📜

60年前からのプログラミング和文論文を掘り起こした話

2024/09/21に公開

日本の人々が「プログラミング」にかかわるようになったのは、いつごろでしょうか?

その前に、まずは世界のコンピュータとプログラミングの歴史を簡単に振り返ってみましょう。まずは OS から有名どころをたどると、

  • わかりやすく Windows 95 が 1995 年 [1]
  • その前に広く使われた Windows 3.1 は 1992 年 [2]
  • その下で動く MS-DOS は、バージョン 6 が 1993 年、バージョン 1 が 1981 年 [3]
  • Linus Torvalds が Linux の開発を始めたのが 1991 年 [4]
  • その「契機となった」 Andrew Tanenbaum の MINIX が 1987 年 [5]
  • さらに遡ればオリジナルの BSD (Berkeley Software Distribution) が 1977 年 [6]
  • それらの礎であった Unix (と Space Travel (ゲーム)) の開発が 1969 年 [7] [8]
  • その前身であった Multics プロジェクトが始まったのが 1964 年 [9]

といったところでしょうか。プログラミング言語の有名どころで言えば、

  • Sun Microsystems が Java の α 版を出したのが 1995 年、正式版の 1.0 が 1996 年 [10]
  • Brendan Eich が JavaScript の原型となる LiveScript を開発したのが 1995 年 [11]
  • まつもとゆきひろさんが Ruby の開発を始めたのが 1993 年、発表したのが 1995 年 [12]
  • Guido van Rossum が Python 0.90 を公開したのが 1991 年 [13]
  • Perl の最初のバージョン 1.0 が 1987 年 [14]
  • SQL という名前が付けられたのが 1970 年代 [15]
  • 上記の Unix と対で語られる C 言語の開発が 1972 年 [16]
  • 最初に動作したバージョンの Smalltalk も 1972 年 [17]
  • 最初の BASIC が開発されたのが 1964 年 [18]
  • CODASYL が COBOL を開発したのが 1959 年 [19]
  • LISP の開発が始まったのが 1958 年、論文が発表されたのが 1960 年 [20]
  • John Backus が FORTRAN の最初の最初のバージョンを考案したのが 1954 年 [21]

みたいな時間軸を見ることができます。 (歴史の話なので近年のものは最初から除いています)

プログラミング黎明期とプロシン

この最初期にあたる 1950 年代にはすでにプログラミングに触れていた人が、日本にももちろんいました。ですが、目的である科学技術計算や事務計算のための単なる「作業」ととらえられがちで、「プログラミングという行為」そのものに特に注目することは多くなかったようです。

そんな中で 1960 年 1 月に第 1 回がおこなわれたのが、「プログラミング・シンポジウム」 (通称プロシン) です。 [22] 日本で「プログラミングそのものを興味の対象としたイベント」は、これがおそらく最初のものだったと思われます。 [23]

プロシンは今でも続いていて、年明けの 2025 年には第 66 回を数えます。現在のプロシンについては、以下の記事などをご覧ください。 (第 66 回の論文・発表も絶賛募集中です!)

過去のプロシン論文集

さてこのプロシン、いちおう学会系のイベントなので、第 1 回から毎回いわゆる「論文集 (報告集・予稿集)」が出版されています。しかし当時のシンポジウムに参加していなかった人には、これまで第 46 回 (2006 年) 以前の論文集にアクセスする方法がありませんでした。主にシンポジウムの参加者に配布された論文集 (物理冊子) しか、実質的に存在しなかったんですね。

プロシン以外の、情報処理学会として開かれていた会議の論文や会誌「情報処理」の記事などは、スキャンしたものが最初期のものから「情報学広場」 (情報処理学会の電子図書館) に掲載されています。 [24] しかしプロシンの論文は、長らく第 47 回以降のものしか掲載がありませんでした。 [25]

関係者には、「おもしろい議論がされている論文も多いのに読めないのはもったいない」という気持ち、そして「せっかく書いた論文へのアクセスがかぎられることは著者にとっても本懐ではないはずだ」という思いがありました。そこで 2020 年、千葉大学の辻尚史先生に音頭を取っていただき、過去のプログラミング・シンポジウム論文集の内容を情報処理学会の情報学広場に掲載する活動が始まりました。 [26]

