👋

実践「退職ダイアログ」 - メンバーの退職にチームで向き合うために

2024/12/23に公開

チームメンバーの退職は、感情的にも業務的にも大きな影響を与える出来事ですが、チームや組織が存続する以上避けられない出来事でもあります。この記事では、LAPRAS株式会社の開発チームでメンバーが退職する際に実施している「退職ダイアログ」という取り組みについて紹介します。退職ダイアログとは何か、どうしてやっているのか、どうやっているのか、などなどについて、LAPRAS株式会社の @rocky_manobi がお届けします。

この記事はジンジニア アドベントカレンダー 2024 の22日目の記事です。只今12/22 29:00となっております。

...

なのですが、実はこの取り組み、既に同僚の@chanmoro さんによって紹介頂いています。参加者/退職者視点で非常に綺麗にまとまっていますので必見です。
https://zenn.dev/lapras_inc/articles/0fe161a13ba533
ということで私はこの取り組みを運営視点というか、@chanmoroさんの記事をみて「やってみようかな!」と感じた方への追加情報的な形で行こうと思います。

🟡退職ダイアログとは

退職ダイアログとは、文字通り 「退職をテーマにした対話をする」 という取り組みです。

退職によって生じた不安や感情を共有し、退職という出来事に対する共通認識を作ることで、課題にチームで向き合い、将来に向けた新たな視点を得ることを目的としています。

業務/実務的な引き継ぎとは別で行うもので、議論や課題解決を目指すものではなく、「寂しい」「不安」などの感情を共有することを推奨しています。参加者は必ずしも建設的な意見を述べる必要はありません。

LAPRASではエンジニア全員参加で行っています。これは全体15名規模かつ2,3名の小規模チームが複数存在、という組織構造によるところが大きいと思っています。各人それぞれ活動の軸足となるチームはあるものの、文脈によってチーム外の人とのコミュニケーション/コラボレーションが発生することが少なくはないからです。

対話するテーマ

対話するテーマは以下のとおりです。

1. チームの視点: 退職者が抜けることでチームから失われると感じているもの

人が一人抜けるというのは、実業務的な意味で引継ぎが必要になるのはもちろんですが、人がひとりいなくなるというのは、雰囲気/課題発見のアンテナ/同僚としての安心感/醸し出す空気/文化へ与える良い影響/その人が居たから解けていた課題が... などなど一言では表せない影響が生じるものです。

何をもたらしていただいていたのか、何が失われてしまいそうなのか...その人の能力や特性、独自の存在感などについて、残るチームメンバーからの視点を共有し、深掘ります。
不安な気持ちを共有しつつ、これからの体制を一緒に考えていくときの源泉のようなものを得ることを目的とします。

2. 退職者の視点: 退職の理由/チームの課題/良いところ

退職者がどのような理由でその決断に至ったのか / 退職者から見たチームの課題や強み について共有いただき、深掘ります。

一緒に働いていた方がチームを離れるという結論に至ってしまったことはチームとしてとても大きな痛手であり、何よりとても寂しいことです。必ずしも「課題」だけではないかもしれませんが、チームに居続けることを難しくした課題感を改めて共有頂くことで、解決できるものは解決して同じような要因で誰かがチームを離れる、ということが発生しないようにしたいという意図で対話をします。

加えて、チームを離れることが決まっているからこそ言えること、離れることを決めたからこそ見えた視点など、チームに新たな視点をインプットいただくために「退職者から見たチームの課題や強み」をテーマに組み込んでいます。

※率直にお話頂けるかどうかは関係性がとても重要ではありますので、事前に退職者の方と大枠をすり合わせたほうが良いと思います

🟡退職ダイアログの進行方法

退職ダイアログの進行について軽く紹介します。
書いていてアドリブ/アートを結構含んでいるなと感じたので、ここはもう少し機械的にできたらいいなと思ってはいます(開催頻度そんなにないのであまり踏み込んで多重化しなくても、という気持ちもあります)。

ステップ0: 準備

全員で共同編集できるドキュメントツールを用意します。
FigJamやMiroなど、の付箋ツールがあると便利ですが、純テキストベースのもの(Google Docs, esaなど)でも問題ありません。

こんな場所(FigJamテンプレート)を用意しておくと進行が楽になると思います。

ステップ1:開会の儀

まず、チームリーダーやマネージャーが退職者への感謝の言葉を述べます。とても大切です。
これから退職影響について会話していくわけですが「あなたがやめるせいでこんなに大変なんだぁあ!」ということを伝える場のようにしてはいけません。これまでもたらして頂いた貢献の言語化であることを場に浸透させましょう。

