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マセマとストラング線形代数の違い

2022/04/09に公開

はじめに

タイトルの通りです.より正確には,マセマ出版の「演習 線形代数(改訂6版)」(以下,マセマと表記)と「ストラング線形代数(第4版)」(以下,ストラングと表記)がそれぞれ扱っている内容の違いを明らかにしようという記事です.完全に勢いで書いていますので,間違いなどあれば適宜指摘してもらえると嬉しいです.対象読者としては,「NAISTの情報科学領域を受験しようとしているけど,数学の口頭試問の対策が分からない」人を想定しています.

「演習 線形代数(改訂6版)」が扱う内容

扱う内容はマセマの方がかなり限定的であるため,まずはマセマが扱う内容を確認しておきます.
マセマでは,以下の内容を扱います(書籍の1〜8章のタイトルを列挙しただけです).

  • ベクトルと空間座標の基本
  • 行列
  • 行列式
  • 連立一次方程式
  • 線形空間
  • 線形写像
  • 行列の対角化
  • ジョルダン標準形

本記事の目的はマセマとストラングの差分を明らかにすることなので,各章で取り扱う問題については割愛します.Amazonの商品画像で目次は公開されているため,適宜そちらを参照してください.理系学部の方であれば過去に線形代数を受講している可能性がかなり高いと思いますが,その場合はマセマで扱う内容の大部分は既知であると考えて問題ありません.あくまで(易しめの)定期考査レベルです.文系学部の方で線形代数を履修していない方はマセマから取り組むのもひとつの手です.後述しますが,個人的には高校レベルのベクトルが理解できているならストラング線形代数から取り組んでしまっても問題無いと考えています.

「ストラング線形代数(第4版)」が扱う内容

こちらが本題です.マセマで扱う内容は非常に限定的であるため,NAISTに限らず院試で線形代数が必要になるなら,もう少し腰を据えて線形代数を勉強しておきたいです.まずはマセマと同様にストラングで扱う内容をざっくりと把握していきます(書籍の1〜7章のタイトルを列挙しただけです).

  • ベクトル入門
  • 線型方程式の求解
  • ベクトル空間と部分空間
  • 直交性
  • 行列式
  • 固有値と固有ベクトル
  • 線形変換

ストラングでは1〜7章を基礎,8〜10章を応用と位置づけています.NAISTで出題範囲になるのは7章までなので,今回は7章までの内容しか扱いません.以降では,それぞれの章で扱う内容とマセマでは扱っていない内容について言及していきます.

1. ベクトル入門

この章はタイトルの通りベクトルに関する基本事項をカバーする章です.高校レベルのベクトルが理解できていれば基本的には問題ありません.扱う内容はざっくりと以下の通りです.

  • ベクトルのノルムや内積などの基本事項
  • 線形結合,線形従属,線形独立など

マセマでは線形空間を習う文脈で線形従属や線形独立を学びますが,ストラングでは1章で扱います.それ以外は本当にただのベクトルの基礎なので,マセマに既に取り組んでいる人はこの章は飛ばしても大して問題はありません.

2. 線形方程式の求解

この章では連立方程式を行列を用いて解きます.マセマとの差分がしっかりと現れ始めるのがこの章であるため,なるべく丁寧に差分を説明します.

この章で扱う内容は以下の通りです.

  1. ベクトルと線型方程式
  2. 消去の考え方
  3. 行列を使った消去
  4. 行列操作の規則
  5. 逆行列
  6. LU分解
  7. 転置行列と置換行列

マセマでカバーできないのは2〜7ですね(ほぼ全部ですね).ただ,4, 5, 7に関しては面倒なら飛ばしても何とかなると思います.逆に2, 3, 6は必ず一読しておくことをおすすめします.

2.2 消去の考え方

この節では「行列を用いて連立方程式をどのように解くか」という内容を取り扱います.マセマに既に取り組んだ人は「いや,それマセマでやったやん」と思うでしょう.その通りです.しかし,この節で出てくるいくつかの用語を理解していないと以降の内容を理解が難しくなります.マセマではこれらの用語に関しては全く触れていないため,あくまでちゃんと読むことをおすすめします.具体的にこの節で初めて出てくる重要な用語は以下の2つです.

  • ピボット(pivot)
  • 後退代入

ピボットは「消去に使われる行のうち最初の零ではない係数」のことです.後退代入とは,「係数行列を行基本変形によって上三角行列に変形することで連立方程式を求める方法」のことです.ピボットはマセマでは取り扱わない概念で,後退代入はマセマの4章で扱った連立方程式を行列を使って解く手順を単に言い換えたものですね.ピボットに関しては以下の説明の通りです.

\begin{pmatrix} 1 & -2 \\ 3 & 2 \end{pmatrix}

を行基本変形によって上三角行列にすると,

\begin{pmatrix} 1 & -2 \\ 0 & 8 \end{pmatrix}

になります.このときの18がピボットです.「行基本変形をした後に各行を左から見ていって,はじめにぶつかった非零要素がピボット」くらいの理解でも良い気がします.このピボットは以降の説明の至るところで出てきます.分からなくても練習問題を解く上では問題ないことも多いですが,精神衛生上知っておいた方が楽だと思います.

