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Javaエンジニアのための WebAssembly 入門

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こんにちは。この記事では、Java エンジニアの皆さんに向けて、WebAssembly(Wasm)の基本とその仕組みを紹介します。
JVM やバイトコードの概念に親しんでいる方なら、Wasm もきっとスムーズに理解できるはずです。

ただし、Wasm は JVM の後継でも代替でもありません。 似ているようで根本的に異なるその思想や特徴を、Java との対比を通じて解説していきます。


1. 🧱 WebAssembly って何?

Wasm は、主にWeb ブラウザで安全かつ高速にコードを実行するための中間表現として登場しました。これは、Java のバイトコードと JVM の関係に近く、ソースコードを一度コンパクトな形式に変換して、仮想的な実行環境で動かすという仕組みを持っています。2015 年ごろから W3C(Web の標準化団体)で策定が始まり、Chrome や Firefox、Safari といった主要ブラウザに今では標準搭載されています。

📌 特徴をざっくり言うと:

  • 小さくて軽量なバイナリ形式(コンパクトな機械語的コード)
  • ネイティブ並のパフォーマンス
  • セキュアな実行環境(サンドボックス=安全にコードを実行する仕組み)
  • ブラウザ以外でも使える(Edge Function、IoT など)

💡 ブラウザ外で動かす際には WASI(WebAssembly System Interface) という仕組みを使うことがあります。これは、Wasm にファイル操作や時計取得など、OS っぽい機能を与えるインターフェースです。


2. 🔍 JVM と Wasm、何が似てて何が違う?

項目 Java / JVM WebAssembly
🗓️ 誕生年 1995 年(Sun Microsystems) 2015 年(W3C)
🎯 目的 クロスプラットフォームなアプリ実行環境 ブラウザで高速&安全なコード実行
💾 実行形式 JVM バイトコード(.class) Wasm バイナリ(.wasm)
⚙️ 実行方式 JIT 中心(実行時に最適化) AOT 中心(事前に変換)
🧹 メモリ管理 GC あり GC なし(提案中)
🧑‍💻 言語対応 Java/Kotlin/Scala など Rust/C/C++/Go など
📚 標準 API Java 標準ライブラリ なし(WASI などで補完)

※ GC(Garbage Collection):不要なメモリを自動で回収する仕組み
※ JIT(Just-In-Time):実行時にコンパイルする仕組み
※ AOT(Ahead-Of-Time):実行前にコンパイルする仕組み

両者とも「中間コードを仮想マシン上で動かす」という点では共通していますが、設計思想は大きく異なります。


3. 🕰️ 歴史的な背景と思想の違い

☕ JVM の誕生

1990 年代、Sun Microsystems は「一度書けばどこでも動く(WORA = Write Once, Run Anywhere)」を合言葉に Java と JVM を設計しました。GUI アプリ、サーバアプリ、携帯アプリ(ガラケー)…何でもこいのオールラウンダーな仮想マシンです。

  • オブジェクト指向が前提
  • GC でメモリ管理を自動化
  • 豊富な標準ライブラリとセキュリティ機構

🌐 Wasm の誕生

2010 年代、JavaScript に限界を感じた Web 業界が求めたのは「ブラウザで動く、軽くて速くて安全なコード実行基盤」。Wasm は C/C++や Rust といった言語から直接ビルドできる中間フォーマットとして登場しました。

  • 高速起動・低オーバーヘッド
  • セキュアなメモリ制御(線形メモリ)
  • GC なし。言語ごとの管理が前提

👉 Java が「開発者に優しい VM」なら、Wasm は「実行に優しい軽量な中間形式」と言えるでしょう。


4. 💾 バイトコード vs バイナリ

Java の.classファイルは、1 命令あたり 1 バイト前後の命令コードで構成されており、JVM が直接実行する形式です。このため「バイトコード」と呼ばれます。

一方、Wasm はより汎用的なバイナリフォーマットとして設計されていて、構造化されたセクションごとの形式を取り、命令は可変長です。そのため「Wasm バイナリ」と呼ばれます。

どちらも「人が書くものではなく、機械が読むもの」という点では共通しています。


5. ⚙️ JVM と Wasm、それぞれの実行環境

Wasm をネイティブで動かすための軽量な実行環境(ランタイム)も複数登場しています:

  • Wasmtime(Mozilla 系):WASI 対応で軽量
  • WasmEdge:AI・IoT 向けにも最適化
  • Wasmer:マルチプラットフォーム対応

JVM 側にも:

  • GraalVM(AOT に対応・Polyglot)
  • OpenJ9(IBM 製の軽量 JVM)

💡 Polyglot(ポリグロット) とは、複数の言語を同じ実行環境で扱える仕組みのこと。GraalVM では Java だけでなく、JavaScript や Python、Ruby なども実行可能です。

📝 ちなみに JIT(Just-In-Time)と AOT(Ahead-Of-Time)もよく出てくる用語ですが、JVM は JIT が基本、Wasm は AOT が基本です。


6. 🚀 Java エンジニアから見た Wasm の可能性

🔸 ブラウザ内での高速処理

画像フィルター、音声処理、PDF 操作など、JS では重い処理を Rust + Wasm で高速化するユースケースが増えています。

🔸 サーバレスへの応用

Cloudflare Workers や Fermyon の Spin など、サーバーレス関数の実行形式として Wasm が注目されています。

🔸 外部モジュールとしての利用

Wasm は軽量かつ安全なため、「外部から安全に実行可能なモジュール」として活用されています。ネイティブコードより安全に第三者コードを実行できる点が魅力です。


7. 📦 まとめ

Java と Wasm は、どちらも「どこでも動く中間コード」を目指しています。でもそのアプローチはまったく違います。

観点 Java WebAssembly
中間コードの思想 オブジェクト指向・GC 前提の VM 型安全・GC なし・低レベル制御
実行対象 JVM 上のアプリ ブラウザ、WASI、軽量サンドボックス
向いている場面 大規模アプリ、Android、サーバー処理 軽量 Web 処理、組み込み、分離実行

🧩 Wasm とコンテナの関係についてもひとこと

最近では Wasm が「軽量な実行環境」として注目されています。Docker などのコンテナと比べて:

  • 🚀 起動が非常に速い
  • 📦 実行ファイルがコンパクト
  • 🔐 サンドボックスで高い安全性

特にコンテナと異なり、OS に依存せずユーザーランド(ユーザーアプリが動く領域)を構成することなく実行できるのが特徴で、WASI などを通じて必要な機能だけを最小限に提供し、安全かつ高速にアプリを動かせます。


Java の知識を持つ方にとって、Wasm は「なじみやすく、それでいて新鮮な世界」です。
ぜひ、Wasm の楽しさを体感してみてください。🎉

※もし間違いや分かりにくいところがあれば、ぜひやさしくツッコミお願いします 🙏

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