AI加速時代のQAエンジニア:開発スピードと品質のバランス戦略

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AI加速時代におけるQAエンジニアの生存戦略 ― PIVOTでの実践から

ビジネス映像メディア「PIVOT」でQAエンジニアをしているケイスケです。

本記事では、AIによる開発工程の加速に直面したとき、QAエンジニアがどのように適応していくか。
そして、PIVOTというプロダクトで実際にどう取り組んでいるのかをお伝えします。


1. はじめに:AIが加速する開発と取り残されるテスト工程

GitHub CopilotやCursor、Claude Codeなど、AIによるコーディング支援が開発スピードを大きく押し上げています。
一方で、QAエンジニアの現場はどうでしょうか?

開発はAIで加速するのに、テストは依然として手動で遅い。

多くのQAエンジニアが、この「スピードの非対称性」に課題を感じているのではないでしょうか。

私自身もまさにこの課題に直面しました。
特に、開発サイクルが短く・マルチプラットフォームを展開しているプロダクトでは、
テスト工程の遅れがチーム全体のボトルネックになりやすいと痛感しました。

そこで次に、私が担当している「PIVOT」プロダクトでどのような状況だったのか、
具体的に紹介します。


2. PIVOTプロダクトが直面していた課題

PIVOTでは以下のような状況でした。

  • 1週間単位の高速開発サイクル
  • iOS / Android / Web の3プラットフォーム展開
  • QAエンジニアは1名体制

開発がAIで加速する中、テスト工程がボトルネックになりかけていました。
そこでQA業務の一つであるテスト業務でAI活用ができないか、検討を始めました。


3. テスト工程のAI化が難しい理由

まず、なぜ単純に「AIに任せる」だけではうまくいかないのか。

理由1:総合的な仕様理解が必要

  • 単一機能だけでなく、全体設計・ビジネス要件との整合性を理解して判断する必要がある。

理由2:人間でしか検出できない不具合

  • デザインの意図とズレたUI
  • ユーザー体験上の違和感
  • アクセシビリティなど文脈依存の課題

このように、AIだけで完結するテスト設計は難しいのが現実です。


4. 戦略:AIと人間の役割を分ける

完全自動化は難しくても、AIと人間の得意領域を明確に分けることで効果的に協業できます。

テスト設計タスク AI活用 担当
Pairwiseでのパターン網羅 ✅ 可能 AI
一般的な外乱要因の抽出 ✅ 可能 AI
正常系テスト観点の抽出 ✅ 可能 AI
UI/UX観点の評価 ❌ 難しい 人間
ビジネス要件との整合性 ❌ 難しい 人間
ユーザー体験の総合評価 ❌ 難しい 人間

5. AI活用の実践 ― PIVOTでのワークフロー

ここからは、PIVOTで実際に行っているAI活用の具体例です。

ステップ①:AIによるテストケース素案生成

  • Claude CodeChatGPT Use connectors機能を活用し、リポジトリと連携。
  • PRやissueの差分を読み取り、仕様から正常系のテストケース素案を生成。
  • Pairwiseによる網羅や外乱要因もAIに任せる。

ステップ②:人間によるレビュー・補強

  • AIが生成した観点をレビューし、**ユーザー体験視点(ブラックボックス視点)**を追加。
  • UI/UX、アクセシビリティ、端末差異などの観点を補う。

ステップ③:テスト設計完了・実装連携

  • 最終版をテストケースとして採用し、自動テスト(MagicPod / Playwright)に組み込み。

使用プロンプト例(UAT用)

以下は実際に使用しているプロンプトを簡略化したものです。

あなたはQAエンジニアです。以下のPRまたはissueの内容を読み取り、
ユーザー操作を意識したテストケースを設計してください。

考慮する要素:
- ネットワーク変動・OS差異などの外乱要因
- iOSならiPhone/iPad、Androidならスマホ/タブレットの両方での確認
- Pairwiseでのパターン網羅
- UI変更がある場合、表示崩れや遷移影響も確認

出力形式:テーブル(前提条件 / 手順 / 期待値)

このように、AIに仕様理解+テスト設計の初期案を担わせ、人間が補正する運用を行っています。


6. 品質戦略 ― プロダクトフェーズに応じて変える

AI活用の「目的」はあくまで、プロダクトの成長速度に合わせた品質とスピードの最適化です。

フェーズごとの戦略

フェーズ 品質戦略 QA活動の重点
立ち上げ期 最低限の品質担保 クリティカルバグの防止
成長期(現状) スピード重視 AI活用・自動化で効率化を行い、クリティカルバグの防止+αの品質担保を行う
成熟期 品質強化 自動テストと不具合分析の充実でより高度な品質担保に

現在のPIVOTは**「成長期」**にあり、スピードを重視しています。
そのため、大胆な戦略ではありますが品質管理の中でも「不具合分析」などは削減し、テスト設計・実行にリソースを集中させています。

かといって不具合の振り返りを全く行わないということではありません。
あくまで口頭ベースで改善をしていき、ドキュメント化は行わないという方針です。

明確なコミュニケーションロスや仕様把握不備などが原因で発生した不具合については、チームで話合って改善することで、開発スピードの向上と品質向上どちらにも貢献できます。
そのため、そういった不具合については全体の振り返りで会話をして、口頭で解決をしていきます。

また、上記のバグ以外にも気になる事象があれば都度エンジニアと会話をして改善をしていきます。


7. まとめ:AI時代のQAエンジニアが取るべき姿勢

  1. AIとの協業領域を明確にする
    → 正常系や網羅性はAI、UXやビジネス整合性は人間。

  2. プロダクトライフサイクルに応じて品質戦略を変える
    → 成長期は「攻め8:守り2」。過度な品質担保よりスピード優先。

  3. リソースを最適配分する
    → ドキュメント化に時間をかけず、AIで効率化。

  4. スピードと品質のバランスを維持する
    → 「AI生成 → 人間レビュー → 改善」のサイクルを定着させる。


AIによる開発加速は、QAにとって「脅威」であると同時に「拡張」のチャンスでもあります。
PIVOTでは今後も、AIを活用しながらスピードと品質を両立するQA活動を続けていきます。


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