質問するだけで答えが見つかる:Looker Explore Assistant で実現する、次世代のデータ分析
はじめに
みなさん、こんにちは!ラリオスです。
日々の業務で扱うデータ、増える一方ですよね?エクセル、スプレッドシート、BI ツール… あちこちに散らばったデータを分析するのって、本当に大変です。しかも、分析ツールを使いこなすには、専門知識が必要になることも…。
そんな悩みを解決してくれる、頼もしい味方が登場しました!それが、Google Cloud が提供する Looker の拡張機能「Looker Explore Assistant」です。
Looker Explore Assistant は、AI の力でデータ分析を誰でも簡単にできるようにしてくれるツールです。難しい操作は一切不要で、まるで人に話しかけるように、自然言語で質問するだけで、必要なデータが手に入ります。
今回は、この Looker Explore Assistant の魅力と活用方法について、わかりやすくご紹介しますので、ぜひ、最後までお付き合いください!
Looker とは?
Looker Explore Assistant の前に、まずは Looker について簡単に説明します。
Looker は、Google Cloud が提供するビジネス インテリジェンス(BI)ツールです。企業内のさまざまなデータソースに接続し、データをわかりやすく可視化したり、分析したりすることができます。Looker を使うことで、データに基づいた意思決定を促進し、ビジネスの成長を加速させることができます。
なお、Looker が対応しているデータダイアレクト(データのソース)については、こちらをご覧ください。
そして、Looker の最大の特徴は、LookML と呼ばれる独自のモデリング言語を使用していることです。LookML を使うことで、データの定義や関係性を一元管理し、さまざまなユーザーが同じデータにアクセスして分析できるようになります。これにより、データの整合性を保ち、分析の精度を高めることができます。
Looker は、ダッシュボードの作成、レポートの生成、データの共有など、さまざまな機能を提供しています。また、さまざまなデータソースに対応しており、柔軟なデータ分析が可能です。
LookML を使うメリット: SQL との違い
データ分析の世界では、SQL が広く利用されています。Looker を初めて使う方の中には、「Looker では SQL は使えないの?」と疑問に思う方もいるかもしれません。実は、Looker では LookML という独自の言語を使ってデータ分析を行います。LookML は、SQL をより使いやすく、効率的に記述・管理するための言語です。では、具体的に SQL と LookML はどう違うのでしょうか。主な違いを以下にまとめます。
SQL と LookML の違い
項目 | SQL | LookML |
---|---|---|
データベースへのアクセス | 直接アクセス | LookML モデルを介してアクセス |
記述方法 | テーブルやカラムを直接指定 | ビジネス用語に近い形で記述 |
再利用性 | 低い傾向がある | 高い傾向がある |
保守性 | 低い傾向がある | 高い傾向がある |
複雑なクエリ | 記述が複雑になりがち | シンプルに記述可能 |
LookML を使うと、SQL を直接書くよりも、ビジネス ユーザーにとって理解しやすい形でデータ分析を行うことができます。また、一度定義した LookML モデルは、さまざまな場所で再利用できるので、開発効率が向上します。さらに、LookML は、データの整合性を保ち、セキュリティを強化するのにも役立ちます。
SQL の再利用性と保守性が低い理由
SQL は、データベースに直接アクセスするための言語であるため、どうしてもデータベースの構造に依存した記述になってしまいます。そのため、
- 同じような処理を複数の場所で記述する必要がある。
- データベースの構造が変わると、関連するすべての SQL を修正する必要がある。
といった問題が発生し、再利用性と保守性が低くなってしまう傾向があります。
LookML が再利用性と保守性を高める仕組み
LookML は、SQL を抽象化し、ビジネス ロジックを記述するための言語です。LookML では、データベースのテーブルやカラムを、ビジネス用語に近い形で定義することができます。これにより、SQL を直接書くよりも、
- 同じ処理を再利用しやすい。
- データベースの構造が変わっても、LookML モデルを修正するだけで対応できる。
といったメリットがあり、再利用性と保守性を高めることができます。
さらに、LookML はバージョン管理システム(Git など)との連携が容易で、変更履歴の追跡やロールバックが可能な点も、再利用性・保守性の向上に大きく貢献します。
具体的な例
例えば、"顧客" テーブルと "注文" テーブルがあり、顧客ごとの注文数を集計したいとします。
SQL の場合
SELECT c.customer_id, c.customer_name, COUNT(o.order_id) AS order_count
FROM customers c
LEFT JOIN orders o ON c.customer_id = o.customer_id
GROUP BY c.customer_id, c.customer_name;
LookML の場合
view: customer {
sql_table_name: customers;;
dimension: customer_id {
primary_key: yes
type: number
}
dimension: customer_name {
type: string
}
measure: order_count {
type: count
sql: ${orders.order_id};;
}
}
LookML では、"顧客" テーブルを "customer" というビューとして定義し、"order_count" というメジャーで注文数を集計しています。この LookML モデルを定義しておけば、顧客ごとの注文数を集計したいときは、"customer.customer_id"、"customer.customer_name"、"customer.order_count" を参照するだけで、SQL を直接書く必要はありません。
このように、LookML を使うことで、SQL の再利用性と保守性を高め、データ分析の効率化を図ることができます。
Looker Explore Assistant とは?
