IT活用の羅針盤!ビジネスとITを繋ぐフレームワーク「COBIT」を知ろう
はじめに
皆さん、こんにちは!今やどんな会社や組織にとっても、IT(情報技術)はビジネスを行う上でなくてはならない存在ですよね。ITはとても便利で強力なツールである一方、
- 導入したITシステムが、本当にビジネスの役に立っている?
- IT関連のコストがどんどん増えているけど、効果は出ているの?
- サイバー攻撃やシステム障害のリスクが心配
といった悩みや課題を持っている企業も多いですよね。
「ITをもっとうまく経営に活かしたい!」「ITに関するリスクをきちんと管理したい!といった組織全体の願いに応えるための、国際的に認められた「お手本」となる考え方の枠組み(フレームワーク)があります。それが、今回ご紹介するCOBIT(コビット) です。 今日はこのCOBITについて、一緒に学んでいきましょう。
COBITとはそもそも何?
COBITは、「Control Objectives for Information and Related Technology」の略です。
これは、ISACA(イサカ:情報システムコントロール協会)という、ITガバナンスや監査、セキュリティなどの専門家が集まる国際的な団体が開発・提供している、ITガバナンスとITマネジメントのためのフレームワークです。
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ITガバナンスとは?
- 組織の目的(ビジネス目標の達成など)のために、ITがちゃんと貢献するように、経営層(取締役会など)がITを正しく方向付け、監視・評価することです。
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ITマネジメントとは?
- ITガバナンスで示された方向性に基づき、IT部門などがITに関する活動を計画し、実行し、監視・改善していくことです。
COBITは、このITガバナンスとITマネジメントをうまく行うための、世界中で使われているベストプラクティス(優れた実践方法や考え方) を集めたものです。組織がITを効果的かつ効率的に活用し、リスクを適切に管理するための 地図やガイドブック のようなもの、と考えると分かりやすいかもしれません。
COBITの目的は?
COBITは、組織が以下のような目的を達成するのを助けるために作られました。
- ITとビジネス戦略の連携強化: IT戦略が、会社の経営戦略とちゃんと足並みを揃えるようにします。
- ビジネス価値の最大化: ITへの投資(お金、人、時間など)から、できるだけ大きなビジネス上の成果(売上向上、コスト削減、顧客満足度向上など)を引き出します。
- IT関連リスクの適切な管理: サイバーセキュリティのリスク、システム障害のリスク、コンプライアンス違反のリスクなどを、組織として許容できるレベルに抑えます。
- ITリソースの最適活用: 人材、インフラ、アプリケーション、情報といったIT関連の資源を無駄なく、最も効果的な方法で利用します。
- ITパフォーマンスの測定と透明性の確保: ITがどれだけビジネスに貢献しているか、効率的に運用されているかを測定し、関係者に分かりやすく報告できるようにします。
最新版はCOBIT 2019!その中身は?
