※20240401大幅修正
先の記事
では、有質量の自由なひもが、K=\frac{v^2}{g}として
K\log\cos\left(\frac{x+C}{K}\right)+D
という軌道を描いて速度vで落下する定常軌道があり得ることを示した。しかし、でんじろう先生の実験
https://www.youtube.com/watch?v=wsJn_xjiV-M&ab_channel=でんじろう先生のはぴエネ!【公式】Mr.Denjiro'sHappyEnergy!
では、もう少し踏み込んでいる。つまり、
- 落とす高さを変えることで、軌道頂点を変える。
- ヒモの落下側から引っ張ることでvを外部から設定し、軌道頂点を変える。
先の記事ではあくまで軌道概形を求めただけなので、こうした振る舞いを説明できていない。
そこで、このモデルの考察をもう少し進めてみる。以下では、先の軌道を表す関数で、C=0,D=0に固定して考える。この2つのパラメータはグラフの平行移動のようなものなので、固定してしまっても一般性は失わない。
前の記事では、張力方向を考察しなかった。ここでもやはり定常状態を考えると、軌道の接線方向にも力が釣り合ってほしい。今度は遠心力はかからず、接線方向重力加速度
-g\frac{f^{\prime}}{(1+(f^{\prime})^2)^{\frac{1}{2}}}
が掛かっている。これはfの具体形を考えると
-g\sin\left(\frac{x}{K}\right)
である。
ひもの微小領域には、この加速度と、その微小領域の両端の張力の差が加わることで釣り合って、定常速度が維持される。x\sim x+dxの間にはdx\frac{1}{\cos\left(\frac{x}{K}\right)}の長さのひもがあるから、この長さに比例した重力がかかる。張力を同様にF(x)のように、x軸上の位置で表現するなら、
dF = -\rho g\tan\left(\frac{x}{K}\right)dx
がなりたつ。ここでひもの密度を\rhoとした。つまり、紐の張力分布は
F(x) = \rho gK\log\cos\left(\frac{x}{K}\right) + E
ということになる。このEを確定するために、ひもの湧き出し点を考える。湧き出し点とはつまり、ひもが絡まることなく畳まれて置かれている一点のことだ。軌道の形状を考慮して、湧き出し点のx座標をx_0 ( -\frac{\pi K}{2} \lt x_0 \lt 0)だとしよう。
ひもの「湧き出し」は、それ自身張力によって放り出されている。ひもに運動エネルギーを与えているのひも自身の張力だ。そこでの張力がF(x_0)であれば、これは時間あたりdt F(x_0)vの仕事をしている。ひもは速度vで吐き出されるから、時間あたりひもになされている仕事は\frac{1}{2}v^3dt\rhoである。つまり
F(x_0) = \frac{1}{2}v^2\rho
となり、
F(x) = \frac{1}{2}v^2\rho + \rho gK\log\cos\left(\frac{x}{K}\right) - \rho gK\log\cos\left(\frac{x_0}{K}\right)
と張力の分布が決まる。K=\frac{v^2}{g}だったので
F(x) =\rho v^2\left(\frac{1}{2} + \log\cos\left(\frac{gx}{v^2}\right) -\log\cos\left(\frac{gx_0}{v^2}\right)\right)
となる。
ここでさらに、ひもの湧き出しだけでなく、ひもの吸収も考える。これのx軸上の位置も、軌道の形状を考えてx_1 ( 0 \lt x_1 \lt \frac{\pi K}{2})でとることにしよう。まず、ひもの張力は負にすることはできない。このため、ひもの吸収点は、張力が非負である範囲でおきる。 もしひもの吸収点で張力が負になるようなら、張力が正になるまで自身の落下によって加速する。
ひもの吸収点として、でんじろう先生の実験に対応して2種類考えられる。一つ目は、そのまま落下に任せるものだ。これは、ひもの速度が鉛直方向撃力によって吸収される。このタイプの場合、ひもの運動量に力をぶつけて阻止する意味では圧力であるから、ひもが回収される落下地点では張力は発揮できない。 張力の非負性と合わせると、このタイプの吸収点の場合、
がなりたつ必要がある。もう一つの方法は、吸収点でひもを能動的に巻き取る場合だ。このときは、ひもの吸収点であっても張力を発揮できる。つまり、