Looker Explore Assistant は、Looker の拡張機能として提供される生成 AI ツールです。 ユーザーはチャット形式で自然言語(日本語にも対応)で質問を入力するだけで、Looker が最適なクエリを生成し、データの可視化や分析結果のサマリーを提供します。Explore Assistant は Looker に公式に組み込まれた機能ではなく、拡張機能であるため、高度なカスタマイズが可能です。
また、従来の BI ツールでは、SQL などの専門知識が必要でしたが、Explore Assistant はそれを必要としません。そのため、データ分析の専門家でないビジネスユーザーでも、簡単にデータ分析を行うことができます。さらに、Looker のチャート作成方法を知らなくても、Explore Assistant を使えばダッシュボードを作成できます。
そして、Explore Assistant の核となる機能は、自然言語で入力された質問から Looker Explore クエリを生成することです。これは、生成 AI である Gemini と Looker のモデリングレイヤーを組み合わせることで実現しています。Gemini は、自然言語処理によってユーザーの質問を理解し、Looker のデータモデルに基づいて最適なクエリを生成します。また、生成されたクエリのパフォーマンスを最適化する機能も搭載されており、効率的なデータ分析を支援します。
Looker Explore Assistant の機能と使い方
機能 | 説明 |
---|---|
質問履歴の保存 | 過去の質問をブラウザのローカル ストレージに保存し、再利用することができます。 |
カテゴリ別のプロンプト | 組織のユースケースに合わせて、プロンプトをカスタマイズすることができます。 |
キャッシュされた Explore URL | 履歴からクリックしたときに、キャッシュされた Explore URL にアクセスすることができます。 |
構造化ロギング | 入力と出力のトークン数を記録し、コストの推定や追跡に役立ちます。 BigQuery へのログ シンクのワークフローを有効にすることで、コストの見積もりと追跡を行うことができます。 |
柔軟なデプロイメント オプション | さまざまなデプロイメント オプションを提供します。 |
複数回ターン | 1 回の質問で完結せず、複数回のやり取りを通じて分析を深めることができます。 |
インサイトの要約 | 生成された結果を要約し、簡潔なインサイトを提供します。 |
動的な Explore の選択 | 適切な Explore を動的に選択します。 |
ワンショット プロンプト | モデルのファインチューニングにワンショット プロンプトという手法を使用しています。 これは、モデルのすべてのメタデータがプロンプトに含まれていることを意味します。 |
設定方法
今回は、Looker Explore Assistant の活用イメージに焦点を当ててご紹介します。設定方法については、こちらをご確認ください。
設定方法についてわかりやすい記事も見つけたのでご紹介しておきますね。
使い方
- 設定が完了すると Looker の ホーム画面左下の「アプリケーション」に表示されます。そこから設定した Explore Assistant を起動します。
2. チャット形式のインターフェースに、自然言語で質問を入力します。例えば、「先月の売上を教えて」や「地域別の販売数を比較したい」のように入力します。
3. Explore Assistant が質問を解釈し、適切なクエリを生成し、結果をチャートやサマリーで表示します。
4. 必要に応じて、フィルターや項目を追加したり、チャートの種類を変更したりすることができます。
ただし、Explore Assistant は URL 上のクエリ パラメータの情報を使用して回答を生成しているため、情報が不足している複雑な質問に対しては、期待通りの結果が得られない可能性があります。例えば、「この特定の部分だけを抽出」といった指示は、現時点では難しい可能性があります。
Looker Explore Assistant のユースケース
Looker Explore Assistant は、さまざまなビジネスシーンで活用することができます。以下に、具体的な活用事例をいくつかご紹介します。
売上分析
売上推移、地域別売上、商品別売上などを分析し、販売戦略の立案に役立てることができます。例えば、「先月の売上合計を教えて」「昨年の地域別の販売数は?」といった質問を入力するだけで、必要な情報を得ることができます。これらの情報を分析することで、売上のトレンドを把握し、今後の販売戦略に活かすことができます。
顧客分析
顧客属性、購買履歴などを分析し、顧客ターゲティングや顧客満足度向上に役立てることができます。例えば、「最も購入頻度の高い顧客層は?」「顧客満足度と購入金額の関係は?」といった質問をすることで、顧客を深く理解し、より効果的なマーケティング施策を展開することができます。
マーケティング分析
広告効果、キャンペーン効果などを分析し、マーケティング施策の最適化に役立てることができます。例えば、「どの広告チャネルが最も効果的か?」「キャンペーンの効果を最大化するにはどうすればよいか?」といった質問をすることで、マーケティング ROI を向上させることができます。
在庫管理
在庫状況、需要予測などを分析し、在庫最適化に役立てることができます。例えば、「現在の在庫状況は?」「来月の需要予測は?」といった質問をすることで、在庫切れや過剰在庫のリスクを抑制し、効率的な在庫管理を実現することができます。
リスク管理
不正検知、セキュリティ対策などに役立てることができます。例えば、「不正アクセスの兆候は?」「セキュリティリスクの高い箇所は?」といった質問をすることで、リスクを早期に発見し、適切な対策を講じることができます。
経営層の意思決定支援
経営層は、Explore Assistant を使用して、「今期の業績は?」「主要事業ごとの利益率は?」といった質問に迅速に答えることができます。これにより、データに基づいた迅速な意思決定が可能になります。
