【Python】__〇〇__ メソッドの正体
__〇〇__
メソッドの正体 is「特殊メソッド」
Python で開発する際、__init__
をはじめとする __
(アンダースコア*2) で囲まれたメソッドを目にする機会があると思います。
これらのメソッドは「特殊メソッド」と呼ばれ、Python では以下のように定義されています。
special method
(特殊メソッド) ある型に特定の操作、例えば加算をするために Python から暗黙に呼び出されるメソッド。この種類のメソッドは、メソッド名の最初と最後にアンダースコア2つがついています。
つまり、独自で定義したクラス内でこれら特殊メソッドをオーバーライドすることで、特定の操作の振る舞いを変更できるようになります。特殊メソッドはそれを直接呼び出すというよりは、既存の演算子などの振る舞いを変更するというイメージです。
例えば、インスタンス同士の加算処理を実装したい時、新たに add
メソッドを定義してそれを呼び出すようにするより、特殊メソッド __add__
を定義し +
演算子を使うようにした方が Pythonic な書き方になり Python コードとしての可読性がグッと上がると思います。
今回は、個人的によく見る(またはよく使う)特殊メソッドをいくつかご紹介します。
インスタンスのライフサイクル系
__init__
object.__init__(self[, ...])
インスタンスが (__new__()
によって) 生成された後、それが呼び出し元に返される前に呼び出されます。
公式Doc
コンストラクタとして利用頻度は高いと思います。インスタンスの初期化処理(属性の初期化など)が主で、インスタンスが生成された後に実行される点が後述の__new__
との違いです。
返り値は常に None
を返します。
__new__
object.__new__(cls[, ...])
クラス cls の新しいインスタンスを作るために呼び出されます。
公式Doc
__init__
と違ってインスタンスが生成される前に実行されインスタンスを生成する責務があります。そのため、インスタンスメソッドではなく静的メソッドですが、明示的に @staticmethod
を指定する必要はありません。
返り値は、作成したインスタンス(通常は引数 cls
のインスタンス)を返す必要があります。
__new__
の使い所としては、イミュータブル型(int, str, tupleなど)を継承したサブクラスの初期化に使うことが多いようです。これらはイミュータブル故にインスタンス化した後の__init__
で属性を変更することができないためです。
また、シングルトンパターンの実装にも使われます。
__del__
object.__del__(self)
インスタンスが破棄されるときに呼び出されます。 これはファイナライザや (適切ではありませんが) デストラクタとも呼ばれます。
公式Doc
del
などでインスタンスが破棄されたタイミングで呼び出されます。あまり目立った使い所はなさそうですが、デバッグ時に GC のタイミングを把握する場面なんかに活用できそうです。
データ型キャスト系
__int__
組み込み関数 int()
から呼び出される特殊メソッドです。int
型の値を返す必要があります。
関連で他にも __float__
(浮動小数点) や __complex__
(複素数) も用意されています。
class Money:
def __init__(self, amount: int, currency_code: Literal["JPY", "USD"]) -> None:
self.amount = amount
self.currency_code = currency_code
def __int__(self) -> int:
return self.amount
money = Money(amount=100, currency_code="JPY")
print(int(money))
# 100
__str__
object.__str__(self)
オブジェクトの「非公式の (informal)」あるいは表示に適した文字列表現を計算するために、 str(object) と組み込み関数 format(), print() によって呼ばれます。
公式Doc
逆に「公式の (official)」文字列を表す __repr__
特殊メソッドも存在します。詳細な説明はここでは行いませんが、エンドユーザが読みやすい文字列を表すのが __str__
で、開発者に有益な情報を含む文字列を表すのが __repr__
です。
from datetime import date
today = date.today()
print(repr(today))
# 'datetime.date(2024, 1, 26)'
print(str(today))
# '2024-01-26'
先ほどの Money
クラスに新たに __str__
を実装してみます。
class Money:
# __init__, __int__ 省略
def __str__(self) -> str:
return "{} ({})".format(self.amount, self.currency_code)
money = Money(amount=100, currency_code="JPY")
print(str(money))
# 100 (JPY)
比較演算系
__eq__
, __ne__
object.__eq__(self, other)
object.__ne__(self, other)
x==y
はx.__eq__(y)
を呼び出します;x!=y
はx.__ne__(y)
を呼び出します;
公式Doc
__ne__
は内部で __eq__
の否定を返してくれるので、基本的には __eq__
のみ定義すれば問題ないです。
class Money:
# __init__, __int__, __str__ 省略
def __eq__(self, other: 'Money') -> bool:
if not isinstance(other, Money):
