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IT業界論評③ ~いわゆる「35歳定年」説について~

2025/01/13に公開

はじめに

IT業界において「35歳定年」説という言葉は、誰もが聞いたことがあるほど有名な言葉です。これは現在だけでなく言葉が誕生した時点においてさえ、業界の実態に即した内容ではありませんでしたが、少子高齢化が進む日本社会(全体の平均年齢は48歳!)の中で、ますます信ぴょう性に欠ける内容となっています。本記事では、なぜこのような説が生まれ、また今後のIT業界がどのように変化していくのかについて考察します。

35歳定年説の背景

自社開発を行う企業やSIerが派遣会社やSES企業を活用する際、「若いメンバーを所望する」傾向があります。人月単価が同じであれば若い人材のほうが将来の伸びしろが大きく“お得”だと考えられているからです。
例えば、60万円という同一の人月単価でメンバーを発注できると仮定すると、35歳を超えた人材でこの単価しか取れない場合は、業界では「スキル不足が疑われる=失敗人材」と見なされやすいのが実情です。一方、業歴3年目くらいまでの若手で60万円の単価の人材であれば、少し育成することで100万円以上の活躍をする可能性が期待されます。
なぜ、発注側企業はこんなふうに考えるのでしょうか? それはウォーターフォール型の大規模プロジェクトにおいて、開発工程が明確に区切られている一方で実務の透明性が低く、スキル不足の人材が「だましだまし」働き続ける余地が生まれやすいからです。本来なら25歳前後で適性を見極められて退場するような人でも、プロジェクト内の役割があいまいなまま残留し、いつの間にか35歳に到達してしまうわけです。しかし、もうその年齢では発注側がお呼びを掛からずアイドル稼働状態になり、会社に居づらくなって退職となるパターンとなることがあります。これが俗に言う「35歳定年」の正体なのです。もちろん、能力が十分な人であればこのような話には絶対ならないので、あくまでも本来もっと早く離脱すべき人が誤って35歳まで残ってしまっただけというパターンが、変な形で一般化されて語られているとも言えます。

アジャイル化とAI導入の広がり

近年、日本企業にもアジャイル化の波が急速に広がりつつあります。アジャイル開発ではプロジェクト全体が細分化され、短いスプリント単位で成果を測るため、スキルや貢献度が可視化されやすくなります。
また、AIの導入も進んでおり、アシスタント的・人足的な仕事がどんどん減ってきています。そうなると、低スキルな人が「だましだまし」作業を続けること自体が難しくなります。
これらが相まって、低スキル者の早期リタイアが進み、35歳になって急に「要らない人材」と見なされるケースは減っていくことでしょう。

まとめ

ここまで述べた通り、ウォーターフォール型の不透明な構造が残っている現場では「スキル不足のまま年齢を重ねる」人材が、35歳前後で退場となるケースがあります。それが「35歳定年」説を生んだ要因ですが、実際には人間の能力は年齢とともに急激に落ちるわけではなく、真に重要なのはスキルや成果です。今後、アジャイル開発やジョブ型雇用が普及し、プロジェクトの透明性が高まるほど、年齢だけにとらわれた定年観はさらに薄れていくと考えられます。スキルアップや成果の可視化が、エンジニアにとって引き続き重要な鍵となるでしょう。

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