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アジャイル&ウォーターフォール① ~ソフトウェア開発の歴史~

2024/10/21に公開

はじめに

ソフトウェア開発の歴史は、技術の進化やビジネスニーズの変化に応じて、その手法も大きく変わってきました。本レポートでは、ウォーターフォールモデルとアジャイルモデルという、二つの主要なソフトウェア開発手法の発展と変遷について、その背景にある社会的・技術的な要因とともに振り返ります。

ウォーターフォールとアジャイルの違いは、ソフトウェア開発のアプローチだけでなく、ビジネスの進め方や働き方にも大きな影響を与えています。本稿を通して、これらの手法の歴史的変遷を理解し、現代の開発手法に至るまでのプロセスを見ていきます。

1960年代: コンピュータの一般普及以前

建築や造船などのプロジェクトでは、一般的に思考フェーズと実行フェーズの二段階で進行するのが標準的な手法でした。思考フェーズでは少人数が時間をかけて製品や工程の設計を行い、深い分析やリスクの評価が重要視されていました。

その後、実行フェーズに移行すると、計画に基づいて多くの人員が効率的に作業を進めることが求められました。この段階的なプロジェクトの進め方が、後にソフトウェア開発においてウォーターフォールモデルとして採用される基礎となりました。

1970~80年代:メインフレーム全盛の時代

メインフレーム時代初期、ソフトウェア開発は手間と時間のかかるものでした。当初はパンチカードを使用して手動でコードを入力し、その後コンパイルや実行に長時間を要しました。1970年代後半から1980年代にかけては、端末を使用した対話型プログラミングが普及し始めましたが、依然として開発プロセスは時間を要するものでした。

このため、ソフトウェア開発は製造業と同様に、一度設計を固めてから実装に移る「実行フェーズ」が重要視されていました。当時は、ソフトウェアの規模は今ほど大きくなく、設計から実装、テスト、運用までを段階的に進めるウォーターフォールモデルでも何とか開発が可能でした。

1990年代:ダウンサイジングの時代

ワークステーションの普及やコンパイル速度の劇的な向上により、開発者は自分のマシンで迅速にコーディングし、すぐにコンパイルとテストができるようになりました。また、オブジェクト指向プログラミングの普及やGUIベースのアプリケーション開発の増加も、この時代の特徴です。

これらの変化により、実装フェーズはもはや製造業の「実行フェーズ」のようなものではなくなり、設計のフィードバックを頻繁に繰り返しながら進める思考的なプロセスと呼んだ方が適切な内容に変容しました。

同時に、ソフトウェア開発の規模も飛躍的に拡大しました。分散システム、エンタープライズソフトウェア、インターネットアプリケーションが増加し、それに伴いシステムの複雑さや不確定要素が急増しました。要求変更が頻繁に発生し、技術的な制約も複雑化していきました。

2000年代:標準化と開発プロセスの形式化の時代

2000年代に入り、ソフトウェア開発の複雑さと規模が急速に拡大する中、多くの企業や組織は開発プロセスの標準化と形式化に注力しました。この動きの根本的な理由は、ソフトウェア開発プロジェクトの失敗率の高さと、それに伴う莫大な経済的損失にありました。大規模プロジェクトの遅延、予算超過、要件未達成などの問題が頻発し、ソフトウェア開発の「信頼性」と「予測可能性」を高める必要性が強く認識されるようになったのです。

この認識のもと、多くの企業や組織はウォーターフォールモデルを採用し、開発プロセスの標準化を推進しました。品質向上への要求、グローバル化に伴う分散開発の増加、コスト削減の必要性、そして厳格化する規制への対応も、この動きを後押ししました。その結果、ISO9001、CMMI(能力成熟度モデル統合)、PMBOK(プロジェクトマネジメント知識体系)などの標準やフレームワークが広く採用されるようになりました。

しかし、皮肉なことに、ソフトウェア開発における不確定要素は急激に増加していました。それにもかかわらず、企業たちは標準に適合しようとさらに厳格な開発標準を積み上げ、自らの手足を縛っていきました。結果として、かえってプロジェクトの遅延や失敗、コスト超過が頻発し、過度な標準化アプローチの限界が明らかになってきました。この矛盾は、次の時代における新たな開発手法の必要性を示唆することとなりました。

2010年代~:アジャイルの普及と定着の時代

ウォーターフォールモデルの限界が日に日に誰の目にも明白になって行く中、アジャイル開発手法が急速に普及しました。特にスクラムやカンバンなどの具体的な手法が広く採用され、変化に対応しやすく、継続的な改善を重視するアジャイルの理念が、現代のソフトウェア開発ニーズに適していることが実証されていきました。そして、多くの企業がアジャイル開発を採用し、従来のウォーターフォールモデルから移行する動きが加速しました。この変化は、ソフトウェア開発の柔軟性と効率性を大きく向上させ、急速に変化する市場ニーズへの対応力を高めることにつながりました。

まとめ

ソフトウェア開発の歴史は、技術の進化と市場の変化に対応する形で、その手法も絶えず進化してきました。ウォーターフォールモデルは、製造業に由来する一連の手順で、安定した成果を目指す手法でしたが、その後の技術革新や市場の変動により、より柔軟で迅速なアジャイル手法が登場しました。アジャイルは、変化の多い現代の開発環境において、顧客の要求に迅速に応えながら、持続的に改善を行うというニーズに応える手法です。

ウォーターフォールとアジャイル、どちらの手法もそれぞれの時代背景において重要な役割を果たしてきました。今後も、これらの手法の特徴を理解し、適切に選択・活用することで、ソフトウェア開発のさらなる発展が期待されます。

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