return NotImplemented
self_jpy_amount = self._convert_to_jpy()
other_jpy_amount = other._convert_to_jpy()
return self_jpy_amount == other_jpy_amount
def _convert_to_jpy(self) -> int:
if self.currency_code == "USD":
# NOTE: 仮に 1$ = 100円 とする
return self.amount * 100
return self.amount
money1 = Money(amount=100, currency_code="JPY")
money2 = Money(amount=100, currency_code="JPY")
print(money1 == money2, money1 != money2)
# True False
money3 = Money(amount=200, currency_code="JPY")
print(money1 == money3, money1 != money3)
# False True
money4 = Money(amount=100, currency_code="USD")
print(money1 == money4, money1 != money4)
# False True
__lt__
, __gt__
object.__lt__(self, other)
object.__gt__(self, other)
x<y
はx.__lt__(y)
を呼び出します;x>y
はx.__gt__(y)
を呼び出します;
公式Doc
__eq__
, __ne__
同様、__lt__
__gt__
もどちらか一方を定義すれば問題ありません。一方が定義されていれば、self
と other
を入れ替えて実行すればもう一方の結果が得られるためです。
class Money:
# __init__, __int__, __str__, __eq__ 省略
def __lt__(self, other: 'Money') -> bool:
if not isinstance(other, Money):
return NotImplemented
self_jpy_amount = self._convert_to_jpy()
other_jpy_amount = other._convert_to_jpy()
return self_jpy_amount < other_jpy_amount
money1 = Money(amount=100, currency_code="JPY")
money2 = Money(amount=101, currency_code="JPY")
print(money1 > money2, money1 < money2)
# False True
money3 = Money(amount=99, currency_code="JPY")
print(money1 > money3, money1 < money3)
# True False
money4 = Money(amount=2, currency_code="USD")
print(money1 > money4, money1 < money4)
# False True
money5 = Money(amount=100, currency_code="JPY")
print(money1 > money5, money1 < money5)
# False False
__le__
, __ge__
object.__le__(self, other)
object.__ge__(self, other)
x<=y
はx.__le__(y)
を呼び出します;x>=y
はx.__ge__(y)
を呼び出します;
公式Doc
今までの ==
, <
, >
さえ計算可能であれば、<=
, >=
も計算できるので __le__
, __ge__
は定義不要だと思う方がいるかもしれません(x<=y
は (x<y or x==y)
に変換可能なので)。
しかし、残念ながらデフォルトではその変換は行ってくれません。
ですが、@functools.total_ordering
という便利なデコレータが提供されているので、そちらを使えば __eq__
, __lt__
の定義だけで済みます。
@functools.total_ordering
ひとつ以上の拡張順序比較メソッド (rich comparison ordering methods) を定義したクラスを受け取り、残りを実装するクラスデコレータです。このデコレータは全ての拡張順序比較演算をサポートするための労力を軽減します
引数のクラスは、__lt__()
,__le__()
,__gt__()
,__ge__()
の中からどれか1つと、__eq__()
メソッドを定義する必要があります。
from functools import total_ordering
@total_ordering
class Money:
# __init__, __int__, __str__, __eq__, __lt__ 省略
money1 = Money(amount=100, currency_code="JPY")
money2 = Money(amount=100, currency_code="JPY")
print(money1 >= money2, money1 <= money2)
# True True
money3 = Money(amount=99, currency_code="JPY")
print(money1 >= money3, money1 <= money3)
# True False
money4 = Money(amount=1, currency_code="USD")
print(money1 >= money4, money1 <= money4)
# True True
money5 = Money(amount=2, currency_code="USD")