このように、Looker Explore Assistant は、さまざまな業務で活用することで、データに基づいた意思決定を促進し、業務効率の向上に貢献することができます。
Looker Explore Assistant 導入のメリットと注意点
Looker Explore Assistant を導入することで、企業はさまざまなメリットを享受できます。 しかし、同時にいくつかの注意点も存在します。
Looker Explore Assistant 導入のメリット
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データ分析の民主化:専門知識がなくても、誰でもデータ分析に参加できるようになります。これにより、データ分析のスキルや経験に関わらず、多くの社員がデータに基づいた意思決定に参加できるようになり、組織全体のデータ リテラシー向上に繋がります。
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意思決定の迅速化:必要な情報をすぐに得ることができ、迅速な意思決定を促進します。従来のように、データ分析の専門家に依頼して分析結果を待つ必要がなくなり、ビジネスのスピードアップに貢献します。
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業務効率の向上:データ分析にかかる時間を削減し、業務効率を向上させます。データ分析の専門家は、より高度な分析や戦略立案に集中できるようになり、組織全体の生産性向上が見込めます。
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データ ドリブンな文化の醸成:データに基づいた意思決定を促進し、データ ドリブンな文化を醸成します。全社員がデータ分析に積極的に関わるようになることで、データに基づいた議論や意思決定が日常化し、より合理的な組織運営が可能になります。
- Looker の既存のデータモデルやダッシュボードとの統合:Explore Assistant で作成した分析結果は、既存のレポートやダッシュボードに反映させることができます。これにより、データの一貫性を保ち、組織全体でのデータ活用を促進することができます。
Looker Explore Assistant 導入の注意点
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データの品質:正確な分析結果を得るためには、高品質なデータが必要です。そのため、データのクリーニングや整備が重要になります。データの品質が低い状態での分析は、誤った解釈や意思決定に繋がりかねないため、導入前にデータの精度を確認し、必要があればデータ クレンジングなどの前処理を行う必要があります。
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自然言語入力の限界:自然言語入力には限界があり、複雑な質問や多段階の条件が必要な場合、期待通りの結果が得られないことがあります。また、意図しないフィールドやデータが選択される可能性があり、結果が誤解されやすいリスクもあります。
Explore Assistant は、生成されたクエリをユーザーが確認・修正できる機能を提供しており、このリスクを軽減することができます。クエリの内容を理解し、必要に応じて修正することで、より正確な分析結果を得ることが可能です。自然言語入力は、あくまでも簡易的な分析を行うための機能であることを理解し、複雑な分析には LookML を活用する必要があるでしょう。
生成結果の「Visit」を押すと詳細画面が開きます
詳細画面左側の「フィールドピッカー」で調整できます
「フィールドピッカー」の詳細はこちらをご覧ください。
LookML を調整したり修正することもできます
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セキュリティ:データへのアクセス権限を適切に設定し、セキュリティを確保する必要があります。特に、機密性の高いデータを取り扱う場合は、アクセス制御を厳格に行い、情報漏洩のリスクを最小限に抑える必要があります。
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トレーニング:ユーザーが Explore Assistant を効果的に活用できるよう、トレーニングを実施する必要があります。Explore Assistant の基本的な使い方や機能、注意点などを理解した上で利用することで、より効果的に活用することができます。
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プロンプトのチューニング:プロンプトを微調整したり、LookML のメタデータを充実させることで、生成 AI のアウトプットの精度を高めることができます。プロンプトの改善やデータの構造化など、継続的な改善を行うことで、より精度の高い分析結果を得ることが可能になります。
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費用:Looker Explore Assistant は、Google Cloud のサービスを利用するため、利用料金が発生します。Looker Explore Assistant の拡張機能自体に追加のライセンス費用は発生しませんが、以下の費用を考慮する必要があります。
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バックエンドの利用料金:Looker Explore Assistant は、バックエンドとして BigQuery または Cloud Run functions を利用します。どちらを選択するか、またその利用状況に応じて料金が発生します。
- BigQuery:クエリの実行やデータの保存に対して料金が発生します。
