Lumada, Uvance, BluStellarとは何か?
はじめに
近年、日立製作所の「Lumada」、富士通の「Uvance」、NECの「BluStellar」といったDXブランドが相次いで立ち上げられています。これらは各社が「オファリングビジネス」への転換を象徴するものとされ、公式には「SI事業で培ったノウハウをサービスメニュー化し、高付加価値で提供する」ことが目的だと説明されています。
しかし、その実態や狙いを丁寧に見ていくと、顧客や株主、従業員それぞれに異なる顔を見せる複雑な構造が浮かび上がります。本記事では、これらのブランドの背景や本質を整理し、現場感覚と照らし合わせながら分析します。
SIer業界の歴史的背景
LumadaやUvance、BluStellarを理解するには、日本のSIer業界の歩みを押さえる必要があります。日本の大手SIerは、1980年代から2000年代にかけて、金融・製造・公共など大規模システムの構築を得意としてきました。
この時代の開発モデルは、ほぼ例外なくウォーターフォール型です。案件は数十人から数百人単位の体制で数年がかりで進められ、要件定義から設計、実装、テストまでの工程を順番に進めていくのが基本でした。このモデルは、属人性を減らし、大規模開発を安定的に進めるために不可欠な方法論として広く受け入れられてきました。
ウォーターフォールの本来の役割
ウォーターフォールモデルは、製造業の大量生産方式をソフトウェアに適用したものです。高度な職人技に依存していた初期のソフトウェア開発から脱却し、工程を明確に区切って分業化することで、経験の浅い技術者でも品質を担保できる体制を作り出しました。これにより、組織全体での再現性や計画性が向上し、巨大プロジェクトを期日内に納めることが可能になりました。
つまりウォーターフォールは、属人性を排除するために生まれた「規模の経済を実現するための方法論」だったのです。
ウォーターフォール専業者の構造的課題
しかし、このモデルが長期的に続く中で、「要件定義だけ」「詳細設計だけ」「テストだけ」といった工程専業者が大量に育成されました。彼らはその工程においては熟練しているものの、他工程や新しい開発手法への適応は難しく、柔軟なスキル転換が困難です。案件が減少すると、この層が真っ先に余剰人員とみなされ、経営にとって固定費削減の対象になりやすくなります。
アジャイルとDXの台頭
2010年代半ば以降、クラウドサービスやスマートデバイスの普及、サービス市場の短納期化が進みました。これに伴い、ウォーターフォール型の長期案件は減少し、アジャイルやDevOpsなど、より柔軟で短期間に価値を出す開発手法の需要が高まりました。
この潮流の中で、各社は「DX(デジタルトランスフォーメーション)」の名の下、新しいブランドを打ち出すようになります。それが、日立のLumada、富士通のUvance、NECのBluStellarです。
Lumada、Uvance、BluStellarの登場
これらのブランドは、公式には「SIで培ったノウハウをパッケージ化し、あらかじめ定義したサービスメニューとして提供する」ことを目的としています。これにより、案件ごとにゼロから工数を積み上げる受託開発モデルから脱却し、再利用性の高いプロダクト・サービスとして販売することで高利益率を狙う戦略です。
一見すると、これは理にかなった方向転換のように見えます。
実態としての「今から作るオファリング」
しかし、現実には過去のSI案件で作られた成果物は顧客固有の仕様や古い技術に依存しており、そのまま商品化することは困難です。結果として、多くの「オファリング」はまだ形になっておらず、若手や一部の適応力ある人材が試行錯誤しながらゼロから構築しています。
営業部門は既に市場への売り込みを開始しているため、顧客には完成品として提供されると誤解されることもあります。このギャップが、のちの炎上リスクを孕みます。
顧客視点でのギャップ
顧客から見れば、ブランド名が変わっても中身は従来型のSIに近い場合が少なくありません。「過去の実績に基づくオファリング」と説明されても、実際は新規開発と変わらないプロジェクトが多く、期待値との乖離が大きくなります。この構造は、契約や納期、品質に関するトラブルの火種になります。顧客視点では、このブランド名はまさに朝三暮四に過ぎません。
株主視点でのメリット
株主から見ると、ブランド戦略は高付加価値領域への集中と固定費削減を同時に進められる施策です。ウォーターフォール案件の縮小を理由に旧来工程人材を整理し、利益率を改善するストーリーは財務的に魅力的に映ります。ブランドが立ち上がった段階で市場に成長期待をアピールでき、株価にも好影響を与えます。
従業員視点での現実
若手社員は新ブランドの下で新領域に半ば強制的に投入され、経験のない分野で試行錯誤を重ねます。一方で、中高年のウォーターフォール専業者はスキル転換の機会が与えられるものの、実際には適応が難しく、早期退職や他部門転籍を迫られるケースも増えています。表面的には「成長機会」ですが、実質的には人員整理の一環と捉えられる状況です。
関係者の立場毎に違う物語
顧客には「ブランド刷新による新サービス提供」、株主には「利益率改善」、従業員には「新しい成長機会」と語られます。しかし、その実態は、顧客から見れば名前を変えただけのSI、株主から見れば固定費削減策、従業員から見ればリストラの口実です。このように、立場ごとに異なる物語が用意されているのです。
護送船団方式との類似
この流れは、先行する日立のLumadaに富士通がUvanceで追随し、さらにNECがBluStellarを後発で発表するというもので、競合模倣型の意思決定が顕著です。これはリスクを最小化しつつ横並びを維持する昭和の通産省による護送船団方式を彷彿とさせます。差別化よりも足並みを揃えることが優先され、革新性は希薄です。
アジャイルとの対極性
アジャイルは、小さく試し、素早くフィードバックを得て改善していく文化です。しかし、これらのブランド立ち上げは、一度に大きな枠組みを決めてから市場投入するウォーターフォール的発想であり、しかも顧客起点ではなく競合模倣起点です。この点でも、アジャイル的革新性はほぼゼロです。
長期的な影響
短期的には財務改善や株主評価向上の効果が期待できますが、顧客からの信頼低下や差別化の困難さといった長期的リスクも伴います。中身の伴わないブランド刷新は価格競争に陥りやすく、さらに現場の負担や若手の離職率を高める恐れもあります。
まとめ
Lumada、Uvance、BluStellarは、表向きはDX時代に対応するためのオファリングビジネス戦略ですが、実態としては未完成のサービスを先行販売し、旧来型人材の整理を進める施策です。顧客には刷新感を、株主には財務改善を、従業員には成長機会を訴えつつ、それぞれ異なる狙いを内包しています。その構造は護送船団方式を想起させ、アジャイル的な革新性は見られません。今後、本当に顧客価値を提供できるブランドに育てられるかは、現場の試行錯誤と成果にかかっています。
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