ローマ字テーブルの改善案

2024/09/02に公開

完全に趣味の話です。

私は10年以上も標準のローマ字テーブルを独自のものに入れ替えて使っており、半年前に大きく刷新、そして数日前にまた刷新して現在練習中です。
いま私が使っている変換テーブルは標準のローマ字テーブルとは全く異なるものは使っていますが、ローマ字テーブルの打ちにくさに関する話をSNS上で見かけるたびに「ローマ字テーブルを少し変更すればいいのに」ということをいつも呟いていたので、もう記事にまとめてしまおう…と。

まず最初に完成形を示しておきます。赤と青の文字の部分が変更箇所です。多いように見えますが、ファ行・ウァ行・ヴァ行など、ほぼ使わないものも含まれています。いきなり全部を入れ替えず、順番に交換していくと案外すぐ慣れるかもしれません。

レベル1

まず、ローマ字で使うキーの中で、極端に押しにくいものがあります。TYBです。これらのキーはホームポジションに隣接しないので手を大きく動かす必要があり、手の小さい人や人差し指の短い人には T と Y は特に打ちにくいと思います(私は R と U すら押しにくいです)。

しかも、Tキーで打つ「タ行」は「ア行」に次ぐNo.2の頻度。子音の中で最もよく打つキーが、最も打ちにくい場所にあるというのは完全に欠陥です。Yキーのほうは、「ヤ行」自体の頻度はそこまで多くないですが、拗音(ゃゅょ)を出すのに3打必要なので打ちにくいと不便です。

一方、打ちやすい位置にあるのにあまり使われないキーもあります。全キーの中で最も打ちやすい位置にある FJ、ホームポジション上にある L;(セミコロン)、N の逆側で意外と打ちやすい V です。特等席の F に「ファ行」、J に「ジャ行」はもったいないですね。

ローマ字テーブル改善のレベル1として、まずはこれらのキーを置き換えましょう。
偶然にも T と F、Y と J、B と V は位置が近くて押す指も変わらないので、これらのキーの “ローマ字割り当て” を単純交換します。

  • F ⇄ T (F → タ行 / T → ファ行)
  • J ⇄ Y (J → ヤ行・拗音 / Y → ジャ行)
  • V ⇄ B (V → バ行 / B → ヴァ行)

実装はGoogle日本語入力などの IME の設定で行うので、アルファベットの位置はそのままです。

1週間もすれば慣れると思います。はっきりいってこの3キーの置き換えだけでもかなり指への負担が減ると思います。

レベル2

打ちやすいキーとして L と ; がまだ残っていますが、これらは単純交換ではない方法で使うので、レベル2では別の「打ちやすい位置にあるキー」を探しましょう。

ひとつは C です。C は中指ですし、英語などを打ちこんでいるときに打ちにくいとまでは感じないひとも多いのではないでしょうか。
もうひとつは W です。W で打つ「ワ行」は2文字(+うぃ・うぇ)しかなく、W より悪い立地にある R(ラ行)・U(う)・M(マ行)の半分以下の頻度でしか使われません。

まず、C の近場にあって、C より打ちにくいキーといえば Z の「ザ行」なので、Z の記号入力の機能は残したまま「ザ行」のみを C キーに移します[1]。C と Z で特に打ちやすさは変わらない…という人はこの置き換えはスルーでもOKです。

W のほうは、個人的には母音の U と交換するのがお勧めなのですが(後述)、母音の変更はややハードルが高いのと、U(や R)に打ちにくさを感じない人も多いようなので、本記事では M キーと入れ替えましょう[2]。マ行とワ行でも3倍の頻度差がありますし、W と M は上下反転なので覚えやすいですね。

  • C → ザ行(記号の機能は残す)
  • W ⇄ M (W → マ行 / M → ワ行)

(ここより下の図の C の文字が濃いですがスルーしてください)

レベル3

レベル3は単純な置き換えではなく、ローマ字入力に新しい入力方法を加えます。

促音「っ」

まず、ホームポジションにある L を置き換えましょう。R と U を除けば、次に使用頻度が高いのは H(ハ行)です。といっても、「は」の1文字でハ行の頻度の半分を占めるのですが。

