験の合格ラインはあまり高くないことから、「複線図は捨ててもなんとかなる」という説が一部で見られるが、正直これはお勧めできない。というのも、技能試験の段階で複線図の理解が必要になるため、ここで捨ててしまうと、学科に合格しても後で痛い目を見ることになるからである。また、複線図関連は複数の問題で構成されており、初手の図が描けないとその後の複数の問題を丸ごと落としてしまうことになる。

一度理解すれば実質的に単純作業になるため、時間を取ってきちんと取り組んでいこう。

計算問題は捨ててもよいのか?

「捨てても良い」とは言いたくないが、どうしても苦手で計算問題の正答率が上がらず、対策の時間も取れない場合は捨てても合格はできると思う。

技能試験で必要とされない上、各問題が独立しているため、複線図を捨てるよりはマシかと思われる。

ただし、単純な四則演算で解ける問題や、パターン化している問題がほとんどであるため、分野を丸ごと捨てようとするのはおすすめできない。わからない部分については解説動画を探すなどして、できる限り粘ることをおすすめする。

そうとは言っても3路スイッチ・4路スイッチの複線図がわからない

これに関しては技能試験対策を見るとピンと来る可能性がある(複線図の部分だけでよい)。

学科試験では実際の家屋をテーマに3路スイッチ・4路スイッチを描くことになるので大変だが、技能試験ではきわめてシンプルな配線に取り組むことになる。
一旦シンプルな回路で理解したのち、学科の過去問に取り組むと理解が進むのではないだろうか。

動画:【2024年 No.7】第二種電気工事士技能試験 フル解説版 2024年候補問題対応(電工試験の虎)

技能試験対策

ホーザンの複線図練習用キットは必要?

全く要らない。
本番はホワイトボードではなく、問題用紙の余白にペンで書き込むため、練習でも条件を整えておいた方がよい。

電線の長さはケチってもよいか?

電線の価格は正直安いものではない。そのため、「問題文では25cm必要とされているが、15cmで練習する」など、長さをケチる方法も存在する。

個人的には、少なくとも1回はケチらないでそのままの長さで学習する方が良いのではないかと考えている。というのも、練習の感覚のまま、本番で寸法をミスってしまうとパニックになりかねないからである(本番でケーブル切断ミスに対する救済措置はない)。

電線の寸法はいくつかのパターンがあるため、段々と「ああ、これなら350mm切断すればいいな」のようにリズムのようなものが身につくように感じた。筆者は本番と練習でこれを変える自信がなかったため、コストはかさむものの、所定の長さで練習するようにした。

電線の切断はどの程度の精度で行う?ミリ単位?

電線の長さに対する欠陥の基準は「配線図に示された寸法の 50%以下」である。相当緩く、数センチ程度の差異は合否に影響しないため、この部分は神経質になる必要はない。

ただし、芯線の露出に関しては、1ミリでも露出してはならないものもあるため、芯線周りは少し丁寧に切断・差し込みを行おう。


*欠陥基準: https://www.shiken.or.jp/candidate/pdf/point2024.pdf *

練習後の電線はどうする?

練習では、1問解いたらその都度解体することになる。器具は使い回すが、電線はどうすればよいだろうか。

単位作業の練習(のの字曲げ、圧着など)であれば短くなったの断片であっても十分使えるため、個人的には試験が終わるまで箱や袋に入れて保管し、単位作業時に随時使うことをおすすめする。

差し込み型コネクタって再利用できるの?

一見すると使い捨てに見えるが、再利用可能である。YouTubeに解説動画があったので、これを参考にしてほしい。

動画:差込形コネクタを簡単に外す方法【電気工事士 実技試験】(電気試験チャンネル)

ただし、技能試験中はコネクタが不足した場合に限って追加支給を受けることが可能であるため、切断して挿し直したほうが早いかもしれない。

合格配線チェッカーが点灯しないけどミスったのだろうか

実物のプラグと異なり、LEDを利用しているので極性がある。向きを間違っている可能性があるので、まずはそこを見直してほしい。また、ランプレセプタクル用のチェッカーは接触がシビアなので、手で押さえてやる必要があるかもしれない。

配線チェッカーの問題ではないが、リングスリーブが接触していて短絡している可能性もあるので、そのあたりも見直してほしい。

アウトレットボックスの穴ってどうすればいい?

アウトレットボックスは複数の穴があり、問題によって使う穴が異なる。
試験本番では問題に従って既に打ち抜かれたものが提供されるが、練習時には自分で穴を開ける必要がある。

「問題によって使う穴が異なる」のにどうするのか、という話であるが、練習用であれば最初の段階で4方向全部の穴を打ち抜いておけばよい(底面は打ち抜かない)。そして、練習時は「使わない穴は塞がっている」という体で作業を行おう。

打ち抜き方はホーザンのチャンネルに動画がある。作業時に大きな音がするので、周囲を驚かせないように気をつけてほしい。

動画:アウトレットボックス 穴の打ち抜き方(電工試験の虎)

電工ナイフって怖くない?