その後、ファシリテーターがダイアログの目的と期待される姿勢、会の流れについて説明します。

ステップ2:チェックイン

参加者一人ひとりに一言ずつ発言してもらいます。
場についての期待を喋ってもらう真面目なトーンでも良いですし、お昼食べたものを言ってもらうなどでも構いません。
場に対する緊張感が和らぎ、会話の土壌を作る...と書くこともできますが、ただ単にずっと聞いているだけだとあれなので序盤に何か発話頂くことが目的です。

ステップ3:失われるもの、課題、不安の共有

付箋タイムです。
メンバーそれぞれが、退職者が抜けることで生じると思われる課題、失われてしまう要素、不安な気持ち、などを付箋に書き出します。退職者本人も、自分が抜けた後に起こりそうな変化について書き出すことが奨励されます(恥ずかしいかもしれませんので無理強いはせず)。
時間は7分ほど取って、様子をみて3分延長する、というのが最近のLAPRASでの運用です。

その後ファシリテーターが付箋を一つずつ取り上げ、その内容を起点に会話を展開します。付箋を書いた人に内容を説明いただき、退職者やその他のメンバーに話を振ります。
現在取り上げている付箋を別の場所に移動させて進行するとわかりやすくなります。
他のメンバーは、もし自分の書いた他の付箋に関連が深そうなものがあれば、その付箋も近くに持ってきて"乗っかり"ましょう。

この場で具体的な解決策を出す必要はありません。不安や課題の共有そのものが重要です。
ファシリテーターは頃合いをみて次の付箋にトピックを移していきます。

付箋周りで大切なのは、聴衆のリアクションです。特に参加者が多いと一人あたりの発言数も少なくなるので、共感を示すリアクション等々を付箋上でやることを積極的に声掛けしていきましょう。

NextActionを出すことを目的にはしていませんが、NextActionがらしきものが出ていることもあると思います。その場合はどこかにメモをして置き、最後(クロージング)にて再確認をするとよいでしょう。

ステップ4:退職者の視点からの共有

退職者には、チームの課題や良い部分、退職の理由について率直に話してもらいます。事前に準備してもらうこともありますが、必須ではありません。

他のメンバーは退職者の話を受け止めつつ、みんなで付箋などに記録をとります。自分たちの視点で意見を補足したり、質問/リアクションを返したりします。

ステップ5:クロージング

最後に、一人ひとりがダイアログを通じて感じたことを簡単に述べ、解散です。

🗒️メモ集

※以下「なぜやるのか」「やってみてどうなのか」「注意点」などについて羅列していきます

🗒️[なぜやるのか]退職をタブー視せずにチームとして向き合うため

退職というテーマは多くの場合、ネガティブで語りづらいものとして扱われます。しかし、組織運営をしている以上、退職は必ず起こる現象です。不謹慎だからといってお葬式のやり方を知らないわけにはいかないように、退職への向き合い方も組織の運営において欠かせない要素の一つだと考えています。

もちろんですが、在籍している方それぞれに対して「居続けることを難しくする強烈なネガティブ要素がないか」「貢献に報いることができているか」「キャリアとしてプラスになるような経験やチャレンジの場を提供できているか」などについて考えることはとても重要です。たとえプライベートな理由での退職だったとしても、それも含めて何かしらのギャップがあるから退職をするわけです。本来は退職なんてない方が良いに決まっています。
一方で、そのギャップを完全に無くすことは不可能であり、また、組織においてどこまでケアすべきかのラインが存在することも事実です。だから退職は必ず起こります。

また、メンバーが退職を決めるに至った要因について、リーダー/マネージャとして振り返ることは大大大前提ですが、メンバー退職後のチームや組織を動かしていくのは残るメンバー全員です(当然リーダー/マネージャも含みます)。
だから、退職という出来事への対処にはチームの力が必要です。

...

というとニュアンスがあれなんですが、チームの力を借りる必要があるので、その状況を作るために礼を尽くす必要がある、というのが近いニュアンス。

チームで向き合うために表で話す

特定の課題にチームで向き合うためには、課題の背景や状況認識についての共通の認識を持つことが重要です。しかし、退職というテーマがネガティブで語りづらいものであることから、退職という出来事への対処はクローズドな形で進められがちです。特に精神的な影響の大きさ、危機感の強さなどの情報はリーダーやマネージャに相当する人と、メンバーそれぞれの1on1などでやりとりがなされることが多いでしょう。

実務的な引き継ぎや課題についての情報は、会話する必然性が高いものであるために問題にはなりにくい一方で、上記のようなソウル的な話題はとても振れにくいトピックになります。振れにくい話題であればあるほど、情報の流通は関係性の深いところに閉じていきます。結果「自分は不安に感じているが周囲は不安に思っていないように見える...が故に更に不安になる」のようなことが起きやすくなるわけです。

退職にチームとして向き合うためには、課題の背景状況、つまり影響や危機意識について共有するためにも、退職を通じて生じる感情や課題を適切に、なるべく情報の減衰なく共有することが大切です。
チームの力を借りるために尽くすべき礼というとニュアンスが近そうです。

