バッファ係数に正解はあるのか──案件規模ごとに変わる“感覚値”との向き合い方
はじめに
こんにちは。Rehab for JAPAN リハプランチームの杉本です。
今回は、見積もりや進行の中で感じた「バッファ係数」の話を書いてみます。
プロジェクトを進めていく中で、「見積もりの精度」について悩む場面は多々あります。
特に「バッファをどのくらい乗せるか」という判断は、人によって基準が異なり、共通認識を持つのが難しい部分でもあります。
本記事では、これまでの案件経験を振り返りながら、バッファ係数の考え方を整理し、案件の特性や作業規模に応じた“感覚的なモデル”を共有します。
バッファ係数は状況に応じて自然と変化する
バッファをどれくらい取るかは、案件の構成や関係者の性質、過去の学びなどをもとに個別に判断しています。
たとえば以下は一例です:
- ある案件(A)では、設計や実装範囲が比較的明確だったため、15%程度のバッファを設定。
- 別の案件(B)では、関係者や調整の多さから、20%以上のバッファを設定。
ここで言いたいのは、工数やチーム規模といった“見かけのサイズ感”だけではなく、
不確実性や関係性の複雑さといった要素が、バッファの判断に強く影響するということです。
案件規模別のバッファ係数(体感)
案件規模 | 特徴 | バッファ係数の傾向 |
---|---|---|
小規模 | スコープが明確で単独対応が可能 | 0〜10% |
中規模 | 画面数や関係者が増え調整が必要 | 10〜15% |
大規模 | 複数チーム、外部ステークホルダー含む | 20〜25%以上 |
この分類はあくまで“感覚値”です。
ですが、規模が大きくなるほど、計画外の変化が発生しやすくなる傾向は一貫して見られます。
作業の粒度による係数の考え方(仮の例を通じて)
案件全体とは別に、作業単位の粒度によっても、必要なバッファ感覚は変わってきます。
以下は実体験ではなく、「仮にこういうケースならどうするか」という例を通じた整理です。
-
数日〜1週間の短期作業
→ やるべきことが明確で仕様も安定。バッファはごくわずか、0〜5%程度。 -
1〜2週間の機能開発
→ 要件調整が起こりうる場合、10%程度の余裕があると安心。 -
2か月以上の中規模〜大規模な開発
→ レビューや仕様変更、外部調整が発生しやすく、15〜20%程度のバッファを設定することもある。 -
複数チームが同時並行で動くケース
→ 調整や仕様ブレの吸収を前提に、20%以上の余白を設けておくのが安全。
こうした感覚を“言語化”しながら進めることで、見積もりの精度は徐々に上がっていきます。
肌感を信じて成功したエピソード
最近取り組んだ大規模の案件では、事前に以下のような「不確実な要素」が見えていました。
- 要望が抽象的で仕様が確定しきっていない
- プロトタイプを見てから仕様が変わる傾向がある
- 非エンジニアとのやり取りや判断が多く、意思決定が揺れやすい
そのため、20%以上のバッファを設定したところ、実際に仕様変更が何度も発生しましたが、予定内で無理なく吸収でき、スムーズにリリースできました。
バッファが仕様変更で消費されることも多い
過去の案件では、バッファの消費要因として以下のような「仕様寄りの変化」が中心だったことが多くあります:
- 想定外のUI変更や追加要望
- データ連携方式の見直し
- テスト時に発覚した業務フローの調整
もちろん技術的な障害が要因となる場合もありますが、“実装外”のやり取り・変化への余白としてバッファを捉える方が、現実的な設計になると感じています。
おわりに
「バッファ係数に正解はあるのか?」という問いに対して、私はこう考えています。
「明確な正解はないが、そのときどきで“なぜその係数をかけたのか”を説明できる状態にはしておきたい」
バッファの多寡よりも、判断の背景を言語化・共有できているかが、チーム内の信頼や進行の安定に直結します。
本記事が、見積もりや進行判断に悩まれている方のヒントになれば幸いです。
Discussion
バッファ係数の考え方、とても参考になりました。
39年のシステム開発経験から感じることですが、バッファは単なる
リスクヘッジだけでなく、「良いものを作るための創造的な時間」
でもあると思います。
適正なバッファは、チームが心身の健康を保ちながら、試行錯誤や
イノベーションを生む余裕にもなります。木を見て森を見ずに
ならないためにも、俯瞰的な視点を持つ時間は大切ですよね。
スキルギャップによるブレを吸収するバッファも重要ですが、
個々のやりがいや成長の機会を生むバッファという視点も
加わるとより豊かな開発文化が生まれますよね。
素晴らしい記事をありがとうございます。
コメントありがとうございます。
「創造的な時間としてのバッファ」という視点、とても勉強になりました。
リスクヘッジだけでなく、試行錯誤ややりがいにつながる余白という捉え方は、今後さらに意識していけたらと思います。
ご丁寧なご感想、ありがとうございました。
m(_ _)m 応援しています!