論文実装:Attention Layerを用いた時系列分析
論文実装:Attention Layerを用いた時系列分析
今回の論文
AttnBoost - Retail Supply Chain Sales Insights via Gradient Boosting Perspectiveという論文を読みました。
まず、論文の内容ですが、ざっくり次のような感じです。(英語があまり得意ではないので、違っていたらご指摘ください。)
概要
本論文では、小売業のサプライチェーンにおける販売予測を高精度化するための新しい機械学習モデル「AttnBoost」を提案している。従来の勾配ブースティングモデル(LightGBMやXGBoostなど)が持つ高い予測性能に、**注意機構(Attention Mechanism)**を統合することで、複雑な需要変動や季節性、販促要因をより柔軟に捉えることを目指している。AttnBoostは、説明可能性(Explainability)とパフォーマンスを両立させ、小売・物流分野での実運用を想定した構成になっている。
目的・背景
小売業では、在庫管理・需要予測・価格戦略などが売上や利益に直結する。しかし、販売データには季節性・キャンペーン・外部要因(天候、祝日など)が複雑に絡み合うため、単純な時系列モデルや勾配ブースティング単体では限界がある。近年、ディープラーニングによるAttentionモデルが時系列解析で成果を上げているが、トレーニングコストが高く、企業実務では導入が難しいという課題が残る。そこで、著者らは軽量で実装容易なブースティング系手法にAttentionを導入するというアプローチを取った。
先行研究
従来研究では、以下のような系統が存在する:
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勾配ブースティングモデル(XGBoost, LightGBM, CatBoost)による販売予測
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LSTMやTransformerなどの深層学習モデルによる時系列需要予測
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SHAP値などによる勾配ブースティングの特徴重要度解析
これらは高精度かつ解釈性を持つが、特徴間の依存関係や動的要因(季節・プロモーションなど)を適切に捉える点で課題があった。本研究はその中間的立場として、ブースティング+Attention構造を用いることで、構造的特徴を補強する。
調査・実験・検証内容
著者らは、実際の小売サプライチェーンデータセット(複数のSKU、店舗、週次販売データを含む)を用いて検証を行った。
主な特徴は以下の通り:
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モデル構造
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ベースはLightGBM。
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各ツリーの学習前後にAttention Layerを挿入し、特徴ごとの重要度を動的に重み付け。
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これにより、従来の静的な分岐構造では捉えにくい「販促期の異常値」や「特定店舗での周期性」をモデル内部で強調。
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入力特徴量
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販売履歴、価格、在庫レベル、販促情報、天候、曜日、祝日などを統合。
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時間的依存関係を特徴量エンジニアリングで事前に組み込み、ブースティング+Attentionによる学習で精度を補完。
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比較実験
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ベースライン:LightGBM, XGBoost, CatBoost, LSTM, Transformer。
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評価指標:MAPE, RMSE, R²。
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結果、AttnBoostは平均的にLightGBMより6〜10%の誤差低減を達成し、深層学習モデルよりも訓練時間が短かった。
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可視化と解釈性
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SHAP値をAttention重みと統合し、「どの特徴がどの期間で販売に影響したか」を可視化。
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特に販促期や需要急変時に、価格や在庫量の寄与度が高くなる傾向を確認。
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実施内容
1. データ生成と前処理
今回はシミュレーションデータとして、複数店舗・複数商品の販売数量・価格・販促情報をランダムに生成し、一定の季節性やトレンドを持たせたデータセットを構築しています。
このデータは、週単位で集計され、次のような特徴量が追加されます。
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時系列特徴:曜日、週番号、月、年など
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ラグ特徴:過去数週の販売量
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移動平均・移動標準偏差:直近の販売傾向を滑らかに表現
これらを用いて、モデルが短期的な需要パターンを学習しやすいように整えています。
2. Self-Attentionエンコーダによる文脈特徴抽出
次に、本論文の最大の特徴である、過去の販売履歴から「文脈的特徴」を抽出するために、Self-Attentionを使ったエンコーダモデルを構築しています。
このモデルでは、各商品の直近8週分の情報(販売数量・価格・販促など)を入力とし、Self-Attention層を通じて「どの期間の動きが重要か」を自動的に学習します。
エンコーダの出力は系列全体を平均化し、1ベクトルに集約することで「その商品の最新の状態」を表現します。
PyTorchによる実装は以下のようになっています。
class SelfAttentionEncoder(nn.Module):
def __init__(self, in_ch, d_model=64, nhead=4, num_layers=1, out_hidden=64):
super().__init__()
self.proj = nn.Linear(in_ch, d_model)
self.encoder = nn.TransformerEncoder(
nn.TransformerEncoderLayer(d_model=d_model, nhead=nhead, batch_first=True),
num_layers=num_layers
)
self.head = nn.Sequential(
nn.Linear(d_model, out_hidden),
nn.ReLU(),
nn.Linear(out_hidden, 1)
)
def forward(self, x):
z = self.encoder(self.proj(x))
ctx = z.mean(dim=1)
return self.head(ctx).squeeze(-1), ctx
このモデルを用いて訓練を行い、各サンプルに対して得られる中間ベクトル(文脈特徴)を抽出します。
最終的には、これをテーブルに結合し、GBDTの追加入力として利用します。
3. GBDTによる需要予測
文脈特徴を追加したデータセットを用いて、LightGBMによる予測モデルを学習します。
特徴量には以下のようなものが含まれます。
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ラグ特徴、移動平均・標準偏差
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時間に関する特徴(週、月など)
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文脈特徴(Attention Encoderの出力)
学習はグループ単位(店舗×商品)で分割し、過学習を防ぐためにGroupKFoldを利用しています。
GBDTは学習速度が速く、特徴重要度を確認しやすい点がメリットです。
params = {
"objective": "regression",
"metric": "rmse",
"learning_rate": 0.05,
"num_leaves": 64,
"feature_fraction": 0.8,
"bagging_fraction": 0.8,
}
訓練後には、文脈特徴あり/なしの両パターンで精度を比較し、RMSEおよびMAPEを算出しています。
Self-Attentionを導入することで、特に短期変化や販促影響を伴う週の誤差が小さくなる傾向が確認できました。
4. 将来予測の実施
最後に、学習済みモデルを用いて今後数週間の売上予測を行います。
最新の特徴量を入力し、逐次的に1週ずつ予測を更新していく仕組みになっています。
これにより、販売数量の中期的な推移をシミュレーションすることができます。
def one_step_forecast(last_df, model, horizon=4):
forecasts = []
df = last_df.copy()
for _ in range(horizon):
pred = model.predict(df[feature_cols])
forecasts.append(pred)
df["Quantity"] = pred # 予測値を次期のラグに反映
return forecasts
この予測結果をもとに、店舗ごとの販売計画や在庫調整のシナリオを検討することが可能です。
おわりに
今回の実装では、Self-Attentionによる時系列文脈の抽出とGBDTによる高精度回帰を組み合わせることで、単一手法よりも柔軟で安定した予測を実現しました。
その結果、文脈特徴を導入することで、RMSEやMAPEが改善するケースを確認できました。
一方で、LightGBMを単独で用いるモデルに比べて、処理時間が5倍以上かかっています。
今回、ColabのT4 GPUを用いたため、より品質のいいGPUを用いると処理速度は改善される認識ですが、それでもLightGBM単独で出す速度に比べて長い時間がかかることが想定されます。
この辺りの処理時間と精度のバランスというのは、分析の目的によっても決まってくるものです。
時系列予測を、時間をかけてでもより高い精度で、という場合には、本実装が役に立つのではないでしょうか。
Discussion