普通に怖い。筆者は不器用なため、なるべく電工ナイフを使わないようにしたし、試験に合格するためであれば回避した方が良いと思う。

昨今の試験において、電工ナイフを使う場面は以下の2つのみである。

  • VVRケーブルの被覆剥き
  • ゴムブッシングの穴開け

VVRケーブルの被覆剥きについては、上記便利ツールの節で言及したMC-012が便利とされている。また、損傷のリスクがあるものの、VVFストリッパを使って剥くという裏技もあり、筆者はこの方法を用いていたが、損傷しない加減を見つけるために何度か練習したほうがよい。

動画:【電気工事士試験】VVRをストリッパーで早く剥く方法(電気試験チャンネル)

ちなみに、試験でしか使えないものの、「剥かずに芯線を押し出す」冗談みたいな裏技もある。奥の手として知っておいてもよいかもしれない。

動画:苦手! VVR外装被覆剥き 最後の裏技【第二種電気工事士】(さくら工作室)

ゴムブッシングはニッパーで対応できる。

動画:【時短・安全】ゴムブッシングをニッパーで切る方法(電気試験チャンネル)

どのくらい時短すればいい?20分を目指すべき?

YouTubeでチュートリアルを探していると「技能試験で20分を切る方法」「10分台で完成!」のような動画が散見される。正直なところ、これらを真に受ける必要はないと感じた。

もちろん40分ギリギリとなってしまうと心許ないので短縮したいところだが、30分程度で完成することを目指せば余裕があると言える。実際、ホーザンのハンドブックでは35分が目標とされている。

仮に20分で終えたところで、修正できないミスがあった場合は不合格となってしまう。逆に、35分掛かったとしても、欠陥がなければ問題なく合格する。時短はほどほどに、精度を上げる方を優先していく方が良いのではないか。

複線図を描かないほうが時短に繋がるって本当?

前述の項目を被るが、時折「複線図を描かないと時短できる」という説が見受けられる。これはおそらく現場で熟練しているベテランの方や、とても長い勉強時間を確保できる方だけに通用する話であって、我々のような素人が真似してよい方法ではない。確かに練習を重ねればその域に達するのかもしれないが、たった13問x2周では無理な話である。

素直に複線図を描き、接続箇所を明確にした上でミスを減らすようにしよう。基本的には講座のやり方に従う方がよい。

また、これに限らないが、「この手法は現場では通用しない」といったコメント・書き込みは試験勉強にとってはノイズなので真に受ける必要はない。どこの世界でもマウンティング的なコメントは存在するものである。当面の目標は試験に合格することであり、高度なテクニックは試験に合格してから実際に作業を重ねる上で身につければよいと思う。

アウトレットボックスのボンド線って練習すべき?

本来、アウトレットボックスの施工にはボンド線が必要となるが、近年の試験では施工条件からその部分が省略されている。しかし、候補問題の単線図だけを見ると、再びボンド線が出題されても文句は言えない状態であるため、念のため単位作業くらいはやっておいて損はないと思われる。

ホーザンの部材セットにはボンド線が入っていないので、余った電線などから取り出した線を使うとよい(実物と硬さは違う)。

動画:ボンド線 (電工試験の虎)

合格発表

合格発表は電気技術者試験センターのWebサイトで確認できる。

学科をCBTで受験した場合は終了時に正解数(x2すると点数)が表示されるので、こちらは合格発表を確認しなくてもよい(手元に技能試験の受験票が届くのを待とう)。もちろん気になるならチェックしてもかまわない。

なお、Webでの合格発表では「合格者一覧にあります」というなんとも歯切れの悪い言葉が使われるが、これは合格を示している。おそらく、正式な合格発表は書面によるものであって、これは合格発表ではないという建前があるのだと思われる。

最後に

素人にとってはハードルが多く、特に実技は不安要素が多くなってしまうものの、きちんと対策をしていけば独学での一発合格も不可能ではない。

本記事が皆さんの受験に何らかの形で役立てば幸いである。

脚注
  1. いわゆる「体験記」の要素はあまりない。 ↩︎

  2. 令和6年上期のデータ: https://www.shiken.or.jp/press/denkou/denkou2/r06/2024_K_kamikihikki_843687.pdf ↩︎

  3. 令和5年下期のデータ: https://www.shiken.or.jp/press/denkou/denkou2/r05/2023_K_shimokiginou_76154.pdf ↩︎

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