失敗談 【チーム開発・作品制作】
はじめに
落雁と申します。詳しくはHPを見てください!
東大VRサークルUT-virtualの代表を務めており、Iwaken Lab.にも所属している、創作とVRChatが好きなクリエイターです。
私はまもなくUT-virtualの代表を降りる予定だったり、内部の小グループの代表の任も他の人に任せようかなといった具合に、様々な節目を迎える時期です。
そこで私は、こういった節目の時期こそ内省するべき、と今年の失敗談を書いておこうと考えたわけです。今回は私がこれまでで一番うまくいかなかった、ある作品制作について赤裸々に書いておこうと思います。
もしかしたらこの失敗談はただの言い訳かもしれません。しかし、誰かのなにかの役に立てれば幸いです。
事の発端
今年2月。私がそれまで制作していた『SpotStop』の開発・展示も一通り落ち着き、新規にチーム開発したいなぁとUT-virtualのVRChatterたちと会議をしていました。
2023年五月祭では、『砂の惑星 FANMADE in VRChat』、11月の駒場祭では複数作品を作ってきた人たちといっしょに、さらに人数が増えたこのチームならなんでも作れちゃうんじゃないかと考えます。
そんなわけで、まずは作りたいもの・ギミックから考えていこう、という流れになりました。
「こんなギミックあったら楽しいんじゃない?」
「そういうのVRChatter好きそうだよね。」
こうして3月頃に初期案がまとまったのが、通称 『旅館かがみもち』 という作品・VRChatワールドです。
実は 2023年五月祭開催予告記事の一番下で告知されていたり......
この世と鏡の世界を行ったり来たりして、とある田舎の異変を解決するマルチエンディングアドベンチャー!
とても素晴らしい作品になるはずでした。
新年度
新年度の始まり、4月は様々なことが始まります。
『旅館かがみもち』の制作もそうですが、UT-virtualの代表である私は、新歓・現地の各種イベント・VRChatイベントに奔走しました。さらに、1年間の休学から空け、1年以上ぶりの講義が始まり、空いた時間にはバイトを詰め込みまくっていました。休学中に打ち立てられたVRChatにより完全に破壊された生活習慣は治すことができず、やや不安定な生活を送ります。
新歓中の自撮り アウリアちゃんはいいぞ
そのような状況の中、なんとか制作を順調に進めようとしますが、『旅館かがみもち』の制作は思ったように運びません。
理由① - 人数が増えすぎた
10人を超えるチームで開発を進めようとしていました。さらに、腕のたつ開発者は往々にして他の制作に携わっていたり、多忙であります。そして彼らは、自分と同じく学生なのですから、学業もあります。これらを踏まえたプロジェクトマネジメントは困難を極めました。
理由② - 開発MTGが消えた
自分は原則、週1でMTGを設定して、ペースを守って開発進行をします。これがうまくいく理由のほとんどだと信じているからです。あるいは、これにより救えるミスがとても多いからです。
しかし、今回はある理由によって消滅してしまいました。
新歓です。
もともと、毎週土曜日21時に漫遊日という、部員がVRChatの中で集まって遊ぼうよ、というイベントがありました。これだけ人数もいるのですから中々予定が合わず、制作開始当初は、これ自体・この前後に合わせて会議を行っていました。
しかし、代表として「サークルは若い人ほど楽しむべきもの」と考え、新歓活動や新入生が遊びに来る稀有な機会として漫遊日を利用したく、このMTGはほとんどなくなってしまいました。
新歓時期の漫遊日はとても活発! 2024/5/11
結果として、 MTGの頻度は劇的に低下、参加する人も少なくなってしまい、モチベの低下が目に見えていました。 そのような状況の中、5月の頭を迎え、五月祭がまもなく開催されます。私は全力で開発を進めていましたが、間に合いそうにありません。
そこで、私は制作スケジュールを変更する決断をします。
方針転換
当時の原文を記録しておきましたのでそのまま記載します。
【大切なお知らせ】
五月祭公開中止 😭
現在開発している「旅館かがみもち」について、主に開発が間に合わないという観点から五月祭との同時公開をとりやめることとします。これを期待していた開発参加者の方、本当に申し訳ないです。
開発スケジュール上無理のある進行をしてしまったと思います、本当にごめんなさい。開発に協力してくれてありがとうございます。
もし何らかの事情で五月祭への公開を間に合わせたい方がいましたらご連絡ください。五月祭に関して 🤔
2024五月祭については、代わりにVRChat体験が生えます。現地体験者(VRはじめて)と漫遊会の部員がお話するかんじのやつです。
漫遊民の皆様におかれましてはオンラインアテンド(?)をしていただければ!「旅館かがみもち」の今後について 👀
開発は続行します。
現在想定している具体的なスケジュールは以下のとおりです。-5/18, 5/19 (五月祭) まで
現状の整理や問題点の洗い出しをします。
旅館かがみもちのクオリティアップに向け、新規に加えたい実装・演出等々を積極的に応募します。
8期を含む新規開発参加者受け入れ/現在の開発参加者の辞退を受け入れます。
開発体制の見直しをします。5/20-6/9 最低限の完成を目指す
一通り体験できるものを作ります。
6/10-7/8 バグ修正・クオリティアップ・完成
7/9-8/5 広報・引き継ぎ・公開準備・その他
この時点で完全に完成している予定です。VRChatといえばなメディア(バチャマガ・メタカル・りーちゃ隊長など)に広報を仕込んだりします。
また、VRChat漫遊会としても技術を継承する試みを実践で行っていきたいです。8月(お盆前) 公開
このことは、改めて次回VRChatみーちんぐ、5/11(土) 21時~漫遊前まで にてお話します。気になることや考えていること等あればスレッドにて!
