要件定義フェーズで成果物を揃えられないときの3つのアプローチ
概要
こんにちは、PMの皆さん!案件の初動である要件定義フェーズはプロジェクトの成否を左右する重要な段階ですが、現実には「要件定義が完璧に固まる前に納期が迫っている…」「ステークホルダーが多くて合意形成が進まない…」など、悩みの種は尽きませんよね。
そこで今回は、要件定義フェーズで成果物が不十分なまま次に進まざるを得ない場合に使える、3つのアプローチをご紹介します。
アプローチ | 概要 |
---|---|
1. 決定事項 + Q&Aリスト + 申し送り事項 | ✍️「決まっていること」「まだ曖昧なこと」を整理し、抜け漏れを可視化する |
2. 短いイテレーションで不足要件を擦り合わせる | ♻️ 設計や実装を進めながら、合意が取れていない要素を定期的に補完する。工数オーバーしそうならバックログへ |
3. バッファを前提にした見積もり | ⌛ 不確実性を考慮して余裕ある見積もりを組み、追加見積もりは極力発生させない |
なお、これらは 「Quality(要件の精度)」をある程度犠牲にし、CostとDeliveryを優先する という姿勢が前提となります。割り切りが必要な場面も少なくありませんが、関係者全員にリスクとメリットをしっかり説明することで、後々の大きなトラブルを避けることができます。
⭐️ アプローチ1: 決定事項 + Q&Aリスト + 申し送り事項をまとめる ✍️
なぜ必要?
要件定義書として「完璧な成果物」を作り込む時間がなくても、**「現時点で合意が取れている事項」**を整理し、一覧化したドキュメントやQ&Aリストを作ることは非常に重要です。
- 過去のQ&Aで確定・合意した内容は、そのまま仕様として扱うこともOK。
- 明確に「未確定要素(申し送り事項)」を別途まとめておくことで、「決まっている」「決まっていない」の切り分けがはっきりします。
具体的なステップ
-
過去Q&Aのリストアップ
- 要件定義中に出た質問・回答を洗い出し、クライアントとの共通認識が取れたものをQ&Aリストとしてまとめる。
- メールやチャット、打ち合わせメモから拾い、「Q&A履歴」として一覧化すると◎。
-
決定事項リストを作る
- 仕様ごとに「どういう機能なのか」「合意できているポイント」を短文で記載し、合意済み=Fixと明示しておく。
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申し送り事項(未確定要素)の整理
- まだ合意が取れていない部分や、仕様が曖昧な箇所をピックアップし、**「誰が・いつまでに・何を決めるのか」**をリスト化。
- これは後述のアプローチ2で擦り合わせる際のタスクリストにもなる。
-
前提・制約の明確化
- 外部API連携、固定納期、運用体制など、どうしても動かせない部分をはっきり書く。
- 後から「そんな話は聞いていない」と言われるのを防げる。
ドキュメント/Q&Aリスト例
機能/仕様 | 合意内容 | Q&A経緯 | 今後の対応 |
---|---|---|---|
ユーザー登録機能 | - メールアドレスで重複登録不可 - 登録時に認証メールを送信 |
Q: 重複登録の判定はメールのみ? A: はい、メールをキーとして扱うことで合意 |
設計方針は合意済み |
エラー管理(ログ・通知) | - ログはサーバーで管理 - エラー画面は共通テンプレートを表示 |
Q: API障害発生時の再送は? A: 非同期処理が多いので再送要否は要検討 |
未確定:再送要否検討 |
決済サービス連携 | - 外部サービスAを利用(APIキーはベンダー管理) |
Q: 決済失敗時はどうリトライする? A: 失敗時にユーザへメールを送付する方向で合意 |
合意済みだが細部は再確認 |
UIデザインコンセプト | - 現行サイトに準拠 - 新CIの色味を反映 |
Q: 配色はどこまで変更する? A: メイン・アクセントカラーのみを差し替える方針 |
ヴァリエーション検討中 |
申し送り事項リストの例
項目 | 内容 | 担当/締切 | 備考 |
---|---|---|---|
エラー再送の挙動 | API障害発生時の再送フロー | ○○さん (5月末) | ベンダー確認が必要 |
デザイン配色の最終決定 | クライアント新CIのアクセントカラー検討 | デザインチーム (6月上旬) | 2パターン比較したうえで決定予定 |
ポイント:
- Q&Aリストを参照すれば「どこまで確定? どこが未定?」が一目でわかり、自分自身を守ることにもなります。
- 「申し送り事項」リストは**のちのイテレーション(アプローチ2)**で重点的に詰める内容です。
♻️ アプローチ2: 短いイテレーションを回して不足要件を擦り合わせる
なぜ必要?
