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ネットワークシミュレータを使いこなそう!~OSSなシミュレータ情報~

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はじめに

現在は仮想化技術が一般的になっており、多くの方がネットワーク学習でも仮想化プラットフォームを利用したり、検討されていると思います。

社内でネットワークエンジニアの育成に携わっていると、よく聞かれるのが「自宅でも実機のような環境で勉強したいのですが、どのツールを選べばいいのか分からなくて...」という相談です。

確かに、Cisco CMLやACI、Catalyst Center(旧DNAC)といった環境は素晴らしいのですが、個人で環境を揃えるのは現実的ではありません。VMwareと組み合わせた検証環境なんて、考えただけでも予算が...

そこで今回は、無料で使えるオープンソースのネットワークシミュレータをいくつか紹介してみます。実際に私が業務や学習で使ってきたものを中心に、それぞれの特徴や「どんな人に向いているか」をまとめました。

「勉強したいけど、どこから手をつければいいのか分からない」という方の参考になれば嬉しいです。

なぜオープンソースを選ぶのか

まず、なぜオープンソースのシミュレータなのか。理由は単純で、お金がかからないのが一番大きいですね。学習目的なら、高額なライセンス料を払う必要がありませんし、自由度が高いのも魅力です。ソースコードが公開されているので、自分の学習目的に合わせてカスタマイズできます。実際、研究室や個人プロジェクトでは、この柔軟性が重宝します。 また、コミュニティが活発であり、困った時に情報を見つけやすく、チュートリアルや設定例も豊富です。

代表的なオープンソースネットワークシミュレータ

1. NS-3 - 研究者の定番ツール

NS-3(Network Simulator 3) は、ネットワーク研究の世界では知らない人はいない、というぐらい定番のシミュレータです。C++で書かれており、プロトコルレベルで詳細な検証が可能です。

特徴

  • 最大の特徴はとにかく自由度が高いという点です。TCP/UDP、Wi-Fi、5Gまで、ありとあらゆる通信プロトコルを詳細にシミュレーションできます。「このプロトコルの挙動を細かく調べたい」という時には、NS-3の右に出るものはいないでしょう。

  • 学習リソースが充実しているのも助かります。チュートリアルがしっかりしていて、初心者でも段階的に学べる構成になっています。

  • 世界中の研究機関で使用されているため、論文や技術資料も豊富にあります。

こんな人におすすめ

  • 大学でネットワーク研究をしている学生
  • プロトコルの動作原理を深く理解したいエンジニア
  • 新しい通信技術の検証を行いたい研究者

注意点

  • C++の知識が必要です。プログラミング経験がないと、最初はかなり苦労するかもしれません。私も最初は設定ファイルを書くだけで一苦労でした...

2. OMNeT++ - モジュール型の柔軟なシミュレータ

OMNeT++(オムネットプラスプラス) は「レゴブロックを組み立てるようにネットワークを作る」感覚のシミュレータです。モジュール型の設計により、部品を組み合わせながら複雑なネットワークを構築できます。

特徴

  • 視覚的に分かりやすいのが大きな魅力です。ネットワークトポロジーや通信の流れをグラフィカルに確認でき、「今何が起きているのか」が一目で分かります。

  • 幅広いネットワークに対応しているのも特徴的です。有線LANから無線、IoT、自動車同士の通信まで、様々な通信形態をシミュレーションできます。

こんな人におすすめ

  • 視覚的に理解したいタイプの人
  • IoTや車載ネットワークに興味がある人
  • ネットワーク設計を体系的に学びたい人

注意点

  • C++やEclipseの知識が必要で、初期設定で躓く人も多いですので、導入する際少し面倒な点があります。また、ある程度ネットワークの基礎知識があった方が楽しめると思います。

3. GNS3 - 実機に最も近い体験

GNS3(Graphical Network Simulator 3) は、実機のルーター・スイッチのイメージを動かせるシミュレータです。Cisco IOSやJuniper Junos OSを実際に動作させるため、本物のラボ環境に最も近い体験ができます。

