一度定義すれば、どこでも使える。Databricks Metrics Viewsがもたらすデータ分析の革命
データ分析の「共通言語」を生み出すDatabricks Metrics Views ~サンプルコードで体感するビジネス指標の一元管理~
データ分析の現場でよくある悩み:「同じ『売上』という指標なのに、部署によって数値が違う…」。データエンジニアは複雑なSQLのメンテナンスに追われ、アナリストは毎回長いクエリを書くことに時間を取られる。こんな悪夢のような状況を解決するのが、Databricksが提供する Metrics Views です。
この記事では、Metrics Viewsが解決する課題を具体例で示し、サンプルデータを使いながら実際の作成手順から活用方法、導入前に知っておくべき実践的なポイントまでを順を追って解説します。
データ分析の共通課題:なぜMetrics Viewsが必要なのか?
多くの組織で見られる典型的な問題点:
- 指標の定義がバラバラ:「総売上」の計算方法が部署や担当者によって異なり、会議で同じ数字が合わない
-
クエリの重複と複雑化:分析のたびに、複雑な
JOINやCASE文を含む長いSQLを一から書く必要がある - 修正作業の非効率性:指標の定義が変わると、関連するすべてのクエリを探して修正する必要がある
Metrics Viewsは、これらの問題を解決するビジネス指標の共通プラットフォームです。重要なビジネスロジックを一元管理することで、誰もが同じ定義でデータを活用できるようになります。
ハンズオン:Metrics Viewsを実際に使ってみよう
実際にサンプルデータを使用して、Metrics Viewsの作成から利用までの流れを体験してみましょう。
ステップ1:準備作業
まず、作業用のスペースを作成します。ここではDatabricksに標準で用意されている注文データを使用します。
-- 作業用のデータベースを作成
CREATE CATALOG IF NOT EXISTS main;
USE CATALOG main;
CREATE SCHEMA IF NOT EXISTS demo_metrics;
USE SCHEMA demo_metrics;
ステップ2:Metrics Viewの定義
Metrics Viewの核心部分です。YAML形式でビジネス指標を定義します。
- dimensions(分析の切り口):月次、ステータスなど、データを分類する軸
- measures(集計指標):件数、売上額など、実際に計測する数値
CREATE OR REPLACE VIEW demo_metrics.order_metrics_view
WITH METRICS
LANGUAGE YAML
COMMENT '注文データのメトリクスデモ'
AS $$
version: 0.1
source: samples.tpch.orders -- 元となるテーブル
filter: o_orderdate >= '1993-01-01' -- 対象データのフィルター
dimensions:
- name: Order Month -- 月次分析用の切り口
expr: DATE_TRUNC('MONTH', o_orderdate)
- name: Order Status -- 注文ステータス(わかりやすい名前に変換)
expr: CASE
WHEN o_orderstatus='O' THEN 'Open'
WHEN o_orderstatus='P' THEN 'Processing'
WHEN o_orderstatus='F' THEN 'Fulfilled'
END
measures:
- name: Order Count -- 注文件数
expr: COUNT(1)
- name: Total Revenue -- 総売上
expr: SUM(o_totalprice)
- name: Revenue (Open Orders) -- 「受付中」注文の売上
expr: SUM(o_totalprice) FILTER (WHERE o_orderstatus='O')
$$;
これで、複雑なビジネスロジックが組み込まれたMetrics Viewが完成しました。
ステップ3:従来の方法とMetrics Viewsの比較
「1995年の月別総売上」を求める場合の違いを見てみましょう。
従来の方法(複雑でミスが起こりやすい)
SELECT
DATE_TRUNC('MONTH', o_orderdate) AS order_month,
SUM(o_totalprice) AS total_revenue
FROM
samples.tpch.orders
WHERE
o_orderdate >= '1993-01-01'
AND EXTRACT(YEAR FROM o_orderdate) = 1995
GROUP BY
order_month
ORDER BY
order_month;
Metrics Viewsを使用(シンプルで直感的)
SELECT
`Order Month`,
MEASURE(`Total Revenue`) AS total_revenue
FROM
demo_metrics.order_metrics_view
WHERE
EXTRACT(YEAR FROM `Order Month`) = 1995
GROUP BY ALL
ORDER BY
`Order Month`;
得られる結果は同じですが、後者は圧倒的に読みやすく、メンテナンスも容易です。
ステップ4:より複雑な分析での比較
「月別・ステータス別の注文件数」のような複雑な分析でも、その差は明確です。
従来の方法
SELECT
DATE_TRUNC('MONTH', o_orderdate) AS order_month,
CASE
WHEN o_orderstatus='O' THEN 'Open'
WHEN o_orderstatus='P' THEN 'Processing'
WHEN o_orderstatus='F' THEN 'Fulfilled'
END AS order_status,
COUNT(1) AS orders
FROM
samples.tpch.orders
WHERE
o_orderdate >= '1993-01-01'
AND EXTRACT(YEAR FROM o_orderdate) = 1995
GROUP BY
order_month,
order_status
ORDER BY
order_month,
order_status;
Metrics Viewsを使用
SELECT
`Order Month`,
`Order Status`,
MEASURE(`Order Count`) AS orders
FROM
demo_metrics.order_metrics_view
WHERE
EXTRACT(YEAR FROM `Order Month`) = 1995
GROUP BY ALL
ORDER BY ALL;
ステップ5:後片付け(任意)
検証が終わったら、環境を整理しましょう。
DROP VIEW IF EXISTS demo_metrics.order_metrics_view;
DROP SCHEMA IF EXISTS demo_metrics;
実践的な導入に向けた考慮点
Metrics Viewsは強力なツールですが、以下の点を事前に検討する必要があります。
- プラットフォーム依存性:Databricks環境に特化した機能であるため、他のデータプラットフォームへの移行を検討している場合は注意が必要です。
- 既存ツールとの統合:LookerやPower BIなど、既にセマンティックレイヤー機能を持つツールを使用している場合、役割分担を明確にする必要があります。
- 開発プロセスの確立:Metrics Viewsの定義は重要な資産です。Gitを使ったバージョン管理や、CI/CDパイプラインの構築が望ましいです。
- 組織のデータ戦略との適合:BIツール側にロジックを集中させる方針との整合性を検討しましょう。
まとめ:データドリブン文化の基盤として
Metrics Viewsは、単なる技術的な機能ではなく、組織のデータ活用を根本から変える可能性を秘めています。
- 一貫性の確保:全社で統一された指標定義による信頼性の高い分析
- 生産性の向上:複雑なSQLから解放され、本質的な分析に集中可能
- 保守性の向上:ロジック変更が一箇所で完結する効率的なメンテナンス
DatabricksのMetrics Viewsを活用することで、データエンジニアとアナリストの協力関係を強化し、真のデータドリブンな組織作りを推進しましょう。
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