ウォーターフォール型の工程では「要件定義が固まってから設計へ」という流れが理想ですが、現実には「まだ曖昧だけど、スケジュール的には設計に入らないと間に合わない…」というケースが多いですよね。
ここでは、短いイテレーションを回しながら、合意しきれていない要件(申し送り事項など)をその都度擦り合わせるアプローチを取ります。
具体的なステップ
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イテレーション区切りで未確定要素を精査
- 例: 1〜2週間ごとに「仕様調整ミーティング」を設け、前回の申し送り事項を確認・合意を取る。
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合意内容を速やかに反映
- 決定した要件は、アプローチ1のQ&Aリストや申し送り事項を更新して“FIX”とラベリング。
-
工数が溢れそうになったらバックログへ回す
- イテレーション中に「このままだとオーバーしそう」と分かった場合、機能追加や修正を一旦バックログ化して後回しにするなど調整。
-
残る未確定要件は次回イテレーションへ持ち越し
- 期限や担当者を設定して、合意形成を先延ばしにしすぎないよう管理する。
メリット
-
不足要件をリアルタイムで補完
設計・実装が進むタイミングで、まだ定まっていない要素を都度潰していける。 -
工数オーバーをバックログ化で防ぐ
必須ではない要件を後回しにしやすく、プロジェクトの破綻を防ぐ。 -
ステークホルダーとのスピーディな合意形成
ミーティングで即時確認できるので、認識ギャップを早期に解消可能。
⌛ アプローチ3: バッファを前提にした見積もりで走り出す
なぜ必要?
要件定義が固まっていない=不確実性が高い、ということ。ここでは、余裕(バッファ)を持たせた見積もりを組み、開発フェーズに入った後はなるべく追加見積もりを発生させずに進めます。
- もしどうしても収まらない要件が出たら、バックログ化して次期リリースへ回すなどで対応。
具体的なステップ
-
現時点の前提条件を明文化
- 「今わかっている機能要件・スコープ」「納期の制約」「利用できるリソース」などを明確化。
-
バッファの設定
- 「要件が増えそう」「仕様が変わりそう」など不確定要素を洗い出し、一定の工数バッファを盛り込む。
- 例: 総工数の10〜20%を“変動予備”として確保。
-
見積もりを提示し、基本的には変更しない
- 一度走り出したら大幅な見積もり変更は行わず、バッファで吸収できない場合は、機能をバックログに移すか次期リリースへ回す。
メリット
-
プロジェクト開始を遅らせない
不確実性があっても、バッファ込みの見積もりなら「とりあえずGO」が可能。 -
“想定外”を減らせる
細かい変更や仕様追加は、バッファで吸収できればコストや納期へのダメージを抑えられる。 -
見積もりのブレを最小化
一度走り出した後に大幅に見積もりを変えずに済むため、進捗管理がしやすい。
まとめ & おすすめの進め方
- **決定事項/Q&Aリスト + 申し送り事項(アプローチ1)**で合意範囲と未確定要素を可視化
- 不十分でも「決まっていること」「決まっていないこと」を一覧化しておけば、最低限の土台はできる。
- **短いイテレーション(アプローチ2)**で不足要件をじわじわ詰める
- 設計・実装が進む中で、まだ固まっていない要素を小さく区切った区間で補完し、必要ならバックログ化して破綻を防ぐ。
- **バッファを設定した見積もり(アプローチ3)**でまずは走り出す
- 現状の不確実性に応じて工数バッファを盛り込み、大きく見積もりを変えない方針を共有。
- どうしても収まらない場合は、次期リリースへ機能を回すなどのスコープ調整で対応。
これらは同時並行で組み合わせることも多いです。現場の状況に合わせて柔軟に適用してくださいね。(•◡•)/
最後に…✨
要件定義フェーズで100%完璧に要件を固められるプロジェクトは、正直なところ多くありません。ビジネス環境やユーザーのニーズは日々変化しますし、関係者が多いほど合意形成にも時間がかかります。
それでも、曖昧な状態でも前に進むための工夫として、今回ご紹介した3つのアプローチが役立てば嬉しいです。
- 最小限の決定事項・Q&Aリストをまとめ、申し送り事項を明確化。
- 短いイテレーションを回して不足要件を少しずつ補完し、工数が溢れそうならバックログ化。
- バッファを盛り込んだ見積もりでまずは走り出し、あとからの大幅な見積もり変更を最小化。
こうした取り組みにより、プロジェクトを止めずに進めつつ、最終的に価値ある成果物をリリースすることを目指しましょう。PMの皆さん、いつも本当にお疲れさまです!
それでは、また次の記事でお会いしましょう!お読みいただき、ありがとうございました。
⌛️ Happy PM, Happy Project! ✨
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