そこから掲載までの実作業にさらなる年月を要してしまったのですが、論文集の冊子をお持ちだった先生方からスキャンを提供いただき、さらに多くの方々のご協力を得て論文タイトル・著者の確認や PDF の分割などをおこない、第 46 回以前のプロシンの論文集もすべて情報学広場に掲載することができました。 [27]

本記事は、せっかく公開される論文集が多くの方の目に留まってほしいと、宣伝のために書いているものです。 [28]

学会系のイベントだからといって決してカタすぎることのない、ただただ「プログラミングが好きな」人たちが自由闊達にいろいろな (好き勝手な) 議論を楽しんでいる様子が目に浮かぶような、当時の息吹を感じられる記録になっていると思います。ぜひアクセスしてみてください!

ピックアップ

…と、概要だけ紹介して終わりにしてもいいのですが、これだけで興味を持ってもらえる人は、あまり多くないかもしれません。

ということでここからは、本記事の筆者が「おもしろい!」と思った論文や、各トピックにそれぞれ触れているような論文を、あくまで筆者の独断と偏見でピックアップして紹介してみたいと思います。 [29]

各話題に対してちょっと目を引く論文をひたすら持ってきていたら大量になってしまいましたが、それでもおそらくまったく拾いきれていません。紹介に対して、筆者の趣味や理解が多分に反映されることはお許しください。

東京オリンピツク

「東京オリンピツク」の話なんかが出てきたこともあったようです。つい数年前にあった東京 2020 じゃないですよ。第 6 回プログラミング・シンポジウム (1965) で発表された、その前年の 1964 年の東京オリンピツクの話題です。

1964年10月に東京において開催されたオリンピツクは,科学の大会と言われ各種の機
械が競技成績の判定・表示・伝達・印刷に使われた。8台の電子計算組織を中枢とするIBM
オリンピツク・テレプロセシング・システムはその中で最も画期的かつ大規模なものであり,
広範な地域に散在する32の競技場から多種・多様かつ大量の競技データーを時々刻々高速で
収集・処理・伝達し,インフオーメーシヨン・サービスに華々しい活躍を示した.

表現がいちいち仰々しいことには時代を感じさせますが、当時のシステム構成図から、メッセージデータのフォーマッティング、実際に処理されたデータ、事故対応の予備系統の説明など、わりと生々しい内容が記録されています。

『自動診断』

プログラミングの文脈で「自動診断」というと、プログラムの静的検証とかデータ検証とかの話かなと思いきや、これが医療における自動「診断」の話だったりします。これも 1965 ですね。

(その前 1964 年の第 5 回までは数値計算や (オペレーティング) システム、コンパイラ・プログラミング言語などの話題がほとんどだったんですが、この第 6 回は多分野の話が急に多くなっています。なにか運営上の工夫があったのかもしれません)

  • 自動診断, 高橋 晄正 (東大医), 第6回プログラミング—シンポジウム報告集 (1965)

プログラムの話というよりは「臨床から取得した統計量をどう処理するか」という議論が数式とともに並ぶ感じですが、ソフトウェア屋からするとなかなか新鮮な話です。

その後も医療関係の話はしばしば出てきているようです。

産業分野・異分野

医療分野以外にも、各種産業分野からの発表をちょくちょく見かけるのもおもしろいところです。たとえば鉄鋼プラントの話が出てきたかと思えば…。

味の素の方がグルタミン酸結晶の硝析を効率的におこなうためのシミュレータの話をしていたり。

  • 晶析工程シミュレータ, 富田 潔, 小幡 孝一郎, 河合 健司, 森 幸則, 西村 俊昭 (味の素株式会社), 第7回プログラミング—シンポジウム報告集 (1966)