COBITは時代の変化に合わせて改訂されており、現在の最新バージョンはCOBIT 2019です。(記事投稿時の2025年6月時点) COBIT 2019は、いくつかの重要な要素で構成されています。主要な考え方を見ていきましょう。
COBIT 2019を支える6つの基本原則 (Principles)
まず、COBIT 2019フレームワーク全体の根底にある、6つの大切な考え方(原則)をご紹介します。
1. ステークホルダー価値の提供 (Provide Stakeholder Value)
- これが最も重要! ITガバナンスやマネジメントの全ての活動は、最終的にステークホルダー(株主、顧客、従業員、社会など、組織の利害関係者)にとっての価値を生み出すために行われるべき、という原則です。価値とは、利益の向上、リスクの低減、リソースの最適化など、様々な形で現れます。
- 例: 新しいITシステムを導入する際、単に技術的に新しいというだけでなく、「このシステムは顧客満足度をどれだけ向上させるか?」「業務効率を改善しコストをどれだけ削減できるか?」といったステークホルダーへの価値という観点から、投資判断や効果測定を行います。セキュリティ対策も、「顧客からの信頼維持」「安定したサービス提供による事業継続」といった価値に繋がる活動として捉えます。
2. 全体的アプローチ (Holistic Approach)
- ITガバナンスをうまく機能させるためには、システムやツールといった技術面だけでなく、関連する様々な要素が一体となって連携する必要がある、という考え方です。COBITではこれらの要素を「構成要素(Components)」と呼び、7つの種類(後述)を挙げています。
- 例: 最新のセキュリティツール(構成要素:サービス・インフラ・アプリ)を導入するだけでは不十分です。それを運用するためのプロセス(構成要素:プロセス)を定め、担当者のスキル(構成要素:人材・スキル)を育成し、セキュリティを重視する組織文化(構成要素:文化・倫理)を醸成し、関連する情報(構成要素:情報)を管理し、適切な組織体制(構成要素:組織構造)やポリシー(構成要素:原則・ポリシー)を整備する、といった全体的な取り組みが必要です。
3. 動的なガバナンスシステム (Dynamic Governance System)
- ビジネス環境、技術、脅威、規制などは常に変化しています。そのため、ITガバナンスの仕組みも一度作ったら終わりではなく、変化に対応して継続的に見直し、改善し続ける「動的な」ものであるべき、という原則です。
- 例: 新しいタイプのサイバー攻撃(脅威の変化)が出てきたら、それに対応できるようにリスク評価の方法やセキュリティ対策の計画(ガバナンス/マネジメント目標)を更新します。デジタルトランスフォーメーション(DX)でクラウド利用(技術の変化)が拡大したら、クラウド環境に適したガバナンスルールや監視体制に修正します。
4. ガバナンスとマネジメントの分離 (Governance Distinct From Management)
- ガバナンス(方向付け、監視) とマネジメント(計画、実行、監視) は、目的も活動内容も異なるため、役割分担を明確に区別すべき、という原則です。通常、ガバナンスは取締役会などの経営層が、マネジメントはCEO以下の業務執行ライン(IT部門などを含む)が担当します。
- 例: 取締役会(ガバナンス層)は、「全社的に情報セキュリティリスクを一定レベル以下に抑える」という方針を決定し、その達成状況や有効性を監視・評価します。それを受けて、CIOやIT部門、セキュリティ部門(マネジメント層)は、方針達成のための具体的な計画を立て、セキュリティ対策を実行し、その結果や状況をガバナンス層に報告します。
5. 組織のニーズに合わせた調整 (Tailored to Enterprise Needs)
- COBITはあくまで「お手本集」であり、どんな組織にもそのまま適用できる万能薬ではありません。組織の規模、業界、企業戦略、リスクへの考え方、規制環境などの固有の状況(これらをCOBITではデザインファクターと呼びます)に合わせて、フレームワークを適切に「テーラリング(調整)」して適用する必要がある、という原則です。
- 例: グローバルな大企業と地域の中小企業では、必要とされるITガバナンスの形式や厳格さは異なります。厳格な規制のある金融業界と、比較的自由なITサービス業界では、重視すべきCOBITの目標やプロセスも変わってきます。自社の状況に合わせて、COBITの中から必要な部分を選び取ったり、優先順位をつけたりすることが重要です。
6. エンドツーエンドのガバナンスシステム (End-to-End Governance System)
- ITガバナンスは、IT部門だけの閉じられた話ではありません。ビジネスのアイデアが生まれてから、システムが開発・運用され、最終的に廃棄されるまでのライフサイクル全体(エンドツーエンド)、そして、ビジネス部門、IT部門、外部の委託先など、関わる全ての関係者を対象として、組織全体で一貫したガバナンスを行うべきだ、という原則です。
- 例: 新しい顧客管理システムを導入する場合、企画段階でのビジネス部門による要求定義、IT部門による設計・開発・テスト、外部ベンダーによるインフラ提供、運用部門による日々の監視・保守、そして実際にシステムを利用する全部門の従業員、これら全ての活動と関係者が、組織の定めたITガバナンスのルールのもとで連携する必要があります。
その他の主要な要素
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ガバナンスとマネジメントの目標 (Governance and Management Objectives):
- 組織が達成すべき具体的な目標(40個)。これがCOBITの実践的な中核です。EDM(評価・指示・監視)、APO(計画・組織化)、BAI(構築・導入)、DSS(提供・サポート)、MEA(監視・評価)の5つの領域に分かれています。
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構成要素 (Components):
- 目標達成に必要な「部品」(7種類)。プロセス、組織構造、原則・ポリシー、情報、文化・倫理、人材・スキル、サービス・インフラ・アプリ。これらが揃って機能します。
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デザインファクター (Design Factors):
- 組織の状況に合わせてCOBITを調整(テーラリング)するための考慮事項。
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フォーカスエリア (Focus Areas):
- セキュリティ、リスク、DevOpsなど、特定テーマでのCOBIT活用ガイド。
COBITを使うメリット?