2.3 行列を使った消去

マセマでもストラングでも頻繁に行基本変形を使うわけですが,これを行列の積を使って表せないか?というのが本節の目的です.例えば,以下のような手順で行列を行基本変形によって上三角行列に変形したとします.「左端の行列にいくつかの行列を(右または左から)かけることで,右端の行列を作れないか」というのが行列を使った消去の意味です.

\begin{pmatrix} 2 & 4 & -2 \\ 4 & 9 & -3 \\ -2 & -3 & 7 \\ \end{pmatrix} → \begin{pmatrix} 2 & 4 & -2 \\ 0 & 1 & 1 \\ -2 & -3 & 7 \\ \end{pmatrix} → \begin{pmatrix} 2 & 4 & -2 \\ 0 & 1 & 1 \\ 0 & 1 & 5 \\ \end{pmatrix} → \begin{pmatrix} 2 & 4 & -2 \\ 0 & 1 & 1 \\ 0 & 0 & 4 \\ \end{pmatrix}

結論からお見せすると,以下のように3つの行列を左端の行列に左からかけてあげると右端の行列を作り出すことができます.なぜそうなるのかはストラングを読むか,ググっても出てくる気はします.この知識は主にLU分解を学ぶ上で必須の知識になります.

\begin{pmatrix} 1 & 0 & 0 \\ 0 & 1 & 0 \\ 0 & -1 & 1 \\ \end{pmatrix}\begin{pmatrix} 1 & 0 & 0 \\ 0 & 1 & 0 \\ 1 & 0 & 1 \\ \end{pmatrix} \begin{pmatrix} 1 & 0 & 0 \\ -2 & 1 & 0 \\ 0 & 0 & 1 \\ \end{pmatrix} \begin{pmatrix} 2 & 4 & -2 \\ 4 & 9 & -3 \\ -2 & -3 & 7 \\ \end{pmatrix} = \begin{pmatrix} 2 & 4 & -2 \\ 0 & 1 & 1 \\ 0 & 0 & 4 \\ \end{pmatrix}

2.4 行列操作の規則

この節はすごく重要というわけでもないので,簡単に説明しておきます.この節で扱うのは「行列をの積はかける行列の列数とかけられる行列の行数が一致していないとダメ」とか「行列の積ABij列の要素はA\\i行とBj列の内積だよね」など,まあ本当にタイトル通り行列操作の規則についてです.練習問題では「ABBAが定義できるならABは正方行列であるといえるか?」みたいな問題が出ます.

2.5 逆行列

この節も基本的にはマセマでやるような吐き出し法とクラメルの定理を用いて逆行列を求めるだけです.この節(逆行列)に関するマセマとの違いは,練習問題の傾向です.単に逆行列を求めるだけでなく,ある行列Aが逆行列を持つのはどんな場合か?といったテーマをマセマよりも深掘っています.時間があればやるくらいでも何とかなる気はしますけどね.

2.6 LU分解

LU分解は2.3節で学んだ「行基本変形を行列の積の形で表したもの」をすこし変形するだけです.元の行列に左からかけた行列をそれぞれE_{21}E_{31}E_{32}とするとき,L=(E_{21}E_{31}E_{32})^{-1}となります.Uは変形後の上三角行列です.行列Lは変形の過程が1つの行列に圧縮されたものとして認識しておくと忘れないかと思います.

E_{21}E_{31}E_{32}A=U
A=(E_{21}E_{31}E_{32})^{-1}U

という訳です.

2.7 転置行列と置換行列

この節では転置行列と置換行列の性質について扱います.マセマでも部分的には扱っていますが,内容としてはストラングの方が充実しています.例えば,LU分解の発展形でPA=LU分解というものがありますが,これはマセマでは扱いません.ただ,この節で書かれている内容の多くは以下のようなリンクを読んで適宜覚えていけば良いので,正直この節も飛ばしてしまってもなんとかなります.

3. ベクトル空間と部分空間

3章の内容はマセマでも半分以上はカバーできている印象があります.ただ,4つの基本部分空間を軸に解説されているため,説明の仕方がだいぶマセマとは異なっています.そのため,まずはこの4つの基本部分空間がなにかをしっかりと理解することが重要です.4つの部分空間とは,列空間,行空間,零空間,左零空間のことです.これらの部分空間の定義と性質を理解しておけばとりあえずこの章の内容は問題無いと思います.基本は教科書を読めば分かりますが,こちらも良い記事だと思います.

4. 直交性

4章の内容でマセマがカバーできているのはシュミットの正規直交化法くらいだと思うので,ここではそれ以外の内容について簡単に説明します.

  • 直交補空間
  • 射影行列
  • 最小二乗近似
  • QR分解

直交補空間

こちらを参照されたし.

射影行列

こちらを参照されたし.

最小二乗近似

こちらを参照されたし.

QR分解

こちらを参照されたし.

5. 行列式

6. 固有値と固有ベクトル

7. 線形変換

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