「未経験からプロダクトマネージャー」の成長ロードマップ
《本稿は READYFOR Advent Calendar 2024 の15日目の記事です》
自分は、READYFOR株式会社でプレイヤーとして開発チームと働きながら、ロードマップ策定や後進育成を行っています。
そのかたわら東京大学松尾・岩澤研究室のLLM講座を受講して、最終課題で言語モデルのファインチューニングや継続学習に励む毎日です。
はじめに
この記事は、未経験からプロダクトマネージャーとしてのキャリアを志すメンバーのオンボーディングと成長支援のため + 共通言語を作るために、自分の私見をベースにまとめたものです。
もともとは社内向けに作成したものですが、世の中的にも未経験から目指す人が多くなってきていると思うので、アドベントカレンダーを機に加筆修正して公開します。
まずは、プロダクトマネージャー(PdM)に求められる役割やスキルについて概観した上で、エントリーレベルから一般レベルのPdMに成長するまでの道のりの見通しを立てます。
プロダクトマネージャーに要求される役割
PdMは、プロダクト開発に関わる他の職種と比べて、極めて幅広い役割を求められます。
そういう議論でよく取り上げられる「プロダクトマネジメント トライアングル」というモデルがあります。
出典:【翻訳】プロダクトマネジメントトライアングル(原文:Daniel Schmidt, 翻訳:ninjinkun)
「ユーザー」「ビジネス」「開発者」とそれらに囲まれる「プロダクト」の関係性をネットワークとして図示したものです。
詳しくは出典の翻訳記事を読んでいただくのが一番ですが、「ユーザー」「ビジネス」「開発者」の三者の間には空白領域(A〜C)があります。
これらを指しながら、トライアングルの提唱者 Daniel Schmidtは以下のように主張しています。
プロダクトマネージャーはプロダクトネットワークの全ての領域を健全に機能させることに責任を持っている
例えば「開発者」に機能の実装を丸投げすれば、「ユーザー(顧客)」のニーズに合ったものができあがるでしょうか?「ユーザー」にとって理解しやすい、使いやすいものになるでしょうか?
その溝を埋めるには、デザイン・UXリサーチ・カスタマーサポートといったケイパビリティ(能力)が必要になってきます。
このように、空白領域を埋めるケイパビリティの例を示す図が以下です。
出典:プロダクトマネジメントは執念が必要だ(NewsPicks)
他の空白領域も合わせて、必要とされる能力はさまざまです。
こうした間隙は勝手には埋まりません。さまざまな専門性を持つ人たちを結集して、力を合わせる必要があります。
また、多様な人が集まる以上はどうしてもコミュニケーション不足や利害の不一致が生じることは想像に難くありません。
ここでPdMに求められる主な役割が2つあります。
まず、プロダクトビジョンの実現にあたってトライアングルの中で空いている重要な領域を見逃さず、埋めること。
そのために、
- 必要な専門性を持つ人を巻き込む
- もし今いるメンバーだけだと埋まらない領域がある場合、自分でその役割の代わりを務める
という動きをします。
プロダクトや組織が発展途上の場合、専門家は不足することのほうが多いと思います。
こうしたときに生まれる空白をめざとく見つけて対処できることが求められます。
今ではLLMという強力なツールがあるので、専門分野ごとにLLMを使いこなせるだけの前提知識さえ身につければ、自ら対処可能な範囲はどんどん広げていけるでしょう。
そして、もう一つの重要な役割が、トライアングルの中で関わり合う人たちが円滑に相互作用できるようにファシリテートすること。
開発チーム、ステークホルダー、そしてもちろんユーザー。知っていることも話す言葉も異なる多様な人たちのあいだでは、いとも簡単に齟齬やすれ違いが生じます。
領域を埋めるだけではなく,各領域が健全に働き続けるように、
- 情報収集とその分析、可視化、データベース化
- ドキュメンテーション
- チームビルディング
- 会議体設計
などなど、やれる工夫はなんでもやります。
参考資料
- 【翻訳】プロダクトマネジメントトライアングル(原文:Daniel Schmidt、翻訳:ninjinkun)
- 【翻訳】 図解 プロダクトづくりの構造(原文:Daniel Schmidt、翻訳:ykmc09)
- プロダクトマネジメントトライアングルと各社の PM の職責と JD(Taka Umada)
- プロダクトマネジメントは執念が必要だ(NewsPicks)
必要とされる6つのスキル
この役割を果たしながら、プロダクトを成功に導くためにはどんなスキルが必要でしょうか?
