未踏ジュニア、伝わる提案書を作る 5 つのコツ
(未踏ジュニアに応募する小中高・高専生向け)伝わる提案書を作るコツを紹介します。
筆者は 2016 年からメンターとして未踏ジュニアに携わっています。未踏ジュニアは個々のメンターによる指名制で採択者を決定するため、ここに書かれている以外にも多様な基準や価値観で審査が行われます。したがって、この記事は未踏ジュニアを代表するものではなく、個人の見解です。
未踏ジュニアについて
17 歳以下のクリエータを支援
未踏ジュニアは、17 歳以下の独創的なソフトウェア・ハードウェア開発者に対し、約半年間にわたり最大 50 万円の開発費や技術メンタリング、人的交流などの支援を行うことで、若いクリエータの育成とネットワークの形成を促す取り組みです。経済産業省所管の情報処理推進機構 (IPA) の事業である未踏事業の OB・OG および関係者らが主体となって、2016 年から運営を続けています。
- 未踏ジュニア Web サイト: https://jr.mitou.org/
- 未踏ジュニア 過去の採択プロジェクト: https://jr.mitou.org/projects/
- 2019 年度の成果報告会: https://www.watch.impress.co.jp/kodomo_it/news/1219499.html
- 2020 年度の成果報告会: https://www.watch.impress.co.jp/kodomo_it/news/1300787.html
採択までの手順
未踏ジュニアに採択されるには、自身もしくはグループが提案するプロジェクトの計画をまとめた「提案書」を応募し、書類審査と面接審査を通過する必要があります。
- 未踏ジュニア 応募の手引き: https://jr.mitou.org/guideline
- 未踏ジュニア よくある質問: https://jr.mitou.org/#faq
応募者がつまずきやすいポイント
しかし
- 新しいアイデアを考える
- アイデアを伝える提案書を書く
というスキルは、小中学校で学ぶ機会が少なく、せっかく優れたコンピュータ技術や課題発見能力を持っていても、それを具体的なアイデアや提案書にステップアップさせる段階でつまずいてしまう人が毎年多く見受けられます。
提案書をレベルアップさせる 5 つのコツ
この記事では、自身のアイデアを整理し「伝わる」提案書を作るうえで、筆者が大事だと思う 5 つのポイントを紹介します。
✅ 1. 自分(自分たち)が主体となって進められることを示そう
未踏ジュニアで取り組むプロジェクトは、自分(自分たち)の力で進めることが原則です。未踏ジュニアに採択された初日に担当メンターが UFO にさらわれて行方不明になっても、プロジェクトが止まってはいけません。
メンターは困ったときに相談にのってくれたり、課題を一緒に考えてくれたりしますが、未踏ジュニアは学校や塾と違って、最初から最後まで答えを教えてくれる場ではありません。あくまでもクリエータが主体となってプロジェクトを進めるのをサポートする立ち位置です。
したがって、今この時点で、プロジェクトについて何から着手すれば良いのか自分でわかっていない状態であれば、まずは次のような準備をしましょう。
- どのような方法を使えば実現できるか調べる。詳しい人に相談する
- 本やインターネットで開発技術を勉強する
- 機能のほんの一部でも実現する プロトタイプ(試作品) を作る
- 自身の今の技術レベルで実現できるよう、目標を調整する
とくにプロトタイプは、何ページも書かれた提案書よりも雄弁に「自分(自分たち)の力で進められる」という主張ができる強力な武器です。作らないのは損です。
✅ 2. 提案タイトルで「領域」「目的」「手段」を説明しよう
提案タイトルは、審査をする人が最初に目にする項目です。タイトルに要点がまとまっていると、書類の中身に興味を持ってもらいやすくなります。
タイトルに含めると良い項目は以下の 3 つです。
-
領域: ジャンル、分野
- 例: SNS, 地図、メモ帳、メディアアート、プログラミング言語、パズルゲーム、楽器、掃除ロボット、開発環境、日記、キーボード、学習用アプリ…(無限にあります)
- 目的: 何ができるか、機能
- 手段: どのような「装置」「材料」「ルール」「仕掛け」「戦略」で目的を実現するか
手段と目的が同じことの言い換えにならないよう注意します。
架空の提案を題材に、具体例を見てみましょう。
Twitter を世界で初めて提案する人
提案タイトル | 領域 | 目的 | 手段 | コメント |
---|---|---|---|---|
内容を全く想像できません | ||||
つぶやき SNS | SNS | つぶやきとは何なのかわかりません。声を投稿するのでしょうか。目的も手段も書かれていません | ||
気軽な SNS | SNS | 気軽 | 何が気軽なのかわかりません。気軽さを実現する手段が書かれていません | |