OCR (文字認識) の話かー、ふーん、と思えば、発表は三越の方で、現実問題を解こうとしている様子が見えたり。

鹿島建設の方が、当時 (1972) リアルタイムに計算をしながらディスプレイに表示することが難しかった地震応答のシミュレーションの結果を、フィルムに出力する工夫の話をしていたり。

うーん、バッチ処理かー、と思うと三井銀行の方 (1977) だったり。

トヨタの方が自動車ボディの開発に使っていた (1981) CAD・CAM の話をしていたり。

また産業分野にかぎらず、異分野の研究領域との協業、のような話が紹介されたりもします。

情報科学の学術系にいても、現代のいわゆるソフトウェア・エンジニア業界にいても、あまり触れる機会がなさそうな話がされていたりします。

鉄道

界隈に鉄の人が多いのは昔からだったようで、定期的に鉄道に関連する話題が出てきます。

データ処理とインフォメーション・リトリーバル

まだ SQL も関係データベース (RDB) も存在していない 1963 年の第 4 回の発表ですが、当時 CODASYL [30] という団体で議論されていた COBOL と情報代数ベースのデータ処理のデータ処理関連の (英語) 論文が紹介されています。だいぶ教科書的な話かもしれませんが、いまの RDB/SQL と比べてみるとおもしろい人もいるかもしれません。

  • データ処理理論の展望, 関根 智明 (慶応大学), 刀根 薫 (津田熟大学), 第4回プログラミング—シンポジウム報告集 (1963)

そこからさらに、文書の管理とそこからの検索的な話題としての「インフォメーション・リトリーバル」の議論が 1965 年の第 6 回でもなされています。インフォメーション・リトリーバルは現代でも使われる用語ですね。

「外務省における情報検索システム」とかいきなり出てきて「ファッ!?」となったりもします。

最近 (2010 年〜) のプロシンではデータベース的な話はそんなに多くないなあと思っていたのですが、歴史を振り返るとけっこうあったんですね。関係する話題は、継続的にいろいろな形で出てきます。

2000 年代にはオープンソースの XML-DB なんかの話がされていたり PostgreSQL の話がされていたりもします。

円周率

円周率で有名な金田康正先生 [31] らによる円周率関係の発表も複数回あったようです。

数値計算・行列計算など

特に第 1 回 (1960) から第 3 回 (1962) あたりのリストを眺めると、「計算」の話題がよく出てきます。特に当時の大学や研究機関では、コンピュータの主な使用目的は物理のシミュレーション計算であったり行列計算であったり、という雰囲気が垣間見える感じでしょうか。

その後も (数値) 計算が関係するような話題は、ずっとなにかしら出続けていますね。

  • 幻影数値解, 宇野 利雄, 永坂 秀子 (日大理工), 第8回プログラミング—シンポジウム報告集 (1967)

『UNIXについて』

UNIX を含む歴史についても上で軽く触れましたが、その UNIX そのものについて「他のシステムに余りみられない UNIX の特徴をあげてみると」のように紹介している論文もありました。 UNIX の開発・登場 (1969) から数年経った (1978) ところでの紹介ですが、いまとなっては (Linux として) 当たり前になってしまった UNIX 的なものについての、当時の空気感が少しわかるかもしれません。

C 言語についても UNIX の文脈の中で紹介されています。

また UNIX 関係にかぎらず、オペレーティング・システム (OS) 関係の話題というのも継続的にされています。

手書き論文

ところで、第 1 回から普通に活字 (おそらくタイプライター) が使われていたにもかかわらず、先の『UNIX について』の第 19 回 (1978) を含む第 17 回以降しばらく、手書きの論文がよく見られます。

どうもこれは、暮れに印刷関係がラッシュになって、不満足なものが出がちだったことに対して「あえて」やったことだったようです。当時の事情をすべて推しはかることはできませんが、「手作り」感にはあふれていて、これはこれでおもしろい気がしますね。