世の中を探せばさまざまなスキルマップが見つかりますが、プロダクトマネージャーのスキルを測るアセスメントツール「DIA for PM」では、「戦略立案力」「顧客理解力」「実現力」「発想力」「仮説検証力」の6つを提唱しています。
出典:プロダクト事業をリードするプロダクトマネージャーに必要なスキルと育成方法とは?(及川卓也)
「DIA for PM」においてそれぞれが具体的に何を指すかはアセスメントを受けてみないと正確には分かりませんが、監修者の及川卓也さんの記事・著書を見ると納得感のある言語化がされていたので、自分の解釈も交えて紹介します。
-
戦略立案力
- 自社/競合の強み・弱みを理解し、ビジネスモデル・戦略の構築を行う
- 例: 環境分析, ビジネスモデルキャンバス, バリュープロポジションキャンバス, プロダクトビジョン
-
顧客理解力
- プロダクトが扱うドメインと顧客のペイン・ゲインを理解する
- 例: ユーザーインタビュー, ペルソナ, カスタマージャーニーマップ, ドメイン知識
-
発想力
- データと集合知を活かしながら、解くべき課題・検証すべき仮説・最善の解決策を発想する
- 例: アイディエーション, ブレインストーミング, KJ法
-
仮説検証力
- MVP (実用最小限のプロダクト)を素早くユーザーに届け、そのデータを正しく読み取り改善を進める
- 例: ユーザーストーリーマッピング, データ分析, ABテスト
-
実現力
- 計画を立て、プロダクトを開発し、マーケットへの導入を実現する
- 例: インセプションデッキ, スクラム, 不確実性コーン, プロダクトロードマップ, QA(品質保証), Go-to-Market
-
チーム構築力
- 全員がプロダクトを自分ごととして捉えるチームを構築し、ステークホルダーをまとめる
- 例: チームビルディング, 振り返り, 心理的安全性, ステークホルダーマネジメント
参考資料
- プロダクト事業をリードするプロダクトマネージャーに必要なスキルと育成方法とは?(及川卓也)
- プロダクトマネージャーに必要な“4つの知識と6つのスキル” 目指すために考えたい「自分を客観的に理解する」こと - ログミーTech(及川卓也、北林洋太)
- 『プロダクトマネジメントのすべて 事業戦略・IT開発・UXデザイン・マーケティングからチーム・組織運営まで』(及川卓也、曽根原春樹、小城久美子)
ロードマップ
上記のようなスキルをどのような順序で身につけていくのが良いか、悩むことは多いと思います。
ここでは、その道のりを4つのマイルストーン(M1~4)に分けて整理しました。
- 小規模開発のデリバリー経験を積みながら、知識と信頼関係のベースを築く(目安:3ヶ月後)
- 小〜中規模の機能開発を自律的に推進できるようになる(目安:半年〜1年後)
- 1つのスクラムチームを牽引するプロダクトオーナーの役割を果たせるようになる(目安:1〜2年後)
- もっとその先へ
クラウドファンディングや寄付を事業にしている私たちREADYFORの組織特性を踏まえた上でのロードマップなので、他社ではまた違った道のりがあると思います。
見た目以上に複雑なクラウドファンディング・寄付というドメイン、社内外の業務知識や既存システムへの理解が要求される弊社のプロダクト開発を前進させるには、PdMの幅広い知識・判断力・実行力が重宝されます。
この環境でいち早く価値を発揮できるようになるために、まずは6つのスキルのうち「実現力」を重点的に伸ばし、「顧客理解力」「チーム構築力」と掛け合わせて、スクラムにおける "プロダクトオーナー" としての基盤作りを目指すのが一つの道です。
マイルストーンの各段階ごとにスキルアップ優先度の目安も用意しました。学習の参考に使ってください。
スキル | M1(3ヶ月後) | M2(半年〜1年後) | M3(1〜2年後) | M4 | M5+ |
