Obsidianを導入すべきかを本気で考える
はじめに
巷でObsidianというMarkdownエディタが流行っていますね。
Obsidianと生成AIを組み合わせた使い方で注目を浴びています。
流行りに乗っかってObsidianを導入してみましたが、ノート同士をリンクさせて何が良いのか全く理解できませんでした。調べると、ObsidianとはZettelkastenというノート術を実践できるアプリケーションのようです。
ここで、Obsidianについての説明を公式ページから抜粋します。
個人的なメモから日記、ナレッジベース、プロジェクト管理まで、Obsidianはアイデアを考案して整理するためのツールを提供します。
リンク:ノート同士をつなげ、自分だけのWikipediaを作成しよう。
グラフ:メモ間の関係性を可視化し、思考に隠されたパターンを見つけよう。最も基本的な使い方としてマークダウンファイルの編集とプレビューを行うことができます。しかしながら、その真の力は密にネットワーク化されたナレッジベース管理によって発揮されます。
ここまで調べて気付いたことがあります。
- Zettelkastenを知らないとObsidianの真の良さが分からない。
- そもそも世の中にあるノート術を知らない。
- 他のノートアプリケーションに何があるかを知らない。
私がこれまでノート術というものに向き合ったことがないためにObsidianがピンとこないのだと思いました。そこで、世の中にあるノート術やツールについて調査し、Zettelkastenのメリットや他のツールでの代替がないかを比較検討したいと思います。
Obsidianが気になる人はここからダウンロードできます。
対象読者
- Obsidianを導入してみたがよくわからない人
- ノート術に興味がある人
評価基準を考える
ノート術やアプリケーションについて調べる前に、評価基準を考えます。
ノートを取るタイミングと目的
まず、普段どのような場面でノートを取っているのかを整理してみます。
主な場面 | 具体的な例 |
---|---|
学習・知識の定着 | 授業、読書、調べもの |
ビジネス・業務の記録 | 会議、業務日報 |
思考・感情の整理 | 筆記開示、日記、ジャーナリング |
計画・目標の設定 | TODOリスト |
創作・趣味・アイデアの記録 | 小説・ブログのネタ帳、アイデアメモ |
他にもあるとは思いますが、ぱっと思いつくのはこのあたりでした。これらを整理すると、ノートを取る目的は大きく次の4つに分類できそうです。
- 覚えるためにノートを取る
- アイデアを得るためにノートを取る
- 記録するためにノートを取る
- 整理するためにノートを取る
評価基準
近年は生成AIの台頭により、記録や整理は以前よりも容易になってきていると感じます。ビジネス・業務上の記録はツールやAIを使って機械的に行えるでしょう。つまり、私たちがノートを取る際に本当に意識すべきなのは、次の2点だと考えます。
- 覚えやすさ
- アイデア想起の容易さ
しかし、これらを実現するのはツールの機能というよりも、むしろノート術(テクニック)の部分が大きいでしょう。逆に言えば、デジタルツール選びは最低限以下2つを満たしていれば良さそうです。
- 記録のしやすさ
- 整理のしやすさ
そのうえで、「覚えやすさ」と「アイデア想起の容易さ」を実現できるノート術を実践しやすいツールを選ぶのが良いのではないでしょうか。
ノート術とアプリケーション
ノート術一覧
調べた限りでのノート術を以下にまとめました。
名称 | 概要 |
---|---|
センテンス法 | 要点を一文ずつ簡潔に書き出して整理する手法 |
アウトライン法 | 情報を階層構造(見出し、小見出し、箇条書き)で整理する |
フロー法 | 思考や学習内容を時系列で順番に書き出す |
チャート法 | 情報を図表や表形式で整理する |
マッピング法 | 中心テーマから放射状にアイデアや情報を書き出す |
ボックス法 | 関連する情報をボックス(箱)で囲み、詳細を記述する |
スケッチノート | 文字だけでなく図やイラストも多用し、視覚的にノートを取る |
このあたりは誰もが一度はやったことがありそうな手法ですね。