さて,第17回のシンポジウムは前回にこりて,発表にはくわしい要旨をつけていただき,それ
によって選択することもあるといって募集した。実際いろいろな理由により,せっかくだったが,
いくつかの発表申し込みにはご遠慮願った。また今回からは前2回の夏のシンポジウムの経験にも
とづき,報告集を手書きオフセット印刷に切りかえた。若干読みにくいかも知れないが,暮の印刷
ラッシュで,やゝ不満足な図や,多少の誤植の避け得ない,無味乾燥なタイプ版のものより,個々
の発表者の苦心の「手作り」の予稿を味わって頂きたい。この辺の情報処理技術は,必要なのにも
拘らず,大変遅れていて,人海戦術然としているのはまことに遺憾である。

組版・文書作成

印刷や版の話が出てきたので、ここで組版の話も取り上げておきましょう。ちなみに TeX [32] の「初版」は 1978 年だったそうですが、それ以前からも組版の話題は出てきています。

現代で言うなら Markdown のようなモチベーションの文書作成というのも考えられていたようです。 (もちろんレンダリング先は HTML ではありませんが)

ちなみに組版については、最近でも SATySFi の話がプロシンでもあったりしますね。

日本語とカナ漢字

日本語は、現代では当たり前にコンピュータであつかわれていますが、実はかつてはそんなに当たり前のものではありませんでした。いわゆる「自然言語処理」以前から、文字コード、かな漢字変換、フォント、エディタのサポート、外字、などなど、いろいろなところに課題があり、いろいろな挑戦がされていたことがうかがえます。

さらに、印鑑の話なんかが出てきたりもしています。

  • 印鑑とコンピュータ処理, 田中 康仁, 相賀 良久 (日本ユニバック株式会社), 第19回プログラミング・シンポジウム報告集 (1978)

ふりがなの話題などについては、最近でも話題があったりしました。

国際化

また、英語でも日本語でもない国際化について議論されたこともあったようです。

自然言語処理

もちろん、今でいう「自然言語処理」の枠組みに入ってくるような話題も、かなり以前からありました。

各種プログラミング言語

「プログラミング」シンポジウムで「言語」っていったらプログラミング言語の話題じゃないんかと、ここまで読んだ方は思ったかもしれません。もちろん、プログラミング言語の話題もたくさんあります。 (実際のところ、たくさんありすぎるので後回しにしていました)

ALGOL

特に初期には ALGOL の話題が多いですね。 (ちなみにこのころはまだ C 言語も存在しなかったりします)

  • ALGOLの文法, 森口 繁一 (東大工), 第1回プログラミング–シンポジウム報告集 (1960)
  • ALGOL 60のCompiler, 中島 勝也, 藤野 喜一, 小島 惇 (早大理工), 第3回プログラミング—シンポジウム報告集 (1962)
  • ALGŌL言語によるALGŌLコムパイラの製作, 井上 謙蔵, 高橋 秀知, 清水 公子 (東大物性研究所), 第6回プログラミング—シンポジウム報告集 (1965)
  • ALGOLコンパイラにおける最適化について, 島内 剛一 (立大理), 広瀬 健 (早大理工), 佐久間 紘一 (東大数理研), 福田 康夫 (東芝), 志村 昭雄 (日科技研), 第12回プログラミング—シンポジウム報告集 (1971)

PL/I

PL/I なんかも (新しいプログラミング言語として) 出てきたりします。

FORTRAN

FORTRAN はいまも数値計算系では現役ですが、もちろんその話題も出てきます。

性能を求めるケースが多いからか、特定のメーカー、特定のコンピュータ、の話題になるケースもありますね。

プログラムの間違いや移植に関する話なども見かけやすいような気がします。

COBOL

上で FORTRAN と COBOL の比較の話もありましたが、単体での COBOL の話題ももちろんあります。先に挙げたような、データベースと絡めた話題もありますね。

「リスト処理」と LISP

実はプロシンは LISP 好きの方が多く、必然的に LISP 関係の話題は多くなりがちです。しかし特に初期には LISP という言語 (LISt Processor) とは別に、「リスト処理」「リスト・プロセッシング」と題した話題をよく見かけます。中を見ると LISP でも見るような木構造表現の図が出てきたりします。

