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『データのつながりを活かす技術』まとめ

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0. 概要

  • 機械学習やデータ分析で用いられる表データだけでは上手く分析が出来ないものでもグラフを用いた関係性の指標化が役立つ
  • ネットワークデータは昨今の SNS のフォロー関係による影響力の指標づけなどの様々なデータに活用可能
  • グラフ理論の初歩から機械学習におけるグラフの手法、Pytorch geometric や networkX を活用したグラフの可視化や機械学習のライブラリの実装を体験することで機械学習におけるグラフの活用方法が体系的に学習可能

1. グラフ(ネットワーク)ってそもそも何?どんな種類があるの?

1.1.  グラフの定義

  • 物事の関係性を分析対象のノードと対象同士を結ぶエッジで定義したもの
  • (ノード、エッジ) = (V, E) と表現される (V = Vertex, E=Edge)

1.2. いろいろなネットワーク

  • 有向(無向)グラフ:エッジが向きを持つ(持たない)ネットワーク
  • 静的(動的)ネットワーク:時間に応じてネットワーク構造が可変(不変)なネットワーク
  • 重みつき(重みなし)ネットワーク:エッジに重みがある(ない)ネットワーク
  • 同種・異種ネットワーク:同種(異種)のノードやエッジを持つネットワーク

1.3. ネットワークの性質

1.3.1. ノードの性質

  • 次数(Degree): ノードに接続しているエッジの数。有向グラフでは入次数(in-degree)と出次数(out-degree)に分けられる
  • 中心性(Centrality): ノードの重要度を表す指標
    • 次数中心性: 接続数が多いノードほど重要
    • 媒介中心性: 他のノード間の最短経路上に位置することが多いノードほど重要
    • 固有ベクトル中心性: 重要なノードとつながっているノードほど重要
    • PageRank: Webページの重要度を測る指標としてGoogleが開発
  • クラスタ係数: ノードの周囲がどれだけ密につながっているかを表す指標
  • ノードの属性: 性別、年齢、興味関心などノード自体が持つ特徴量

1.3.2. ノード間のつながりの性質

  • 最短経路長(Shortest Path Length): 二つのノード間の最も短いパスのステップ数
    • ネットワークの効率性や情報伝達速度の指標となる
    • 平均最短経路長はネットワーク全体の「コンパクト性」を表す
  • ノードの類似性(Node Similarity): ノード間の構造的・属性的な近さを表す指標
    • 構造的類似性: 共通の隣接ノードを多く持つノード同士は類似度が高い
    • コサイン類似度: ノードの特徴ベクトル間の角度で類似性を測定
    • Jaccard係数: 共通の隣接ノード数を全隣接ノード数で割った値
  • 同類性(Homophily): 類似した特性を持つノード同士が接続する傾向
    • 「似た者同士が集まる」現象で、SNSやコミュニティ形成で観察される

2. グラフ理論ってそもそも実生活だとどう関わってるの?

2.1. SNS

  • ノード:ユーザー、エッジ:フォロー関係として以下のグラフで表現可能
  • ノードに対して、フォロー数やエッジに対していいね数などの情報も付加すれば、各フォロワーの関係性や影響力などの指標を表現可能

2.2. EC サイトのレコメンド

  • ノード:ユーザーや商品、エッジ:購入履歴や閲覧履歴として表現可能
  • 購入タイミングや金額などの情報をエッジの重みとして加えることで、より精緻な推薦が可能

3. グラフって機械学習のなんの役に立つの?

3.1. グラフベースの機械学習手法

  • グラフ構造データは従来の表形式データでは捉えられない関係性や相互作用を表現可能
  • グラフニューラルネットワーク(GNN)により、ノードやエッジの特徴を学習し予測や分類が可能に
  • Node2Vecなどの手法で、グラフ構造を低次元ベクトルに変換し従来の機械学習手法と組み合わせられる

3.2. 具体的な応用例

  • コミュニティ検出:ソーシャルネットワーク内の密接に関連するグループを特定
  • リンク予測:既存のグラフ構造から将来形成される可能性のあるエッジを予測
  • ノード分類:グラフ内のノードの属性やカテゴリを予測
  • 異常検出:通常のパターンから逸脱するノードやサブグラフを検出

3.3. グラフ機械学習の利点

  • 複雑な関係性をモデル化できるため、複雑なシステムの理解が深まる
  • データの構造的情報を活用し、より豊かな特徴表現が可能
  • 既存の機械学習手法と組み合わせることでモデルの精度向上に貢献
  • 可視化しやすく、分析結果の解釈が直感的

4. コードだとどんな感じで実装できるの?