特徴

  • 直感的な操作性が素晴らしく、機器をドラッグ&ドロップして、ケーブルでつなぐだけで環境を作ることができます。まるでゲームのような感覚でネットワークを組み立てられます。

  • 実機と同じコマンドが使えるのも大きなメリットであり、show コマンドの出力から設定構文まで実際の業務と同じことが実現できます。実際に使用されている人も多いのではないでしょうか。

こんな人におすすめ

  • CCNA/CCNP などベンダー資格の取得を目指している人
  • 実機での構築作業経験を積みたい初学者
  • トラブルシューティングスキルを向上させたい人

注意点

  • PCスペックがある程度必要であり、IOSイメージを複数動かした際にメモリを大量に消費します。私の経験では、16GB以上のメモリがあるとストレスなく動作させることが可能です。

  • IOSイメージの入手が課題になることもあります。


4. Mininet - SDNの入門に最適

Mininet は、SDN(Software Defined Network)の学習・検証に特化した軽量シミュレータです。OpenFlowコントローラとの連携が容易で、SDNの基本概念を理解するのに最適です。

特徴

  • 驚くほど軽いのが最大の特徴です。起動は数秒、一般的なノートPCでも100台規模のネットワークを構築できます。

  • SDNに特化しているため、OpenFlowコントローラ(Ryu、ONOS、Floodlightなど)との連携がスムーズです。

  • Pythonスクリプトでの制御も可能で、プログラミングの勉強にもなります。

こんな人におすすめ

  • SDNを始めて学ぶ人
  • OpenFlowの動作を理解したい人
  • 軽量な検証環境が欲しい人

注意点

  • SDN専用なので、従来型ネットワークの学習には向きません。また、GUIがないため、コマンドライン操作に慣れている必要があります。

5. Cloonix - Linux系の隠れた名作

Cloonix は、QEMU/KVMベースの仮想化ツールです。Linux上で様々なOSを動かしながら、ネットワーク検証ができます。

特徴

  • 多様なOSに対応しています。Ubuntu、Debian、さらにはWindowsも起動可能で、サーバー環境の検証にも使えます。

  • GUI操作できるのも嬉しいポイントで、ノードを配置して線でつなぐだけの簡単操作で環境を構築できます。

こんな人におすすめ

  • Linuxに慣れている人
  • サーバー構成も含めた総合的な検証をしたい人
  • GNS3ほど高機能でなくてもいい人

注意点

  • 日本語の情報が少なく、基本的に英語のドキュメントを参照する必要があります。

6. Containerlab - 現代的なネットワーク検証

Containerlab は、Dockerコンテナを使った新世代のネットワークシミュレータです。YAML設定ファイルでトポロジーを定義し、マルチベンダー対応が特徴です

特徴

  • コンテナベースなので軽量で高速です。従来の仮想マシンベースと比べて、リソース消費が格段に少なくなります。

  • YAML設定により、Infrastructure as Code(IaC)の考え方でネットワークを管理できます。

  • マルチベンダー対応で、Arista、Juniper、Nokiaなど様々なベンダーのNetwork OSを扱えます。

こんな人におすすめ

  • ネットワーク自動化を学びたい人
  • データセンター技術(EVPN/VXLANなど)に興味がある人
  • モダンなツールを使いたい人

注意点

  • GUI がないため、全てコマンドライン操作です。また、YAMLの知識が必要になります。

7. Containernet - MininetとDockerの融合

Containernet は、MininetにDockerコンテナ機能を追加したSDN向けエミュレータです。Mininetの特長である軽量性とSDN特化機能に加えて、コンテナを扱える優れものです。

特徴

  • 軽量なのに高機能であり、数百ノードのシミュレーションも軽快に動作します。

  • Python APIによる制御が可能で、プログラムでネットワークの動作を細かく制御できます。

こんな人におすすめ

  • SDNをより深く学びたい人
  • Pythonでネットワーク制御を試したい人
  • リソース制約のある環境で作業する人

注意点

  • 情報が少ないのが課題であり、Mininetに比べてドキュメントや事例の数が限られています。

8. EVE-NG - 商用レベルの無料ツール

EVE-NG(Emulated Virtual Environment - Next Generation) は、UNetLabの後継として開発された高機能シミュレータです。商用ツールに匹敵する機能を無料で提供しています。

