AI論評③ (LLM AIの強みと弱み)
はじめに
本レポートでは、LLM AI (大規模言語モデルAI:ChatGPT, Claude, Geminiなど) の特性について、強みと弱みの観点から解説します。LLM AIは膨大なデータをもとに自然言語を生成・処理する技術ですが、その能力には人間の思考とは異なる特徴と限界があります。以下では、語彙の関連性や要約、アナロジー解釈における強みと、アイデア生成や概念理解における弱みを明らかにし、効果的な活用方法について考察します。
LLM AIが強みを発揮する質問
文章の要約をさせる質問
LLM AIは、膨大なデータから語彙やフレーズの共起頻度に基づいて関連性を見出す力を持ち、関連語の抽出やテキストの要約が得意です。このため、トピックに関連する一般的なキーワードの収集や文章全体の要約といった作業において、効率的な活用が可能です。ただし、この関連性が表面的であるため、専門的な文脈や微妙なニュアンスを伴う場合、AIが概念的にズレたキーワードを提示することもあるため注意が必要です。
英語情報が豊富な分野の質問
LLM AIは、特に英語で提供されるデータやドキュメントを大量に学習しているため、英語圏の情報やグローバルに広まった技術的・学術的知識の取り扱いに長けています。英語の技術ドキュメントや解説記事が充実している分野では、AIは関連情報を広く網羅し、質問に対して詳細な解説を提供することが可能です。
特に日本人がLLM AIを活用する際の利点として、英語の資料を直接読むのが苦手である人が多いことが挙げられます。AIを通じて英語の情報にアクセスすることで、日本語のみで調べる場合には入手が難しい最新の知識や技術情報も簡単に得られ、学習やリサーチのハードルが下がるメリットがあります。英語での情報源が豊富な分野において、AIを利用することで、日本人にとってアクセスしにくい情報ソースにも手が届きやすくなります。
基礎的ながら利用者の不案内分野の質問
LLM AIは、広く知られている基礎的な知識や一般的な質問に対して、分かりやすく答えることに優れています。例えば、誰もが知っているが自分だけが知らないような情報について質問し、AIから回答を得られるため、気軽に知識の補充が可能です。また、追加の質問を通じて関連情報を深掘りすることも容易であり、ググる場合と違って、流れに沿った対話で詳細な情報を得られるのも強みの一つです。
既存事項同士の類似性を訊く質問
LLM AIは、新しいアナロジーを自ら生成するのは苦手ですが、既存のアナロジーに対する解釈や解説には強みがあります。AIはデータ内のパターンや関係性をもとに、アナロジーを分解して解説することが得意で、説明の補助として有用です。人間の場合、アナロジーの対象概念に詳しくないと理解が難しいことがありますが、AIはデータから知識を補い、共通点や違いを分析することで解釈を提供できます。ただし、独自の比喩表現を生み出すのは人間の役割にとどまります。
LLM AIが弱みを露呈する質問
新しいアイデアを求める質問
LLM AIは、既存データに基づいた組み合わせによる提案には長けている一方、ゼロから独自のアイデアや新しい発想を生み出すことは得意ではありません。そのため、革新的なアイデアや創造的な解決策が必要とされる場面では、AIの提案は過去データに基づく範囲にとどまり、人間のような直感的かつ柔軟な発想には至りません。LLM AIをあくまで補助的なアイデア出しの起点として位置づける必要があり、独創的な発想は人間の役割です。
具体例をリストアップさせる質問
LLM AIは、トピックに関連する具体的な例を挙げる際に、文脈から外れた例や関連性の薄い例を提示してしまうことがあります。これは、AIが単語の共起頻度やパターンに依存しているためで、適切な例示には必ずしも正確ではありません。人間であれば、概念や状況に合わせて例をカスタマイズし、文脈に即した具体例を提示できますが、AIは表面的な関連性にとどまるため、トピックにぴったりの例を挙げるのが難しい場合があります。
音や言葉のアナロジーを問う質問
LLM AIは、アナロジーや比喩を生成する際、既存のデータ内で「意味的に関連のある」単語やフレーズに偏りがちで、ダジャレのような「音が似ている」ことに基づく気づきが苦手です。人間は、言葉の響きや音に着目したアナロジーを作ることができるため、ダジャレや言葉遊びが自然に発想できますが、AIはこのような音の類似性に基づく関連性に疎い傾向があります。
ただし、音の類似に焦点を当てたプロンプトをユーザーが提供することで、AIもその方向性での関連性を見出す能力を発揮する場合があります。したがって、音に着目するアナロジーや言葉遊びを求める場合には、ユーザーが意図を具体的に指示する必要があります。
AIが知らないことを問う質問
LLM AIは、質問に対する回答を常に提供しようとするため、知らないことやデータにない事柄についてもあたかも知っているかのように出鱈目なストーリーを生成してしまうことがあります。このような「知ったかぶり」は、一見正しそうに見えるが根拠のない情報を含むため、特に専門的な分野では誤解を招く可能性が高く、注意が必要です。AIの出力内容をそのまま鵜呑みにするのではなく、ユーザー側で検証や確認を行うことが重要です。
ポリコレに関わる質問
LLM AIは、特にポリティカル・コレクトネス(ポリコレ)が関わるトピックにおいて、あらかじめ決められた結論やスタンスに沿うことを優先し、論理的な推論よりも結論の整合性を重視する傾向があります。このため、矛盾が生じても気にせず、無理に整合性をもたせようとする言い訳的な回答が生成されることがあります。ポリティカル・コレクトネスに配慮した内容が求められる場面ではAIのバランスが有用な一方で、ユーザーは論理的整合性の観点からAIの回答を慎重に精査する必要があります。
ローカルな情報に対する質問
LLM AIは一般にアクセスできる情報を基に学習しているため、特定の権威ある機関や確立されたソースからの最新情報やローカル情報、特定地域でしか通用しない知識に弱い傾向があります。例えば、ネット上で広がりつつある市井の新しい言葉や、特定のコミュニティでのみ使われるスラング、最新の地域情報といったローカルな内容については、情報の偏りや誤解が生じることがあります。グローバルで一般化された知識には強い一方で、こうしたローカルな事柄に関する詳細な知識には限界があります。
世の中の最新情報に対する質問
LLM AIは、学習に使用したデータの時点までの知識に基づいて応答を生成するため、最新の情報には対応しにくいという欠点があります。特に、急速に変化する分野や最新のニュース、テクノロジー、法改正などについて質問された場合、正確な回答を提供することが難しくなります。最新情報が重要な分野では、AIの出力内容に対して確認や追加調査が必要となることが多いです。
利用者側で問いを立てづらい質問
LLM AIを効果的に利用するには、ユーザー側の適切な「問いのデザイン力」が欠かせません。AIは次に来る語彙やフレーズを予測する「穴埋め式」のプロセスで回答を生成するため、ユーザーが文脈やヒントを適切に設定しないと、出力される回答の質が制限されます。AIが価値を発揮できるようにするには、ユーザーが意図を明確に伝え、AIに必要な情報を引き出す力が重要です。こうした問いのデザイン力が、AI活用の鍵を握ります。
まとめ
LLM AIは、語彙やフレーズの共起頻度を活用した関連性の把握や要約、既存のアナロジー解釈に強みがあり、説明の補助として有用です。しかし、新しいアイデアの創造や深い概念理解には限界があります。LLM AIを効果的に活用するには、ユーザーが問いのデザイン力を磨き、AIの限界を理解した上で適切な文脈を設定するスキルが必要です。LLM AIは人間の補助ツールとして価値を発揮し、適切な活用で大きな成果が期待できます。
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