「This is Lean」を読んで
先日、『This is Lean: リソースにとらわれない新時代のリーン・マネジメント』 を読みました。
巷には「リーン」を冠する書籍があふれており、何がリーンで何がリーンでないのか分かりにくい状況がありますが、本書は、「これがリーンだ。」 と、その核心をシンプルに、かつ明確に述べてくれている大変ありがたい一冊です。
この書籍から学んだ、現代のビジネスパーソンにとって最も重要な要点を記事としてまとめます。
「リーン」の起源:トヨタ生産方式(TPS)への回帰

https://it-trend.jp/process_management/article/464-0015
本書は、「リーン」という概念が、1950年代に開発された トヨタ生産方式(TPS) に起因しているという事実から説明を始めます。TPSは、徹底的なムダの排除と生産効率の最大化を目指したものです。
トヨタがこの生産システムを開発せざるを得なかった背景には、リソース不足がありました。このリソース不足が、結果的にトヨタの目を顧客に向けさせ、生産プロセスの全体最適化(一本の鎖としてのつながり)へと導いたのです。
トヨタの物語の最も重要な目標は、フロー効率を最大限にすることでした。つまり、顧客の注文から納品、支払いまでのスループット時間のどの瞬間においても、付加価値をもたらす形をつくることです。
リーンの核心:リソース効率 vs フロー効率
現代のリーンマネジメントを理解する上で、最も重要な概念が 「リソース効率」と「フロー効率」 の違いです。
| 概念 | 定義 | 重視する視点 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| リソース効率 | 個々のリソース(人、機械)がどれだけ効率的に稼働しているか | 処理する側 | 高い稼働率を目指すが、部分最適化に陥る可能性がある |
| フロー効率 | 製品やサービスが顧客に届くまでのプロセス全体の効率 | サービスを受ける側(顧客) | ニーズ発生から解決までの時間で価値を受けている割合 |
多くの企業が従来重視してきたのは「リソース効率」でした。しかし、リソース効率だけを追求すると、工程間に在庫が溜まるなど、全体としての生産性が低下する可能性があります。
本書の明確な定義は次の通りです。
リーンとは、リソース効率よりもフロー効率を優先するオペレーション戦略である。
リソースを常に稼働させている状態(リソース効率が高い)でも、顧客側から見れば待ち時間が長い(フロー効率が低い)というケース(例:病院の診察待ち)があることから、サービスを受ける目線で考えることの重要性が分かります。
フロー効率を高めるための実践的アプローチ
リーンマネジメントを実践し、フロー効率を高めるには、全体最適を意識した業務フローのデザインと継続的な改善が必要です。
業務フローのデザインとボトルネックの特定
フロー効率を向上させるには、まず「フローユニット」(プロセスを通じて移動し、処理される対象)を定義し、プロセスの全体像を俯瞰的に把握する必要があります。
実践的なステップは以下の通りです。
- 現状分析:現在の業務フロー、時間、コスト、品質を詳細に把握する。
- 理想状態の設定:顧客価値を最大化し、無駄を最小化した理想的なフローを描く。
- ギャップ分析:現状と理想のギャップ、そしてボトルネックや無駄な工程を特定する。
ボトルネックとは、全体のフローを滞らせている要因のことで、これを解消することで大きな改善効果が得られます。ボトルネックを特定した後は、リトルの法則(スループット時間=プロセス内のタスク数×サイクル時間)に基づき、プロセス内のタスク数を減らすか、タスクを解決する時間を減らすことが重要です。
価値の定義とムダの排除
リーンマネジメントの目的は単なるコスト削減ではなく、顧客満足度を維持・向上させながら効率性を高めることです。
- 顧客価値の定義:顧客調査やフィードバック分析を通じて、真のニーズを把握し、顧客にとっての価値を明確に定義します。
- 価値流れの分析:顧客価値を生み出すプロセスと、そうでないプロセス(ムダ)を区別し、ムダな活動を削減・排除します。本来必要のない作業(ボトルネックにより発生するタスク管理など)は、二次ニーズとして特定し排除することが求められます。
- 品質の作り込み:プロセスの各段階で品質を確保し、手戻りを減らします。
リーンの二大原則と戦略の適用

https://www.cct-inc.co.jp/koto-online/archives/622
トヨタ生産方式の中核を成すのは、「ジャスト・イン・タイム(JIT)」と「自働化」 という二つの原則です。
- ジャスト・イン・タイム:組織全体を通じて効率的なフローをつくることを意味します。これは、必要なものを、必要な時に、必要な量だけ生産・提供するという考え方です。
- 自働化:フローを妨害したり、乱したりする要素を見つけ、防ぎ、排除する力を持つ「覚醒した」組織をつくることを意味します。
この二つの原則は「一枚のコインの表と裏」であり、両面がそろって初めて、常にしっかりと顧客に目を向けて「ゴールを決める」ことができるとしています。
また、リーンは製造業だけでなく、セールスフォース社の「ザ・モデル」のように、セールスプロセスにも応用されています。ただし、本書が強調するのは、リーンをオペレーション戦略として定義することで、あらゆる組織が選択できる戦略になるという点です。
リーンの実現に役立つ価値観、原則、メソッド、ツールは、それ自体はリーンではない(リーンオペレーション戦略を実現するための手段である)と明確に述べており、自社の状況や顧客ニーズに合わせてカスタマイズすることが重要だと教えてくれます。
終わりに:リーンとは絶え間ない改善である
「リーン」とは、いつか完了する静的な状態ではありません。リーンとは動的な状態であって、絶え間ない改善を特徴としているのです。
フロー効率を高めるために適切な決断ができたかどうかを問い続け、継続的改善(PDCAサイクル)を回していくことが、現代において「リーン」であると言える状態なのです。
本書は、リーンの概念やツールといった具体的な手段(メソッドやツールとしてのリーン)に着目するのではなく、その目的と抽象度の高いレベル(哲学や文化としてのリーン)を理解し、リソース効率の呪縛から脱して顧客重視のフロー効率を目指す戦略を学ぶための必読書です。
【書籍情報】
• タイトル: This is Lean: リソースにとらわれない新時代のリーン・マネジメント
• 著者: 二クラス・モーディグ、パール・オールストローム
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