---|---|---|---|---|---|
戦略立案力 | ☆☆☆☆☆ | ☆☆☆☆☆ | ★★☆☆☆ | ★★★☆☆ | ... |
顧客理解力 | ★★★★☆ | ★★★★☆ | ★★★★☆ | ★★★★★ | ... |
発想力 | ★★☆☆☆ | ★★☆☆☆ | ★★★☆☆ | ★★★★☆ | ... |
仮説検証力 | ★☆☆☆☆ | ★★☆☆☆ | ★★★★☆ | ★★★★★ | ... |
実現力 | ★★★★★ | ★★★★★ | ★★★★★ | ★★☆☆☆ | ... |
チーム構築力 | ★★★☆☆ | ★★★★☆ | ★★★★★ | ★★★☆☆ | ... |
4つのマイルストーン
M1:小規模開発のデリバリー経験を積みながら、知識と信頼関係のベースを築く
目安:3ヶ月後
スキル | 伸ばす優先度 |
---|---|
戦略立案力 | ☆☆☆☆☆ |
顧客理解力 | ★★★★☆ |
発想力 | ★★☆☆☆ |
仮説検証力 | ★☆☆☆☆ |
実現力 | ★★★★★ |
チーム構築力 | ★★★☆☆ |
スクラム理解と、チームの現状理解
- スクラムガイドを精読して、不明点があればPMやチームに聞いて解消する
- いまのチームの動きを観察して、実践されている部分と差異がある部分を認識する
ドメイン知識の吸収
- 事業のバリューチェーン・業務知識を理解する
- プロジェクト実行者はどうやって現れるのか?誰がどうやって連れてくるのか?
- プロジェクトが誰がどうやって作るのか?申請するのか?
- プロジェクトが申請されてから公開されるまでにはどんな動きがあるのか?
- プロジェクトの募集期間中には、誰がどんなことをするのか?
- 募集終了後には何が行われるのか?支援者が払ったお金はどうなるのか?
- プロジェクトは何をもって完了するのか?
- ここまでの流れにおいて、プランごとにどんな差異があるのか?
- READYFORはどのように収益を得ているのか?
- クラウドファンディング以外のサービスでは?
- 継続寄付
- ファンドレイジングサービス
- 基金
- 遺贈寄付
- 社内交流や要件ヒアリングを通じて、主要なステークホルダーとの関係性を作りつつ、各担当領域で何のために(何をKPIに)どんな業務が行われているのかを知る
デリバリー経験を積みながら、チームやステークホルダーとの信頼関係を築く
吸収したドメイン知識を活かしながら、実際にプロダクトバックログアイテムのオーナーを引き継ぎ、開発チームを巻き込んで推進し、ステークホルダーに届けるところまでをまずは2~3周しましょう。
- 開発の背景とともに、要求(誰が何のために何をしたいのか)を定義する(→要求定義完了)
- 開発チームと会話を重ねながら、彼らがストーリーポイントを見積もれるくらいまで要件を詳細化する(→要件定義・見積もり完了)
- 受け入れ条件を定義する(→準備完了)
- プロダクトバックログアイテムを開発するためのスプリントゴールを立てる
- 開発が完了したら、受け入れ条件を満たしているかテストする
- ステークホルダーを招待してデモを行って成果を伝える・フィードバックを得る
M2:小〜中規模の機能開発を自律的に推進できるようになる
目安:半年〜1年後
(半年後までには開発期間2週間前後の小規模開発、1年後までには1〜2ヶ月程度の中規模開発を推進できるように)
- プロダクトバックログアイテムを1から準備完了まで詳細化して、受け入れテスト・リリースまで推進することができるようになる
- 開発規模を大きくしていき、1〜2ヶ月程度の開発期間を要する機能開発までは施策単位のプロダクトオーナーとして自律して開発チームを牽引することができるようになる
- 不具合・障害が発生したときには他のPdMからの支援を受けながら迅速な暫定対応をリードすることができる
スキル | 伸ばす優先度 |
---|---|
戦略立案力 | ★☆☆☆☆ |
