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解析力学の小ネタ

phykmphykm

よくあるネーターの定理とその示し方をまずおさらいする。

x \mapsto x + \epsilon F(x) \\ v \mapsto v + \epsilon (v \cdot \nabla) F(x)

という変換を考える。ラグランジアンL(x,v)のこれの変分(というよりリー微分)を考えると

\Delta L(x,v) / \epsilon \sim (F(x)\cdot \nabla) L(x,v) + (v \cdot \nabla) F(x) \cdot \nabla L(x,v)

これが、x,vの関数について恒等的にゼロだとする。つまり、配位空間で完結するような変換に関してラグランジアンが対称だとする。

x(t)任意の 運動としよう。その時はもちろんv(t)= \dot{x}(t)とできる。このとき、上に代入して、よくある部分積分をすることで、

0 = - \mathrm{EL}[x(t)]\cdot F(x(t))+ \frac{d}{dt} (F(x(t))\cdot \nabla_v L(x(t),\dot{x}(t)))

となる。したがって、on-shellではF(x)\cdot \nabla_v L(x,v)という量は保存する。ここで、面倒くさいのでオイラー・ラグランジュ方程式を\mathrm{EL}[x(t)]で書いている。

phykmphykm

次に、これを拡張したい。注目点は2点ある。

  • ハミルトン力学を知ってる身からすると、変換が配位空間で閉じている場合だけを考えるのは明らかに狭すぎる。変換が速度に依存してはいけないのか?
  • 保存量を求めるのが目的なら、部分積分計算を行なうときに、off-shellで議論する必要はないのでは?

これはその通りだ。そこで、

x \mapsto x + \epsilon F(x,v) \\ v \mapsto v + \epsilon \left((v \cdot \nabla_x) F(x,v) + (a \cdot \nabla_v) F(x,v) \right)

なぜこの形を考えるかというと、よく指摘されるように、x,vは、ラグランジアンの引数としては独立だが、現実的には\dot{x} = vであるような軌道だけを考えているからだ。なので、どのような軌道であっても、変換後に再び軌道である ようにしておかないと、変換後の運動を考え続けることができなくなる。

ところが、ちょっとまってくれaってなんだ?????
そう、加速度だ。しかし加速度はラグランジュ理論には直接現れるものではない。
「整合的な変換係数」を書き下そうとしてしまうと、加速度が出てきてしまい、
変換として閉じた定義にならなくなってしまう。だから
伝統的なネーター定理は配位空間で完結するものしか示していなかったのだ[要出典]

が、ここで先のポイントの後者が効いていくる。そもそも保存量に関心があるのだから、
on-shellの議論ができれば十分だ。なんでもいいからaを書き下せばいいのである。
ラグランジアンが得られているのだから、今オイラーラグランジュ方程式も得られていて、それは

\mathrm{EL}[x(t)] = \frac{d}{dt} \nabla_v L(x(t),v(t)) - \nabla_x L(x(t),v(t)) = 0

だが、これはもちろんx,\dot{x},\ddot{x}の方程式だ。これを逆にといて

\ddot{x} = \mathrm{EEL}(x,\dot{x})

と出来たとする。というか、これはできるはずだ。出来ないなら運動の次元が一つ消えているので縮退していて、多分ハミルトン系に移行できないだろう。その時は隠れた対称性などを考える動機も多分ない。EELはなんとなくExplicite Euler Lagurangeの略だが記号はどうでもよい。これは、\dot{x},xをそれぞれ速度と配位変数に置き換えて、接バンドル上の関数だと思える。

これを先のaの代わりに使う。つまり、

x \mapsto x + \epsilon F(x,v) \\ v \mapsto v + \epsilon \left((v \cdot \nabla_x) F(x,v) + (\mathrm{EEL}(x,v) \cdot \nabla_v) F(x,v) \right)

という変換を考える。これはきちんと書き下されているが、よくあるネーターと違う点がある。

それは、ある軌道をこれに従って変換したとき、もしもとの軌道が運動方程式に従ってなかったら、再び軌道になる保証がないということだ。つまり、on-shell軌道を再び軌道に写像する変換ということだ。on-shellじゃない場合はどうなるかわからない。しかし、ネーター定理の式変形をするにはそれで十分で、全く同じ計算によって、

0 = - \mathrm{EL}[x(t)]\cdot F(x(t),\dot{x}(t))+ \frac{d}{dt} (F(x(t),\dot{x}(t))\cdot \nabla_v L(x(t),\dot{x}(t)))