以下は、やや応用的なノート術になります。
名称 | 概要 |
---|---|
コーネル式 | ノート・キーワード・サマリーの領域に分割して記録 |
ラピッド・ロギング | 記号(バレット)を使い、素早く記録 |
バレットジャーナル | ラピッド・ロギングを使ったアナログタスク管理術 |
Zettelkasten | 1アイデア=1カード、カード同士をリンクして知識をつなげる手法 |
その他にも、独自で生み出しているノート術などが見受けられました。ここで、本記事の主役であるZettelkastenについてもう少し詳しく見ていきます。
Zettelkasten(ツェッテルカステン)
Zettelkastenとは、ドイツ語で「カード箱」を意味し、学者ニクラス・ルーマンによって考案された知的生産のためのノート術です。最大の特徴は、1つのアイデアや知識を1枚のカード(zettel)に書き、それらを相互にリンク(参照)させてネットワーク状に知識を構築していく点にあります。
補足: Zettelkastenは英語名で「Slip-Box」と言うらしいです。
基本的なルール
ルール | 内容 |
---|---|
1ノート1アイデア | 1枚に1つのアイデアだけを書く |
ノート同士をリンク | 関連ノートを相互にリンクして知識をつなげる |
一意なIDやタイトル | 各ノートに固有のIDやタイトルを付けて管理する |
メリット
メリット | 説明 |
---|---|
知識のネットワーク化 | ノート同士をリンクし、知識が有機的につながる仕組み。 |
再発見しやすい | 過去のノートを辿りやすく、アイデアの再利用が容易。 |
執筆・研究に便利 | 関連ノートを組み合わせて論文や記事の構成がしやすい。 |
Zettelkasten派生のノート術とアプリケーション
Zettelkastenについて調べていく中で、この手法をベースに発展したノート術や、それに影響を受けたアプリケーションをいくつか見つけました。
Zettelkastenを元にしたノート術
名称 | 概要 |
---|---|
Smart Notes | Zettelkastenの基本(Fleeting → Literature → Permanent Note)の流れを忠実に継承。その上で、「執筆・思考のトリガーとしての永久ノート」を強化 |
Digital Garden | 書きかけアイデアや未完成コンセプトも価値があると捉え、公開・非公開を問わず育てる知識の「生きた場」を提唱。Zettelkasten の完成志向に対して、編集・更新し続ける動的なアプローチ |
Antinet Zettelkasten | デジタル化ではなく、Zettelkastenの原点である紙カード+物理ボックスを再評価。アナログならではの思考刺激とシンプルさを重視 |
LYT Framework | Zettelkastenの単なるメモ保存を超え、Map of Content(MOC)による「ハブノート」構造とリンクを中心とした知識体系化を強化 |
Evergreen Notes | ノートを「更新可能かつ明瞭な概念単位」にし、リンクで動的に成長させるスタイル。Zettelkastenの固定・不可変性ではなく、時間とともに育つ知識を重視 |
補足: 概要については誤りがあるかもしれません。詳細や正確な内容は公式情報や専門書などでご確認ください。
Zettelkasten的発想を取り入れたアプリケーション
アプリ名 | 概要 | 料金 |
---|---|---|
Obsidian | ページ型の知識管理ツール | 一部有料 |
Logseq | アウトライナー型のOSS PKMツール | 無料 |
Roam Research | アウトライナー型の知識管理ツール | 有料 |
The Archive | シンプルなZettelkasten特化ツール | 有料 |
Zettlr | 学術的な執筆・研究に最適化されたOSS | 無料 |
RemNote | フラッシュカード一体型で学習効率を最大化するノート | 一部有料 |
Tana | AI搭載の次世代ノート&タスク管理ツール | 有料 |