ということで、L と H を置き換えてみます。

  • L ⇄ H (L → ハ行 / H → 小文字)

さて、元の L キーの機能(拗音入力)は X キーと重複しているので、そもそも不要なキーです。
拗音を単体で入力する目的のほとんどは、「えっ」など、次に子音が続かない促音(っ)を入力する場合なので、H キーの単押しで「っ」を入力できるようにします[3]

  • H → っ

もちろん、これは通常の促音入力にも使えます。例えば、これまで「TTE(FFE)」と打ち込んでいた「って」を、「HTE(HFE)」と表現できます(括弧内はレベル1の置き換えが済んでいる場合)。打つキーの数は変わっていませんが、同キー連打は指への負担が大きいので、ぜひこの機会に促音入力の方法を切り替えてみてください。

撥音「ん」

最後のホームポジションキー を潰しましょう。

このS席にあるキーには、隠れた母音キーともいえる撥音「」を当てましょう。「ん」は、文字単体の頻度でいうと「い」に次いでNo.2で、なんと「ん」単体で「ハ行」を超えます[4]。これを;キーに割り当てましょう。

「ん」という文字は、通常は「NN」で入力します。次に来る文字が母音・ナ行・ヤ行以外のときは「N」で入力できますが、慣れないとミスすることもあります。「ん」をセミコロンで入力することができれば、速度が上がるだけでなく、右手人差し指の負担も減ります。

長音「ー」

ついでに、なにげに頻度の高い長音(ー)も近くに持ってきましょう。ローマ字の範囲はタッチタイピングできても、記号は無理だという人もいると思います(数字の段はキーボードによって微妙のズレがありますし…)。

現状、無くても困らないのは Q と Y ですので、好きなほうに割り当ててください。

ここでは、Q に長音を割り当て、ザ行で代理の効く Y には「ウァ行」を当てておきます。ウァ行で頻出の「うぃ」「うぇ」はワ行でも出せるので、Y にはよく使う単語を登録しておくのでもいいと思います。

  • Q → ー
  • Y → ウァ行

レベル4

最後にレベル4です。ここではキーの入れ替えではなく、文字単位での入れ替えを行います。
具体的には、ダ行の「ぢ」「づ」とザ行の「じ」「ず」を入れ替えます。

D キーはホームポジション上の特等席にありますが、「ぢ」「づ」はほぼ使われません。一方で、「じ」はかなりの頻度で使われます。

  • じ ⇄ ぢ(DI → じ / CI → ぢ)
  • ず ⇄ づ(DU → ず / CU → づ)

これら2セットは同じ音なので入れ替えてもあまり変則感がありませんし、打ちやすさもかなり変わります。
ただし、これら以外の文字単位の置き換えにまで手を出してしまうと、もうローマ字入力を捨てて、巷のカナ入力に手を出したほうがいいんじゃない?…という話になってきます。

以上でローマ字テーブルのカスタマイズの旅も終わりです。同じ内容ですが、最初の画像を再度呈示しておきます。変更部分がちょっと多すぎる…と思った人は、レベル1+レベル3でもいいと思います(単打の「っ」と「ん」は本当にお勧めなので)。

レベルWE(うぃ〜)

最後まで読んでいただいた奇特な方のために、途中で「W と U を置き換えるのもお勧め」と書いていたバージョンも紹介しておきます。R と U に指を延ばすたびに(QWERTY配列に)殺意が芽生えるという人はぜひ。

シンプルには、W(ワ行)と U(う)を置き換えて、M(マ行)はそのままにしておきます。
ただ、U が打ちにくいという人は R も打ちにくい人が多いと思うので、頻度の高い「ラ行」を L に移して、「ハ行」を R にしてもよいでしょう。L が「ラ行」なのは音的にも自然ですし。

  • W ⇄ U (W → う / U → ワ行)
  • R → ハ行
  • L → ラ行

しかし、それなりの頻度で使う「マ行」が手首を捻じる M キーにあるというのは私が許しても天が許さないかもしれません。ということで、「マ行」は押しやすい V の位置に移動しましょう。元々お隣さんだったナ行とマ行がお向かいさんになったということで覚えやすいですね(?)
そして、空いたMには長音「ー」を置くのがお勧めです[5]。玉突きで空いた Q には、何気によく使う「ファ行」を当てます。