LISP という言語とは独立に、いわゆる記号処理の文脈で「リスト (木) 処理」というのが一つの潮流だったのかな、という印象を受けます。実際、今でいうと「コンパイラ」や「構文解析」の話題のように見える文脈で、「リスト処理」という言葉が頻出します。

もちろん「LISP という言語」の話題も、早くから近年まで、非常に多く出ています。

論理型言語と Prolog

Prolog や、論理型言語に関連した話題もいくつか出てきますね。

C言語

一方で「C 言語」そのものの話題、というのはあまり見かけません。特に UNIX 以降においてオペレーティング・システムを研究の対象にするときには、必然的に使う (使わなければならなくなる) のですが、逆に言語としての C 言語そのものへの注目は (この界隈では) あまり大きくなかったのかもしれません。

「研究」的な文脈の中では、道具として使うのはともかく研究対象にはしづらい、という感覚はわかるような気がします。当時は研究対象にできるコンパイラも多くありませんでしたし。

Java

かと思えば Java の話題は (Java の出現以降) 意外とあります。仕様がはっきりしていたことや、高速化や GC などの挑戦しがいのある話題が多かったことが、背景にあるかもしれません。

Ruby

Ruby の話題は、特に電子図書館に掲載されるようになる直前の第 46 回 (2005) ごろから、しばしば出ています。既に電子図書館に掲載されていたという意味では、多くが本記事のスコープから少し外れるのですが、参考に挙げておきます。

ごく最近にも Ruby のインタプリタと JIT コンパイラを Rust で実装したような話題があったりしました。

JavaScript

JavaScript の話題も、やはり電子図書館に掲載されるようになった以降にしばしば見かけるようになりました。

独自・多様なプログラミング言語

独自のプログラミング言語と処理系を作ったような話も、初期から現在までよく出てきます。汎用的なものから、目的をはっきり絞ったようなものまで、いろいろありますね。

日本語プログラミング

いわゆる「日本語によるプログラミング (言語)」というのも、一定の人気があり続けている話題ですね。

プログラミング言語の俯瞰

プログラミング言語分野の傾向を俯瞰したような議論というのもいくつかあります。

"Problem Oriented Language" や「問題向き言語」という言葉が出てくるんですが、これは現代でいう「高級言語」のような概念を指しているのかな…、という雰囲気です。

プログラミング方法論

オブジェクト指向

いわゆる「オブジェクト指向」に関係する初期の議論なども見当たります。とはいえ (現代でも一部で見かける) 「オブジェクト指向という考え方」そのものについてや「流派」の議論というのはあまりないかもしれませんが。

構造化プログラミング

オブジェクト指向の前には「構造化プログラミング」というのが言われたこともありました。 (今ではもう当たり前のものになっていますが)

初期からの、いわゆる「(データ) 型」についての議論というのもいくつか見られます。

コンパイラ

プログラミング言語の議論があるのですから、もちろんその中や関連として、コンパイラ、言語処理系、構文解析 (パーサー) などの話題もありますね。

自動プログラミング

「自動プログラミング」という言葉がちょくちょく出てきます。「自動プログラミング」 [34] というのは、時代によっては「コンパイル」「コンパイラ」と近い認識で解釈されたりもするのですが、さらに前の時代だともう少し「機械に近い」ところをゴリゴリやっていたりして、時代によって意味が移り変わってきた言葉だ、というのがなんとなく見えてきそうです。近年で「自動プログラミング」といったら、ソースコード生成とか生成 AI の話になるんでしょうね。

コンパイラ (・コンパイラ)

各プログラミング言語のコンパイラの議論は既に各言語のところでも取り上げているので、ここではコンパイラ一般の話題や、構文解析器の話、コンパイラ生成系 (コンパイラ・コンパイラ) の話などを取り上げてみます。