print(money1 >= money5, money1 <= money5)
# False True
数値型の算術演算系
__add__
, __sub__
, __mul__
, __floordiv__
例えば x が
__add__()
メソッドのあるクラスのインスタンスである場合、式 x + y を評価すると type(x).__add__(x, y)
が呼ばれます。
公式Doc
これらの特殊メソッドで四則演算を表現することができます。
@total_ordering
class Money:
# __init__, __int__, __str__, __eq__, __lt__ 省略
def __add__(self, other: 'Money') -> 'Money':
if not isinstance(other, Money):
return NotImplemented
if self.currency_code != other.currency_code:
raise ValueError("currency_codeが異なります")
return Money(self.amount + other.amount, self.currency_code)
def __sub__(self, other) -> 'Money':
if not isinstance(other, Money):
return NotImplemented
if self.currency_code != other.currency_code:
raise ValueError("currency_codeが異なります")
return Money(self.amount - other.amount, self.currency_code)
def __mul__(self, other: int) -> 'Money':
if not isinstance(other, int):
return NotImplemented
return Money(self.amount * other, self.currency_code)
def __floordiv__(self, other: int) -> 'Money':
if not isinstance(other, int):
return NotImplemented
return Money(self.amount // other, self.currency_code)
money1 = Money(amount=100, currency_code="JPY")
money2 = Money(amount=200, currency_code="JPY")
print(money1 + money2)
# 300 (JPY)
print(money2 - money1)
# 100 (JPY)
print(money1 * 2)
# 200 (JPY)
print(money1 / 2)
# 50 (JPY)
算術演算系の特殊メソッドは他にもいくつかあります。
特殊メソッド | 対応する演算子 |
---|---|
__add__ |
+ |
__sub__ |
- |
__mul__ |
* |
__matmul__ |
@ |
__truediv__ |
/ |
__floordiv__ |
// |
__mod__ |
% |
__divmod__ |
divmod() |
__pow__ |
pow() , **
|
__lshift__ |
<< |
__rshift__ |
>> |
__and__ |
& |
__xor__ |
^ |
__or__ |
| |
__r〇〇__
例えば、上記 Money クラスで 2 * money1
はエラーとなります(200 (JPY)
の Money インスタンスが返ることを期待している)。2.__mul__(money1)
に変換されることになりますが、2
という int
インスタンスの __mul__
メソッドは Money 型を受け付けないためです。
この問題は、Money クラスに __rmul__
メソッドを定義することで解決します。前述した算術演算系の特殊メソッドの前に r
をつけると以下のような特殊メソッドになります。
これらのメソッドを呼んで二項算術演算 (+, -, *, @, /, //, %, divmod(), pow(), **, <<, >>, &, ^, |) の、被演算子が反射した (入れ替えられた) ものを実装します。 これらの関数は、左側の被演算子が対応する演算をサポートしておらず、非演算子が異なる型の場合にのみ呼び出されます。
公式Doc
@total_ordering
class Money:
# __init__, __int__, __str__, __eq__, __lt__, __add__, __sub__, __mul__, __floordiv__ 省略
def __rmul__(self, other: int) -> 'Money':
return self.__mul__(other)
money = Money(amount=100, currency_code="JPY")
print(2 * money)
# 200 (JPY)
おわりに
__〇〇__
メソッドの正体「特殊メソッド」について説明し、個人的によく見る(またはよく使う)特殊メソッドをいくつかご紹介してきました。
実際には、エディタによって +
から __add__
に定義元ジャンプしてくれないなどの問題があったりして、プロジェクトによっては用いるべきじゃない場面もあるとは思いますが、Pythonic な書き方であることは間違い無いですし Python コードリーディング力をつけるという意味で知っていて損はない内容かと思っています。他にもこんな特殊メソッドよく使う等の FB があれば是非コメントお願いします!
引用
- Python3 公式ドキュメント 3.3. 特殊メソッド名
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