Heptabase | 視覚的に思考や情報を整理できる知識管理ツール | 有料 |
Scrintal | 視覚的にアイデアを整理できるマインドマップ型ノートツール | 有料 |
Athens | OSSのナレッジグラフツール。EOL | 無料 |
ZKN3 | Zettelkastenに特化した無料ノートアプリ。ドイツ語圏で普及? | 無料 |
補足: ZKN3はリンク先が怪しいので添付しませんでした
これらすべてを深く学ぶのは時間的に難しいところはありますが、Zettelkastenが多くのノート術やアプリケーションに影響を与え、広く普及していることが分かります。
その他ノートアプリケーション一覧
Zettelkasten以外でよく使われているアプリケーションについても調べてみました。
アプリ名 | 概要 | 料金 |
---|---|---|
Notion | AI搭載の多機能オールインワン作業スペース | 一部有料 |
Evernote | 情報を簡単に記録・整理・検索できるノートアプリ | 一部有料 |
OneNote | AIと手書き機能が強化されたMicrosoftのデジタルノートアプリ | 無料 |
Workflowy | 階層的なリスト管理が得意なアウトライナー | 一部有料 |
Dynalist | Workflowyの元開発者が作った多機能アウトライナー | 一部有料 |
これらの類のアプリケーションは調べれば調べるほど出てきますね。Notion以外は触ったことがありません。
ノート術の選定
ノート術の比較
これまで挙げたノート術を「覚えやすさ」と「アイデア想起の容易さ」の観点で比較してみます。
非常につまらない結論になりますが、
ノート術は好みや目的に応じてさまざまな方法を試し、自分に合ったものを選ぶのがよいと思います。
特に知的生産活動に取り組んでいて、新しいアイデアを生み出したい場合には、Zettelkastenは非常に有力な選択肢となるでしょう。
備考: 個人的に、記憶の定着・アイデア想起には「3ワードノート術」が簡単で非常に良いノート術だと感じました。この手法は、メンタリストDaiGoさんが解説していましたが、出典元が見つからなかったため本記事では詳細を記載していません。
アプリケーションの選定
アプリケーション選定の評価基準
ここで、アプリケーション選定における評価基準を改めて整理します。記事の冒頭では、以下の4つの観点を挙げました。
- 覚えやすさ
- アイデア想起の容易さ
- 記録のしやすさ
- 整理のしやすさ
「覚えやすさ」と「アイデア想起の容易さ」に関しては、使うノート術に依存するところがあります。文字入力以外の機能がどれだけ充実しているかが、対応できるノート術の幅を広げるポイントになりそうです。そのため「機能・プラグインの豊富さ」が重要な観点となるでしょう。
「記録のしやすさ」は、各アプリに大きな差はないように思われるため、ここでは割愛します。
「整理のしやすさ」では、AI機能の有無がポイントになるでしょう。雑多なメモでもAIがあれば簡単に整理できるため、今の時代では必須機能とも言えます。
ここまで整理してきた観点に加えて、もう一つ挙げておきたいのが「可搬性」です。情報を長く活用していくには、特定のアプリに依存しすぎない仕組みも重要です。本記事では「Markdown対応か」を判断基準とします。Markdownは多くのアプリでサポートされており、データの再利用や移行が容易なため、長期的な運用でも安心感があります。
まとめると、評価基準は以下の3つにまとめられます。
- 機能・プラグインの豊富さ
- AI機能の有無
- Markdown対応か
こうして整理してみると、選ぶべきポイントは意外とシンプルですね。
アプリケーションの比較検討
上記で整理した観点を元にアプリケーションを比較します。
個人利用を目的としているので、有料ツールは比較対象から除外します。
アプリ名 | 機能・プラグインの豊富さ | AI機能の有無 | Markdown対応 |
---|---|---|---|
Obsidian | ✅ 豊富 | ✅ プラグイン対応 | ✅ 完全対応 |
Logseq | ✅ 豊富 | ✅ プラグイン対応 | ✅ 完全対応 |
