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なぜ、高IQ者に比べて、ガリ勉して数学が出来るようになった人が先にAIによって淘汰されるのか?

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はじめに

近年、生成AIや大規模言語モデル(LLM)の急速な進歩により、多くの知的職業が自動化されつつあります。とりわけ注目を集めているのが、AIが大学入試や資格試験レベルの数学問題を正解するようになったというニュースです。かつては高い知性と努力の象徴だった数学的能力が、AIにあっさり追い抜かれるという現実は、衝撃的に映るでしょう。

しかし本質的に言えば、AIは論理的推論によって数学を解いているわけではありません。むしろ数学は、AIが最も苦手とする分野です。AIは小学生の算数の文章題でさえ、設問構造が少し変わると急に誤答します。にもかかわらず難問を解けているように見えるのは、過去の問題と解答を膨大に記憶し、そのパターンを統計的に照合して再構成しているだけだからです。言い換えれば、AIは「本質的に理解している」のではなく「正解をチート的に内蔵している」だけなのです。

そして実は、これは人間における「ガリ勉型」の戦略と本質的に同じです。AIは反復練習によるパターン内面化を高速かつ膨大に行っているだけであり、「少ない情報から抽象構造を見抜く」という高IQ型の戦略は持ち合わせていません。
この構造的な違いこそが、ガリ勉型の人々がAIと競合して淘汰されやすく、高IQ型の人々が依然として価値を保つ理由です。

以下では、その理由を詳しく述べます。

数学がAIに「解けてしまっている」ように見える仕組み

AIは数的推論を本質的に理解できません。数という記号を「量」ではなく「文字列パターン」として扱うため、問題の構造が少し変化しただけで一気に崩れます。
例えば「りんごが3つあります。2つ食べました。残りはいくつ?」という問題と、「りんごが3つあります。2人に同じ数ずつ分けると何個ずつ?」という問題は、人間ならどちらも簡単ですが、AIは構造が違うだけで誤答することがよくあります。これは、意味を理解していないからです。

ではなぜAIは大学入試レベルの数学問題を解けてしまうのかというと、あらかじめ過去の問題とその解法・解答が大量に学習データに含まれているからです。AIはそれらを圧縮記憶しており、入力された問題をそれらと照合して「似た構造の問題の答え」を引き出し、少し整形して出力しているだけです。
つまり、推論ではなく巨大なルックアップテーブル(索引表)として機能しているのです。

このため、出題者が意図的に「過去に類例がない問題」を出すと、AIはたちまち誤答します。
この性質は、「膨大な過去問を暗記してパターンを当てはめる」戦略とまったく同じであり、AIはガリ勉型の超強化版にすぎません。

高IQ型の思考とガリ勉型の思考の決定的な差

高IQ型の人は、少ない学習量からでも抽象構造を把握し、それを新しい状況に適用できます。彼らは問題を文字列としてではなく、意味構造のグラフとしてとらえ、未知の問題でも構造を分解して再構築することで解答に至ります。

一方、ガリ勉型は「過去に見たパターンを丸ごと想起して当てはめる」という戦略です。これは既知パターンには強いものの、未知パターンには脆弱です。
AIが本質的にこのガリ勉型と同じである以上、AIが得意とする領域ではガリ勉型は完全に競合し、高IQ型は競合しないという構図が生まれます。

AIに「淘汰される」とはどういうことか

AIによって淘汰されるというのは、失業だけを意味するわけではありません。より正確には、その人が持つ能力の比較優位がAIに奪われるということです。
たとえば、これまで数学的処理能力を武器にしていた人は、AIと同じ土俵で競わされるようになった瞬間に相対的価値を失います。
かつて高く評価された「高速かつ正確な問題処理力」が、今やAIにとって容易な処理に成り下がるのです。

逆に、高IQ型の人々が持つ「未知の構造を抽象化して理解する力」や「既存知識を再配置して新たな枠組みを生み出す力」は、AIにはまだ模倣できません。ここが、人間に残された優位点です。

線形知識とグラフ知識

この差は、知識構造の違いとしても表せます。
ガリ勉型の知識は線形的です。問題と解法が鎖のように連なっており、一部が崩れると連鎖的に対応不能になります。
一方、高IQ型は知識をグラフ(網目)状に構築し、複数のノード(概念)を自在に結び直すことで、未知の問題にも対応できます。

AIの内部表現も、巨大なベクトル空間における近傍探索という意味で、実態は線形構造に近いです。そのため、グラフ的な知識再構成が苦手です。
つまり、グラフ型知識構造を持つ人間はAIと補完関係を築けるが、線形知識構造しか持たない人間はAIと完全に競合するという構造的宿命があります。

数学に特化したガリ勉型はなぜ危ういのか

数学は閉じた体系であるため、努力すればするほどAIと同じ土俵に近づいてしまい、差別化が困難です。
一方、社会や理科のように知識が分岐・連結する分野では、努力によってグラフ型知識を構築でき、AIとの差別化が可能です。
つまり、数学はAIに最も「誤解されやすく置き換えられやすい」分野であり、ここに努力を集中することは、今やかえってリスクになりつつあります。

まとめ

AIが数学を解けるように見えるのは、論理的推論力を獲得したからではありません。実際には、過去問のパターンを圧縮記憶し、それを索引検索することで**擬似的に「解いているように見せている」**だけです。
この性質は、ガリ勉型の学習戦略と同じです。そのため、ガリ勉型はAIと完全に競合し、真っ先に比較優位を失っていきます。

一方、高IQ型の人々は、少ない情報から構造を抽象化して新たな問題に転用できるため、AIが最も苦手とする領域にいます。
今後の知的労働は、記憶力や演習量ではなく、グラフ的知識構造を活用して未知の問題を再定義する力が中心になります。

努力そのものではなく、「どのような構造で知識を構築するか」が、AI時代における生存の鍵なのです。

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