簡単に投稿できて、出来事や気持ちを気軽に共有できる SNS | SNS | 簡単に投稿 / 出来事や気持ちを気軽に共有 | 「簡単に投稿≒気軽に共有」です。手段が書かれていません | |
140 字以内のテキストや画像を投稿して、出来事や気持ちを気軽に共有できる SNS | SNS | 出来事や気持ちを気軽に共有 | 140 字以内のテキストや画像を投稿(ルール) | 3 項目そろっていて提案内容がわかりやすいです |
リニアモーターカーを世界で初めて提案する人
提案タイトル | 領域 | 目的 | 手段 | コメント |
---|---|---|---|---|
リニアモーターカー | 内容を全く想像できません | |||
高速に走行できる乗り物 | 乗り物 | 高速に走行 | 車なのか船なのか飛行機なのかわからないので、もう少し領域を絞りましょう。手段が書かれていません | |
高速に走行し、目的地に早く到達できる鉄道 | 鉄道 | 高速に走行 / 目的地に早く到達 | 「高速に走行≒目的地に早く到達」です。手段が書かれていません | |
磁力で浮上する鉄道 | 鉄道 | 磁力で浮上(装置) | なぜ磁力で浮上させる必要があるのか目的がわかりません | |
磁力で浮上して高速に走行できる鉄道「リニアモーターカー」 | 鉄道 | 高速に走行 | 磁力で浮上(装置) | 3 項目そろっていて提案内容がわかりやすいです |
YouTube に動画おすすめ機能を世界で初めて提案する人
提案タイトル | 領域 | 目的 | 手段 | コメント |
---|---|---|---|---|
動画おすすめ AI | 動画 | おすすめ | 動画をどのようにおすすめするのかわかりません。「AI」という言葉は「コンピュータで何とかする」と同じで手段の説明になっていません | |
動画をおすすめして、好みの動画を見つけられる推薦システム | 推薦システム | 動画をおすすめ / 好みの動画を見つけられる | 「動画をおすすめ≒好みの動画を見つけられる」です。手段が書かれていません | |
過去の視聴履歴をもとにユーザの好みを推測し、ユーザの関心に近い動画を提示する推薦システム | 推薦システム | ユーザの関心に近い動画を提示 | 過去の視聴履歴をもとにユーザの好みを推測(戦略) | 3 項目そろっていて提案内容がわかりやすいです |
では、あなたの提案も、次のシートの一番下に書いてみましょう。
提案タイトル | 領域 | 目的 | 手段 |
---|---|---|---|
140 字以内のテキストや画像を投稿して、出来事や気持ちを気軽に共有できる SNS | SNS | 出来事や気持ちを気軽に共有 | 140 字以内のテキストや画像を投稿 |
磁力で浮上して高速に走行できる鉄道「リニアモーターカー」 | 鉄道 | 高速に走行 | 磁力で浮上 |
過去の視聴履歴をもとにユーザの好みを推測し、ユーザの関心に近い動画を提示する推薦システム | 推薦システム | ユーザの関心に近い動画を提示 | 過去の視聴履歴をもとにユーザの好みを推測 |
📝 |
このシートを見ると
- 「【手段】して【目的】する / できる【領域】」
- 「【目的】するために【手段】する【領域】」
と並べるだけで、過不足のない明快なタイトルが自然と導き出せることがわかります。
✅ 3. 提案と同じような目的で作られたものを調べよう
提案書には、自身の提案と類似するものとの比較が必要です。それを書かないと審査時に「すでに ○○ があるから作らなくてもいい」「既存の ○○ のことを知らないのは調査不足だ」と判断されてしまうおそれがあります。
「類似するもの」とは何でしょうか。どのように探せば良いのでしょうか。それを考えるのに便利なのが次のシートです。(2.) で決めた「領域」やその周辺領域において、同じような「目的」で作られたものを探して書き出します。それが「類似するもの」です。このシートの一番下に、あなたの提案について書いてみましょう。
提案 | 領域、 周辺領域 |
目的 | 同じような目的で作られたもの |
---|---|---|---|
SNS, ウェブ | 出来事や気持ちを気軽に共有 | ブログ、電子掲示板、Facebook, E メール | |
リニアモーターカー | 鉄道、交通 | 高速に走行 | 新幹線、高速道路、飛行機 |
動画推薦システム | 推薦システム | ユーザの関心に近い動画を提示 | 再生リスト、Amazon の商品おすすめ、映画館で上映前に流れる予告 CM |
📝 |
リニアモーターカーを提案する人は、類似するものとして新幹線を挙げるだけでは不十分です。領域を「交通」と広げれば、高速道路や飛行機も含まれます。あなたの提案に類似するものが 1 つしか見つからない場合は、このように領域を少し広げて考えます。
「同じような目的で作られたもの」を複数挙げることができたら、提案書では、自身の提案とそれらとの違い、それぞれの利点と欠点、自身の提案にも応用できる要素を考察し説明します。
もし「同じような目的で作られたもの」にあてはまる物がない場合、「ラッキー!」と喜んではいけません。