  • V → マ行
  • M → 長音(ー)
  • Q → ファ行

マ行が V に来たあおりを受けて、バ行・ザ行・は C・X へ。ザ行が X なのは音的にも違和感ありません。バ行は慣れです(ビシッ!)。押し出された小文字は Y へ。

  • C → バ行
  • X → ザ行
  • Y → 小文字

ということで、以下のようになります。空いた T は登録単語にでも。

※さらに、頻出の「が」と「は」がちょっと遠いので、ヤ行で空いている「YI」と「YE」をそれぞれ「が」「は」に当てるというテクニック?もあります。


余談(その1)

余談ですが、人差し指が短い私はホームポジションも変えて、下図のように、中指と薬指を上の段に置いています。

母音のキーのアルファベットが「AWEIO」なので、「あゑいおホームポジション」と呼んでいます。まあネーミングはどうでもいいのですが、とにかくこうすると(U ⇄ W の置き換えをしていれば)母音・撥音・拗音がすべてホームポジション上に乗ることになります。

自作キーボードやエルゴノミクスキーボードで縦方向にキーがズレているもの(カラムスタッガードと呼ぶ)がありますが、普通のキーボードでもこうして指を置けばカラムスタッガードです(違う)。爪が長い人やノートPCで指を伸ばして打つ人は、この「あゑいおホームポジション」にしておくと指を待機させているときに楽になります。

もうひとつ、私は運指も標準から変更しています。R と U を中指で、Q と P を薬指で打鍵します。人差し指・小指が短いので、中指・薬指を横にスライドしたほうが楽に届くのです。
さらに、右下の3キー「M」「、」「。」を標準から変えて、中指/薬指/小指でそれぞれ打っています。これは一般にはお勧めしませんが、私は左右で指の動かし方が異なるのが嫌なのでシンメトリー(左右対称)にしています。

シンメトリーといっても、キーボードがそもそもシンメトリーじゃないのに…という話なのですが、当然(?)キーボードも左右対称のものを自作して(職場では)使っています。
シンメトリーにするアプローチはいくつかあって、オーソリニア配列という碁盤の目に並べたものがメジャーです。しかし、Z の段が普通のキーボードから大きくズレているので、通常のキーボードに戻ったときに指がひっかかるので私は断念しました。

私が使っているキーボードは、Q の段と A の段だけを揃えたセミオーソリニア配列(別名Alpha配列[6])のキーボードです。これだと普通のキーボードとの差異が小さく、私は自宅と職場で通常と自作のキーボードを使い分けていますが、指の突っかかりを感じることはほぼありません。とてもお勧めなのですが、オーソリニア配列(碁盤の目)に比べて圧倒的にマイナーです…

自作キーボードはこちら。親指キーのレイアウトにもこだわりがあって、F と J の真下(やや内寄り)にキーが配置され、左右対象になっています。親指キーが波打って配置されていますが(親指Grin配列)、これについては「こうなっていたほうがちょっと楽?」くらいです。

あと、なぜケーブルが下から出てるんだ…と思った人がいるかもしれませんが、これはケースを逆にして、奥に向かって下がるようにしているからです。「逆チルト」といいますが、私は逆チルト原理主義者なので異論は認めません。

(※本当に手首が楽なので、本などを積んで下図のようにして試してみてください。キーキャップを交換できるタイプなら、親指キーの上下を反転させるとなおよし。)

余談(その2)

ここまでローマ字テーブルのカスタマイズの話をしておいてなんですが、私が使っているローマ字テーブル(行段テーブル)は今回紹介したものとは全く異なります。

私が半年前から使っている行段テーブルは次のものです。

青文字の A I U E O が母音のキーで、右手側に寄せています。特徴のひとつとして、母音キーとそれを単独で打ったときに出力される文字が異なります。「あいうえお」ではなく、各母音の段で最も頻度の高い「かいうての」を当てています。また、拗音も母音のように「子音+U/H/N」の2打で入力するようにしています。

