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Omiai の Flutter プロジェクトのアーキテクチャ

2024/09/25に公開

はじめに

株式会社 Omiai の Flutter テックリードの @kosukesaigusa です。

株式会社 Omiai では、マッチングアプリの Omiai を、長年の間 iOS, Android (, Web) それぞれのプラットフォームで開発・運営してきています。

サービス提供開始からの長い歴史の中で、多くのユーザーに利用していただいているサービスになっている一方で、コードベースはかなり古くなり、技術的な負債や、それぞれのプラットフォーム間の仕様の差異など、多くの課題が蓄積してきました。

そこで、Flutter を新規導入することを決定し、既存の iOS, Android (, Web) アプリを Flutter で少しずつリプレイスしていくプロジェクトが 2024 年 5 月頃から始まりました。

これから Omiai の Flutter プロジェクトにおける様々な取り組みを紹介していきます。

この記事について

Omiai の Flutter プロジェクトを紹介する最初の記事として、ここでは、Omiai の Flutter プロジェクトのアーキテクチャの概要を紹介します。

※ この記事では、プロジェクト構成、採用するパッケージ、技術スタックなども含めて、広義に「アーキテクチャ」と表現している場合があります。

アーキテクチャ策定の目的

文字通り、ゼロから Flutter プロジェクトを開始し、そのアーキテクチャを策定するにあたり、まずは以下のような目標を定めました。

既存の iOS, Android (, Web) アプリを Flutter でリプレイスしていくことに投資することを決断した目的に沿ったものである必要があります。

定量目標の例

  • 〇〇 サイズの「典型的な実装タスク」は、 N 日以内に実装を完了し、QA Ready の状態になる
  • 〇〇 サイズの「典型的な修正タスク」は、N 日以内に実装を完了し、QA Ready の状態になる
  • 例えば現状「(ざっくり)N 人日くらいかな(根拠は過去の経験)」と見積もっている実装タスクを、下記のような根拠と具体度とともに、見積もりおよびタスク分解できる
    • repository パッケージに、新たに X 個の API エンドポイントと通信する Repository の実装が必要
    • domain パッケージに、Y 個の新規実装(業務概念の定義や Notifier, UseCase の実装)が必要
    • app パッケージに、Z 個の UI 部品の実装が必要
    • よって、repository, domain, app の順で、それぞれ x, y, z 個の PR を作成する計画で、それぞれ, a, b, c 日ずつかかると見積もれる
  • 業務概念や業務ロジックを実装する層 (domain) と、それより抽象的な層(repository, system など)全てで、ユニットテストをカバレッジ 100% で記述できる(それを前提に上記の見積もりができる)
  • 新規参画メンバーが N 日以内にアーキテクチャを理解可能で、タスクに着手することが可能

定性目標の例

  • 特に domain パッケージのソースコードは、「実行可能な仕様」と呼べるレベルで記述できる
  • Flutter コミュニティの潮流を取り入れて、エンジニアにとって一定以上魅力的なアーキテクチャ策定、ライブラリ選定がされる

アーキテクチャ

プロジェクトの構成について考える時、Layer ファーストか Feature ファーストかといった観点があります。

Omiai の Flutter プロジェクトでは、まずは Layer の違い(プレゼンテーションとドメインの分離や、許可される依存の明示)を強く意識してパッケージ自体を分離し、各 Layer においては、いわゆる Feature ごとのような方法でディレクトリを分離する方法を採用しました。

主なパッケージは以下のように分類し、命名はこれまでに経験したり、見たりしてきたプロジェクトを参考に、既存メンバーにも違和感の少ないものにしています。

パッケージ 説明
app プレゼンテーション層。また、Flutter アプリのエントリポイントおよび、モバイルアプリ特有な実装などを記述する
base_ui app で共通して使用する テキストスタイル、色、画像などの基礎的・原始的な UI 部品、それらを組み合わせた共通の UI 部品などを実装する。また、アイコンや画像などのアセットを管理する
domain 業務知識や業務ロジックを記述する
repository データソース(自社の API サーバーやローカルストレージなど)とのやり取りを記述する
system 3rd パーティのツールをラップして腐敗防止層のような役割をしたり、その他の基礎的・汎用的な処理を記述したりする(例:HTTP クライアント、Shared Preferences, Firebase Analytics など)

他にも下記のようなパッケージを用意しています。

パッケージ 説明
util 全パッケージ共通で利用することができる汎用的な実装を記述する
dependency_provider Riverpod を使用して、Unimplemented なインターフェースのみを定義する。これにより、以下のような依存性注入が可能になる。

• 実際のアプリ実行時:app パッケージの Flutter エントリポイント直後で、ProviderScope.overrides を使用して実際の機能を持つインスタンスを注入する
• テスト時:各パッケージの test で、ProviderContainer.overrides などを使用してモックインスタンスを注入する

パッケージを分離する

それぞれのパッケージが許す依存の向きを簡略化して表すと下図の通りです(util パッケージは省略しています)。

パッケージを分離し、依存を許可するパッケージの関係を厳密に定義することで、各パッケージの責務を明確にして、パッケージ間の結合を疎にし、依存を間違えた実装を防ぐことができます。