- A. 既存の事例の調査不足(提案者の知識不足)
- B. その領域において、そうした目的に人々が関心を持っていない
- C. その領域に人々が関心を持っていない
のいずれかであることを示しているからです。
A の場合、インターネット検索や過去のニュースの調査、英語での検索、専門家への相談などを行うと良いでしょう。それでも見つからない場合は B や C ということです。なぜ今人々が関心をもっていないのかを分析し、自身の提案によって人々が関心を持ち始めるということを提案書で説明しなければいけません。説得する必要がある分、難易度が高くなります。
✅ 4. 想定される問題を洗い出して対策を書こう
自身の提案を次のような視点で考えて、思いつく問題点を書き出してみましょう。
視点 | 例 |
---|---|
非効率 | 得られる価値よりも面倒が大きい そのシステムを導入・習得・利用する時間やお金を別のことに使えば本来の目的を達成できてしまう |
規模を拡大できない | 利用者が数人~数十人のうちは運用できるが、百~千人以上になると成り立たなくなる |
安全でない | 使い方によってはケガや火傷を負う 有毒物質が発生する |
衛生的でない | 食品を扱うのに雑菌が繁殖する 感染症対策と相性が悪い |
壊れやすい | 少しの衝撃で破損・故障する |
身体に負担がかかる | 身体の部位に長時間負担をかける 目が疲れる |
免許や許諾が必要 | 免許や資格が必要な業務を行う 自治体等の許可が必要なことを行う |
法律違反や契約違反 | 著作権法に違反する 第三者のサービスの利用規約に違反する |
倫理的な問題がある | 犯罪ではないが社会に迷惑をかける 人権侵害やプライバシー侵害につながる |
犯罪を誘発する | 悪質なユーザがサービスを不正に使うと誰かが迷惑や被害を被る |
これらの問題があっても直ちに NG というわけではありません。例えば「規模を拡大できない」サービスでも、少数の人たちを対象とするのであれば困りません。開発中のものは「壊れやすい」のは当然です。実用化のためにいろいろな「許諾が必要」なケースでも、チャンスが得られるまで可能な範囲で実験を行い、プロジェクトを前進させ、その成果を発表することができます。
自身の提案に問題点を見つけたとき、それを提案書に書かないのはおすすめしません。問題の予測能力や想像力・調査力が不足していると思われてしまうためです。自身のプロジェクトの問題点を的確に分析し、考えられる対策、必要な助けまで書くのが立派な提案書だと思います。
未踏ジュニアやそれを支える未踏のコミュニティには様々な専門家や企業の人たちがいます。たとえ厄介な問題であっても、驚くほど簡単に解決したり、提案者が予想もしなかったような代替案を導き出してくれたりする人がいるかもしれません。メンターもできる限りの方策を一緒に考えてくれるので、安心して相談してください。
✅ 5. 提案がどのような未来を作るのか、具体例を書こう
あなたの提案が実現することで
- 誰かが嬉しくなる
- 楽しくなる
- 便利になる
- 何かが活発になる
という未来のビジョンやシナリオを具体的に示しましょう。
例えば、ある登場人物がいて、その人があなたの提案システムを使うことでどうなるのかを物語風に記述するのも良いでしょう。そのようなストーリーを複数書くのも良いでしょう。審査する人がどれかに共感すれば、応援してもらえる可能性が高くなります。このとき、様々な背景、立場の人を想定するのがポイントです。例で登場した「動画の推薦システム」であれば、
- 動画を視聴する人
- 動画を配信する人
それぞれにどのように役に立つのかを説明できると、より多くの価値を伝えられます。
次は 2022 年
この記事では、未踏ジュニアに応募する小中高・高専生に向けて、アイデアを整理し「伝わる」提案書を作る 5 つのコツを紹介しました。提案の内容によっては、これらのアドバイスが当てはまらない場合もあるでしょう。そのようなときは、自身の提案書の改善に役立ちそうなところを参考にしてください。
2021 年度の未踏ジュニアの募集には多くの応募をいただきました。来年 2022 年度の募集に向けて、対象の人たちは今から準備を進めましょう。今年の未踏ジュニアが最後のチャンスだった人は、IPA 未踏にチャレンジしましょう。
- 未踏ジュニア: https://jr.mitou.org/
- 17 歳以下が対象
- IPA 未踏 IT 人材発掘・育成事業: https://www.ipa.go.jp/jinzai/mitou/it_index.html
- 25 歳以下が対象
未踏ジュニア関連で参考になる記事
ほかにも、未踏ジュニアのメンターが、応募者向けに新しいアイデアや提案書の作り方のアドバイスを発信しています。
- 未踏ジュニア メンター 寺本さんの記事
- 未踏ジュニア メンター 安川さんの動画
- 未踏ジュニア メンター 西尾さんの記事
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