腫瘍
腫瘍
概念と定義
腫瘍(新生物):生体自身に由来する細胞が、形質転換し、過剰に増殖したもの
分類
起源
・上皮性腫瘍
・非上皮性腫瘍
臨床的な振る舞い
・良性
・悪性
鑑別の観点 | 良性 | 悪性 |
---|---|---|
分化/退形成 | 分化 | 退形成 |
成長速度 (体積の増加) |
遅い | 速い |
局所浸潤 | 限局(境界明瞭) ・線維性皮膜 ・容易に摘出可 |
浸潤性(境界不明瞭) |
転移 (不連続) |
しない | する →決定的な根拠となる |
退形成:形態学的特徴
・多形性
・腫瘍巨細胞
・核異常
・過染性
・核/細胞質 比の上昇
・核小体の明瞭化(正常リンパ球の大きさまでいくことも)
・異型有糸分裂
・極性の喪失(→規則的な配列ができなくなる)
↔︎異形成:上皮細胞の異常増殖
癌類似の変化(多形性, 極性の喪失)が見られるが、可逆性を有し、異形成≠がん。
ただし、異形性の存在は浸潤癌の発生リスク増加を示すことには変わりない。
がんの特徴
十分な酸素が存在しても(ミトコンドリアによる酸化的リン酸化できる)、一見効率の悪い解糖経路によるグルコース→乳酸の変換(発酵) を主体とする独特な細胞代謝を示す。(ワールブルク効果)
グルコースの一部のみが酸化的リン酸化経路を通過し、1分子あたり4分子のATPを産生。
細胞成分の合成に必要な炭素骨格が供給される
[網膜芽細胞腫遺伝子(RB)](#1. RB遺伝子:細胞周期の支配者)
【通常】テロメアにより、細胞分裂は70回程度に制限
【例外】テロメラーゼが活性化した場合
テロメラーゼ:テロメアの短縮を阻害
・正常な幹細胞で発現(まあわかる)
・がん細胞:テロメラーゼの異常発現(85%〜95%)→無限の複製能力獲得
がんの原因
発がん物質
- 化学発がん物質
- 放射線発がん
- ウイルス性および微生物性発がん
■化学発がん物質
【作用機序】
これが、がん関連遺伝子で起こる(ドライバー変異)と発がん。
プロモーターの反復的, 持続的に作用させると、細胞増殖が亢進→エラーの確率上昇→発がん性UP
直接作用物質:代謝による変換なしに作用
- シクロフォスファミド(アルキル化薬の誘導体, 抗がん剤としても使われる)
→ミイラ取りがミイラに、、
間接作用物質:代謝されることにより発がん性をもつ
- 多環式芳香族炭化水素
ex) ベンゾピレン:タバコの燃焼中に生成→肺がん(古くは煙突掃除人で陰嚢皮膚癌) - 芳香属アミン, アゾ染料
ex) 2ナフチルアミン:ゴム工業における抗酸化剤→膀胱尿路上皮癌 - アフラトキシンB1
アスペルギルス属の真菌の代謝産物(穀物, ナッツ類に腐生した菌より)→肝細胞癌
■放射線発がん
【電離放射線】
【UV】
■ウイルス性及び微生物性発がん
RNA腫瘍ウイルス
ヒトT細胞白血病ウイルス(HTLV-1)
- レトロウイルス
- 成人T細胞白血病(ATL)を引き起こす
- CD4+ヘルパーT細胞に親和性
-
細胞の接触により感染(フリーのウイルス粒子を介した感染はない)
・母児感染(母乳)
・輸血や薬物乱用による頸静脈感染(注射針の使い回し)
・SEX!
