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調査にも色々ある!知っておきたい4つの調査タイプ【証明基準も解説!】
皆さん、こんにちは! ニュースなどで「〇〇社に行政調査が入った」「警察が捜査を開始」「損害賠償を求めて調査中」といった言葉を聞くことがありますよね。一口に「調査」と言っても、実はその目的や進め方、関わる人たちは様々です。
特に会社で何か問題が起こった場合、どのような種類の調査が行われる可能性があるのかを知っておくことは、コンプライアンス(法令遵守)やリスク管理の観点からも大切です。もちろん、情報セキュリティ担当者としても、インシデント発生時などに関わる可能性のある知識ですよ!
今日は、主な4つの調査タイプについて、それぞれの特徴を分かりやすく解説します。さらに、調査の結果、事実があったかなかったかを判断する際の「ハードルの高さ(証明基準)」 についても触れていきます。
① 行政調査 (Administrative Investigation) - お役所によるチェック!
- 誰が主体?: 国の省庁(例:厚生労働省、総務省)、都道府県庁、市役所、あるいは専門の委員会(例:個人情報保護委員会、公正取引委員会の一部門)といった行政機関が行います。
- 目的は?: 行政機関が、その法律や条例の目的を達成するために行います。具体的には、企業などがちゃんと法律やルールを守っているかを確認したり、許認可を与えるかどうかの判断材料を集めたり、問題があれば指導したり、処分(命令や取消しなど) したりするためです。
- 根拠となる法律は?: その行政機関が所管する個別の法律に基づきます。(例:個人情報保護法、労働基準法、食品衛生法など)
- 何を調べる?: 主に、調査対象となる企業や個人の法令遵守状況です。
- 調査権限や強制力は?: 法律に基づいて、報告徴収や立入検査の権限を持つ場合があります。任意協力が基本ですが、正当な理由なく拒否すると罰則があることも。刑事調査のような令状は通常必要ありません。
- 調査結果はどうなる?: 問題が見つかれば、行政指導、勧告、命令、許認可の停止や取消し、課徴金などの行政処分が行われることがあります。(※処分のための事実認定基準は法律や事案によりますが、後述する刑事ほどの厳格さは通常求められません。)
② 民事調査 (Civil Investigation) - 当事者同士の争いのための証拠集め!
- 誰が主体?: 主に、個人や企業といった民事上の紛争の当事者、またはその代理人である弁護士が行います。裁判が始まると、裁判所も証拠調べに関与します。
- 目的は?: 民事裁判において、自分の主張(言い分)が正しいことを証明するための証拠を集めることです。(例:「契約違反があった」「損害を受けた」)
- 根拠となる法律は?: 民法や民事訴訟法などに基づきます。
- 何を調べる?: 当事者間の権利や義務に関する事実関係です。
- 調査権限や強制力は?: 基本的に強制力はありません。相手方の協力や裁判所の命令(証拠保全、文書提出命令など)が必要です。弁護士は弁護士会照会を活用できます。
- 調査結果はどうなる?: 集めた証拠は裁判で提出され、それに基づいて裁判官が事実を認定し、和解を勧めたり、判決(例:「〇〇円支払え」)を下したりします。
- 【ポイント!】証明のハードル: 民事裁判で「ある事実があった」と認定されるためには、『証拠の優越性 (preponderance of the evidence)』という基準が用いられます。これは、「あった」とする証拠と「なかった」とする証拠を天秤にかけたとき、「あった」とする証拠の方がわずかでも重ければ(確率的に50%を超えていれば)、その事実はあったと認められる、という考え方です。「どちらかと言えば、そうらしい」くらいの確からしさでOK、ということです。刑事裁判に比べると、証明のハードルは低いと言えます。
③ 規制調査 (Regulatory Investigation) - 業界の番人によるチェック!
