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リモートワークでZoomとSlackを使い分ける基準/Microsoftの大規模調査を参考に

2021/09/14に公開

VTeacher所属の Masaki Suzuki です。

はじめに

ご存知の方も多いと思いますが、先日(9/9)、natureに衝撃的な記事が公開されました。

2019年12月から2020年6月までの61,182人の米国マイクロソフト従業員のコミュニケーション慣行を説明する匿名化された個人レベルのデータを分析。マイクロソフト社が全社的なリモートワークに移行する前後のデータです(従業員のコミュニケーションメディアの選択に関するデータは、2020年2月)。

https://www.nature.com/articles/s41562-021-01196-4

メディアやTwitterでは、偏った(乱暴な?)結論が見受けられたので、原文を読みながら調査結果を丁寧に確認していこうと思います。

気になるところを抜粋

重要な調査結果は次の2点ではないでしょうか?

  1. 「リモートワークでも問題ない、むしろ成果が上がることも少なくない」
  2. 「しかし、もともと信頼関係が築けていない(人や部署の)場合、リモートだと悪化する」

2点目。そこは従来、対面にて(強要的に)カバーしてきたところ。
リモートワークだと「上下関係を利用した(体育会系的な)圧力」が通じないのでしょう。
(リモートなら音量を小さくできる、既読スルーができる)

重要なキーワード

  • Knowledge OR Information (それは知識か情報か)
  • Sync OR Async (コミュニケーションの同期・非同期)
  • Weak tie OR Strong tie (信頼関係の強・弱)

では、リモートワークは「Zoomか?Slackか?」について。
具体的には次のようになるでしょう。

Knowledge 同期 Teams/Zoom等 Infomation 非同期 Slack/メール等
出社連絡
遅刻連絡
休憩連絡
デイリースクラム △ ※信頼関係が築けていない場合
作業報告
レビュー ○ ※問題解決を含むもの
全社集会
進捗MTG
面談 ○ ※問題解決を含むもの
退社連絡
休暇連絡
社員研修

※注意
Slackを電話と同等の同期ツールとして扱ってはいけません。
Slackのビデオ通話機能は同期ツールですが、通常のチャットは非同期ツールです。
また、SlackをTeams,Zoom等の同期ツールの補助的なものとして扱ってはいけません。

では、原文を引用して確認していきます。

👉 「Teams/Zoom、Slack、メールを用途で分けていますか?」

引用(+翻訳)

Strong tie (強い絆) / Weak tie (弱い絆)

Two people connected by a strong tie can often transfer information more easily (as they are more likely to share a common perspective), to trust one another, to cooperate with one another, and to expend effort to ensure that recently transferred knowledge is well understood and can be utilized10,13,14,15. By contrast, weak ties require less time and energy to maintain8,16 and are more likely to provide access to new, non-redundant information8,17,18.

強い絆で結ばれた二人の人間は、(共通の視点を持つ可能性が高いため)より簡単に情報を伝達することができ、互いに信頼し、協力し合い、最近伝達された知識がよく理解され、活用されるように努力することが多い。対照的に、弱い絆は、維持するために必要な時間とエネルギーが少なく、新しい、非冗長な情報へのアクセスを提供する可能性が高い。

当たり前のことですが、阿吽の呼吸ができているビジネスパートナーであれば、どこで作業していても問題はないでしょう。重要なことは「対面は弱い絆をカバーすることに貢献している」ことです。とはいえ、社員たちの「絆の強・弱」を明確にすることは難しいでしょう。とくに日本の文化ですと、「あの人は信頼できません」・「あそこの部署とは仲が悪いです」と正直に言える人はいないと思います(もし言ってしまったら、教育的指導を受けることになるでしょう)。

On the theoretical front, media richness theory26,27 posits that richer communication channels, such as in-person interaction, are best suited to communicating complex information and ideas.

理論的な面では、メディアリッチネス理論は、複雑な情報やアイデアを伝えるには、対面での対話など、より豊かなコミュニケーションチャネルが最適であると仮定しています。

Moreover, media synchronicity theory28 proposes that asynchronous communication channels (such as email) are better suited for conveying information and synchronous channels (such as video calls) are better suited for converging on the meaning of information.