特に初期のものでは、汎用的なコンパイラの技術の話というより、個々のマシンにもかなり依った議論が見られたりします。

GC

GC (Garbage Collection) に特化したような話も、一定程度あったりします。

ハードウェア化

プログラミング言語処理系をハードウェア化してしまおう、みたいな話も、実はけっこう以前からしばしばなされています。

検証・テスト・プロファイル

プログラムの検証、テストなどに関連する話題も一定数ありますね。

証明・算術

プログラムで証明をする、みたいな話は、かなり以前からあったようです。

かと思えば、いわゆる算数の文章問題的なものを解こうとする、今でいう東ロボくん的なチャレンジの話も当時からあったり。

暗号・セキュリティ

暗号やセキュリティの話題というのも時おり出ています。

計算センター・データセンター

大学や企業における計算機センター、データセンター、みたいな話題もあります。

高性能計算 (スパコン)

大学の計算機センターといえばスパコンでしょ (?) ということで、いわゆるスーパーコンピューター (高性能計算; HPC) の話題もしばしばあります。

通信・ネットワーク

また、計算機センター・データセンターといえば、ネットワークの話も欠くことができません。現在の「日本の」インターネット環境の起源・ベースとなった JUNET [35] の話から、その後のネットワークを利用した諸々まで、様々な話題があります。

教育

プログラミングの教育の話がちょくちょくあるのも、かなり初期からのようです。

ゲーム・パズル

プロシンには GPCC (Games and Puzzles Competitions on Computers) という分科会もあるのですが、「ゲームやパズルを解く」という話題もかなり以前からよくあるようです。

ゲームとプログラミング言語を合わせたような話題もあったりします。

ユーザー・インターフェース

ユーザー・インターフェース的な話題も、比較的早くからあったようです。

画像・絵画

ゲームといえば…、というわけでもありませんが、絵画・画像をあつかうような話も定期的に出ています。

音声・音楽

音声・音楽をあつかうような話題は、なぜか画像以上にたくさん出てきます。流行があったんでしょうか。

未踏ソフトウェア

未踏 (ソフトウェア創造) 事業 [36] は 2000 年からの事業でしたが、そのプロジェクトもいくつかプロシンでの発表がされています。

  • 未踏プロジェクト、現在じたばた真っ最中, 和田 健之介, 和田 佳子, 中口 孝雄, 星 和明 (有限会社アントラッド), 金子 勇 (エクス・ツールス株式会社), 石井 卓良 (デジタルファッション株式会社), 西尾 泰和 (京都大学), 第43回プログラミング・シンポジウム報告集 (2002)
  • ゲノム丸ごと可視化, 西尾 泰和, 比戸 将平 (京都大学), 和田 健之介, 和田 佳子 ((有)アントラッド), 池村 淑道 (国立遺伝学研究所), 金谷 重彦 (奈良先端大学院大学), 第44回プログラミング・シンポジウム報告集 (2003)

歴史

本記事自体もそういう努力の一貫と呼べるかもしれませんが、日本や世界の計算機・コンピュータ・ソフトウェアの歴史を振り返り保存する努力に関連した話題も数年おきにされています。

その他、「えっ」と目を引くようなタイトルの論文もしばしば…。

分類が難しいものの、「おっ」と思わせるタイトルもあったり。

「あっ、これが」というお話もあったり。

もはやまとめきれませんが、本当にいろいろな話題があるのがプロシンです。

夏のプロシン

この 1 月の (冬の) プロシン以外にも、その分科会 (?) 的なあつかいで、「夏のプログラミング・シンポジウム」 (通称: 夏のプロシン・夏プロ) というのが夏に開かれています。 (この記事の初版を公開した 2024 年 9 月 21 日も「夏のプログラミング・シンポジウム 2024」がおこなわれていました)

このはじまりは 1964 年 7 月 15 日から 2 泊 3 日で開かれた“夢のシンポジウム”だったそうです。この“夢のシンポジウム” 〜 夏のプロシンの「報告」も毎年の論文集に収録されており、その初回分から情報学広場に掲載となりました。

情報科学若手の会

また、「情報科学若手の会」という催しも毎年おこなわれています。「プロシンには参加したことがないけど若手の会は行ったことある!」という方もいらっしゃるかもしれません。

情報科学若手の会も、実はプロシンの分科会的な位置付けだったりします。この若手の会の「報告」も毎年のプロシン論文集に収録されていて、情報学広場に掲載となりましたので、興味がある方はぜひ眺めてみてください。

ご参加をお待ちしています

いかがでしたか?

