人が定着する組織にするために「ルールの定め方の注意点」
はじめに
会社や部署、プロジェクトやチームなど、規模の大小はあれど組織というものが存在します。
そして、組織を運営していく為にはルールを定めることが不可欠です。
適切なルールは組織運営を円滑にしますが、不適切なルールはプロジェクトや会社に人が定着しない、といった事態を招きます。
「だったら適切なルールを定めればいいじゃないか」という話になりますが、ここで問題となるのは「不適切なルールを定めている当人はそれを自覚するのが難しい」ということです。適切だと思っていたルールが実は不適切だった、ということは往々にしてあります。
不適切なルールが制定されてしまう流れや仕組みを、以下解説していきます。
ルールは5つに分類することができる
ルールは以下の5つに分類することができます。また、この分類は組織内のルールだけでなく、価値観や方法論にも当てはめる事が可能です。
- 全員にメリットがあるルール
- 自分にメリットはあるが他者にはデメリットとなるルール
- 自分にも他者にもメリット・デメリットがあるルール
- 自分にはデメリットとなるが他者にはメリットがあるルール
- 全員にデメリットしかないルール
このうち、1は組織にとって適切なルールであり、5は不適切なルールとなります。2,3,4は立場によってメリット・デメリットが変わってくるルールであり、ありがちなのが「2.自分にメリットはあるが他者にはデメリットとなるルール」を他人に押し付けてしまうというケースです。
会社の経営層やマネジメント層など、人の上に立つ立場の人間が犯しやすい過ちであり、組織に人が定着しない原因の大部分を占めていると言っても過言では無いでしょう。
ルールを作る・改善する時に陥りがちな罠
ルールの分類を知ることによって、不適切なルールが作られてしまうことを減少させることができると思います。
しかし、それだけでは不適切なルールを完全に排除することはできません。意図せず不適切なルールが作られてしまうケースについて、理由とともに紹介します。
相手の立場に立たないとメリット・デメリットの判断はできない
ルールの分類から考えると、「1.全員にメリットがあるルール」「2.自分にも他者にもメリット・デメリットがあるルール」を作っていけば良いんだ、と方向性を定めることが出来たと思います。
ここで気をつけなければいけないのが、他者にとってメリットとなるかどうかは自分の主観では判断できない、ということです。
以下に具体的な例を挙げます。
デザイナーとエンジニアが一緒に働くチームにGitを導入するケース
前提条件
- あなたはチームのリーダーとして、プロジェクトの体制作りを行う必要があります
- 今回のプロジェクトでは、普段別部署で働いているデザイナーも直接チームに加わる事になりました
- デザイナーは成果物としてHTMLファイル, cssファイル, 画像ファイルを作成します
- エンジニアは、デザイナーの作成した成果物を元にWebアプリケーションのフロント画面を構築します
体制作りにおいて考えるべきことは多岐に渡りますが、そのうちの1つとして「デザイナーの成果物とエンジニアの成果物をどのように管理するか」が挙がると思います。
エンジニアであれば、よほどの理由がない限りGitによる管理を選択することでしょう。よもやGitが使えないエンジニアなんて存在しないだろう、という認識を持っていても何もおかしくない程ツールとして浸透しています。
わざわざローカルで新旧2つのファイルを差分比較ソフトを使って確認していくなどという手間が発生することもないですし、Gitの導入は誰にとってもメリットがある選択肢だと考えるはずです。
しかし、デザイナーの人はどうでしょうか?マークアップファイルの作成までできるんだから普段からGitを使っているだろうと推測する事はできますが、必ずしもそうであるとは限りません。普段はデザイン作成しか担当していないが、マークアップファイル作成の知識もあるからたまたま今回だけ仕事として作成することになったのかもしれないですよね。部署が異なって普段関わりが無い場合、その部署の慣習や本人のスキルセットは直接確認しない限り分かりません。
そして本人に確認したところ、普段はGitを使っておらず、使い方も知らないということが分かったと仮定しましょう。この場合、誰にとってもメリットしか無いと考えていたGit導入に対して、『デザイナーがGitを覚えるための学習コスト』というデメリットが発生することになります。
このように、自分の主観だけでは他者にとってのメリット・デメリットを正しく判断することはできないのです。
ルール改善を行うモチベーションの根源が、自身のデメリットを減らすことになっている
人がルールがおかしいと感じる、改善すべきだと感じるタイミングというのは、大抵の場合は自分自身がデメリットを被っていると感じた時です。
「あれ、自分だけメリットを享受してるけど一部の人はとても苦労しているな。これはなんとか改善しなければいけない!」
という考え方ができる人は少数派です。
自分自身のデメリット解消をモチベーションにルールの改善案を考えた場合、かなりの確率で『他者が新しくデメリットを被ることになる可能性』についての考慮が抜け落ちます。
そして最終的には、自分のことしか考えていないルールをあたかも組織にとっての最適解であるかのように錯覚し、他人に押し付けるという結末を招くのです。
相手にデメリットがあるルールは定めてはいけないのか?
結論から述べると、答えはNOです。
組織を運営していく上で、誰かがデメリット・負担を被るルールを定めなければいけないケースは山ほど存在します。それに、全員にメリットしか無いルールなんてほとんど存在しません。
それだとルールの分類を知る前と後で結局何も変わらないのでは?と感じるかもしれませんが、それは違います。ルールの分類を知ったからこそ考えられる視点がありますし、それが何より大切になってきます。
持ちつ持たれつになっているか考える
誰かにデメリットがあるルールを定める必要があるとしましょう。(これをルールAとします)
さらに追加で、これまた誰かにデメリットがあるルールBを定めました。
ルールAでデメリットを被っていた人がルールBではメリットを享受することができる場合、被るデメリットと享受するメリットによりある程度バランスを取ることができます。
しかし、ルールAでデメリットを被っていた人がルールBの追加で更なるデメリットを被る場合、バランスを取ることができずに大きな不満を生むこととなります。
絶対的な正解では無いことを、ルールを定める側が自覚する
誰かにデメリットがある時点で、そのルールは絶対的な正解、最適解とはなり得ません。それをしっかり自覚できていれば、ルールの伝え方や遵守させ方も相手に配慮したものになるでしょう。
もしそれを自覚できずに、自分が定めたルールが絶対的に正しいなどという意識を持ってしまった場合、不完全なルールを振りかざす非合理的な人間、視野が狭い人間だと判断されることでしょう。そして、ルールを押し付けられる側には一欠片の納得が生じることもなく、心理的な溝は広がっていくことになります。
さいごに
いかがだったでしょうか?
本記事の内容が、少しでも組織運営のプラスになれば幸いです。
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