また、メディアシンクロニシティ理論では、情報の伝達には電子メールなどの非同期的なコミュニケーションチャネルが適しており、情報の意味を収束させるにはビデオ通話などの同期的なチャネルが適しているとしている。

メディアリッチネス理論 / メディアシンクロニシティ理論

急に難しくなってきました。

  • メディアリッチネス理論

管理情報行動の間にはジレンマが存在します。管理者は、学習要件が高い場合はリッチな口頭メディアを好み、学習要件が低い場合はリッチでない書面メディアを好む傾向があります。なぜ組織は情報を処理するのか。管理者にとっての1つの意味は、主要な問題はデータの不足ではなく、明確さの欠如であるということです。

Lengel, R. H. & Daft, R. L. An Exploratory Analysis of the Relationship Between Media Richness and Managerial Information Processing. Technical Report (Texas A&M Univ. Department of Management, 1984).Return to ref 26 in article
Daft, R. L. & Lengel, R. H. Organizational information requirements, media richness and structural design. Manage. Sci. 32, 554–571 (1986).
  • メディアシンクロニシティ理論

メディアシンクロニシティ理論は、メディアがシンクロニシティをサポートする能力に焦点を当てています。これは、個人が協力する際の協調行動の共有パターンです。メディア同期性理論は、伝達プロセスの場合、より低い同期性をサポートするメディアを使用すると、パフォーマンスが向上するはずであると提案しています。コンバージェンス(問題の収束)プロセスの場合、より高い同期性をサポートするメディアを使用すると、パフォーマンスが向上するはずです。

Dennis, A. R., Fuller, R. M. & Valacich, J. S. Media, tasks, and communication processes: a theory of media synchronicity. MIS Q. 32, 575–600 (2008).

Knowledge transfer (知識・ノウハウの伝えかた)

For example, previous research has shown that establishing a rapport, which is an important precursor to knowledge transfer, is impeded by email use29, and that in-person and phone/video communication are more strongly associated with positive team performance than email and instant message (IM) communication30.

たとえば、これまでの研究では、知識移転の重要な前段階である信頼関係の構築が、電子メールの使用に よって妨げられることが示されている。また、電子メールやインスタントメッセージ (IM) によるコミュニケーションよりも、対面や電話/ビデオによるコミュニケーションのほうが、チームのパフォーマンスの向上と強く関連することが示されている。

整理します。

  • 学習要件が高い場合はリッチな口頭メディア
  • 学習要件が低い場合はリッチでない書面メディア
  • 伝達が目的の場合、非同期メディアのほうが、パフォーマンスが良い
  • 問題収束が目的の場合、同期メディアのほうが、パフォーマンスが良い
  • 知識の移転は、同期メディアのほうがパフォーマンスが良い

次にリモートワークにおいて、最大の課題とされる「Weak tie (弱い絆)」について、原文を引用して確認していきます。

👉 「苦手なあの人・あの部署とどのようにリモートでやるか」

引用(+翻訳)

ひとりだけリモートより、周りの人もリモートを

One benefit of our empirical approach is that it enables us to decompose the causal effects of firm-wide remote work into two components: the direct effect of an employee working remotely on their own work practices (ego effects) and the indirect effect of all an employee’s colleagues working remotely on that employee’s work practices (collaborator effects).

我々の実証的なアプローチの利点は、企業全体のリモートワークの因果効果を2つの要素に分解できることである。すなわち、従業員がリモートワークをすることで自分自身の仕事のやり方に与える直接的な効果(エゴ効果)と、従業員の同僚がリモートワークをすることでその従業員の仕事のやり方に与える間接的な効果(コラボレーター効果)である。

Notably, the remote work status of an employee and that employee’s collaborators both contributed to the total effect of firm-wide for most network outcomes.

注目すべきは、従業員のリモートワークの状態とその従業員の協力者の両方が、ほとんどのネットワークの結果において、「会社全体」の効果に寄与していることである。

ひとりでリモートワークよりも、周りの人もリモートワークのほうが、高い成果が出たとのこと。

ただし、

Overall, we found that collaborators switching to remote work caused workers to spend less time attending to sources of new information, communicate more through asynchronous media and work longer hours.

全体的に見ると、共同作業者がリモートワークに切り替えることで、新しい情報源に注意を払う時間が短くなり、非同期メディアでのコミュニケーションが増え、労働時間が長くなることがわかりました。

Not only were the communication media that workers used less synchronous, but they were also less ‘rich’ (for example, email and IM). These changes in communication media may have made it more difficult for workers to convey and process complex information26,27,28.