→40〜60年の長い潜伏期間→3〜5%に発症 -
ウイルスタンパク質Taxをコード
- 感染細胞の増殖(非腫瘍性のポリクロナールな細胞増殖)を促進
- 増殖中のT細胞のゲノム不安定性を高める
→突然変異の蓄積, モノクロナールな腫瘍性T細胞の増殖
-
DNA腫瘍ウイルス
-
ヒトパピローマウイルス(HPV)
- 低リスクHPV(6,11):性器の扁平上皮乳頭腫(いぼ)
- 高リスクHPV(16,18):子宮頸部, 外陰, 肛門の扁平上皮癌
以下のウイルス初期遺伝子の産物と関連
- E6タンパク
がん抑制遺伝子 TP53 の産物p53に結合し、分解(抑制をブロック)
テロメラーゼの発現亢進 - E7タンパク
がん抑制遺伝子 RB の産物RBに結合し、RBによって隔離されていたE2F転写因子を解放(抑制のブロック)
サイクリン依存性キナーゼインヒビターのp21を不活性化(キナーゼの活性化)
-
エプスタイン・バールウイルス(EBV)
-
B型肝炎ウイルス(HBV), C型肝炎ウイルス(HCV)
- 肝細胞癌の70%~85%
- 機序:慢性炎症とそれに伴う幹細胞傷害(炎症やりすぎ)
ヘリコバクター・ピロリ
- これも炎症やりすぎ
- ピロリ菌が、酸で殺菌できないから、延々と炎症反応が続いてしまうわけ
- 慢性炎症を背景に上皮細胞の増殖。しかし炎症の場にはROSのように多数の遺伝毒性物質が含まれる
- B細胞由来で、正常の粘膜関連リンパ組織(MALT)に類似したパターンを取りながら増殖(MALTリンパ腫と呼ばれる)
発がん:多段階過程
がんは、DNAの変異により生ずるが、単一の変異だけでは形質転換まではできない。
→複数の変異の蓄積により、がんの表現型を生み出す多段階プロセス
この多段階プロセスを通して、元来モノクローナルだった腫瘍は、極めて不均一になるとともに、さまざまなストレスから生き延びた細胞のみが細胞のみが残り、厄介になっていく。
がん関連遺伝子
がん原遺伝子
細胞増殖のステップ
-
通常、増殖因子を産生する細胞は、その受容体を持たない(自己分泌は無理、無限ループに入るから)
しかし、その受容体を持ち、無限列車編になったのが腫瘍細胞。ex)膠芽腫 血小板由来増殖因子(PDGF)の分泌と受容の**自己分泌ループ**
-
受容体の過剰発言により、感受性の増加
(普通この量の増殖因子じゃ増加しないのに、、)ex) ・EGFR:肺腺癌の50% →ゲフィチニブ ・HER2:乳がんの20% 通常、リガンド結合により二量体形成し、シグナル伝達するやつが、 密集しすぎて(?)リガンド関係なしに二量体形成 →トラスツズマブ
-
-
RAS遺伝子
RASは細胞膜内側面に存在する低分子Gタンパク質
RAS遺伝子の変異により一生活性化
-
ABL遺伝子
非受容体型チロシンキナーゼ
通常、ネガティブドメインによって厳密に制御されている慢性骨髄性白血病(CML)では、
-
RAS遺伝子
-
転写を促進または抑制するタンパク質
ex)MYC, MYB, JUN, FOS, REL
MYCが最重要。促進も抑制もするため、発現は本来厳格に制御。バーキットリンパ腫
8番染色体のMYCと14番染色体の相互転座t(8;14)→MYCタンパクの大量生産この転座が起こると、X染色体の遺伝子が転写活性の高い免疫グロブリン重鎖遺伝子 IGH の近傍に置かれることにより、正常の制御機構から逸脱し、転写活性が上がる。
-
細胞周期は、特にG1/G2チェックポイントで増殖因子,増殖抑制因子のバランス, DNA損傷センサーによる厳密な制御を受ける。(網膜芽細胞腫タンパク質(RB)のリン酸化による)
マントル細胞リンパ腫:t(11;14) 【14番染色体との相互転座t(14;X)】
がん抑制遺伝子
1. RB遺伝子:細胞周期の支配者
RB遺伝子:網膜芽細胞腫遺伝子
網膜芽細胞腫
・孤発性:60%
・家族性:40%, 常染色体有性遺伝を示す
2ヒット仮説
両方の対立遺伝子が不活性化されなければならない
参考:がん原遺伝子/細胞周期
2. TP53遺伝子:ゲノムの守護者
DNA損傷に対する応答
元気な細胞は、p53を必要とせずすぐMDM2で分解するので、通常p53の半減期は短く免疫染色では見れへん
そのかわり、変異型p53は核に蓄積するので免疫染色で検出可能→病理診断で使用
3. APC遺伝子
アポトーシスを制御する遺伝子
アポトーシス
・外因性
・内因性:ミトコンドリア外膜の透過性↑ -> シトクロムCの細胞質への移行 ->...