- 誰が主体?: 特定の業界を監督・規制する規制当局(金融庁、公正取引委員会、証券取引等監視委員会など)が行います。
- 目的は?: 担当する業界の特別なルール(法律・規制)が守られているかを監視し、違反行為があればそれを発見し、是正させることで、市場の健全性や公正さを維持します。
- 根拠となる法律は?: 金融商品取引法、独占禁止法など、それぞれの業界に特有の規制法規に基づきます。
- 何を調べる?: 規制対象となっている企業や個人の、規制違反の疑いがある行為です。(例:インサイダー取引、カルテル、安全基準違反など)
- 調査権限や強制力は?: ①の行政調査と同様、あるいはそれ以上に強力な調査権限(報告徴収、立入検査、資料提出命令など)を持つことが多いです。拒否には厳しい罰則も。
- 調査結果はどうなる?: 違反が認められると、課徴金納付命令、業務改善命令、業務停止命令といった厳しい行政処分が下されることがあります。悪質な場合は検察庁に刑事告発されることもあります。(※処分等のための事実認定基準は、行政調査と同様、法律や事案によります。)
④ 刑事調査 (Criminal Investigation) - 犯罪捜査!警察や検察の出番!
- 誰が主体?: 警察や検察庁といった捜査機関が行います。令状を発付するのは裁判官です。
- 目的は?: 犯罪が発生した(疑いがある)場合に、その証拠を集め、犯人を特定・逮捕し、最終的に裁判にかける(起訴する)かどうかを判断するためです。
- 根拠となる法律は?: 刑法や刑事訴訟法などに基づきます。
- 何を調べる?: 犯罪事実そのものです。
- 調査権限や強制力は?: 人権に配慮しつつも、犯罪捜査のためには強力な強制力が認められています。裁判官の令状があれば、逮捕、捜索、差押えなどが可能です。
- 調査結果はどうなる?: 捜査の結果、検察官が起訴または不起訴を決定します。起訴されると刑事裁判が開かれ、最終的に有罪または無罪の判決が下されます。
- 【ポイント!】証明のハードル: 刑事裁判で被告人が有罪だと認定されるためには、検察官は 『合理的な疑いの余地のない (beyond a reasonable doubt)』 程度まで、その事実を証明しなければなりません。これは、極めて高い証明の基準です。裁判官(や裁判員)が、提示された証拠から判断して、「被告人が罪を犯したことに、常識的に考えて、いかなる合理的な疑いも差し挟む余地がない」と確信できるレベルでなければ、有罪にはできません。単に「有罪っぽい」「可能性が高い」だけではダメなのです。これは、万が一にも無実の人を罰することがないように(冤罪防止)、「疑わしきは罰せず(被告人の利益に)」という刑事裁判の大原則に基づいています。民事の「証拠の優越性」とは比べ物にならないほど、証明のハードルは非常に高いのです。
(番外編)内部調査 (Internal Investigation) - 会社自身による調査
- これら公的な調査とは別に、企業などが自主的に行う調査です。社内で不正やルール違反の疑いが出た場合に、事実確認、原因究明、再発防止のために行われます。この結果が、他の調査に繋がることもあります。
まとめ・比較
4つの調査タイプと、特に民事と刑事における証明基準の違いについて見てきました。
調査の種類 | 主な主体 | 主な目的 | 証明基準 (事実認定) | 強制力の度合い |
---|---|---|---|---|
行政調査 | 行政機関 | 法令遵守確認、行政指導・処分 | (事案によるが、通常刑事ほど厳格でない) | △(法律による) |
民事調査 | 紛争当事者、弁護士 | 訴訟のための証拠収集、権利実現 | 証拠の優越性 (50%超) | ×(基本任意) |
規制調査 | 規制当局 | 業界ルールの遵守監視、市場の健全性維持 | (事案によるが、通常刑事ほど厳格でない) | ○(強い権限) |
刑事調査 | 警察、検察 | 犯罪捜査、犯人特定・逮捕、起訴 | 合理的な疑いの余地のない (最高レベル) | ◎(令状で強制可) |
(内部調査) | 企業自身 | 不正・違反の事実確認、原因究明、再発防止 | (社内判断) | ×(社内協力) |
このように、調査の種類によって、その目的、進め方、そして事実を認定するための「ハードルの高さ(証明基準)」が大きく異なります。
企業や組織、そして私たち個人としても、これらの違いを理解しておくことは、社会のルールの中で適切に行動し、また、万が一調査の対象となった場合に冷静に対応するために、とても大切な知識と言えるでしょう。
それでは、本日はここまでです。また次回の学びでお会いしましょう!
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