ワーカーが使用するコミュニケーションメディアは、同期性が低いだけでなく、電子メールやIM(注:インスタントメッセンジャー。例えばSlack)のようなリッチではないものでした。こうしたコミュニケーションメディアの変化により、ワーカーは複雑な情報を伝え、処理することが難しくなったのかもしれない。

自己への没入のためか、
「コミュニケーションツールがSlackやメールだけになってしまいがち」との結果。

リモートワークで発生する「サイロ化」

These results, in conjunction with our finding that firm-wide remote work reduced workers’ cross-group interactions, also suggest that firm-wide remote work caused the collaboration network to become more siloed, both in a formal sense and in an informal sense.

これらの結果は、企業規模の大きいリモートワークがワーカーのグループ間の相互作用を減少させたという我々の発見と合わせて、企業規模の大きいリモートワークがコラボレーション・ネットワークを、フォーマルな意味でもインフォーマルな意味でも、よりサイロ化させたことを示唆している。

  • サイロ化(silos)

システムや業務プロセスなどが、他のアプリケーションや他事業部や部門との連携を持たずに自己完結して孤立してしまう状態のことをいう。データのサイロ化とは組織とシステムの両面でデータが分散している状態です。

リモートワークで問われる「自分以外は無関心状態」

In other words, firm-wide remote work caused an overall decrease in the number of cross-group interactions and the fraction of attention paid to groups other than one’s own.

つまり、企業全体でリモートワークを行うと、グループを超えた交流の数と、自分のグループ以外のグループに注意を払う割合が全体的に減少した。

全部署がリモートワークになると、自分や自分が所属するチームの作業に集中できるが、その分、他部署とのコミュニケーションが疎かになってしまうとのこと。

ツールでの解決を試みるなら 「Weak tie ほど、リッチ(Zoomや電話で)コミュニケーションをとる」 でしょうか。

これ、不思議なものですが、気を使う間柄の場合、人の顔が「見える」と「見えない」で、とる行動が変わってしまう場合があります。たとえば、隣の住民の顔を知らないと、想像力が働かず、まるで自分しか住んでいないような行動をとってしまいがちになる。隣の人を見たときに(言葉は交わさなくとも)、「思いやり」が生まれて、近所迷惑を意識するそうです。目だけを描いた犯罪防止用のシールもありますね。Deep fake の有益な活用時例になり得るのではと思ってしまいます。

所感

そもそも、Weak tie になっている状態が問題ってのは言うまでもないですが・・・。
Strong tie について、レポートの中では「共通のゴールを向いている」と解釈できる言葉で説明されています。

Two people connected by a strong tie can often transfer information more easily (as they are more likely to share a common perspective), to trust one another, to cooperate with one another, and to expend effort to ensure that recently transferred knowledge is well understood and can be utilized10,13,14,15. By contrast, weak ties require less time and energy to maintain8,16 and are more likely to provide access to new, non-redundant information8,17,18.

強い絆で結ばれた二人の人間は、(共通の視点を持つ可能性が高いため)より簡単に情報を伝達することができ、お互いに信頼し、協力し、最近伝達された知識がよく理解され、活用されるように努力することが多い。対照的に、弱い絆は、維持するために必要な時間とエネルギーが少なく、新しい、非冗長な情報へのアクセスを提供する可能性が高い。

最近ですと、新入社員・中途採用・業務委託も初出社がリモートワークであることは珍しくないでしょう。その場合、よくやりがちなのが、「自宅でもできること」を上司が探してあげることですが、そうではなく「会社としてのゴールを植え付けていく」ようにしましょう。そのあとに「チームのゴール」を示しましょう。チームのゴール設定がどのように会社のゴールにつながるのかを上手に説明できなければ、すぐに新入社員とのディスカッションが始まると思います。でもこれが大事です。この積み重ねが信頼関係の構築(Strong tie)につながります。

もし、あなたの職場にリモートワークが導入されていないのであれば、それはあなたのリーダーが、自身の人望の無さを自覚しているのかもしれません。


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https://apps.apple.com/app/vteacher/id1435002381

フルリモートの仕事があれば、受け付けておりますので(稼働状況によりますが)、ご連絡くださいませ!

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