ミトコンドリア外膜の透過性は以下の因子により制御
・アポトーシス促進因子(BAX, BAK)
・抗アポトーシス因子(BCL2,BCL-X)
正常リンパ組織の胚中心では、
自己反応性B細胞は殺さなあかんためアポトーシスしまくり
「抗アポトーシスで生き残らせるわけにはいかん」ので抗アポトーシス因子BCL2の発現は制御そこへ、相互転座t(14;18)により、18番染色体のBCL2が過剰に発現、、
リンパ節腫瘍となる(-が減ることによる増加) 【14番染色体との相互転座t(14;X)
腫瘍と宿主の関係
腫瘍は完全な"自己"ではない
多くの腫瘍細胞は免疫監視により"非自己"と認識され破壊される
免疫不全患者ではがんの発生率が桁違いに高い
腫瘍抗原
・腫瘍特異抗原(TSA):がん細胞のみに発現, 免疫原性が高い
・腫瘍関連抗原(TAA):がん細胞でこう発言しているが、正常細胞にも発現
-
ドライバー変異(がん関連遺伝子の変異)に加え、パッセンジャー変異も蓄積
とにかくいっぱいの変異
→新規のタンパク質(新規抗原)の産生 -
がん精巣抗原
通常は、精巣のみに発現。精巣以外ではDNAメチル化により発現抑制。
これが別んとこに発現してしまうエラー精巣にはMHCクラスⅠが発現していないため、がん精巣抗原はCD8+T細胞に認識されない
→現実的には腫瘍特異性抗原(TSA)でもある
どうせ通常の場所に至って反応されない(がんの時にしか反応されない)ex)メラノーマ抗原遺伝子1(MAGE-1)
悪性黒色腫の約40%に発現
がん免疫療法開発の格好のターゲット -
腫瘍ウイルスにより産生されるタンパク質は普通に抗原
ex)
・ヒト乳頭腫ウイルス(HPV)
・エプスタイン・バーウイルス
の産生ウイルスはT細胞に認識される
逆にいえば、HIV感染者等T細胞に欠陥がある患者に、
・HPV関連子宮頸癌
・EBV関連B細胞リンパ腫
がおっく発生する。
DNA腫瘍ウイルス -
正常タンパク質であっても多すぎは腫瘍抗原となることがある
ex)チロシナーゼ
悪性黒色腫で過剰に発現した結果,T細胞に認識される
乳癌ではHER2タンパク質の過剰発現が起こる
がん関連遺伝子/増殖因子受容体 -
胎生期に発言しているが、正常な成人の組織では発言抑制されている遺伝子が、抑制をはずれ再び発現した時、抗原として認識される
ex)
・がん胎児性抗原(CEA)
・αフェトプロテイン(AFP)
血清腫瘍マーカーとして用いられる -
ほとんどの腫瘍細胞には、
細胞表面の糖タンパク質の過剰発現, 構造異常があり、がん診断の根拠となるex)
・卵巣癌:CA125(MUC16)
・肺腺癌:SLX
・乳癌:NCC-ST-39
・消化器癌(特に膵臓癌):CA19-9
血清腫瘍マーカー, 免疫染色で利用される
腫瘍抗原に対する免疫応答
がんの免疫回避
がん免疫編集
1. 排除相:免疫>がん
2. 平衡相:免疫=がん
3. 逃避相:免疫<がん
がん免疫編集に関与している重要な因子
抗原陰性サブクローンの選択的増殖
免疫原性の低いサブクローンが生き残り増殖(静か〜に)
MHCクラスⅠの発現消失または減少
がん細胞ではしばしばMHCクラスⅠの発現が消失
→CTLには認識されないが、NKが殺してくれる
免疫抑制
・免疫チェックポイント分子の発現
ex)PD-1:オプジーボはここに作用
・免疫抑制性サイトカインの産生
勝手に、TGF-βやIL-10のような抗炎症性サイトカインを放出
何やってんだ
・免疫抑制性細胞の誘導
・制御性T細胞(Treg):CTLA-4を恒常的に発現
・骨髄由来サプレッサー細胞(MDSC):抗炎症性サイトカインの産生,分泌
腫瘍の宿主への影響
1. 腫瘍の位置
・下垂体腺腫:下垂体窩(トルコ鞍)の容積一定→主要周囲の内分泌腺を破壊
下垂体機能低下症
・胆管癌は胆道の閉塞により、重篤な黄疸を引き起こす
2. (正所性)ホルモン産生
勝手にホルモンを産生,分泌
・膵島細胞腫瘍(インスリノーマ):高インスリン血症による低血糖を引き起こす
・アルドステロン産生腺腫(副腎皮質球状体の腫瘍):抗アルドステロン症(高血圧, 低K+血症)
3. 腫瘍随伴症候群
がん患者に起こる症状のうち、
腫瘍の局所進展や遠隔転移,あるいはその腫瘍の起源となる組織で元来産生されているホルモンの作用では説明できないもの
癌患者の10%に見られる
特に、肺癌,乳癌,血液悪性腫瘍に多い
以下の点から重要
・潜在がん(原発不明がん)の初発症状として現れることがある
・病的変化は重症化, 致死的にまで発展することがある
・転移の症状や抗がん剤の副作用に類似しており、治療における混乱を招く
代表的な症状
・高カルシウム血漿
副甲状腺ホルモン関連タンパク質
- 破骨細胞の機能亢進による骨吸収
- 腎尿細管でのカルシウム再吸収の促進
- カルシフェジオール→活性型ビタミンD(カルシトリオール)の変換促進
- 腸管からのカルシウム吸収促進
骨転移に起因するものは含まれない
・クッシング症候群
副腎皮質束状帯で産生される糖質コルチコイドの過剰分泌
ex)中心性肥満, 満月様顔貌, 皮膚線条, 高血圧, 高血糖, 骨粗鬆症
腫瘍細胞が異所性産生する副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)による肺小細胞癌に多い
・非細菌性血栓性心膜炎
凝固系の亢進により、無菌性の小型血栓が心臓弁膜に付着
粘液産生性腺癌に多い。
4. 悪液質
宿主や腫瘍から放出されるサイトカインなどの液性因子により、
・進行性の体重減少(特に筋肉の萎縮)
・重篤な衰弱
・食欲不振
・貧血
となる状態
宿主マクロファージが産生するTNFは、食欲抑制,脂肪 タンパク質の異化(≒分解)を促進してしまう
Discussion