冒頭に書いたとおり、プログラミング・シンポジウムはいまも開催されており、ちょうど年明けの第 66 回に向けた発表・論文募集をしているところです。

挙げてきた論文も大学関係者以外からのものが多かったことに、気が付かれた方も多いかもしれません。大学などアカデミアの方にかぎらず、「プログラミングが好きな」人たちと話してみたいネタがあるかた、ぜひ発表・参加を検討してみてください!

脚注
  1. Microsoft Windows 95 (Wikipedia) ↩︎

  2. Microsoft Windows 3.x (Wikipedia) ↩︎

  3. MS-DOS (Wikipedia) ↩︎

  4. Linuxの歴史 (Wikipedia) ↩︎

  5. MINIX (Wikipedia) ↩︎

  6. Berkeley Software Distribution (Wikipedia) ↩︎

  7. UNIX (Wikipedia) ↩︎

  8. Koichi Nakashima さんの『Unixの歴史の起源を伝説のゲーム「スペース・トラベル」で遊んで学ぼう!』 (2024 年 9 月 18 日) にも詳しい。 ↩︎

  9. Multics (Wikipedia) ↩︎

  10. Java (Wikipedia) ↩︎

  11. JavaScript (Wikipedia) ↩︎

  12. Ruby (Wikipedia) ↩︎

  13. Python (Wikipedia) ↩︎

  14. Perl (Wikipedia) ↩︎

  15. SQL (Wikipedia:en) ↩︎

  16. C言語 (Wikipedia) ↩︎

  17. Smalltalk (Wikipedia) ↩︎

  18. BASIC (Wikipedia) ↩︎

  19. COBOL (Wikipedia) ↩︎

  20. LISP (Wikipedia) ↩︎

  21. Fortran (Wikipedia) ↩︎

  22. 当時の文部省科学研究費でおこなわれた「数理科学の総合研究」の一部として、山内二郎先生が始めたもの、ということです。山内二郎先生追悼集刊行委員会編 「山内二郎先生 人と業績」 (1985 年 11 月) より。 (プログラミング・シンポジウムの Web サイトにある「プログラミング・シンポジウムの始まり」に抜粋が掲載されています) ↩︎

  23. 2024 年現在の日本でプログラミングをあつかう団体、特に学会としては、まず「情報処理学会」と「ソフトウェア科学会」が挙がるでしょう。そのうち古いほうである情報処理学会でも、その設立総会は 1960 年 4 月だったそうです。「情報処理学会60年のあゆみ」より。 ↩︎

  24. 例: 会誌「情報処理」 Vol.1 (1960) ↩︎

  25. 過去の論文を掲載できていなかったのは、プロシンと情報処理学会では設立の過程が異なっていて運営も独立していたため、著作権処理などが情報処理学会のものとそろっていなかった、などが主な理由です。 ↩︎

  26. 著作権の利用許諾などについて、権利者捜索のためのご連絡が「過去のプログラミング・シンポジウム報告集の利用許諾について」に掲載されています。 ↩︎

  27. 2024 年 10 月 9 日時点。 (夏のプログラミング・シンポジウムで共有したかったので、掲載できていないものがあった状態で取り急ぎ本記事を公開したのですが、現在ではすべての掲載が完了しています) ↩︎

  28. 本記事の筆者は、データのチェックや PDF 分割の取りまとめと、最終確認の役をやっておりました。 ↩︎

  29. なにせ掲載作業を進める中で、ほぼすべてに軽く目は通しましたので…。 ↩︎

  30. CODASYL (Wikipedia) ↩︎

  31. 金田康正 (Wikipedia) ↩︎

  32. TeX (Wikipedia) ↩︎

  33. Self (Wikipedia) ↩︎

  34. 自動プログラミング (Wikipedia) ↩︎

  35. JUNET (Wikipedia) ↩︎

  36. 未踏事業 (Wikipedia) ↩︎

GitHubで編集を提案

Discussion