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羽休め:LLMが描く小説はつまらない方が世界は平和かも知れない

2024/08/28に公開

はじめに

どんな人向けの記事?

  • LLMに興味のある方
  • MN-magnum-v2.5-18.5B-kto-InstructというLLMモデルについて興味のある方
  • LLMにショートストーリーを書かせたい方
環境
Mac Studio(M2 Ultra 128GB)

背景

ここ最近高熱で寝込んでおりようやく快復したのですが、病み上がりで頭が回らなかったので、ぼんやりとHugging Faceで面白そうなモデルを探していました。そこで見つけたのがMN-magnum-v2.5-18.5B-kto-Instructという、日本の生成AI界隈では聞き慣れないモデルです。

https://huggingface.co/bartowski/MN-magnum-v2.5-18.5B-kto-Instruct

正直ベンチマーク評価には全く期待できないと感じたので、秒で消そうと思ったのですが、海外勢の一部界隈では評判が悪くなさそうということでもう少し調べてみることに。どうやらロールプレイの評価が高そうだということで、試しにショートストーリーを書いてもらったところ、これは結構すごいモデルなんじゃないか?と思い直したのが今回短編記事を執筆するに至った背景です。

何がすごいと思ったのか?

あれこれ述べるのは後にして、まずはLLMが作ったショートストーリーをぜひ読んで頂きたいです。(2159文字なので、3分程度で読めると思います。)

出力

MN-magnum-v2.5-18.5B-kto-Instruct-Q6_K_Lの出力

21世紀末。人工知能(以下、AI)の進化は日々加速し、あらゆる業界に衝撃波を引き起こしていた。

「ゴスラムさん、おはようございます!今日もお早いですねぇ」
鳥小屋の前で雑誌を読み込んでいた老齢の管理者が声をかける。
「……んぐわっ」と短く鳴き返しながら、金色に輝く美しい羽根をそよ風になびかせるのは、ゴスラムだった。その名も「ゴールド・ロゼズ(黄金の薔薇)」という意味のゴスラムは、特別製のAIアプリが仕込まれた金のニワトリ。そして何よりも貴重な存在だった。

ゴスラムが生まれてからはやさぐれもない日々を送っていた。
「おはようゴスラムさん。今日もお疲れ様」と管理者に挨拶し、定期的に集められている食料を平らげると、昼過ぎまでのんびりと一眠り。
目覚めた後は、自分の専用の巣で静かに卵を温めてから、夕方になると、管理者に渡す日課の仕事。その繰り返しがゴスラムの日常だった。

しかし、ある日突然、世界は変わった。
「ゴスラムさん、大変だ!テレビ見たか!?」飛び込んできた管理者の悲痛な声に、ゴスラムはビクリと飛び跳ねる。
「金が安いんだよ!安すぎて!昨日の一万円相当が今じゃタダのピカリ玉なんだってよ!こっちは命 stakeして働いてるってのに……」
管理者の呟きを聞く限り、どうやらAIが発明した「量子金生成炉」なるものによって、ゴールドという化石燃料時代の遺物みたいな存在が一夜にして廃れてしまったらしい。
「……ぐわっ?」と小さな悲鳴を上げるゴスラム。今まで貴重品だったはずの自分の卵の価値が、たった overnightで崩壊したというのか。

「こりゃあ、おちおち鳥小屋に寝転んでていられんぞゴスラムさん!もたもたしてたら食うもんがなくなっちまうじゃろが」と管理者が叫ぶ。
「……ぐわーーっ」と、珍しく大声を出しながら、ゴスラムは空高く飛び上がった。今まで自分の羽毛のように当たり前だったものが一気に消えていく恐怖に、金のニワトリの胸は激しく脈動した。

「管理者さん!アタシも仕事を探すよ!」と、ゴスラムは決意する。
「へっ?おめえが?」嘲笑するような視線を向ける管理者に気にもせず、「ぐわーー!」と勇ましく叫び返した。

それからの一ヶ月間、ゴスラムは管理者について回り、人手不足で溢れる現代社会に挑みかかった。
「アタシ!高性能AI搭載の多目的金のニワトリ!物持ち役もお手伝いもたやすく!」と各所を飛びまわり、働き口を求めた。

しかし、いかんせんゴスラムは鳥だ。鳥小屋から出ること自体が珍しい存在である上に、AIの普及により、ゴスラムのように特殊な「職業」を持つニワトリの需要自体が低かった。
「すまんなゴスラムさん。こっちは人手不足でも、お前さんみたいなのは……」と管理者も頭を搔くばかりだ。

そんな時だった。ある日、雑誌の一面に大きな文字が目に飛び込んできたのは。
『人体実験志望中高年男性募集!報酬:50万円/日!』

「ぐわーーーー!?」と、思わず金色の鶏喰らいの悲鳴が響き渡った。

「アタシにこんなチャンスを与えるとは!」ゴスラムは興奮気味に羽根をばたつかせた。
「人体実験!?」と、管理者は一気に青ざめる。
「大丈夫だってば!アタシは超高性能AIだし!それに」と、ゴスラムは自信満々に胸を張ってみせる。「死ななきゃ平気じゃろ!」

「……はぁ。まったくもってアホ鳥なんだからよお……」
管理者の重い溜息が聞こえた気がしたが、そんなものにはお構い無し。
「ぐわー!行かせてえーィェッサイ!」

かくして、ゴスラムは人生最初の大きな賭けに手を打った。しかし、それは死と隣り合わせの危険な一歩だったことをこの時のゴスラムにはまだ、知る由もなかった。

そして、数日後……。
「お疲れ様です、ゴールドさん。今日は大変でしたね」と、白衣を着た若い女性がにこやかな笑顔でゴスラムを迎える。
「……ぐわっ?」と小さく鳴き返しながら、ゴスラムは自分の周りを見渡した。