これまで経験してきたプロジェクトでも目にしてきた、下記のような課題を解決しようとしています。

もしかしたら、この記事を読んでくださっている方の中にも、まさに同様の課題に直面している方がいるかもしれません。

  • 特に多くの箇所から利用される基盤のような実装が、依存して良い相手を誤ることで負債化し、修正を試みても影響範囲が大きいため修正困難な状況に陥る
  • 本来許されない、または不要なはずのモジュールに依存した実装に対して、ユニットテストを書いたりメンテナンスしたりするコストが高くなる
  • 中長期的に、習熟度や技術的なバックグランドに違いがあるメンバーが入れ替わる中で、当初はコード規約やプロジェクトの歴史に詳しい人物による PR レビューで防げていた誤った実装が、いつの間にか許されるようになってしまって、ルールが崩壊・形骸化する
  • 上記のような課題が蓄積されたコードベースでは、新たな実装や既存実装の変更をするたびに、本来確認する必要のないはずのコンテキストや影響範囲の調査を強いられたり(そして、実行してみないとその調査結果に確信を持つのが難しい場合も多い)、ユニットテストが充実していない既存実装を変更するのに怖怖としたりする。結果、本来行うべき実装や変更に集中できず、開発生産性が上がらない

Flutter の世界と Dart の世界

他にも、下記のような「Flutter か Dart か」という観点や、依存するパッケージの例を整理すると下表のようになります。

パッケージ Flutter か Dart か (直接的に)依存するパッケージの例
app Flutter • domain
• base_ui
• dependency_provider
• hooks_riverpod
• auto_route
base_ui Flutter • extended_image
• flutter_gen_runner
• flutter_svg
domain Dart • repository
• riverpod
repository Dart • system
• riverpod
system Dart (,Flutter) • dio
• shared_preferences
• firebase_analytics
util Dart -
dependency_provider Dart • system
• riverpod

「Flutter か Dart か」というのは、ざっくり言うと「Flutter か Dart かどちらの世界を意識するべきパッケージか」を表しています。

たとえば、system は SharedPreferences や Firebase などに依存するので、「Dart の世界」ばかりを意識するはずの repository パッケージや domain パッケージも、transitive には Flutter に依存しますが、direct には依存しません。

たとえば、Dart の世界であるはずのモデルクラスのメソッドの引数として、Flutter の世界の BuildContext 型が定義されているような例を見かけたことがある方もいるかもしれません(基本的な間違いのようにも思いますが、昔の手探りで Flutter を始めたプロジェクトでは見かけることもよくあります)。

Omiai 社内の Flutter 経験のないエンジニア(iOS やサーバサイドのエンジニア)で、Flutter のプロジェクトにも挑戦してもらうことになるメンバーに説明してみると、

ウィジェットの組み方やウィジェットツリーの概念に習熟しないうちは、app や base_ui の実装に慣れるには時間がかかりそうだが、domain や repository の実装については、Dart 言語や、必要最低限の Riverpod の書き方や知識にさえキャッチアップすれば、比較的スムーズに開発に参画できそう

といった趣旨のフィードバックも得られました。

「いま自分は Flutter エンジニアとしてコードを書いているのか、Dart エンジニアとしてコードを書いているのか」という意識は重要です。

Omiai の Flutter プロジェクトでは、状態管理や依存性の注入のために Riverpod をフル活用していますが、それぞれのパッケージで、Flutter の世界である hooks_riverpod (flutter_riverpod) に依存するか、Dart の世界である riverpod に依存するかを区別しているのも小さなこだわりです。

おわりに

この記事では、Omiai の Flutter プロジェクトを紹介する最初の記事として、アーキテクチャの概要を紹介しました。

  • アーキテクチャの策定によって達成すべき目標を定義して、それを実現すること
  • ゼロからの出発にあたって、陥りがちな課題をできるだけ静的解析のレベルで防げるアーキテクチャであること
  • 定めた範囲(業務概念や業務ロジックを実装する層、それより抽象的な層全て)においては、当然のようにユニットテストをカバレッジ 100% で記述できる(記述することを義務付ける)こと
  • できるだけ長い間、高い開発生産性や良い開発体験を保てること
  • Flutter 経験のないメンバーや新しいメンバーも、スムーズに開発に参画できること

などを意識した取り組みです。

部分的にでも、皆さんの Flutter プロジェクトの参考になったり、議論の種になったりすると幸いです。

また、始まったばかりの Omiai の Flutter プロジェクトへの参画にご興味のある方は、ぜひ一度お気軽にお問い合わせください!

今後の記事

今後も下記のような内容で記事を投稿していきますので、チェックしていてください!

  • 各パッケージの具体的な実装内容や、各パッケージ内のディレクトリ構成
  • 各パッケージ内、またパッケージ間における例外ハンドリングの考え方
  • 採用している lint ルール(public_member_api_docs の全面適用など)
  • ユニットテストの記述とカバレッジ計測
  • CI とリリースフロー
  • Add-to-App による既存の iOS, Android アプリへの Flutter モジュールの部分的なリプレイス
  • ... など

続編の記事(随時更新)

アーキテクチャ紹介の続編の記事は下記です。公開し次第、随時追加していきます!

ぜひご覧ください!

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