「AI活用を第一想起に!」 日々の振り返りでPR作成数1.5倍を達成したチームの挑戦
AI活用を最大化するために
こんにちは。すべてを科学したい男、神本(@naoto__911)です。
ourlyのプロダクトチームでは、今Qの目標の一つとして、PR(プルリクエスト)作成数を前Qの1.5倍に増やすことを設定しています。
こちらを実現するために、開発者の稼働時間を増やすことなく、生産性を大幅に向上させる必要があります。そこで着目した手段がAIの活用でした。
*(ここでAI活用とは、Devinのような完全自立型AIエージェントを活用することを指します。そのためCursorのようなAI駆動開発で人が並走して作業をした場合は、AI活用とはみなさないという定義のもと記載します。)
しかし、今Q開始時点では作業に取り掛かる前に「これAIでできるか?」という問いが第一想起として浮かばない場面が多く見られました。実際、AIを活用できるシーンにもかかわらず、人手で対応してしまうケースが散見されていました。
こうした状況を打破し、真にAI活用を促進するためには、“AIを第一想起にする習慣” を定着させる必要があると考え、振り返りを導入しました。
AIを第一想起にするための振り返り
目標達成のためには、まず「これをAIでできないか?」を自然に考えられるような思考の型を作ることが重要です。そこで採用したのが、日々の振り返りを通じた意識づけです。具体的には、その日に作業したPR全てに対して、AIの介在余地がなかったのか? を全員で確認します。
毎日の振り返りで意識を強化
振り返りは毎日、業務終了前に行うように設定しました。
開発者全員がその日のPRを振り返り、次の問いを自問自答します。
- 今日のPR作成において、AIが関与できる部分はなかったか?
- 昨日も同様の理由でAIを活用できなかったのではないか?
- 解決策として挙げたアイデアを本日は実行したか?
こうした日々の振り返りを通じて、「昨日も同じ理由でAIを活用できなかったな…」 と自覚する機会を増やしていくことで、次第にAIの想起が自然なものになるという狙いのものと振り返りを日々の業務フローに組み込みました。
振り返りの具体的な方法と運用
ここからは、実際に使っている振り返りの運用方法と記載内容、狙いについて詳しく解説していきます。
運用方法
事前準備
毎日終業前までに各自が、その日作成した全てのPRに対して振り返りを記載しておきます。
(PRをopenした時点で、振り返りを記入することを推奨しています。理由は、振り返り頻度が高いほど、次のPRでのAI活用の第一想起が促進され、結果的に定着が早まる可能性が高いためです。)
夕会
終業前に、15~30分程度の夕会を開催します。
チーム全体で、稼働時間当たりPR作成数がいくつになっているかのスタッツを集計しておき、その値を確認します。
目標値に対する現在地を毎日確認し、自分たちのギャップや成長を定量的に確認して次のアクションやアクションの妥当性を判断することができます。
その後、全員のPR振り返りの記入内容を確認し合います。
その際に、AI活用できなかった理由の対策ができないか? をお互いにフィードバックし合し合います。
振り返り記入内容
添付画像のフォーマットに記載します。
ここでは、特に重要な4点について解説します。
- ①作業内容の分解
- PR作成の中でおこなった作業を分解して記載
- ②人間がやるべき作業
- (もう一度同じPRをやり直す場合に)人がやるのが最適化な作業を記載
- ③AIがやるべき作業
- (もう一度同じPRをやり直す場合に)AIがやるのが最適化な作業を記載
- ④AI活用できなかった理由
- ②、③の振り分け通り作業できていなかった場合に、できなかった理由を記載
狙いについて
ここまでの運用方法と振り返り記入内容の狙いについて記載します。
原因特定の質の向上
④の理由を考えるにあたって、①→②→③の思考プロセスを経由するためです。
①→②→③のリズムで振り返ることで、④で本質的な原因を記載できるようにすることが狙いです。
①で作業を分解しておかないと、②、③の判断内容の質が低くなるからです。
例えば、「〇〇APIの実装」というPRを①の作業なしだと、いつまで経っても②、③の振り分けで、人間しかできない作業と判断してしまうでしょう。一方、①の作業で分解すると、②、③の振り分けで、人間とAIそれぞれに振り分けられる作業が見つかります。そして、本質的にAIに任せれなかった原因は、「実装方針の分解」の部分だけであり、「本体コード実装」や「テストコード実装」などの明確なコーディング作業はAI活用できるということがわかります。
(この場合は、④のディスカッションで、次回からは「〇〇APIの実装」というPR自体の単位を「設計」と「実装」に分けることで、「実装」部分についてはAI活用を行うという対策が引き出せます。)
効果的な対策を引き出す
記入後のディスカッションでは、④の原因が対策可能であるか? を実装者以外のメンバーで確認しお互いにフィードバックし合し合います。フィードバックによって自分だけでは対策できなかった原因を、チーム全員で対策しにおくという狙いがあります。
この際に、①、②、③の記載があることで、実装者のみしか知りえていない情報を暗黙知から形式知に置換し、実装者以外も同じかそれに近い解像度で考えることができるようになります。
結果的にディスカッションによって、適切な対策をチーム全員で検討しやすくなり、効果的な対策を引き出すことができます。
内省を促す仕組み
上記に加えて、個人的に最も効果が高いと感じているのは 「自分の愚かさに気づき自戒すること」 です。AI活用をサボってしまった事実を素直に開示し、そこへメンバー全員が率直にフィードバックし合う。こうしたやりとりを通じて、ヒトではなくコトに向き合い、同じ問題が再発し続ける状況をチーム全体で止める動きが生まれます。
これは互いを監視するのではなく、お互いの気づきを促し合う “内発的な成長” の場として機能している と感じています。
(Fig.n: 記事全体に温かみを出すための画像)
成果について
定量的な変化
ここまで話した振り返り運用を開始して約2ヶ月が経過しました。運用開始前後でどれだけの成果があったのか量的調査としてFindyTeam+の詳細比較画面を使って確認しました。
(チームモニタリング設定でチームメンバーだけの集合と、チームメンバー+Devinの集合を作ることで詳細比較画面で確認できます。)
計算方法としては、AI活用率 = 「人+AIが作成したPR数 / 人が作成したPR数」 を確認しました。人が作業するPR作成数がこれまで同様に作成できてる前提で、AI活用により、さらに1.5倍に引き上げるという目標のためこの計算方式で算出しています。
(左グラフは人が作成したPR数、右グラフは人+AIが作成したPR数)
結果、本記事執筆の、5/末時点では、AI活用により、PR作成数が1.5倍に到達しました。
このAI活用率は、前Qと今Qを比較しても、1.1倍→1.5倍と向上していることがわかります。
定性的な変化
5/末時点で、今の取り組みが、Q目標に対してどれだけ効果があったか? の質的調査を行うためにチームメンバーへアンケートを通してサーベイを実施しました。
問1:AI活用促進の目標に対して、1Q開始時点と今とでどのような変化があったかを教えてください
問2:AI活用促進の目標に対して、1Q開始時点と今とでどのような変化があったかを教えてください
問1の回答からは、AIの第一想起が向上したことが確認できました。
問2の回答からは、振り返り施策がこの向上に少なからず寄与していることも確認できました。
まとめ
本記事では、DevinやCursorなどのAIツールの効率的な使い方ではなく、その活用をチーム全員にどうやって浸透させるか? という文脈にフォーカスした取り組みをご紹介しました。
効率的にツールが使えるようになったのはごく一部のメンバーだけで、全メンバーには浸透していないという課題をお持ちの方にとってご参考になれば幸いです。
Discussion