左手側の子音も完全に「◯行」には分かれていないキーも多く、「たちつと」など、別の行の文字が混在しています。元々はもっとグチャグチャに混在していたのですが、できるだけ同じ子音の段になるよう変更を繰り返し、現在は各行MAXで1文字のみの混在になっています(じず⇄ぢづ を除く)。

さらに、図中には記していませんが、左手のアルペジオ(子音キー+子音キー)に「です」「ます」などの頻出表現を40近く当ててあります。あと、数字段のない40%のキーボードを使っているので、;キーを押しながら左手のキーを押すと数字が打てるようにしてあります。

これでもキーマップ沼からだいぶ抜け出てきたほうで、以前はもっとローマ字テーブルからかけはなれたものを使っていました。

10数年前に考案して10年以上使っていた行段テーブルは、母音キーすら固定されておらず、左手が1打目→右手が2打目というルールしかありませんでした(右手単打は「いうんしかのを、。ー」)。
つまり、左右10キーほどの組み合わせ(100以上)に対応する文字をすべて暗記していたのです。もはや1枚の画像で表せるものではないので詳細は割愛しますが、打ちやすさにこだわって3年くらい試行錯誤し、完成後は何時間日本語を打っていても指の疲れとは無縁の10年間でした。

ただ、ときどき左右のキーの組み合わせをど忘れしてしまって、子音や母音といった縛りがないだけにすぐ思い出すことができず、会議などで議事録が書けないといったトラブルもありました。
昨年の秋に自作キーボードに乗り換えたタイミングで上記のような「母音キー固定のテーブル」に移行し、さらに子音もできるだけ揃えて普通のローマ字テーブルに近づけてきた…というわけです。

ここまで変えてしまうと通常のローマ字テーブルで打てなくなりそうな気もしますが、ローマ字テーブルで打つときには頭にアルファベットを思い浮かべるので(ヘボン式)、速度は遅くなりますがミスはほぼなく打てます。
一方、自作の行段テーブルのほうはアルファベットで覚えるのではなく、指の位置関係で覚えています(自作の行段テーブルに移行する前はローマ字テーブルがそうでした)。人間は位置関係で覚えている…とわかったので、前述の完全不規則な行段テーブルでもいけると思ったわけです。

脚注
  1. Z キーから子音の役目を外すことで「母音キーにも記号を割り当てられる」という地味なメリットがあります。I キーに記号を割り当てられるので、↑ ↓ ← → を I K J L に対応させることができます(デフォルトではvi方式の矢印の割り当てなので覚えにくい)。 ↩︎

  2. M キーは押しやすいと感じている人も多いと思うのですが、掌底を中心とした円弧の動きから外れているので、手首に微妙に負担がかかっています。また、右手の人差し指は母音の U を含む5キーを担当しているので、そういう意味でも M キーの使用はできるだけ抑えたほうがいいでしょう。 ↩︎

  3. 「っ」だけのためにキーをひとつ割り当てるのはもったいない気もしますが、V という好立地にいる「バ行」よりも「っ」単体のほうが実は高頻度です。そういう意味では G(ガ行)と V(バ行)のさらなる交換もお勧めです(歯止めが効かない…)。 ↩︎

  4. 文字単体の頻度No.1である「い」は、単体で「ラ行」と同等です。「い」単体より頻度の多い行は(多い順に)タ行・カ行・サ行・ナ行しかありません。 ↩︎

  5. 長音(ー)は、撥音(ん)や促音(っ)と同じで、「あー」「あん」「あっ」で1音節です(拍だと2拍になりますが)。なので、頭の中で発声しながら気持ちよく文字入力するには、長音・撥音・促音ができるだけ速やかに打てることが大事です。 ↩︎

  6. 「Alpha配列」という呼び名は、Alpha28 というキーボードが(公開されたものとしては)初めてこのレイアウトを採用したためです。他にも「JONES配列」という呼ばれ方もあり、こちらは(公開されたものとしては)日本人で初めてこのレイアウトを採用した JONES というキーボードにちなむものです。どちらもキーボード名なので、このキーレイアウトそのものを指すわけではありません。 ↩︎

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