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[App Store Connect] デジタルサービス法のコンプライアンスの警告対応と解釈について

2024/03/16に公開

概要

いつから表示が出始めたのか定かではありませんが、2024/03/15現在、App Store Connectにアクセスすると以下のような警告のインフォメーションが掲出されるようになりました。
こちらの警告の内容およびその対応方法についてまとめてみます。

デジタルサービス法に基づいて、アカウントに関する情報を提供および確認しなければなりません。これを怠ると、特定の国または地域において、支払いに遅れが生じたり、コンテンツが配信から削除されたりする場合があります。
コンプライアンス要件を満たす

デジタルサービス法のコンプライアンスとは

さて、上記の警告のリンクを踏むと何度か同じような警告のインフォメーションが表示され、計
3回踏むと下記の入力画面に到達します。

デジタルサービス法のコンプライアンス
EU法に関して、トレーダーとノントレーダーのいずれの立場でコンテンツを配信するのかを指定してください。トレーダーに該当するか、詳しく見る。
⚪︎トレーダーのプロバイダアカウントです
EU法に従って、Appleはデベロッパアカウントに関連付けられた確認済みの住所や連絡先情報をApp Storeに公開します。
⚪︎ノントレーダーのプロバイダアカウントです
EU法に従って、Appleはデベロッパアカウントに関連付けられた確認済みの住所や連絡先情報をApp Storeに公開しません。

🤔🤔🤔

ということで、トレーダーに該当する場合はApp Store上に住所や連絡先を公開する必要があるようです。
個人のApple Developerは思いっきり個人情報が載ることになってしまいますね(困る

まずは知らない単語から噛み砕いていき意味を理解します。

デジタルサービス法(DSA: Digital Services Act)

DSAは、マーケットプレイス、ソーシャルネットワーク、コンテンツ共有プラットフォーム、アプリストア、オンライン旅行および宿泊プラットフォームなど のオンライン仲介者およびプラットフォームを規制する。

出典)EU DSA法(Digital Services Act)の概観 - 総務省

ここでいうDSAはEUのものを指すようです。

また、VLOP(超大規模オンラインプラットフォーム) = App Store に課されるものとして、トレーダーのトレーサビリティというものがあるようです(詳しくは後述します)。
出典)EU・デジタルサービス法 (DSA)の概要 - 総務省

EU法 (Europian Union Law)

EU加盟国の法体系に直接作用するもの。

出典)EU法 - Wikipedia

つまりEUの法律のことですね。

トレーダーとノントレーダー

警告に表示されたリンクからAppleの公式ドキュメント「欧州連合 (EU) デジタルサービス法のコンプライアンス情報の管理」を読むと、トレーダーとは下記の定義に該当する者のことのようです。

トレーダーに該当するかの判断
DSA におけるトレーダーの定義は、「私企業か公企業かを問わず、自己の商取引、事業、技術または職業に関連する目的のために、自己の名において、または代理人を通じて行動する自然人、または法人」です。トレーダーに該当するか不明な場合は、ご自身の法律顧問にご相談ください。

結局のところ、取引やビジネス、工芸、それを生業としているという目的に該当する場合は、個人だろうが企業だろうがトレーダーであるということになると思われます。

逆にいえば、趣味でやっている個人開発という名目であれば、これは別に取引やビジネスのためでも、職業であるわけでもないので、トレーダーの定義からは逸脱される可能性があると考えられます。
ただし、一つだけ解釈の余地が難しい 工芸 (オリジナルである英語のdocではCraftと記述) かどうかですが、グラフィカルなデジタルアセットなども多く使われているApp Store上のAppはこちらに該当する可能性も十分考えられるかなと思いますので、やはり法的な法律顧問などを雇って確認してみるのが良いのではないかと思います。
広告を掲出していることが営利目的になり得る可能性もあるので、そこも注意すべき点であると考えられます。

他社の事例

また、JetBrainsのPluginのMarketplaceドキュメントにもDSAに関する記述があり、examplesに書いてある情報はApp Storeにも適用できる可能性があるかもしれません。

If you are a natural person acting outside your business (not an entrepreneur) and you offer plugins on JetBrains Marketplace for free, you may be qualified as a non-trader.