これに則り、当初の目標であった「五月祭までの完成」を撤回しました。
その後、新規目標の設定を5/14、5/16の2日間にかけて行い、「IVRCメタバース部門」に向けた開発とし、また制作物の見直しも行いました。
新規方針
- IVRCメタバース部門への作品制作を目標とする。
- 10月中旬(LEAP Stage 審査日)を最終完成させる。
- 9月8日(Seed Stage 〆切日)に、コンテンツの核の面白さを体感できるほどまでに完成させる。
以上のように方針をまとめるとともに、参加していたできるだけ多くの開発メンバーを再招集し、これまでの開発状況と経緯を説明しました。
そうして、その流れで、作品に詰め込む思想の洗練をしました。しかし、以下の理由でこれも上手く行かなくなってしまった原因のひとつと考えます。
理由③ - 制作やり直し
思想の洗練をした結果、これまでに開発していた・制作したもののほとんどが水の泡になりました。根本思想である「鏡」を利用したギミック自体はいいが、それを活用するストーリーラインとして「現世と鏡の世界を行ったり来たりする」ことだけを重視したストーリーよりも良いものがあるだろう、と考えたのです。
もっと良い、思想があるだろう。
もっと良い、表現があるだろう。
そう考えて改めて考え直した作品・体験が『Here I Wonder / 私はここで何をする?』です。最終的にIVRCメタバース部門に提出した作品はこちらになります。
開発初期にコンセプトを転換するならまだしも、中期~終盤にかけての時期にほとんどすべてを覆してしまった制作において、起きてしまうであろう事態、いや起こってしまったことこそが以下になります。
理由④ - 開発の長期化
3月に開発を開始したこの作品制作は、本来5月中旬に終わる、2か月ちょっとの開発の予定でした(発起MTGから数えれば3か月)。しかし、IVRCメタバース部門を目標に据えたことで、ゴールがさらに遠のいてしまいました。新規にまるまる4か月の開発期間が追加され、計6~7か月の開発へと変貌してしまったのです。
しかし、どうしても完成させたいという想いが、この開発を断念することを許しませんでした。
この想いはゆくゆく自身を苦しめる種でもあり、その精神面的な苦痛は制作がうまくいかなかった原因かもしれません。しかし、この長期化、という問題は他の問題も生じさせます。
他の開発メンバーの都合です。開発メンバーの中には、他の作品制作によりコミットが少なくなってしまう人たち、とくに同じくIVRCメタバース部門に提出するための作品づくりを始めたい人たちがいました。
もちろん、各々の制作を止めるわけがありませんから、当然相対的にこの作品制作は停滞しました。そして、何よりも、私自身が他に取り組まねばならない活動があり、本当に遅々として進まなかったのです。
そうして、私がこの作品にかけられる時間ができたのは、3か月が過ぎ、〆切まであと1か月といったところでした。
迫る〆切・誤認
当然、残り1か月の間、制作には全力を注ぎました。しかし、〆切に対して、開発しなければいけないものは多く、他の開発メンバーのケアもしながらの制作はできない、と考えました。
そのため、他の人にお願いしやすい範囲を除いて、ここからの制作の大半は自分の手で行いました。
この判断に至った一番大きな理由は「IVRCメタバース部門のSEED Stageは第一段階の審査であり、LEAP Stageまでに完成していれば良い」という認識でした。よって自分は、「一番大事なコアだけ完成させておけば、他の部分は仮の体験設計(文字だけで説明)だけでも良いだろう」と考えていました。
この認識は厳密には誤り・ずれていて、「SEED Stage時点でも審査員が十分に作品の魅力を感じられる」ようにしなければならなかったのです。つまり、作品として最初から最後まで体験できるという、最低限は達成されているという前提のもとで、魅力を伝えなければならなかったのです。結果、SEED Stageを飛び越え、LEAP Stageへ足を進めることは叶いませんでした。実際、審査員からのコメントも、「完成度が低い」の旨のコメントが目立ちました。
このコンテスト、IVRCメタバース部門に限った話ではありません。
自分に都合の良いように曖昧な表現を受け取ってはいけないのです。それによって判断を歪め、本来ない可能性を追い求めてはいけないのです。 ましてやそれによって時間を無駄にするだけでなく、制作負担により各所に迷惑をかけ、作品自体も中途半端になってしまっては本望ではないでしょう。
LEAP Stageの審査結果を受け取ったとき、もしかすると審査結果を待つ間に、そのように考えたと思います。
まとめ
作品制作に適切な時間をかけられず、他のメンバーのケアも上手くできず、マネジメントが不安定になり、方針を転換しようと試みました。しかし、コンセプトの変化によって白紙同然に戻ったこの開発はずるずる長期化し、再設定した目標を達成できませんでした。
ごめんね。
おわりに
現在は、以前よりも多忙の中でサークルの引き継ぎを優先させており、この作品制作はしていません。
しかし、時間ができるだろう1月以降、この制作の供養をしたいと思っています。それは、つまり、結局のところ、私は「完成させたい」の欲望にまだ取り憑かれているようにも思えます。これが良いことなのか、悪いことなのかは未だわからないままです。
ここに、今のところ救いはありません。このままでは、全てを無駄にしただけで終わってしまったように思えます。一方、さらにこの制作に集中することは危険であるようにも思えます。
まさしく、失敗、だと思います。
ですが、未来の自分がどちらを選択するにせよ、私は選んだ方向の先で成功を収めたいと思います。今度は同じ失敗を犯さないように心に誓って。
みなさんも是非一度少し内省をしてみて、それも程々に一緒に前に進みましょう。次は、きっといいことがあります。
アドベントカレンダー、お次はgoro aokiさんの記事です!お楽しみに。
Discussion
今年の後悔・失敗を置いていって来年を楽しく過ごしましょ