特徴

  • Web GUIによる直感的な操作が可能です。ブラウザだけでネットワーク構築から設定まで全て完結します。

  • 実機イメージに対応しており、本物の機器と同じ動作を再現できます。

  • 教育機関での採用実績も多く、信頼性の高いツールです。

こんな人におすすめ

  • 本格的な検証環境が欲しい人
  • 資格試験の対策をしたい人
  • チームでの学習環境を構築したい人

注意点

  • 高スペックPCが必要です。また、完全なオープンソースではない点も注意が必要です(コミュニティ版は無料)。

9. IMUNES - FreeBSDベースの軽量ツール

IMUNES(Integrated Multiprotocol Network Emulator/Simulator) は、FreeBSDのjail技術を活用した軽量シミュレータです。古いPCでも快適に動作するのが特徴です。

特徴

  • 軽量動作が最大の魅力です。jail技術により、少ないリソースで多数のノードを動かせます。

  • GUIに対応しており、ドラッグ&ドロップでトポロジー作成が可能です。

こんな人におすすめ

  • FreeBSDに興味がある人
  • 軽量なシミュレータを探している人
  • 基本的なプロトコル学習をしたい人

注意点

  • FreeBSD依存のため、他OSのユーザーには導入ハードルが高く感じられます。

10. PNETLab - EVE-NGの代替選択肢

PNETLab(Practice Network Lab) EVE-NGに似た機能を持つ無料のネットワークシミュレータです。多様なベンダー機器に対応し、学習に便利な機能が充実しています。

特徴

  • ブラウザベースの操作で、インストール後はWebブラウザだけで全ての操作が可能です。

  • マルチユーザー対応により、教育現場での利用にも適しています。

  • パケットキャプチャ機能で、Wiresharkと連携したプロトコル解析も可能です。


こんな人におすすめ

  • EVE-NGの代替を探している人
  • 教育現場でのネットワーク学習
  • 無料で本格的な機能を使いたい人

注意点

  • 日本語情報が少ないのと、設定によってはPCスペックが必要になることがあります。

実際に使ってみた感想

これまで様々なシミュレータを使ってきましたが、正直なところ「万能なツール」は存在しません。それぞれに得意な分野・苦手な分野があり、目的に応じて使い分けるのがベストです。

初学者の方には、まずGNS3やEVE-NGから始めることをお勧めします。GUIが利用できる上、直感的且つ実機に近い感覚で学習できるためです。

SDNに興味がある方は、MininetやContainerlabが良いでしょう。軽量で、現代的なネットワーク技術を学ぶのに適しているためです。

研究や深い学習が目的なら、NS-3やOMNeT++が選択肢になります。ただし、学習コストは高めです。

目的別おすすめシミュレータ

目的 おすすめツール 理由
資格試験対策 GNS3、EVE-NG、PNETLab 実機に近い操作感
SDN学習 Mininet、Containernet SDNに特化、軽量
研究・論文 NS-3、OMNeT++ 詳細な解析が可能
自動化学習 Containerlab IaC対応、モダン
基礎学習 IMUNES、Cloonix 軽量、GUI対応

さいごに

ネットワーク技術は日々進歩しており、学習に終わりはありません。しかし、適切なツールを使うことで、学習効率は大幅に向上します。 今回紹介したシミュレータは、どれも無料で使えるものばかりです。まずは興味のあるものから試してみて、自分に合ったツールを見つけてみてはいかがでしょうか。 「完璧なツール」を探すより、「今の自分に合ったツール」を選んで、実際に手を動かすことが大切だと筆者は考えています。
是非、楽しみながらスキルアップに励んでもらえればと思います。
この記事が、皆さんのネットワーク学習の一助になれば幸いです。

株式会社プログデンス
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