意訳)ビジネスの外の範疇であれば、ノントレーダーになりうるかもしれません。

If you are a natural person (software developer) working for a company, but you develop plugins in your free time as a hobby and offer them for free and provide means for users to support your development on a voluntary basis (voluntary financial contribution), you may be qualified as a non-trader.

意訳)ソフトウェア開発の会社員だとしても、趣味の領域でプラグインを無料提供したり、ユーザが投げ銭などの自発的金銭サポートを提供する場合はノントレーダーになりうるかもしれません。

Apple Developer ForumsでのDiscussion

こちらでもディスカッションがなされているようですが、現在のところ結論は出ていなさそうです。
https://forums.developer.apple.com/forums/thread/748392

DSAのトレーダーのトレーサビリティとは

先述しましたが、DSAによるとVLOP(=App Store)は、トレーダーのトレーサビリティを担保しないといけないということで、トレーサビリティとは何かというと、下記になります。

(a) the name, address, telephone number and email address of the trader;
(b) a copy of the identification document of the trader or any other electronic identification as defined by Article 3 of Regulation (EU) No 910/2014 of the European Parliament and of the Council (40);
(c) the payment account details of the trader;
(d) where the trader is registered in a trade register or similar public register, the trade register in which the trader is registered and its registration number or equivalent means of identification in that register;
(e) a self-certification by the trader committing to only offer products or services that comply with the applicable rules of Union law.

出典)https://www.eu-digital-services-act.com/Digital_Services_Act_Article_30.html

なるほど、App StoreはしっかりDSAに順守しているということがわかります。

個人か組織かによって、提供する情報が異なる

公式ドキュメント「欧州連合 (EU) デジタルサービス法のコンプライアンス情報の管理」によると、組織の場合はすでにD-U-N-S番号に登録された住所が自動的に反映されるため、新たに入力する必要があるのは電話番号とメールアドレスのみのようです。

個人の場合は、トレーダーに該当するを選択した場合、住所を含む下記のような入力フォームを埋めることが求められました。
そのため、これらの情報がApp Storeに公開されることが考えられます。

前述のトレーダーのトレーサビリティの項目としては、身分証明や支払い口座などの情報もかかれているため、この辺りも提出が必要となるでしょう(App Store上に公開されるかまでは定かではありませんが、その明確な記述はないため、Appleへの提出まででおそらく公開はされないと思われます)。

最も確実なWorkaround

では、個人の解釈だけで確実にこの問題にアプローチする方法はないのでしょうか?
以下が考えられると思います。

配信しているすべてのアプリにてEU圏内のすべての国の配信を無効化する

これが最も確実ですね。

EEAS: 欧州対外行動庁 (European External Action Service) のよくある質問によると、現在は27カ国がEUに加盟しているため、App Store Connectの各アプリページの価格及び配信状況ページから、この27カ国の配信を無効化してしまうことによって、DSAのコンプライアンスを非該当にできうるでしょう。

ちなみにApp Store Connectのビジネスページを見ると、どの国に配信可能かの契約を確認することができます。
ここでは、すべての国と地域が表示されてしまうので、ここからも変更できると一括で設定できそうでしたが、探した限りだと編集することはできなさそうでした。
(もしかすると Apple Developer Program の更新時などに設定ができたのかもしれません。この契約の変更方法知っている方おりましたら、コメントなどで教えていただけると幸いです。)

対応の期限は?

App Store Connectのページや対応に関する公式のドキュメントを閲覧した限りでは、明確な期限に関する記述は見つかりませんでした。
しかし、警告の内容にもあるように、これを怠ると、特定の国または地域において、支払いに遅れが生じたり、コンテンツが配信から削除されたりする場合があるということなので、なる早での対応が求められると考えられます。

まとめ

最後に、簡単なフローチャートを用意したので、各Developerはどれに該当するのか、どんな対応が必要かをご確認ください。

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