Zettlr | ⚠️ 中程度 | ❌ 無し | ✅ 完全対応 |
RemNote | ⚠️ 中程度 | ✅ AI機能あり | ⚠️ 限定的対応 |
Notion | ✅ 豊富 | ✅ Notion AI | ⚠️ 限定的対応 |
Evernote | ⚠️ 中程度 | ✅ AI Edit | ⚠️ 限定的対応 |
OneNote | ⚠️ 中程度 | ✅ Copilot | ❌ 非対応 |
Workflowy | ⚠️ 中程度 | ✅ Workflowy AI | ⚠️ 限定的対応 |
Dynalist | ⚠️ 中程度 | ❌ 無し | ⚠️ 限定的対応 |
選定基準の詳細は以下を参照ください。
選定基準詳細
機能・プラグインの豊富さ
評価 | 意味・基準例 |
---|---|
✅ 豊富 | 多数の公式・サードパーティ製プラグインがあり、多機能。カスタマイズ性高い。 |
⚠️ 中程度 | 公式プラグインはあるが種類や数は限定的。外部連携や拡張性はあるが多くはない。 |
❌ | プラグインや拡張がほとんどない、もしくは実質機能が限定的。 |
AI機能の有無
評価 | 意味・基準例 |
---|---|
✅ | プラグインまたはネイティブにサポートされている |
❌ | サポートされていない |
Markdown対応
評価 | 意味・基準例 |
---|---|
✅ 完全対応 | Markdownでフル編集可。保存形式がMarkdown。エクスポート・インポートもスムーズ |
⚠️ 限定的対応 | 一部対応(インポートのみ、エクスポート不完全、内部保存形式が別、Markdown風記法のみなど) |
❌ 非対応 | Markdownでの記述が不可能。独自フォーマットのみ、コピペ時に変換が必要など |
これらの観点をすべて満たすアプリケーションは、ObsidianとLogseqの2つに絞られそうです。また、NotionもMarkdown形式でのエクスポートが可能なため、「可搬性」の面ではおおむね問題ないと考えられます。
Zettelkastenの実践という点では、ObsidianとLogseqが優れており、アウトライナー型の操作感を好む場合は、Logseqの方が適しているのではないでしょうか。
まとめ
今回の調査を通じて、世の中には多くのノート術や、それに対応したさまざまなアプリケーションが存在することを知ることができました。
アプリケーションの選定にあたっては、以下の3つの基準を設けました。
- 機能・プラグインの豊富さ
- AI機能があるか
- Markdown対応か
これらの観点から検討した結果、私は改めてObsidianを採用したいと思います。
正直に言えば、まだZettelkastenの本質的な良さまでは完全には理解できていません。しかし、それを本格的に活用しなくても、Obsidianは十分に価値のあるアプリケーションだと感じました。まずはObsidianを導入し、少しずつ操作に慣れていきながら、時間のあるときにZettelkastenの考え方も取り入れていこうと思います。
次のステップ
LYT Frameworkの考案者Nick Miloさんは、Obsidianコミュニティに積極的に関与しています。公式Youtubeもあり、Obsidianに関する動画も上げているので勉強してみたいと思います。
備考
以前、「Obsidianで"育てる"最強ノート術」著者・増井氏が登壇するイベントに参加しましたので、少しだけ感想を置いときます。
増井氏のObsidianの使い方の話で特に印象的だったのは、「フォルダは基本的に使わない」という方針です。情報のほとんどをタグで管理していると聞いて、とても驚きました。また、DataviewとAI検索を組み合わせた活用法も興味深く、ノートがただのメモにとどまらない可能性を感じました。最近では、コアプラグインとして新たに「Obsidian Bases」というデータベース機能も登場し、GUI上で簡単にデータベースビューを作成できるようになったそうです。Obsidianの今後の進化がますます楽しみになりますね。
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