が、on-shellに限り 成立し、on-shellなのだから\mathrm{EL}[x(t)] =0であり、やはりF(x,v)\cdot \nabla_v L(x,v)は保存量になる。

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ラグランジュ力学において、\frac{\partial }{\partial \dot{q}}という、ドット変数による偏微分を使うべきではないと考える。そのような奇妙な微積分は実際には一切行われていない。しかしこのような記号は初学者に「別の変数と導関数の関係にある変数による特殊な微分があるのか?」みたいな想像をさせてしまう可能性がある。慣れた人であれば、ラグランジアンの偏微分のときの\frac{\partial }{\partial \dot{q}}\dot{q}は、あくまで1まとまりのシンボルで、それはラグランジアンの引数を指定する記号にすぎないとわかっている。

ラグランジアンの記法もまた問題で、例えばL(q,\dot{q},t)のように書かれたりする。これも、例えば「ラグランジアンは、q,\dot{q}のように、導関数の関係があるような2引数に対してしてのみ定義された、制限された関数なのか?」みたいな想像をさせてしまう可能性がある。もちろんそんなことはない。ラグランジアンは、ごく普通の2n+1引数関数である。これは、「関数f:A\rightarrow B」を、その引数が典型的に採用するシンボルx:Aを入れてf(x)のように、Bの元であるかのように書いてしまう応用数理分野での習慣と、解析力学の偏微分ではなくラベルに過ぎないのに\dot{q}を使ってしまう習慣の合せ技による。ラグランジアンはごく普通の2n+1変数関数にすぎない。そこに未知変数q(t)とその未知導関数\dot{q}(t)を人の手で入れている。ただの関数の変分なら微分して終わりだが、外からq,vに、それが軌道であるという拘束条件を入れたから、オイラー・ラグランジュ方程式はあの形になっている。

そのシンボルで書かれなくてはならない特殊な演算など何もないので、\frac{\partial }{\partial \dot{q}}のような記号は、完全に廃止しても困らない。\dot{q}の代わりに速度vを明示的に使えばいい。当然、これはqと完全に独立したラグランジアンの引数である。オイラー・ラグランジュ方程式のよくみる形にこれは含まれているが、これも\frac{\partial }{\partial v}のようにする。

\begin{align*} &L(q,v,t):\mathbb{R}^n\times \mathbb{R}^n \times \mathbb{R} \rightarrow \mathbb{R}\\ &\frac{d}{dt}\left(\frac{\partial L}{\partial v}(q=q(t),v=\dot{q}(t),t)\right) - \frac{\partial L}{\partial q}(q=q(t),v=\dot{q}(t),t) = 0 \end{align*}

実際この方程式の意味するところは、

  • 単なる2n+1引数関数をq,vで偏微分する。
  • 偏導関数のq,vに、未知関数q(t)とその微分\dot{q}(t)を代入する。
  • 代入して tの関数になったあとで v偏導関数側を\frac{d}{dt}する。
  • その差を0として未知関数q(t)に関する条件とする。

というものだ。

phykmphykm

\dot{q}が使われる今一つの例として、変数変換とそれによるオイラー・ラグランジュ方程式の共変性の証明がある。Q=f(q,t)のような時間に依存しえる変数変換を行っているとしよう。ただし、任意のtでこれは微分写像として正則とする。

もとの座標でのラグランジアンをL(q,v,t)とする。ここでq,vLの引数ラベルと考えてほしい。同様に、変数変換されたラグランジアンL^\prime(Q,V,t)を考える。やはりQ,VL^\primeの引数ラベルである。そして、L,L^\primeは、\mathbb{R}^n \times \mathbb{R}^n \times \mathbb{R}\rightarrow \mathbb{R}の関数として全く別物だ。

オイラー・ラグランジュ方程式は、変換後のラグランジアンL^\prime(Q,V,t)を、次を満たすように定義したときに、変換前後で同値となる。任意のq,v,tについて、

L^\prime\left(Q=f(q,t),V=\frac{\partial f}{\partial q}(q,t)v+\frac{\partial f}{\partial t}(q,t),t\right) = L(q,v,t)