COBITを導入・活用することで、組織は以下のようなメリットを得ることができます。
- 体系的なITガバナンス体制: ITに関するルール、責任体制、プロセスなどを網羅的かつ体系的に構築・評価できます。
- 経営層との共通言語: ITの専門家でなくても、経営層がIT投資の効果やリスクを理解しやすくなり、適切な意思決定を支援します。
- 部門間の連携強化: IT部門とビジネス部門が、共通の目標に向かって協力しやすくなります。
- 監査・コンプライアンス対応: ITが適切に管理・統制されていることを示すための基準となり、内部監査や外部監査、法規制への対応に役立ちます。
- 他の標準との連携: ITサービス管理の「ITIL」や情報セキュリティマネジメントの「ISO/IEC 27001」など、他の国際的なフレームワークや標準とも連携しやすいように設計されています。
COBITとセキュリティの関係は?
COBITはIT全般に関するガバナンスとマネジメントのフレームワークですが、その中で情報セキュリティは非常に重要な要素として明確に位置づけられています。
- COBIT 2019の40個の目標の中には、「APO13 セキュリティの管理 (Managed Security)」や「DSS05 セキュリティサービスの管理 (Managed Security Services)」といった、セキュリティに直接関わる目標が含まれています。
- これら以外にも、リスク管理(APO12)、変更管理(BAI06)、インシデント管理(DSS02)、アクセス管理(DSS06)、監視(MEA01, MEA02)など、多くの目標や関連するプロセス、構成要素が、組織の情報セキュリティ体制の構築・運用・改善に不可欠です。
つまり、COBITのフレームワークに沿ってITガバナンスとマネジメントを実践することは、組織全体の情報セキュリティレベルを向上させることにも直結するのです。セキュリティ専門のフレームワーク(例えばNIST CSFやISO 27001など)とCOBITを組み合わせて活用することも一般的です。
まとめ
今回は、ITガバナンスとマネジメントの国際的なフレームワーク「COBIT」について、特にその根底にある6つの原則を中心に解説しました。
- COBITは、ISACAが提供する、ITをビジネス目標達成のために効果的に活用し、リスクを管理するためのベストプラクティス(お手本集) です。
- 「ステークホルダー価値の提供」「全体的アプローチ」「動的なシステム」「ガバナンスとマネジメントの分離」「ニーズへの調整」「エンドツーエンド」 という6つの原則に基づいています。
- 情報セキュリティは、COBITの中で非常に重要な要素として組み込まれています。
組織全体のIT活用能力と統制レベルを高めるために、COBITの考え方を理解しておくことは、これからのITやセキュリティに関わる皆さんにとって、きっと役に立つはずです!
それでは、本日はここまでです。また次回の学びでお会いしましょう!👋
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