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[スクラムのアンチパターン]ジュニアだけで始めるスクラム幼稚園

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本題に入る前に世間話、JTCで本当にあったこわい話

まず本題に入る前に世間話をします。
ここ最近DXがブームになり、大きくて古めの非メーカー系の、いわゆるJTCと言われる企業で「これからは内製開発!ということでエンジニアを雇って内製開発をするぞ!」という動きがありました。
よくある話ですが昨今のエンジニア単価が高く、そういうJTC企業では若手の単価は安めに据え置かれているので「リーダーは経験者、メンバーは新卒やジュニア」というチームをいくつも作られました。
DX組織を作ってねというミッションの人としては「よし! これで内製開発の準備は整ったぞ!」「DX組織の編成完了! ヨシ!」と宣言できます。またそれでそのミッションの人は人事評価はバッチリなので何も問題ありません。

しかしそういう組織だとリーダーの下に「タスクを具体的に指示してください!なんでもやります!」という新卒やジュニアしかいません。
彼らの面倒を見ることにリーダーが忙殺されてチームが機能不全に陥るのは明白であり、実際そうなりました。
上級マネージャーにしても内製開発のDX組織を立ち上げる経験がある人間を集めたというわけでもなく、既存の受託型開発組織でプロマネをやっていたような人間なのでこの状況をどうにかできるわけでもありません。

結局JTCのこの手の組織は離職者が相次いでなし崩し的に解体や縮小再編されたと仄聞しております。

機能するチームに必要なのはシニアエンジニア

わたしのいるウェッブ業界だと「タスクを具体的に指示してください!なんでもやります!」というエンジニアはジュニアエンジニアと呼ばれます。
タスクを具体的に指示する、しかも相手がわかる形に事前に整理するマネージャーやリーダーがついていないといけない、だからジュニアというわけですね。

対義語となるのがシニアエンジニアです。
このシニアエンジニアはわりとふわっとした要件と工数を投げる、たとえば「〜〜という機能を作って、締切は3日後ね」と言うとシステム設計やテーブル設計まで含めて行い、細かいタスクに分割して最低でも1日毎にタスクの進捗報告をしてくれて実際に3日後までに完了まで持っていってくれる人を指します。
リーダーからのふわっとした要件と工数というインプットだけで細かい指示なしに動く、それがシニアエンジニアの条件です。

前述の「指示を出すリーダー1人とジュニアや新卒多数」と言うチームは崩壊します。
通常機能するチームは「リーダーとシニアエンジニア、さらに育成やスケールのためにジュニア若干名」で構成されます。

シニアエンジニアは常にシニアエンジニアとして振る舞えるわけではない

細かい指示を与えなくとも、ふわっとした指示だけで動いてくれるシニアエンジニアですが常にそう振る舞ってくれるわけではありません。
突然ジュニアに戻る時があります。

主に未経験の環境に放り込まれた時、かつそこで自分がシニアとして振る舞う必要性を見出せない時です。
あるいは心理的安全性の問題で「いやあ、ぼくそのやり方をよく知らないんですよね。教えてもらえませんか?」と聞くと無能だと思われることを恐れているのかもしれません。

具体的に言うと何の準備も教育機会もなく「これより我がチームはスクラムを開始します!」と言われた時によく起きます。
「バックログアイテムをタスクにばらしましょう、ポイント見積をしましょう、Readyに入っているタスクから好きなタスクをとってください」
というとある程度の割合で拒否反応を起こすシニアエンジニアがいます。
彼らはこういいます。
「いやあ、そういうのはいいので、具体的なタスクと完了予定日の形で私にアサインしたタスクを渡してもらえませんか?」

するとどうなるでしょう。
ことタスク指示に関してシニアがジュニアに戻るのです。
なにしろ他の人はちゃんとタスク分解してポイント見積して、カンバンのReadyのところから自分でタスクを取ります。
でもジュニアちゃんはそう言う難しいことがわからないので今までのやり方に固執するわけです。

するとチームは「指示を出すリーダー1人とジュニアや新卒多数」という形に近づきます。
チームが機能不全に陥る、あるいはチームの出力が著しく下がるでしょう。

この話の結論

  • 経験や教育機会なくスクラムを始めると一定数拒否反応を示すシニアエンジニアがいる
    • するとチームの生産性は著しく下がる
  • スクラムを始めたいならチームメンバーがスクラムについていけるよう教育機会の提供は必要
    • それでもついていけないメンバーはいる(スクラムをやめるのか、形骸化覚悟でスクラムをカスタムするのか、あるいはそのメンバーを外すのかはチーム次第)
  • 何の準備もなくよーいどんで全社スクラムを始めるのはアンチパターン中のアンチパターン

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