顧客理解力 | ★★★★☆ |
発想力 | ★★☆☆☆ |
仮説検証力 | ★★☆☆☆ |
実現力 | ★★★★★ |
チーム構築力 | ★★★★☆ |
M3:1つのスクラムチームを牽引するプロダクトオーナーの役割を果たせるようになる
目安:1〜2年後
- 1つのスクラムチームのプロダクトバックログ全体に責任を負い、部のKPI・ロードマップ、自分/チームの目標・ミッションに貢献・達成できるようになる
- 開発チームとの信頼関係とコミュニケーションを前提に、技術的負債によって将来的に開発速度や品質が低下するリスクと機能開発のバランスを取ることができる
- 不具合・障害が発生したときには適切な範囲で関係者を巻き込み、迅速な暫定対応・振り返り・その後の恒久対応までリードすることができる
スキル | 伸ばす優先度 |
---|---|
戦略立案力 | ★★☆☆☆ |
顧客理解力 | ★★★★☆ |
発想力 | ★★★☆☆ |
仮説検証力 | ★★★★☆ |
実現力 | ★★★★★ |
チーム構築力 | ★★★★★ |
M4:ディスカバリーに集中する時間を増やし、意思決定の質を磨き上げる
デリバリー(開発〜リリース)を開発チームに移譲しながら、ディスカバリー(調査〜施策立案)における専門性を高めていく。
調査と仮説検証のサイクルを素早く回すことで、アウトプット(機能リリース)で終わらずアウトカム(事業にとっての成果)を生み出せる実力を身につけます。
スキル | 伸ばす優先度 |
---|---|
戦略立案力 | ★★★☆☆ |
顧客理解力 | ★★★★★ |
発想力 | ★★★★☆ |
仮説検証力 | ★★★★★ |
実現力 | ★★☆☆☆ |
チーム構築力 | ★★★☆☆ |
ここまで来れば、世の中的には一人前のプロダクトマネージャーとして自信を持ってやれるようになっているでしょう。
その先には、プロダクト全体のビジョン・戦略・ロードマップを策定しながらその実行と成果に責任を持つ、シニアプロダクトマネージャー(またはプロダクトリーダー)への入り口が待っています。
果てしない道のりですね。。
多くのプロダクトマネージャーについての書籍では、この道のりが逆順に強調されていることが多いように思います。
それ自体は間違っていなくて、プロダクトビジョンやアウトカムを志向するマインドセットはどの段階でも極めて大事なことですが、新たにプロダクトマネージャーを目指す人が最初に手を動かすには難しすぎると思います。
手始めにデリバリーから知識と経験を身につけていく道もあるし、自分もこの道を歩んできました。
これからPdMを目指す方、すでにがんばってる方、各社で悩んでいるだろう先輩PdMの方たちの一助になれば幸いです。
おすすめ良書
- M1~2
- 西村直人、永瀬美穂、吉羽龍太郎『SCRUM BOOT CAMP THE BOOK スクラムチームではじめるアジャイル開発』
- Jeff Patton『ユーザーストーリーマッピング』
- Melissa Perri『プロダクトマネジメント ―ビルドトラップを避け顧客に価値を届ける』
- 市谷聡啓『正しいものを正しくつくる プロダクトをつくるとはどういうことなのか、あるいはアジャイルのその先について』
- M3+
- Don McGreal, Ralph Jocham『プロフェッショナルプロダクトオーナー プロダクトを効果的にマネジメントする方法』
- Stephen Wendel『行動を変えるデザイン ―心理学と行動経済学をプロダクトデザインに活用する』
- 川喜田二郎『発想法 - 創造性開発のために』
明日はREADYFOR Advent Calendar 2024の16日目、 我らがフロントエンドのテックリード @kotarella1110さんによる記事です。お楽しみに!
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