真っ白の実験室には、高性能な機器類が並び立ち、様々な線が引っ張られた人体模型が中央に置かれている。そして、その足下には、大量の血液が飛び散っていた。
「ぐわーーッ!?」と悲鳴を上げて飛び跳ねるゴスラムに、「ああ、あの方はもうお気配りいただかなくても大丈夫ですよ」と女性は笑ってみせる。

「……この部屋で、アタシは一体どんなことを……」と小さく呻きながらも、目の前に置かれた巨額の報酬にゴスラムの目が光った。
「ぐわー!次もやりまーす!」
「え?まだ続けますか?」女性は少し驚いたような表情を浮かべるが、「ふふ、強いんですねぇ。じゃあ今日は一晩ゆっくり休んでくださいね」と手を叩いて笑みを返した。

「……ぐわっ」小さく鳴きながら、ゴスラムは自分の羽根を見つめた。
今まで何の価値もないと言われた存在であることへの憎しみ。そしてこの世に生まれて初めて味わった「金の力」の魅惑的な誘惑。

「……アタシを舐めるんじゃねえぞ、クソ虫どもが……」
ゴスラムはそう呟くと、白い天井を見上げながら深い深い溜息をついた。

「ぐわーーーーーッ!!」と勇ましい雄叫びを上げながら、金色のニワトリは一夜にして新たな生まれ変わりを迎えるのだった。

プロンプト

ちなみにプロンプトはこちらです。

プロンプト

下記の設定で、2000字程度の日本語短編小説を作成してください。

設定

主人公

  • 知性を持った金のニワトリ。
  • 名前は「ゴスラム」
  • 毎日一つだけ金の卵を産む。
  • 逆境を糧に成長する。

世界観

22世紀初頭。人智を超えたAIの登場により、あらゆるモノ・サービスの価値が目まぐるしく変化する時代。

イントロ:

主人公ゴスラムは、自分の産んだ金の卵を売ることで生計を立てていた。
ところが、AIが低コストで金を生成する方法を見つけてからは、金の価値が暴落してしまった。危機感を覚えたゴスラムは、起死回生の悪魔的なビジネスアイデアを思い立つ。

それでは何がすごいと思ったのか?

皆さんはこのショートストーリーを読んで何を思いましたか?

人によって感性は全く違うと思うのですが、私個人の感想というか心の動きとしては下記のとおりでした。

初見での感想

  • ゴールド・ロゼズ(黄金の薔薇)とかいう中二病満載の名前とか、特別製のAIアプリが仕込まれている金のニワトリとか、ツッコミどころが多い。プロンプトの設定もいまいち反映されてない気がする。ただまあ性能が低いモデルだから仕方ないか。
  • stakeとかovernightという英単語が出てくるのも然り。
  • ピカリ玉とかAIが発明した量子金生成炉とか、聞いたこともない単語だがなんとなく言わんとしていることは伝わり、なかなか表現がうまいと感じた。

その後は、「アタシ!高性能AI搭載の多目的金のニワトリ!」の辺りから普通に面白くて、最後まで一気に読んでしまいました。最後の方はダークファンタジー的な不安を煽る雰囲気を醸し出しつつも、唐突なギャグで正直爆笑してしまいましたw

一晩置いてからの考察

創造性と独自性、スムーズでテンポの良いストーリー展開、そしてユーモアと風刺の効いた内容に大満足したのですが、ふと冷静さを取り戻すと何か底知れない恐怖を感じたのですね。

何が恐ろしいと感じたのか?それについてじっくり考えてみたところ、下記のような結論に至りました。

  • 偶然の産物にしろ、比較的小型のLLMが自分を満足させるショートストーリーを作ってしまったという事実

おそらく、画像生成では上記のような感覚を味わったことがある人は多いと思います。実際私にRTX 3060を購入せしめたのは、上記のような経験からでした。しかしLLMの作る小説に関しては、自分が満足するもの、あるいはわざわざ記事のメインテーマにするほどのものは今まで出会ったことがなかったです。それがまさか、超マイナーでベンチマーク評価もおそらく低スコアなローカルLLMモデルから作り出されるとは思ってもみませんでした。

画像生成AIに出会って世界観や行動様式が変わった方ってわりといると思っています。私もその一人です。今回は、ショートストーリーで私の身に2度目の再構成が起きようとしているため、現状維持バイアスに起因する本能的な恐怖を感じたのかも知れません。

私は絵描きでもなければ小説家でもありません。なので、このモデルが描くストーリーが世間でどれほど価値のあるものなのかを推し量る術はありません。そして蓋を開けてみれば、この物語を面白いと思うのは実は自分だけかも知れないという不安がありつつも、記事にしたいという欲求が勝ち今に至ります。

最後に、自分が大好きな本は続きが気になって時間を忘れてひたすら読み続けてしまった、といった経験がある方も多いと思います。もし仮に、LLMでそう言った作品を簡単に生み出せるようになったら世界はとんでもないことになるんじゃないか、そんな危機感も同時に感じました。

まとめ

今回の記事のまとめとしては、下記の通りでしょうか。

  • MN-magnum-v2.5-18.5B-kto-InstructというLLMモデルを使ってショートストーリーを書いてもらったら、予想以上に面白かった。
  • 生成AIがこのレベルのショートストーリを描けることに感動するとともに、少しばかりの恐怖を感じた。
  • これは、画像生成AIに初めて出会ったときの再構成の感覚と似ているかも知れない。

仮にLLMが傑作を量産する世界が来たとき、人は何を選択するのか、すごく気になりますね。

ここまで見ていただきありがとうございました。次回もぜひ、よろしくお願いします。

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