であればよい。
以下でやりたいことは次である。今、軌道を表すfには、x_0,x_1,vの3つのパラメータがある。これを、実験の設定として解釈可能なやりかたで固定することである。
まず一つ目のタイプの吸収点を考えよう。F(x_1) = 0という条件がすでに得られているから、あと2つの条件を導入できれば、パラメータが決定できるはずだ。
一つの条件は、実験の設定から入れる。fの概形を思い出すと、f(0)=0なので-f(x_0)はひもの湧き出しから軌道頂点の高さを表し、-f(x_1)はひもの吸収点から軌道頂点の高さを表す。つまり、ひもの正味の落差(湧き出しと吸収点の高さの差)はf(x_0)-f(x_1)である。
f(x) = \frac{v^2}{g}\log\cos\left(\frac{gx}{v^2}\right)
だったから、F(x_1) = 0という条件は、
\frac{v^2}{2g} + f(x_1) - f(x_0) = 0
である。ひもの正味の落差は実験のセットアップとして固定できるから、これを勝手に与えて、L = f(x_0)-f(x_1)という条件を追加しよう。そうすると、
となり、非常にもっともらしいことが成り立っているとわかる。なぜもっともらしいかというと、これは高さLからものを落としたときの終端速度と同じだからだ。ひもの場合は、変な軌道を描き、しかも張力によって軌道上すべての速度が一定という不思議なことが起きているが、エネルギー収支による見積もりは依然として成り立っている。
もう一つの条件は、一歩ひいた視点から入れる。ひも全体について考える。慣性系から見た時、ひも全体にはどのような力が働いているだろうか? これは今、ひもの湧き出しと吸収を真面目に扱わず、突然虚無から現れて消えるようになっているため曖昧だが、結論から言うと、重力と、吸収点の上向き撃力だけだ。
この撃力は、仕事をしないので、運動量換算で考えると、時間dtあたり、dtv^2\rho \sin\left(\frac{gx_1}{v^2}\right)の鉛直運動量を消し去っている。つまり、力としては
v^2\rho \sin\left(\frac{gx_1}{v^2}\right)
が落下中のひもに掛かってはひもごと消えていることになる。
一方の重力は、滞空中のこのひもの総重量を考えれば
g\rho\int_{x_0}^{x_1} \sqrt{(f^\prime(x))^2+1}dx
ということになる。したがって
v^2\rho \sin\left(\frac{gx_1}{v^2}\right) = g\rho\int_{x_0}^{x_1} \sqrt{(f^\prime(x))^2+1}dx
が追加の条件として得られる。
しかしこの条件は複雑すぎる。もっと単純化する。この条件が言っているのは、
- 滞空中の紐の長さの重力が、吸収点の上向き力と釣り合っている。
ということである。ここで、次の近似を行う。
- 吸収点では落下軌道はほぼ垂直:\sin\left(\frac{gx_1}{v^2}\right) \simeq 1である。
- 軌道頂点の湾曲は無視できて、折れ線とみなせる:\int_{x_0}^{x_1} \sqrt{(f^\prime(x))^2+1}dx \simeq -f(x_0)-f(x_1)
そうするとこの条件は
f(x_0)+f(x_1) = -\frac{v^2}{g}
まで単純になる。L = f(x_0)-f(x_1)としたのだから、x_0,x_1が陰的に決定されているのは明らかだ。vもv=\sqrt{2gL}と得られている。-f(x_0)について解けば-f(x_0)=\frac{L}{2}なので、およそ落差の半分くらいは「飛び上がる」ことになる。同時に落差Lを大きくすると「飛び上がる」高さが高くなることも説明できる。(実際には軌道は頂点で湾曲していて高さの割に重くなる+非理想性で損失が起きるので、もっと低くなる)
もう一つの吸収点、適当な場所でひもを巻き取る場合については、例えば巻き取る高さをひもの湧き出し高さと同じくらいに設定すれば簡単である。fの関数形は対称だから、x_0 = -x_1とととってよい。この場合は落差はなくなるが、吸収点でひもの鉛直速度を吸収する必要があるのは同様なので、f(x_0)+f(x_1) = -\frac{v^2}{g}と立てれば、f(x_0)=f(x_1)から-f(x_0)= \frac{v^2}{2g}となり、速く巻き取るほど高く「飛び上がる」ことになる。
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