このことを示そう。L^\primeが上記を満たす時、q,v,tの関数として以下が成り立つ。

\begin{align*} \frac{\partial L}{\partial v}(q,v,t) &= \frac{\partial L^\prime}{\partial V} \left(Q=f(q,t),V=\frac{\partial f}{\partial q}(q,t)v+\frac{\partial f}{\partial t}(q,t),t\right)\frac{\partial f}{\partial q}(q,t)\\ \frac{\partial L}{\partial q}(q,v,t) &= \frac{\partial L^\prime}{\partial Q} \left(Q=f(q,t),V=\frac{\partial f}{\partial q}(q,t)v+\frac{\partial f}{\partial t}(q,t),t\right)\frac{\partial f}{\partial q}(q,t)\\ &+ \frac{\partial L^\prime}{\partial V} \left(Q=f(q,t),V=\frac{\partial f}{\partial q}(q,t)v+\frac{\partial f}{\partial t}(q,t),t\right) \left(\frac{\partial^2 f }{\partial q\partial q}(q,t)v + \frac{\partial^2 f}{\partial q\partial t}(q,t) \right) \end{align*}

qのほうが複雑なのは、ラグランジアンの変数変換がqに依存するからだ。一方でv側はV=\dotsの箇所にしか出現しない。

ここに未知関数q(t),\dot{q}(t)を代入し。v偏微分側を時間全微分する。

\begin{align*} \frac{d}{dt}\frac{\partial L}{\partial v}(q(t),\dot{q}(t),t) & =\left(\frac{d}{dt} \frac{\partial L^\prime}{\partial V}\left(\dots \right)\right)\frac{\partial f}{\partial q}(q(t),t) + \frac{\partial L^\prime}{\partial V}\left(\dots \right) \frac{d}{dt}\frac{\partial f}{\partial q}(q(t),t)\\ & = \left(\frac{d}{dt} \frac{\partial L^\prime}{\partial V}\left(\dots \right)\right)\frac{\partial f}{\partial q}(q(t),t) + \frac{\partial L^\prime}{\partial V}\left(\dots \right) \left( \frac{\partial^2 f}{\partial q \partial q}(q(t),t)\dot{q}(t) + \frac{\partial ^2 f}{\partial t \partial q}(q(t),t) \right) \end{align*}

\left(\dots \right)で略したL^\primeの引数のうち、q,vq(t),\dot{q}(t)に置き換わっていることに注意。

ここで、同様にq(t),\dot{q}(t)q,vに代入した\frac{\partial L}{\partial q}(q,v,t)を差し引くと、

\frac{\partial L^\prime}{\partial V}\left(\dots \right) \left( \frac{\partial^2 f}{\partial q \partial q}(q(t),t)\dot{q}(t) + \frac{\partial ^2 f}{\partial t \partial q}(q(t),t) \right)

の部分が相殺するとわかる。したがって、

\frac{d}{dt}\frac{\partial L}{\partial v}(q(t),\dot{q}(t),t) - \frac{\partial L}{\partial q}(q(t),\dot{q}(t),t) = 0

\left(\frac{d}{dt} \frac{\partial L^\prime}{\partial V}\left(\dots \right) - \frac{\partial L^\prime}{\partial Q }\left(\dots \right) \right)\frac{\partial f}{\partial q}(q(t),t) = 0

と同値となる。さて、f(q,t)による変換はいずれのtであっても正則だったので、\frac{\partial f}{\partial q}(q(t),t)は外してよい。そうなると、\left(\dots \right)で略した箇所を復元すると、

\frac{d}{dt} \frac{\partial L^\prime}{\partial V}\left(Q=f(q(t),t),V=\frac{\partial f}{\partial q}(q(t),t)\dot{q}(t) + \frac{\partial f}{\partial t}(q(t),t),t \right) - \frac{\partial L^\prime}{\partial Q }\left(Q=f(q(t),t),V=\frac{\partial f}{\partial q}(q(t),t)\dot{q}(t) + \frac{\partial f}{\partial t}(q(t),t),t \right) = 0

だが、これはまだq(t)に対する方程式のままだ。そこでQ(t) = f(q(t),t)未知変数q(t)に対しても同様の変数変換をする。 このQ(t)に対する方程式としては、

\dot{Q}(t) = \frac{\partial f}{\partial q}(q(t),t) \dot{q}(t) + \frac{\partial f}{\partial t}(q(t),t)

なのだから、

\frac{d}{dt} \frac{\partial L^\prime}{\partial V}\left(Q=Q(t),V=\dot{Q}(t),t \right) - \frac{\partial L^\prime}{\partial Q }\left(Q=Q(t),V=\dot{Q}(t),t \right) = 0

となり、これはL^\prime(Q,V,t)でのオイラー・ラグランジュ方程式にほかならない。

以上、変数の依存性を明示的に書き下したために引数の表示は冗長になったが、\frac{\partial }{\partial \dot{q}}のような記法は特に登場させる必要なく議論ができた。冗長になったとはいうものの、本来この手の情報は、察させるようなものではなく、どこかに記載すべきことだ。