🗒️[やってみて]今のところ「良い」と信じています

この手の話において運営している側が「良い場になった」と思っている場合は何か落とし穴を見落としていると思うべき、という信条ではあるので、ここは自分の言葉ではなくchangmoroさんのお言葉をお借りすることにします。

https://zenn.dev/lapras_inc/articles/0fe161a13ba533#退職者の視点で見る「退職ダイアログ」

残るメンバーが素直に気持ちを吐き出してくれることで「やっぱりそうだよね」とか「そういうところも不安に感じるんだ」とかの心情を感じ取ることができました。みんなが不安を話してくれることにより、逆にその裏返しで自分が貢献できていたことを感じることができ、「そんなところにも貢献できていたんだ!」と感じることもありました。

退職ダイアログの中でネガティブなことも含めて色々と話す中で全体の空気が暗くなってしまう時もあったのですが、各々がそんなネガティブも含めて咀嚼をし、最後には「気持ちを切り替えてここからまた全力で頑張ろう」ということを話してくれたメンバーが多々いました。

自分のこれまでのチームに対する貢献や強みについても新たに認識することができ、最終的にはみんなにポジティブに送り出してもらったような気持ちになりました。

良いと思っているから継続しているんだろ?という指摘も成立しそうなのですが、そこはなんというか、良いと信じてやっています、みたいな感じで許してください。信じてやっているなかで、このようなフィードバックを頂けるのは本当に勇気づけられます。

🗒️[注意点]基本的には"残るチームのためのプラクティス" / 本音の退職理由の開示にこだわりすぎない

※これまで実施してきて中で誰のときが...という話ではなく普遍的な考え方として記述します

この取り組みは、残るチームにとっても、退職者にとってもメリットのある取り組みだと感じていますが、あえてどちらのためかを選べと言われればそれは「残るチームのため」となります。
ここまでの記述を端的にまとめると、退職ダイアログというのは「残るメンバーでどうやって退職影響を吸収していくか、考えるところから力を貸してほしいです、そのために場をつくります」というものだからです。

故に、仮にですが、この関係性では退職理由についてオープンに本音では教えてくれない と感じる場合でも実施すべきだと考えています。退職理由やチームに感じた課題感という視点をご提供頂くことは難しいかもしれませんが、その方が居なくなることによる影響や不安についてテーブルに出して対話することには支障はありません。

もちろん、本音で開示頂けることにはいくら感謝してもしきれない、くらいの気持ちを持つべきですね。

🗒️[注意点]実施する/しない の判断

喧嘩別れのような関係性であれば別ですが、その場の空気が暗いものになったとしても基本的にはやった方が良いと考えています。その「暗いもの」というのは実施しなくても水面下でどのみち発生します。発生するなら見えるところでやってみんなで認識した方が良い、という考え方です。
(「やらない」という判断をした場合に変な感じになる、というのも実際ありますね)

一方で退職による業務的、ソウル的な影響の認識についてメンバー間のギャップが十分に小さい場合、組織サイズが小さく(2,3名)業務的な引き継ぎの会話のついでに対話がされる程度に距離が近い場合 などは特別実施しなくても良いと考えています。
このプラクティス自体が、退職による業務影響を受ける人が大きい場合や、受け取るメンバー間で認識のギャップがある場合に得られるメリットが大きくなるものですので、この前提が既に満たされているチーム/組織では特別に場を設けずとも問題は生じないでしょう。

🗒️[注意点]チームのコンディションがよければよいで結構覚悟はいる

例えば「チーム内に大きなネガはないけれど年齢とキャリアを考えたときにこうだ〜」のような退職理由であった場合など。普通に違う人にも刺さる(ときには僕にも刺さる)ので、同じ課題感を頂く人が見た目上増える、ことがあります。そして事業規模等の問題が絡む場合は解決が結構難しい。

と、いうのはありますが、別にこの場で言わなくてもみなさんそれぞれしっかり考えられています。退職ダイアログの前であろうが後であろうが、そういった気持ちにお応えしていくにはどうしたらよいか、を考えるしかできることはありません。知る/聞く覚悟を持つだけです。

🟡まとめ

以上、退職は避けられない事象ですが、その向き合い方次第で、チームと退職者双方にとってポジティブな影響を与える場を作ることができる(かも)というお話でした。

退職を悲しいだけの出来事で終わらせるのではなく、、いや、退職はとにかく悲しい出来事であることに間違いはないのですが、その中に少しでも次なる一歩を踏み出す契機のようなものを見いだせたら良いな...と思って運営して退職ダイアログを運営しています。

また、この記事ですが、変なニュアンスで伝わるかも?という懸念によって記述を避けた内容も少なくありません。やってみたいけれどよくわからん!となった方は連絡頂ければご説明できますのでお気軽にTwitter DMください 👍

Discussion