  • Pytorch Geometric でネットワーク関連の手法を実装可能

4.1. ノード埋め込み(Node Embedding)

ノード埋め込みは、グラフ内のノードを低次元の連続的なベクトル空間に変換する技術です。これにより、グラフの構造的情報を保持しながら、従来の機械学習アルゴリズムで扱いやすい形式に変換できます。

4.1.1. ノード埋め込みの特徴

  • グラフの構造情報を数値ベクトルとして表現
  • ノード間の関係性(類似性や距離)をベクトル空間で保持
  • 次元削減により計算効率が向上
  • 従来の機械学習手法(分類・クラスタリングなど)と組み合わせ可能

4.1.2. 代表的なノード埋め込み手法

  • DeepWalk: ランダムウォークでグラフをサンプリングし、Word2Vecの手法でノードを埋め込み
  • Node2Vec: DeepWalkを拡張し、幅優先探索と深さ優先探索のバランスを調整可能に
  • LINE: 1次近傍と2次近傍の両方を考慮した埋め込み手法
# Node2Vecの実装例
import networkx as nx
from node2vec import Node2Vec

# グラフの作成
G = nx.fast_gnp_random_graph(n=100, p=0.5)

# Node2Vecモデルの設定
node2vec = Node2Vec(G, dimensions=64, walk_length=30, num_walks=200)

# モデルの学習
model = node2vec.fit(window=10, min_count=1)

# ノード埋め込みベクトルの取得
node_embeddings = {node: model.wv[str(node)] for node in G.nodes()}

4.2. グラフニューラルネットワーク(GNN)

グラフニューラルネットワーク(GNN)は、グラフ構造を直接扱える深層学習アーキテクチャです。従来のニューラルネットワークが格子状のデータ(画像など)を処理するのに対し、GNNは不規則な構造を持つグラフデータを効果的に処理します。

4.2.1. GNNの特徴

  • ノードの特徴とグラフ構造を同時に学習可能
  • エンドツーエンドの学習が可能で、特徴エンジニアリングの必要性が低減
  • 帰納的学習により未知のノードやグラフにも対応可能
  • グラフ全体、ノード、エッジレベルの予測タスクに適用可能

4.2.2. 代表的なGNNアーキテクチャ

  • GCN (Graph Convolutional Network): スペクトログラフ理論に基づき、隣接ノードの特徴を集約
  • GAT (Graph Attention Network): 注意機構を導入し、隣接ノードの重要度を学習
  • GraphSAGE: サンプリングベースの手法で大規模グラフに対応
# PyTorch Geometricを使ったGCNの実装例
import torch
import torch.nn.functional as F
from torch_geometric.nn import GCNConv

class GCN(torch.nn.Module):
  def __init__(self, num_features, hidden_channels, num_classes):
    super().__init__()
    self.conv1 = GCNConv(num_features, hidden_channels)
    self.conv2 = GCNConv(hidden_channels, num_classes)
    
  def forward(self, x, edge_index):
    x = self.conv1(x, edge_index)
    x = F.relu(x)
    x = F.dropout(x, p=0.5, training=self.training)
    x = self.conv2(x, edge_index)
    return x

5. まとめ・今後どう役立ちそうか?

5.1. 本記事のまとめ

  • グラフ理論は複雑な関係性データを表現・分析するための強力なフレームワークを提供
  • SNSやECサイトなど、現実世界の多くのシステムはグラフ構造として自然にモデル化可能
  • グラフニューラルネットワークやNode2Vecなどの手法により、関係データから豊かな洞察を得られる

5.2. 今後の展望

  • マルチモーダルデータとの統合:画像・テキスト・グラフを組み合わせたより包括的なモデルの開発
  • 大規模グラフの効率的処理:ビッグデータ時代における計算効率の向上と並列処理技術の発展
  • 説明可能なグラフAI:グラフベースのモデルにおける判断根拠の可視化と解釈性の向上

5.3. 実務への応用

  • 金融分野:不正検知や与信評価における取引関係のモデリング
  • 医療分野:疾患間の関連性分析や創薬における分子構造の表現学習
  • サプライチェーン最適化:物流ネットワークの効率化と脆弱性分析
  • パーソナライゼーション:より洗練されたレコメンデーションシステムの構築

グラフベースの機械学習は、従来の表形式データでは捉えきれなかった関係性を活用することで、より高度な予測や意思決定支援を可能にします。今後も発展が期待される分野です。

参考サイト

https://direct.gihyo.jp/view/item/000000003648

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