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Cloud Run functions:リクエスト数、コンピューティング時間、メモリ使用量に基づいて料金が発生します。特に、最小インスタンス数を設定している場合、インスタンスのアイドル時間に対しても課金が発生する点に注意が必要です。
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Gemini API (Vertex AI) の利用料金:Looker Explore Assistant は、自然言語処理に Gemini API (Vertex AI) を利用します。API の呼び出し回数や処理されるテキスト量に応じて料金が発生します。
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データセット (BigQuery 等) に対するクエリ料金:通常の Looker 利用と同様に、Looker Explore Assistant が使用するデータセット (BigQuery 等) に対して、クエリの実行料金が発生します。
なお、BigQuery へのログシンクを有効にすることで、コストの見積もりと追跡を行うことができます。導入前に費用対効果を十分に検討し、予算と照らし合わせて導入を判断する必要があります。
正確な料金については、Google Cloud の担当者にお問い合わせいただくか、以下の公式ドキュメントも参照し、詳細な料金体系をご確認ください。
Looker Explore Assistant は、適切に導入し活用することで、データ分析の効率化、意思決定の迅速化、データ ドリブンな文化の醸成など、多くのメリットをもたらします。導入の際には、上記のメリットと注意点を理解した上で、適切な準備と運用を行うことが重要です。
Looker Explore Assistant の今後:AI エージェントとの融合
Looker Explore Assistant は、AI エージェントとの融合によって、さらに進化すると考えています。 AI エージェントとは、ユーザーの代わりにタスクを実行したり、情報を収集したりしてくれる、いわば「優秀な秘書」のようなものです。
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データ分析をもっと身近に:AI エージェントが、ユーザーの質問を理解し、適切なデータを選んで、分析してくれるので、データ分析の専門知識がなくても、誰でも簡単にデータを使えるようになると期待されます。
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気づけば情報が届く:AI エージェントが、ユーザーの行動やデータの変化を常にチェックし、変わったことや問題を見つけたら、ユーザーに教えてくれる機能が考えられます。これにより、ユーザーは問題やチャンスにいち早く気づき、対応が可能になります。
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自動で意思決定:AI エージェントが、集めたデータに基づいて、最適な行動を決定し、実行してくれる機能が期待されます。例えば、商品の在庫管理において、AI エージェントが今後の需要を予測して自動的に発注してくれることで、在庫切れや過剰在庫を防ぐことができます。
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もっと簡単に操作:AI エージェントとの対話を通じて、より自然な言葉でデータ分析の指示を出せるようになると考えられます。例えば、「来月の売上予測を教えて」と話すだけで、AI エージェントが自動的に予測して、結果を教えてくれるようになるかもしれません。
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さまざまなシステムと連携:AI エージェントが、Looker Explore Assistant だけでなく、他のシステムとも連携することで、より広範なデータ分析が可能になると期待されます。例えば、顧客管理システムと連携して顧客分析を行ったり、会計システムと連携して財務分析を行ったりすることができるようになるかもしれません。
AI エージェントとの融合によって、Looker Explore Assistant は、より使いやすく、より多くのことができるツールへと進化すると考えられています。これにより、企業はデータ分析をより効率的に行い、より迅速に意思決定を行うことができるようになり、ビジネスの成長をさらに加速させることが期待できます。
まとめ
Looker Explore Assistant は、専門知識がなくても、誰もが自然言語で簡単にデータ分析ができる AI 搭載ツールです。データ分析の敷居を下げ、誰もがデータに触れられるようにすることで、さまざまなビジネスシーンでの活用を可能にします。また、AI エージェントとの融合など、今後の進化にも目が離せません。
もちろん、データの品質、自然言語入力の限界、セキュリティ、トレーニング、プロンプトのチューニング、費用など、導入前に注意すべき点はいくつかあります。しかし、Looker Explore Assistant を導入することで、データ分析の民主化、意思決定の迅速化、業務効率の向上、データ ドリブンな文化の醸成など、多くのメリットが期待できます。
データ分析は、もはや専門家だけのものではありません。全社員がデータを活用し、データに基づいた意思決定を行うことこそ、これからのビジネスの鍵となります。ぜひ、Looker Explore Assistant を活用し、データ ドリブンな組織文化を築き上げてください。
※Google Cloud、Looker、および Google Cloud 製品・サービス名称は Google LLC の商標または登録商標です。
※会社名および商標名は、それぞれの会社の商標または登録商標です。
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